1 制限が作る短完全列
開集合A⊆Mに対して、制限ω↦ω∣AはΩk(M)→Ωk(A)の線形写像であり、外微分と可換である(§E17.11 補題 2.2)。すなわち制限は de Rham 複体の間の写像である。
補題 1.1.Mが互いに交わらない開集合M1,…,Mmの合併であるとき、制限は線形同型
HdRk(M) ∼ j=1⨁mHdRk(Mj)を与える。
証明.ω↦(ω∣M1,…,ω∣Mm)はΩk(M)から⨁jΩk(Mj)への線形同型である。実際、Mjは互いに交わらない開集合であり合併がMであるから、各Mjの上で任意に与えたC∞形式を貼り合わせてM上のC∞形式が一意に定まる(微分形式であることは各点で決まり、滑らかさは局所的な条件である)。この同型は外微分と可換であるから、核と像を対応させ、商の間の同型を誘導する。▨
補題 1.2.{ψU,ψV}を開被覆{U,V}に従属する滑らかな1の分割とする(§E17.2 定理 4.2)。γ∈Ωk(U∩V)に対して
α(p)={ψV(p)γp0(p∈U∩V),(p∈U∖suppψV)はUの上のC∞なk次形式を定める。同様に
β(p)={−ψU(p)γp0(p∈U∩V),(p∈V∖suppψU)はVの上のC∞なk次形式を定める。これらをψVγ、−ψUγと書く。
証明.αについて示す。U∩VとU∖suppψVはどちらもUの開集合である。両者がUを覆うことを確かめる。p∈UがU∩Vに属さないならばp∈/Vであり、suppψV⊆V(§E17.2 定義 4.1 条件 (a))であるからp∈/suppψVである。
共通部分(U∩V)∖suppψVの上ではψV=0であるから、二つの式からはともに0が得られる。よってαは well-defined であり、二つの開集合の上でそれぞれC∞であるからUの上でC∞である。βについても、suppψU⊆Uを用いて同じ議論を行えばよい。▨
定理 1.3.M=U∪Vとする。線形写像
r:Ωk(M)→Ωk(U)⊕Ωk(V),r(ω)=(ω∣U, ω∣V),s:Ωk(U)⊕Ωk(V)→Ωk(U∩V),s(α,β)=α∣U∩V−β∣U∩Vを定めると、すべての整数kに対して
0⟶Ωk(M) r Ωk(U)⊕Ωk(V) s Ωk(U∩V)⟶0は完全である。さらにrとsは外微分と可換である。
証明. rは単射である。ω∣U=0かつω∣V=0ならば、M=U∪Vであるから各点でωp=0である。
imr=kers。s(r(ω))=ω∣U∩V−ω∣U∩V=0であるからimr⊆kersである。逆にα∣U∩V=β∣U∩Vとする。p∈Mに対してωp=αp(p∈U)、ωp=βp(p∈V)と定めると、U∩Vの上で二つの値が一致するので well-defined であり、UとVの上でそれぞれC∞であるからω∈Ωk(M)である。r(ω)=(α,β)である。
sは全射である。γ∈Ωk(U∩V)を取り、補題 1.2のα=ψVγ∈Ωk(U)、β=−ψUγ∈Ωk(V)を取る。U∩Vの上で
s(α,β)=ψVγ−(−ψUγ)=(ψU+ψV)γ=γである(§E17.2 定義 4.1 条件 (c))。
外微分との可換性。制限は外微分と可換であるから(§E17.11 補題 2.2)、rとsも外微分と可換である。▨
2 連結準同型
定理 2.1.M=U∪Vとする。γ∈Ωk(U∩V)が閉形式であるとき、次の手順でHdRk+1(M)の元が定まる。
- s(α,β)=γを満たす(α,β)∈Ωk(U)⊕Ωk(V)を取る(定理 1.3の全射性)。
- s(dα,dβ)=dγ=0であるから、定理 1.3の完全性によりr(η)=(dα,dβ)を満たすη∈Ωk+1(M)がただ一つ存在する。
- ηは閉形式である。
得られる類[η]∈HdRk+1(M)は、(α,β)のとり方にもγの属する類の代表元のとり方にも依らない。したがって線形写像
δ:HdRk(U∩V)⟶HdRk+1(M),δ[γ]=[η]が定まる。これを連結準同型という。
証明.(3)を示す。r(dη)=(ddα,ddβ)=(0,0)であり(§E17.11 命題 2.5)、rは単射であるからdη=0である。
(α,β)のとり方に依らないこと。s(α′,β′)=γを満たす別の組を取り、対応する形式をη′とする。s(α−α′,β−β′)=0であるから、完全性によりr(θ)=(α−α′,β−β′)を満たすθ∈Ωk(M)が存在する。このとき
r(η−η′)=(dα−dα′,dβ−dβ′)=(d(θ∣U),d(θ∣V))=r(dθ)であり、rは単射であるからη−η′=dθである。よって[η]=[η′]である。
代表元のとり方に依らないこと。γ′=γ+dζ(ζ∈Ωk−1(U∩V))とする。s(αζ,βζ)=ζを満たす組を取ると、外微分との可換性からs(α+dαζ, β+dβζ)=γ+dζ=γ′である。この組に対応するη′は
r(η′)=(dα+ddαζ, dβ+ddβζ)=(dα,dβ)=r(η)を満たすのでη′=ηである。前段と合わせて、δは well-defined である。
線形性。γ1,γ2に対する組をそれぞれ(α1,β1)、(α2,β2)とすると、c1γ1+c2γ2に対して(c1α1+c2α2,c1β1+c2β2)を取ることができ、対応するηはc1η1+c2η2である。▨
定理 2.3 (Mayer–Vietoris 完全列).M=U∪Vとする。§E17.17 定理 2.1が誘導する準同型を同じ記号r、sで書くと、列
⋯ δ HdRk(M) r HdRk(U)⊕HdRk(V) s HdRk(U∩V) δ HdRk+1(M) r ⋯は完全である。k<0では両端が0であるから、列は0→HdR0(M)→⋯から始まる。
証明. 三箇所で完全性を確かめる。以下、代表元には閉形式を取る。
Hk(U)⊕Hk(V)における完全性。s∘r=0は定理 1.3による。逆に([α],[β])がs([α],[β])=0を満たすとする。すなわちα∣U∩V−β∣U∩V=dζを満たすζ∈Ωk−1(U∩V)が存在する。s(αζ,βζ)=ζを満たす組を取り
α′=α−dαζ,β′=β−dβζと置く。α′とβ′は閉形式であり、[α′]=[α]、[β′]=[β]である。また
s(α′,β′)=s(α,β)−ds(αζ,βζ)=dζ−dζ=0であるから、定理 1.3の完全性によりr(ω)=(α′,β′)を満たすω∈Ωk(M)が存在する。r(dω)=(dα′,dβ′)=(0,0)とrの単射性からdω=0である。よってr[ω]=([α],[β])である。
Hk(U∩V)における完全性。[γ]=s([α],[β])(α,βは閉形式)とすると、δの構成で(α,β)を取ることができ、r(η)=(dα,dβ)=(0,0)からη=0であるからδ[γ]=0である。よってδ∘s=0である。
逆にδ[γ]=0とする。δの構成で取った(α,β)とηについてη=dθ(θ∈Ωk(M))と書くことができる。r(dθ)=(dα,dβ)であるから
d(α−θ∣U)=0,d(β−θ∣V)=0である。またs(r(θ))=0であるから
s(α−θ∣U, β−θ∣V)=s(α,β)=γである。よってs([α−θ∣U],[β−θ∣V])=[γ]である。
Hk+1(M)における完全性。δ[γ]=[η]に対してr[η]=([dα],[dβ])=(0,0)であるからr∘δ=0である。
逆に[ω]∈HdRk+1(M)がr[ω]=0を満たすとする。すなわちω∣U=dα、ω∣V=dβを満たすα∈Ωk(U)、β∈Ωk(V)が存在する。γ=s(α,β)と置くと
dγ=s(dα,dβ)=ω∣U∩V−ω∣U∩V=0であるからγは閉形式である。δの構成でこの(α,β)を取ると、r(η)=(dα,dβ)=r(ω)とrの単射性からη=ωであり、δ[γ]=[ω]である。▨
3 球面のコホモロジー
定理 3.1.n≥1とする。
HdRk(Sn)≅{R0(k=0 または k=n),(その他)である。n=1のときはk=0とk=1がともにRである。
証明.§E17.1 命題 5.1の記号を用い、U=UN=Sn∖{N}、V=US=Sn∖{S}と置く。n≥1であるからN=SでありU∪V=Snである。φN:U→RnとφS:V→Rnは微分同相であるから、§E17.17 定理 2.1 (4)と§E17.17 定理 4.3により
HdR0(U)≅HdR0(V)≅R,HdRk(U)=HdRk(V)=0(k≥1)である。φN(S)=0であるからφNはU∩VからRn∖{0}への微分同相を与える。§E17.17 命題 5.2により
HdRk(U∩V)≅HdRk(Sn−1)である。
Snは連結である。実際、UとVはRnと同相であるから連結であり、U∩V=∅(n≥1)であるから、二つの合併は連結である。よってHdR0(Sn)≅Rである(§E17.17 命題 1.4)。またdimSn=nであるからk>nでHdRk(Sn)=0である(§E17.17 命題 1.3)。
n=1の場合。R∖{0}は二つの開区間の非交和であり、それぞれRと微分同相である。補題 1.1と§E17.17 定理 4.3によりHdR0(U∩V)≅R2、HdRk(U∩V)=0(k≥1)である。定理 2.3の始まりの部分は
0→H0(S1) r H0(U)⊕H0(V) s H0(U∩V) δ H1(S1) r H1(U)⊕H1(V)=0である(以下HdRkをHkと略す)。次元は順に1,2,2である。rは単射であるからimrは1次元であり、完全性からkersも1次元、したがってranks=2−1=1である。ふたたび完全性からkerδ=imsは1次元であり、rankδ=2−1=1である。最後のrの行き先が0であるから、完全性によりδは全射である。よってdimH1(S1)=1である。
n≥2の場合。まずH1(Sn)=0を示す。Sn−1は連結であるから(n−1≥1。上と同じ議論をSn−1へ適用する)H0(U∩V)≅H0(Sn−1)≅Rである。完全列の始まりは
0→H0(Sn)→H0(U)⊕H0(V) s H0(U∩V) δ H1(Sn)→H1(U)⊕H1(V)=0であり、次元は順に1,2,1である。上と同じくkersは1次元であるからranks=1であり、sは全射である。完全性からkerδ=ims=H0(U∩V)でありδ=0である。最後の項が0であるから完全性によりimδ=H1(Sn)であり、H1(Sn)=0である。
k≥2については、完全列の一部
Hk−1(U)⊕Hk−1(V)→Hk−1(U∩V) δ Hk(Sn)→Hk(U)⊕Hk(V)において、k−1≥1であるから両端は0である。完全性によりδは単射かつ全射であり
Hk(Sn)≅Hk−1(U∩V)≅Hk−1(Sn−1)である。
帰納。n=1について主張は示された。n−1について主張が成り立つとすると、n≥2に対してH0(Sn)=R、H1(Sn)=0であり、k≥2ではHk(Sn)≅Hk−1(Sn−1)であるから、これはk−1=n−1すなわちk=nのときだけRであり、それ以外は0である(k−1=0すなわちk=1の場合は上で別に0と定めた)。よって主張が成り立つ。▨
4 円環面のコホモロジー
定理 4.1.T2=S1×S1について
HdR0(T2)≅R,HdR1(T2)≅R2,HdR2(T2)≅R,HdRk(T2)=0(k≥3)である。
証明.γ0:R→S1、γ0(t)=(cost,sint)と置き、p=γ0(0)、q=γ0(π)と置く。A=S1∖{p}、B=S1∖{q}と置くと、§E17.1 命題 5.1によりAとBはそれぞれRと微分同相である。A∩B=S1∖{p,q}は二つの開弧γ0((0,π))とγ0((π,2π))の非交和であり、それぞれ開区間と微分同相である。
U=S1×A、V=S1×Bと置くとU∪V=T2であり、U∩V=S1×(A∩B)はS1×J1とS1×J2(Jiは開区間)の非交和と微分同相である。
π1で第一成分への射影を表す。§E17.17 命題 5.3と§E17.17 定理 2.1 (4)により
Hk(U)≅Hk(V)≅Hk(S1),Hk(U∩V)≅Hk(S1)⊕Hk(S1)である(後者は補題 1.1による)。定理 3.1によりH0(S1)≅H1(S1)≅R、Hk(S1)=0(k≥2)であるから、次元は次の表のとおりである。
| k |
Hk(T2) |
Hk(U)⊕Hk(V) |
Hk(U∩V) |
| 0 |
未知 |
2 |
2 |
| 1 |
未知 |
2 |
2 |
| 2 |
未知 |
0 |
0 |
T2は連結である。実際、R2からT2への写像(s,t)↦(γ0(s),γ0(t))は連続な全射であるから、§E2.43 定理 1.4による。よってH0(T2)≅Rである。またdimT2=2であるからk≥3でHk(T2)=0である。
sの1次での階数。μ∈Ω1(S1)を§E17.15 例 5.1の1形式とし、Θ=π1∗μ∈Ω1(T2)と置く。dμ=0(S1は1次元なので2次形式は0である)からdΘ=π1∗(dμ)=0である(§E17.11 命題 3.1)。
W1,W2をU∩Vの二つの連結成分とし、ji:Wi→U、ki:Wi→Vを包含写像とする。Wi、U、VはいずれもS1と開区間(またはR)の積であり、包含写像は第一成分への射影と可換である。したがって、それぞれの射影をπWi、πU、πVと書くとπU∘ji=πWiであり、§E17.17 定理 2.1 (2)によりji∗∘πU∗=πWi∗である。§E17.17 命題 5.3によりπU∗とπWi∗はともに同型であるから、ji∗=πWi∗∘(πU∗)−1はH1(U)→H1(Wi)の同型である。ki∗についても同様である。
[Θ∣U]=πU∗[μ]であり、[μ]=0である(後述の定理 5.1による。あるいは定理 3.1でdimH1(S1)=1であることと、∫S1μ=2π=0かつ完全形式の積分が0であることから直ちに従う)。よって[Θ∣U]はH1(U)≅Rの基底であり、同様に[Θ∣V]、[Θ∣W1]、[Θ∣W2]もそれぞれの1次コホモロジーの基底である。
これらの基底に関してs:H1(U)⊕H1(V)→H1(W1)⊕H1(W2)は
s(a[Θ∣U],b[Θ∣V])=((a−b)[Θ∣W1],(a−b)[Θ∣W2])で与えられる。したがって階数は1、核の次元は1である。
次元の決定。0次の部分は
0→H0(T2)→H0(U)⊕H0(V) s H0(U∩V) δ H1(T2) r H1(U)⊕H1(V) s H1(U∩V)である。dimH0(T2)=1とrの単射性からkers(0次)は1次元であり、ranks=2−1=1である。完全性からkerδは1次元でありrankδ=2−1=1である。また完全性からimr=ker(s:H1(U)⊕H1(V)→H1(U∩V))であり、上で見たとおりこの核は1次元である。kerr=imδの次元は1であるから
dimH1(T2)=dimkerr+rankr=1+1=2である。
2次の部分は
H1(U)⊕H1(V) s H1(U∩V) δ H2(T2) r H2(U)⊕H2(V)=0である。完全性によりδは全射であり、kerδ=imsは1次元であるから
dimH2(T2)=2−1=1である。▨
例 4.2.bk(M)=dimRHdRk(M)を第kBetti 数という。上で計算した結果は次のとおりである。
| M |
b0 |
b1 |
b2 |
| S2 |
1 |
0 |
1 |
| T2 |
1 |
2 |
1 |
| R2∖{0} |
1 |
1 |
0 |
S2については定理 3.1をn=2に適用した。T2については定理 4.1による。R2∖{0}については、§E17.17 命題 5.2によりHdRk(R2∖{0})≅HdRk(S1)であり、定理 3.1をn=1に適用した。b2=0はR2∖{0}がコンパクトでないことに対応しており、定理 6.1の仮定からコンパクト性を外すことができないことを示している。
b0は連結成分の個数に等しい(§E17.17 系 1.5)。T2のb1=2は、H1(T2)が二つの独立な類を持つことを述べている。定理 4.1の証明の記号で、[Θ]=[π1∗μ]と[π2∗μ](π2は第二成分への射影)がその二つを与える。実際、r[Θ]=([Θ∣U],[Θ∣V])は上で見たとおりsの核の生成元(1,1)に対応する非零元である。一方、[π2∗μ]はrで0へ写る。これは、π2∗μがUの上でもVの上でも完全形式であることによる(AとBがRと微分同相であることと§E17.17 定理 4.3を用いる)。この類が0でないことも確かめる。ℓ2:S1→T2をℓ2(q)=(p,q)と定めると、π2∘ℓ2=idS1であるからℓ2∗(π2∗μ)=μである。もしπ2∗μが完全形式ならば、その引き戻しμも完全形式になるが、[μ]=0であることに矛盾する。よって[π2∗μ]=0である。[Θ]の制限像は非零であり[π2∗μ]の制限像は0であるから、この二つの類は線形独立である。
5 一周積分による同型
定理 5.1.S1に§E17.15 例 5.1の向き形式μにより定まる向きを与える。このとき
I:HdR1(S1)⟶R,I[ω]=∫S1ωは well-defined な線形同型である。
証明. well-defined 性。S1はコンパクトであるからΩ1(S1)=Ωc1(S1)であり、∫S1ωが定まる。ω=dg(g∈C∞(S1))とすると、∂S1=∅であるから§E17.16 定理 1.1により
∫S1dg=∫∂S1ι∗g=0である。よって完全形式は0へ写り、Iは商の上の写像として定まる。線形性は§E17.15 命題 2.6 (1)による。
全射性。§E17.15 例 5.1により∫S1μ=2πであるから、c∈Rに対してI[2πcμ]=cである。
単射性。定理 3.1をn=1に適用するとdimHdR1(S1)=1である。1次元線形空間から1次元線形空間への全射線形写像は同型である。▨
6 最高次コホモロジー
定理 6.1.Mをコンパクトで向きづけられた、境界のない連結なn次元C∞多様体(n≥1)とする。このときHdRn(M)=0である。
証明. 向きを保つ境界付きチャート(U,φ=(x1,…,xn))を一つ取り、p∈Uを取る(§E17.14 定理 6.4。∂M=∅であるからこの被覆は存在する)。§E17.2 命題 1.6によりC∞関数χ:M→[0,1]で、pを含むある開集合W⊆Uの上でχ≡1であり、suppχがコンパクトかつUに含まれるものを取る。
Uの上でχdx1∧⋯∧dxn、M∖suppχの上で0と定めると、二つの開集合はMを覆い、共通部分の上でどちらの式からも0が得られるので、M上のC∞なn次形式ωが定まる。Mはコンパクトであるからω∈Ωcn(M)である。
ωは閉形式である。dω∈Ωn+1(M)={0}であることによる。
∫Mω>0である。実際、suppω⊆Uであるから§E17.15 命題 2.6 (3)により∫Mω=∫φ(U)χ∘φ−1である。χ∘φ−1は非負の連続関数であり、空でない開集合φ(W)の上で1である。φ(W)に含まれる閉長方形S(体積は正)を取るとχ∘φ−1≥1Sであるから、§E4.10 命題 4.1 (2)により∫φ(U)χ∘φ−1≥∣S∣>0である。
ωは完全形式でない。もしω=dη(η∈Ωn−1(M))と書けたとすると、Mはコンパクトであるからη∈Ωcn−1(M)であり、∂M=∅であるから§E17.16 定理 1.1により
∫Mω=∫Mdη=0となり、∫Mω>0に矛盾する。
よって[ω]=0でありHdRn(M)=0である。▨
7 演習
問題 7.1.
- 補題 1.2の証明で、U=(U∩V)∪(U∖suppψV)を示すのにsuppψV⊆Vを用いた。この条件を「ψVはVの外で0である」に弱めると、二つの開集合がUを覆わなくなることがある。どこが破れるかを述べる。
- 定理 1.3の全射性の証明で、αの定義にψV(ψUではない)を用いた。ψUを用いると台の条件が満たされない理由を述べる。
- 定理 2.1の well-defined 性の証明は二段からなる。(α,β)のとり方に依らないことと、代表元のとり方に依らないことの二つが、それぞれどの完全性を使っているかを特定する。
- 定理 2.3のHk(U∩V)における完全性の証明で、θを引いてα−θ∣Uを作った。この引き算をしないとsの像に入ることを示すことができない理由を述べる。
- 定理 3.1のn≥2の議論で、H1(Sn)=0を示す部分とk≥2の同型を示す部分では、完全列の使い方が異なる。前者でδ=0を導く一手を書き下す。
- 定理 4.1の証明で、ji∗:H1(U)→H1(Wi)が同型であることを、射影との可換性から導いた。WiがUの中で「一周する向き」を保っていることが、この同型のどこに現れているかを述べる。
- 定理 4.1の計算を、被覆をU=S1×A、V=S1×BではなくU=A×S1、V=B×S1(第一成分を切る)へ取り替えて実行し、同じ次元が得られることを確かめる。
- 定理 5.1の単射性を、定理 3.1を使わずに直接示す。γ0(t)=(cost,sint)による引き戻しγ0∗ω=f(t)dt(fは2π周期)を取り、∫02πf=0から2π周期の原始関数を作る道筋を書き下す。
- 定理 6.1の証明で、suppχ⊆Uを用いてn次形式をM全体へ零拡張する箇所と、Mのコンパクト性を用いて任意のη∈Ωn−1(M)がコンパクトな台を持つと結論する箇所を、それぞれ特定する。
8 境界
本記事では、複体の短完全列から長完全列を得る議論を、微分形式の複体に限って直接行った。
最高次コホモロジーについては、消えないことまでを示した。コンパクトで向きづけられた連結多様体でHdRn(M)≅Rであること、およびその同型が∫Mで与えられることは、本単元では扱わない。
Mayer–Vietoris 完全列は、開被覆を細かくして繰り返し適用することで、より複雑な多様体のコホモロジーを計算する道具になる。有限個の可縮な開集合とその交わりがすべて可縮であるような被覆を取ると、コホモロジーが被覆の組合せ的なデータだけで決まる。この筋道は§E18 位相幾何入門と、その先の理論が扱う。
コンパクトな台を持つ微分形式のコホモロジーと、それとHdRkを結ぶ Poincaré 双対性も、本単元では扱わない。