1 自然変換
二つの関手を比べるために、対象ごとに射を一つずつ与え、その族がCのすべての射と両立することを要求する。
自然性の等式の両辺は、いずれもF(A)からG(B)への射である。左辺はF(A) ηA G(A) G(f) G(B)という合成、右辺はF(A) F(f) F(B) ηB G(B)という合成である。以後、この向きを変えずに用いる。
関手圏の恒等射になる自然変換を、先に用意する。
命題 1.2.C、Dを圏、F:C→Dを関手とする。Cの各対象Aについて(idF)A=idF(A)と定めると、idFは自然同型F⇒Fである。
証明.idF(A)はF(A)からF(A)への射であるから、成分の型は正しい。Cの任意の射f:A→Bについて、Dの単位律により
F(f)∘idF(A)=F(f)=idF(B)∘F(f)が成り立つ。これはidFのfに対する自然性の等式であるから、idFは自然変換F⇒Fである。各成分は同型射である(§E21.1 命題 6.3)から、idFは自然同型である。▨
命題 1.3.F,G,H:C→Dを関手、η:F⇒Gとθ:G⇒Hを自然変換とする。Cの各対象Aについて
(θη)A=θA∘ηAと定めると、θηは自然変換F⇒Hである。これをηとθの垂直合成という。
証明.θA∘ηAはF(A)からH(A)への射であるから、成分の型は正しい。f:A→BをCの射とする。
H(f)∘θA∘ηA=θB∘G(f)∘ηA=θB∘ηB∘F(f)が成り立つ。第一の等号はθのfに対する自然性の等式、第二の等号はηのfに対する自然性の等式による。両端を成分の記号で書くとH(f)∘(θη)A=(θη)B∘F(f)であり、これはθηのfに対する自然性の等式である。▨
命題 1.4.F,G:C→Dを関手、η:F⇒Gを自然同型とする。Cの各対象Aについて(η−1)A=(ηA)−1と定めると、η−1は自然同型G⇒Fであり、垂直合成について
η−1η=idF,ηη−1=idGが成り立つ。
証明. 各ηAは同型射なので、逆射(ηA)−1:G(A)→F(A)が一意に定まる(§E21.1 命題 6.2)。したがって成分の型は正しい。
f:A→BをCの射とする。ηの自然性の等式G(f)∘ηA=ηB∘F(f)の両辺に、左から(ηB)−1を、右から(ηA)−1を合成する。左辺は
(ηB)−1∘G(f)∘ηA∘(ηA)−1=(ηB)−1∘G(f)∘idG(A)=(ηB)−1∘G(f)となり、右辺は
(ηB)−1∘ηB∘F(f)∘(ηA)−1=idF(B)∘F(f)∘(ηA)−1=F(f)∘(ηA)−1となる。したがって
F(f)∘(η−1)A=(η−1)B∘G(f)が成り立ち、これはη−1:G⇒Fのfに対する自然性の等式である。各成分は同型射である(§E21.1 命題 6.3)から、η−1は自然同型である。
垂直合成については、各対象Aについて
(η−1η)A=(ηA)−1∘ηA=idF(A)=(idF)A,(ηη−1)A=ηA∘(ηA)−1=idG(A)=(idG)Aが成り立つ。自然変換は成分の族であるから、すべての成分が一致すれば等しい。▨
2 自然変換の例
線形空間とその二重双対の間の標準写像は、自然変換の最初の例である。
命題 2.1.kを体とし、(−)∗:Vectkop→Vectkを§E21.2 例 3.3の反変関手とする。§E21.2 命題 2.4により
(−)∗∗=(−)∗∘((−)∗)op:Vectk⟶Vectkは共変関手であり、対象VをV∗∗へ、射f:V→Wを(f∗)∗:V∗∗→W∗∗へ送る。各対象Vについて
ηV:V→V∗∗,ηV(v)(φ)=φ(v)(φ∈V∗)と定めると、ηは恒等関手idVectkから(−)∗∗への自然変換である。
さらに、有限次元線形空間のなす充満部分圏Vectkfdを取り、J:Vectkfd→Vectkを包含関手、(−)∗∗∣Vectkfdを(−)∗∗の制限とする(§E21.2 命題 1.4)。Vectkfdの各対象Vに対するηVの族は、自然同型
J⟹(−)∗∗∣Vectkfdを与える。
証明.§E3.5 命題 4.1により、線形空間Vに対する写像ιV:V→V∨∨、ιV(v)(φ)=φ(v)について、ιVが基底の選び方によらず定まる線形単射であること、Vが有限次元ならばιVが同型であること、および任意の線形写像f:V→Wについて
f∨∨∘ιV=ιW∘fが成り立つことが示されている。§E21.2 例 3.3の記号ではV∨=V∗かつf∨=f∗であるから、ιVは本記事のηVであり、上の等式は(f∗)∗∘ηV=ηW∘fである。以後ηVと書く。
各ηVはVectkの射idVectk(V)→(−)∗∗(V)であり、上の等式はF=idVectk、G=(−)∗∗としたときのfに対する自然性の等式そのものである。したがってηは自然変換idVectk⇒(−)∗∗である。
制限の主張を示す。VectkfdはVectkの充満部分圏(§E21.1 例 4.3)であるから、§E21.2 命題 1.4によりJと(−)∗∗∣Vectkfdはともに関手Vectkfd→Vectkであり、対象VをそれぞれVとV∗∗へ、射fをそれぞれfと(f∗)∗へ送る。したがってVectkfdの射に対する自然性の等式は、Vectkにおける同じ等式であり、すでに示されている。Vectkfdの対象はすべて有限次元であるから、各成分ηVはVectkの同型射である。ゆえにこの族は自然同型である。▨
次の例は、係数を取り替えても同じ式で書かれる操作が自然変換になることを示す。
例 2.3.CRingを可換環と環準同型のなすRingの充満部分圏(§E21.1 例 4.3)とし、nを正の整数とする。二つの関手CRing→Setを次で定める。
- Mnは、可換環RにRの元を成分とするn次正方行列の全体Mn(R)を対応させ、環準同型φ:R→R′に成分ごとの適用Mn(φ)((aij))=(φ(aij))を対応させる。
- UCRingは、忘却関手U:Ring→Set(§E21.2 命題 3.1)のCRingへの制限U∣CRingである。§E21.2 命題 1.4により、これは関手CRing→Setである。
以下、Snはn次対称群を表すので、環を表す文字にはR、R′、R′′を用いる。
Mnが関手であることを確かめる。環準同型φ:R→R′、ψ:R′→R′′について、成分ごとの適用はMn(ψ∘φ)=Mn(ψ)∘Mn(φ)を満たし、Mn(idR)は恒等写像である。
n次対称群Sn(§E7.4 定義 1.1)と置換の符号sgn(§E7.5 定義 1.1)を用いて、A=(aij)∈Mn(R)に対して
detR(A)=σ∈Sn∑sgn(σ)i=1∏naiσ(i)と定める。§E7.5 定理 2.1によりsgn(σ)は1または−1である。環準同型φ:R→R′は和と積を保ち、φ(1R)=1R′とφ(−a)=−φ(a)を満たすので、φ(sgn(σ)a)=sgn(σ)φ(a)が成り立つ。したがって
φ(detR(A))=σ∈Sn∑sgn(σ)i=1∏nφ(aiσ(i))=detR′(Mn(φ)(A))が成り立つ。これはφに対する自然性の等式
UCRing(φ)∘detR=detR′∘Mn(φ)である。したがってdet:Mn⇒UCRingは自然変換である。
値域を群の圏へ取り替え、可逆行列のなす群から単元群への自然変換として述べる形もある。この形で述べるためには、可換環上の行列式が積を保つことが必要である。行列式が積を保つことは、体を係数とする有限次元の場合について§E3.15 命題 2.2により証明されている。任意の可換環を係数とする場合は同命題の仮定の外にあるので、本記事ではその形を用いず、主張をSetを値域とする上の形に限る。
例 2.4.R=Z/9Z、R′=Z/3Zとし、φ:R→R′をa+9Z↦a+3Zで定める。9Z⊆3Zであるからφは矛盾なく定まり、環準同型である。n=2とし
A=(2135)∈M2(R)とする。先に行列式を取るとdetR(A)=2⋅5−3⋅1=7であり、φ(7)=1である。先に成分を写すと
M2(φ)(A)=(2102)∈M2(R′)であり、detR′(M2(φ)(A))=2⋅2−0⋅1=4である。Z/3Zでは4=1であるから、両者は一致する。二つの経路が一致するのは、行列式が成分の整数係数多項式で書かれており、φが和・積・符号の反転を保つからである。
3 水平合成
垂直合成は、定義域と終域が同じ関手の列に沿って自然変換を重ねる。関手の合成に沿って自然変換を組み合わせる演算が水平合成である。
命題 3.1.F,G:C→DとF′,G′:D→Eを関手、η:F⇒Gとθ:F′⇒G′を自然変換とする。Cの各対象Aについて
θG(A)∘F′(ηA)=G′(ηA)∘θF(A)が成り立つ。この共通の射を(θ∗η)Aと書くと、θ∗ηは自然変換F′F⇒G′Gである。これをηとθの水平合成という。
証明. まず二つの表示が一致することを示す。ηAはDの射F(A)→G(A)である。θはDからEへの二つの関手の間の自然変換であるから、Dの射ηAに対する自然性の等式
G′(ηA)∘θF(A)=θG(A)∘F′(ηA)が成り立つ。これが求める等式である。両辺はいずれもF′(F(A))からG′(G(A))への射であるから、(θ∗η)Aの型は正しい。
次にθ∗ηが自然変換であることを示す。f:A→BをCの射とし、
(G′G)(f)∘(θ∗η)A=(θ∗η)B∘(F′F)(f)を示す。左辺で(θ∗η)A=θG(A)∘F′(ηA)の表示を用いると
(G′G)(f)∘(θ∗η)A=G′(G(f))∘θG(A)∘F′(ηA)である。θのDの射G(f):G(A)→G(B)に対する自然性の等式
G′(G(f))∘θG(A)=θG(B)∘F′(G(f))を用いると、上の式は
θG(B)∘F′(G(f))∘F′(ηA)=θG(B)∘F′(G(f)∘ηA)に等しい。最後の等号はF′が合成を保つことによる。ηのfに対する自然性の等式G(f)∘ηA=ηB∘F(f)を代入し、再びF′が合成を保つことを用いると
θG(B)∘F′(ηB∘F(f))=θG(B)∘F′(ηB)∘F′(F(f))=(θ∗η)B∘(F′F)(f)を得る。これは示すべき等式の右辺である。▨
4 関手圏
垂直合成と恒等自然変換は、関手を対象とする圏を与える。
定義 4.1.C、Dを圏とする。関手圏 (functor category)[C,D]を次のデータで定める。
- 対象は関手C→Dである。
- 関手F、Gに対するHom[C,D](F,G)は、自然変換F⇒Gの全体である。
- 合成は垂直合成(命題 1.3)である。
- 対象Fの恒等射は恒等自然変換idF(命題 1.2)である。
自然変換は、定義域となる関手と終域となる関手を指定した上での射の族とみなす。これにより、§E21.1 定義 1.1で要求される定義域と終域の一意性が満たされる。
命題 4.2.C、Dを圏とする。定義 4.1のデータによって、[C,D]は圏の公理を満たす。
証明.命題 1.3により、自然変換の垂直合成は自然変換である。命題 1.2により、恒等自然変換は自然変換である。したがって合成と恒等射は[C,D]の中で定まる。
自然変換は成分の族であるから、二つの自然変換が等しいことは、すべての成分が一致することである。以下ではこの判定を用いる。
結合律を示す。η:F⇒G、θ:G⇒H、ζ:H⇒Kを自然変換とする。Cの各対象Aについて
((ζθ)η)A=(ζA∘θA)∘ηA=ζA∘(θA∘ηA)=(ζ(θη))Aが成り立つ。中央の等号はDの結合律による。したがって(ζθ)η=ζ(θη)である。
単位律を示す。η:F⇒Gを自然変換とする。Cの各対象Aについて
(ηidF)A=ηA∘idF(A)=ηA,(idGη)A=idG(A)∘ηA=ηAが成り立つ。いずれもDの単位律による。したがってηidF=η=idGηである。▨
命題 4.3.F,G:C→Dを関手、η:F⇒Gを自然変換とする。ηが圏[C,D]の同型射であることと、ηが自然同型であることとは同値である。
証明.ηが自然同型であるとする。命題 1.4により、η−1は自然変換G⇒Fであり、垂直合成についてη−1η=idFとηη−1=idGが成り立つ。垂直合成は[C,D]の合成であり、恒等自然変換は[C,D]の恒等射であるから、この二つの等式は§E21.1 定義 6.1で要求される条件そのものである。したがってηは[C,D]の同型射である。
逆に、ηが[C,D]の同型射であるとする。θ:G⇒Fを、θη=idFかつηθ=idGを満たす自然変換とする。Cの各対象Aについて成分を比べると、垂直合成と恒等自然変換の定義により
θA∘ηA=idF(A),ηA∘θA=idG(A)が成り立つ。したがって各ηAはDの同型射であり、ηは自然同型である。▨
5 前層の圏
関手圏のうち、反変関手を対象とし、値を集合の圏に取るものには名前がある。
定義 5.1.Cを圏とする。関手Cop→Set、すなわちCからSetへの反変関手(§E21.2 定義 2.2)をC上の前層 (presheaf) という。関手圏
[Cop,Set]をC上の前層の圏 (category of presheaves) という。その対象はC上の前層であり、射は前層の間の自然変換である。命題 4.2により、これは圏である。
例 5.2.Xを位相空間とし、O(X)をXの開集合の全体に包含関係を入れて得られる圏とする(§E21.1 例 3.2)。O(X)の対象はXの開集合であり、V⊆UのときVからUへの射がちょうど一本存在する。
開集合Uに対して、U上の実数値連続関数の全体をC(U)と書く。ここでUには部分空間位相(§E2.12 定義 4.1)を、Rには通常の位相を入れる。
V⊆Uのとき、包含写像ιV,U:V→Uは連続である(§E2.12 定義 4.2)。したがってs∈C(U)に対してs∘ιV,Uは連続であり(§E2.12 命題 1.10)、C(V)に属する。これをs∣Vと書き、写像
ρU,V:C(U)→C(V),ρU,V(s)=s∣Vを定める。
W⊆V⊆UのときιV,U∘ιW,V=ιW,Uであるから、s∈C(U)について
ρV,W(ρU,V(s))=s∘ιV,U∘ιW,V=s∘ιW,U=ρU,W(s)が成り立つ。またιU,U=idUであるからρU,U=idC(U)である。
O(X)の射W→VとV→Uの合成は射W→Uであるから、上の二つの等式は§E21.2 命題 2.3の二つの条件である。したがって、U↦C(U)と、V⊆Uに対するρU,Vの対応は、O(X)上の前層を定める。
前層のうち、局所的な情報から大域的な情報を復元する条件を満たすものを層という。 本記事では前層の圏を構成するところまでを扱う。
6 演習