1 九点円の定理と中心・半径
定理 1.1 (九点円). 非退化三角形△ABCの外心をO、外接円の半径をR>0、垂心をHとし、OHの中点をNとする。次の9点は、中心N、半径2Rの同一円周上にある。
- 三辺の中点MA,MB,MC
- 三本の高さの足HA,HB,HC
- Hと各頂点を結ぶ線分の中点EA,EB,EC
三角形は鋭角三角形、直角三角形、鈍角三角形、正三角形のいずれでもよい。9点の一部が一致する場合も、R/2>0であるから円は退化しない。
頂点Aをドラッグするか、二本のスライダーを動かすと、三角形の形が変わります。9点は形によらず同じ円周上にあります。
最初に、垂心が鋭角三角形以外でも一意に定まることを初等幾何で確かめます。点の順序や配置によらずに角の等式を扱うため、本記事では二直線のなす向きをもつ角を用います。
定義 1.2 (向きをもつ角). 二直線ℓ,mの向きをもつ角∠(ℓ,m)を、ℓを反時計回りに回してmと平行にするための回転角として、180°を法として定める。任意の直線ℓ,m,nについて
∠(ℓ,m)+∠(m,n)=∠(ℓ,n),∠(m,ℓ)=−∠(ℓ,m)が成り立つ。ℓ′⊥ℓかつm′⊥mならば∠(ℓ′,m′)=∠(ℓ,m)である。直線に関する対称移動σは∠(σ(ℓ),σ(m))=−∠(ℓ,m)を満たす。相異なる四点P,Q,R,Sについて、P,Q,RとS,Q,Rがいずれも一直線上にないとき、四点が同一円周上にあることと
∠(PQ,PR)=∠(SQ,SR)(mod180°)は同値である(円周角の定理とその逆)。
定理 1.3. 非退化三角形の三本の高さは一点で交わる。
証明.AとBからの高さの足をそれぞれHA、HBとし、二直線AHA、BHBの交点をHとする。三角形が非退化であるため、二直線は平行でなく、交点Hは一意に定まる。
△ABCが直角三角形である場合、直角をなす二辺は他の二頂点からの高さであり、直角の頂点で交わる。残る高さもその頂点を通るから、主張は成り立つ。以下では三角形の三つの角がいずれも直角でない場合を扱う。
HA=Bとすると直線ABがBCに垂直となって∠B=90°であるから、HAはBと異なり、同じ理由でCとも異なる。HBも同じ理由でA、Cと異なる。また、Hが直線AB上にあるとすると、H=Aの場合には直線AH=ABがBCに垂直となって∠B=90°、H=Aの場合には直線BH=BAがCAに垂直となって∠A=90°となる。ゆえにHは直線AB上になく、同じ議論により直線BC、CA上にもない。したがって以下で用いる四点の組は、いずれも相異なり、どの三点も一直線上にない。
∠AHAB=∠AHBB=90°であるから、四点A,HA,B,HBは直径ABの円周上にある。また、∠CHAH=∠CHBH=90°であるから、四点C,HA,H,HBは直径CHの円周上にある。
定義 1.2の向きをもつ角と共円判定を用いる。後者の円で弦HBHを見込む角を比べ、前者の円で弦HBBを見込む角を比べると
∠(CHB,CH)=∠(HAHB,HAH),∠(AHB,AB)=∠(HAHB,HAB)を得る。直線HAHは直線HABに垂直であるから
∠(HAHB,HAH)=∠(HAHB,HAB)+90°(mod180°)であり、直線CHBと直線AHBはともに直線CAである。三つを合わせると
∠(CA,CH)=∠(HAHB,HAH)=∠(HAHB,HAB)+90°=∠(CA,AB)+90°(mod180°)となる。向きをもつ角の加法により
∠(AB,CH)=∠(AB,CA)+∠(CA,CH)=∠(AB,CA)+∠(CA,AB)+90°=90°(mod180°).ゆえにCHはCから直線ABへ下ろした高さであり、三本の高さはHで交わる。▨
2 初等幾何による証明
この節では定理 1.1を初等幾何によって証明します。
補題 2.1. 非退化三角形△ABCの外心をO、垂心をHとし、直線AOと外接円の交点のうちAでない方をA′とする。辺BCの中点MAは、線分HA′の中点である。頂点B、Cについても、頂点の名前を入れ替えた同じ主張が成り立つ。
証明.H=Bであれば、BはAからの高さの上にあるからAB⊥BC、すなわち∠B=90°である。逆に∠B=90°であれば、Aからの高さとCからの高さはいずれもBを通るからH=Bである。H=Cと∠C=90°についても、同じ同値が成り立つ。
∠B=90°の場合を先に扱う。円周角の定理の逆により、ACは外接円の直径である。したがってOは線分ACの中点であり、直線AOと外接円のAでない交点はCであるからA′=Cとなる。このときH=Bであり、線分HA′は辺BCそのものであるから、その中点はMAである。∠C=90°の場合には、BとCを入れ替えて同じ議論を行う。
以下、∠Bと∠Cがいずれも90°でない場合を扱う。前段の同値によりHはBともCとも異なる。さらにHは直線BC上にない。Hが直線BC上にあるとすると、Bからの高さは直線BH=BCであり、これがCAに垂直であることから∠C=90°となって仮定に反するからである。また、A′=CであればACが外接円の直径となり、円周角の定理により∠B=90°となる。A′=Bであれば同じ理由で∠C=90°となる。いずれも仮定に反するから、A′はBともCとも異なり、直線BCと外接円の共有点はBとCだけであるから、A′も直線BC上にない。
線分AA′は外接円の直径であり、BとCはその両端と異なる外接円上の点である。したがって円周角の定理により
∠ABA′=∠ACA′=90°となり、BA′⊥ABかつCA′⊥ACを得る。一方、Hは垂心であるからCH⊥ABかつBH⊥ACである。同一の直線に垂直な二直線は平行であるから
BA′∥CH,CA′∥BHが成り立つ。三点B,H,Cは一直線上になく、四角形BHCA′は向かい合う二組の辺がそれぞれ平行であるから、平行四辺形である。平行四辺形の二本の対角線はそれぞれの中点で交わるから、対角線BCの中点MAは対角線HA′の中点でもある。
頂点B、Cについては、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
補題 2.2. 非退化三角形△ABCの垂心Hの、直線BCに関する鏡像をHA∗とすると、HA∗は△ABCの外接円上にある。直線CA、ABに関するHの鏡像についても、同じことが成り立つ。
証明.Hが直線BC上にある場合を先に扱う。H=Bとすると、Bからの高さは直線BH=BCであり、これがCAに垂直であることから∠C=90°、したがってH=Cとなる。ゆえにHはBまたはCに一致する。直線BCに関する鏡映はこの直線上の点を動かさないからHA∗=Hであり、Hは頂点として外接円上にある。
以下、Hが直線BC上にない場合を扱う。このときHはBともCとも異なり、HA∗も直線BC上にない。鏡映はBとCを動かさないから、HA∗=BはH=Bを、HA∗=CはH=Cを意味し、どちらも起こらない。HA∗=Aの場合にはHA∗は外接円上にあるから、以下ではHA∗=Aとする。
直線HBはCAに垂直であり、直線HCはABに垂直であるから、定義 1.2の垂直な二直線についての等式により
∠(HB,HC)=∠(CA,AB)(mod180°)である。直線BCに関する鏡映はBとCを固定し、HをHA∗へ写すから、同じ定義の対称移動についての等式により
∠(HA∗B,HA∗C)=−∠(HB,HC)=∠(AB,AC)(mod180°)を得る。四点A,B,C,HA∗は相異なり、A,B,CとHA∗,B,Cはいずれも一直線上にないから、定義 1.2の共円判定によりHA∗は△ABCの外接円上にある。
直線CA、ABに関する鏡像については、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
以上の二つの補題により、定理 1.1を証明します。
証明. 中心H、相似比21の相似変換をhとする。このhは、各点Xを線分HXの中点へ写す。相似変換は円を円へ写し、もとの円の中心を像の円の中心とし、半径を相似比倍にする。h(O)は線分HOの中点であり、これはNである。したがって外接円の像Γ′は、中心N、半径2Rの円である。
Aは外接円上にあり、h(A)は線分HAの中点EAであるから、EAはΓ′上にある。
補題 2.1の点A′は外接円上にあり、h(A′)は線分HA′の中点である。同じ補題により、この中点はMAである。したがってMAはΓ′上にある。
補題 2.2の点HA∗は外接円上にあり、h(HA∗)は線分HHA∗の中点である。鏡映の定義により、この中点はHから直線BCへ下ろした垂線の足である。Aからの高さはHを通り直線BCに垂直な直線であり、Hを通って直線BCに垂直な直線は一本しかないから、この足はHAに一致する。したがってHAはΓ′上にある。
頂点B、Cについて頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行うと、EB,EC,MB,MC,HB,HCもΓ′上にある。ゆえに9点はすべて中心N、半径2Rの円Γ′上にある。R>0であるからΓ′は退化しない。▨
3 位置ベクトルによる別証明
定理 3.1.△ABCの外心Oを原点とし、各頂点の位置ベクトルをa,b,cとする。三本の高さの交点Hの位置ベクトルは
h=a+b+cである。
証明.h′:=a+b+cで定まる点H′を取る。辺BCの中点をMAとすると
mA=2b+c,h′−a=b+c=2mAとなる。∣OB∣=∣OC∣=Rであるから、O=MAの場合には直線OMAはBCの垂直二等分線である。したがってh′−aはBCに垂直であり、H′はAからの高さの上にある。
O=MAの場合にはb+c=0であるからH′=Aとなり、この場合にもH′はAからの高さの上にある。h′の式はa,b,cについて対称であるから、同じ議論によりH′は残り二本の高さの上にもある。したがって三本の高さはH′で交わり、垂心の定義からH′=Hである。ゆえに主張の式を得る。▨
証明.Oを原点とし、定理 3.1を適用して
n=2h=2a+b+cと書く。定義から
mA=2b+c,eA=2a+h=22a+b+cであるから
mA−n=−2a,eA−n=2aを得る。∣a∣=Rであるため、MAとEAはNから距離R/2にあり、線分MAEAはこの円の直径である。B、Cについても同じ計算を行うと、三辺の中点と三つのオイラー点が円周上にある。
HA=MAまたはHA=EAの場合には、HAは既に得た六点の一つである。HAが両方と異なる場合には∠MAHAEA=90°であるから、円周角の定理の逆によりHAも同じ円周上にある。HB,HCについても同じ場合分けをして議論すると、九点すべてが中心N、半径R/2の円周上にある。▨
この別証明では、辺の中点とオイラー点のNに対する位置ベクトルが±a/2,±b/2,±c/2になります。六つの点がNから等距離にあり、残る三つの垂線の足が三本の直径を直角に見込むという構造が、位置ベクトルによって表されています。
定理 3.2 (九点円). 非退化三角形の各辺の中点3つ、各頂点から対辺へ下ろした垂線の足3つ、垂心と各頂点の中点3つは、同じ円周上にある。
証明.定理 1.1を適用すると、9点は中心N、半径R/2の同一円周上にある。▨
定理 3.3. 九点円の半径は外接円の半径の半分であり、その中心Nは外心Oと垂心Hの中点である。三角形が正三角形でない場合、Nはオイラー線上にある。正三角形の場合はN=O=Hであり、オイラー線は一意に定まらない。
証明.定理 1.1を適用すると、九点円の中心はOHの中点Nであり、半径はR/2である。三角形が正三角形でない場合、§C2.2 定理 1.1によりO,G,Hは一直線上にあり、直線OHがオイラー線である。NはOHの中点であるから、オイラー線上にある。正三角形の場合はO=Hであるため、その中点もN=O=Hとなる。一点だけでは直線が定まらないので、この場合のオイラー線は一意に定まらない。▨
4 確認問題
問題 4.1. 非退化三角形△ABCの垂心をHとする。辺BCの中点MAと、HとAを結ぶ線分の中点EAが、九点円の同一の直径の両端であることを示せ。MBとEB、MCとECについても同じことが成り立つ理由を述べよ。
解答.
補題 2.1の点A′を取ると、線分AA′は外接円の直径である。中心H、相似比1/2の相似hは外接円を九点円へ写し、外接円の中心Oを九点円の中心Nへ写すから、Oを通る弦AA′の像はNを通る弦、すなわち九点円の直径である。h(A)は線分HAの中点EAであり、同じ補題によりh(A′)は線分HA′の中点MAである。したがって線分EAMAは九点円の直径であり、MAとEAはその両端である。MBとEB、MCとECについては、同じ補題が頂点B、Cについても成り立つので、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
問題 4.2.∠A=90°の直角三角形と正三角形について、九点のうち一致するものを列挙せよ。また、点が一致しても九点円が退化しない理由を答えよ。
解答.
∠A=90°の場合、H=AであるからHB=HC=EA=A、EB=MC、EC=MBとなる。正三角形の場合、各高さの足は対応する辺の中点であるからHA=MA、HB=MB、HC=MCとなる。いずれの場合も三角形は非退化であり、外接円の半径はR>0である。したがって九点円の半径R/2は正であり、円は退化しない。▨
5 もう少し先へ
九点円は内接円と三つの傍接円のすべてに接します。この事実はフォイエルバッハの定理と呼ばれ、その証明は後続の項目で扱います。
オイラー線という名称には、外心・重心・垂心が一直線上にありOG:GH=1:2となる主張も含まれます。本記事の九点円そのものの構成では重心を用いません。九点円の中心Nがオイラー線上にあるという帰結だけは、§C2.2 定理 1.1を通じて外心・重心・垂心の共線性を用います。