1 対象理論と証明述語
算術言語をLA={0,S,+,×}とする。理論TはLAの文からなり、Q⊆Tを満たすと仮定する。さらに、Tの公理を計算可能に列挙する決定的プログラムを一つ固定する。無矛盾性は各定理で明示的に仮定し、この段階では仮定しない。
定義 1.1.Tが無矛盾であるとは、固定した矛盾文0=S0をTが証明しないことをいう。
Tが1-無矛盾であるとは、Tが証明する任意のΣ1文が標準モデルNで真であることをいう。ここでΣ1文は§E16.19 定義 2.1の意味である。
1-無矛盾性は無矛盾性より強い。実際、0=S0はΔ0文であるから、これに現れない変数wを取ると∃w(0=S0)はΣ1文であり、N⊨∃w(0=S0)である。従って、Tが矛盾するならばT⊢0=S0からT⊢∃w(0=S0)を得るので、1-無矛盾性に反する。
公理集合が計算可能に列挙可能であることと、公理所属が決定可能であることを区別する必要がある。証明述語の記事では、列挙プログラムが公理を出力するまでの有限計算列をAxWitT(a,w)として符号化し、各非論理公理行に証人wを添えた。§E16.21 定理 2.2と§E16.21 命題 3.2により、この証人を含む外的証明関係ProofT(p,y)は原始再帰的である。
定義 1.2.PrfT(p,y)を、§E16.21 定義 3.3で固定した標準証明述語とする。§E16.21 命題 5.2 (2)により、PrfTは§E16.19 定義 2.1の意味のΣ1論理式である。また§E16.21 命題 5.2 (3)により、PrfTはProofTを肯定例と否定例の双方について数詞ごとにQで表現する。
ProvT(y):=∃pPrfT(p,y)と定める。§E16.21 定理 5.4により、任意の標準自然数p,yと任意のLA文φについて、次が成り立つ。
N⊨PrfT(pˉ,yˉ)N⊨ProvT(┌φ┐)⟺ProofT(p,y),⟺T⊢φ.さらに、p0がφの標準証明符号ならば
Q⊢PrfT(pˉ0,┌φ┐),T⊢ProvT(┌φ┐)である。
最後の内部化は、Tの健全性を用いない。具体的な有限証明符号が外側で存在することを、数詞ごとの表現可能性によってQの有限証明へ移している。
2 Gödel 文
§E16.22 定理 2.1を¬ProvT(x)へ適用する。
定義 2.1.GTを、次の固定点同値を満たすLA文とする。
T⊢GT↔¬ProvT(┌GT┐).(G)
同値式 (G)はGTの真理を仮定していない。また、Tの無矛盾性も仮定せず、対角線補題によりQ内で構成された有限証明をTへ移した結果である。
定理 2.2.Tを、Qを含み、公理集合を計算可能に列挙することができるLA理論とする。
- Tが無矛盾ならば、T⊬GTである。
- Tが1-無矛盾ならば、T⊬¬GTである。
証明方針は、二つの方向で異なる。(1)では、GTの具体的な証明を証明可能性述語へ内部化し、固定点同値が与える否定と衝突させる。(2)では、¬GTから得られるΣ1文ProvT(┌GT┐)に1-無矛盾性を適用し、標準証明の存在へ戻す。
証明.(1)を示す。T⊢GTと仮定し、その有限証明の標準符号をp0とする。定義 1.2により
T⊢ProvT(┌GT┐)(2.2.1) である。一方、式 (G)の左から右への含意とT⊢GTから
T⊢¬ProvT(┌GT┐)(2.2.2) を得る。式 (2.2.1)と式 (2.2.2)からTは矛盾する。従って、Tが無矛盾ならばT⊬GTである。
(2)を示す。T⊢¬GTと仮定する。古典命題論理を式 (G)へ適用すると
T⊢ProvT(┌GT┐)(2.2.3) を得る。§E16.21 命題 5.2 (2)によりPrfT(p,y)はΔ0論理式CheckTを用いて∃zCheckT(p,y,z)の形に固定されているので、ProvT(┌GT┐)=∃p∃zCheckT(p,┌GT┐,z)は§E16.19 定義 2.1の意味のΣ1文である。ここで同値な別の論理式へ取り替えてはいない。Tの1-無矛盾性により
N⊨ProvT(┌GT┐)となる。定義 1.2の標準モデルでの正確性から、ある標準証明符号が存在してT⊢GTである。1-無矛盾性は無矛盾性を含意するため、T⊢GTと仮定したT⊢¬GTは両立しない。従ってT⊬¬GTである。▨
(2)の議論では、1-無矛盾性を単なる無矛盾性へ置き換えることはできない。式 (2.2.3)がT内で証明されたことから、同じΣ1文が標準モデルで真であることを導く段階が追加で必要だからである。
3 Rosser 文に必要な有限数詞推論
証明符号の大小を算術内部で比較する式には、§E16.19 定義 2.1が固定した略記
a≼b:⟺∃d(d+a=b),a≺b:⟺Sa≼b
を用いる。a,bが標準自然数ならば、これらは標準モデルで通常の大小関係を表す。加法の第2引数が固定数詞であるため、d+nˉ=Sndは§E16.15 定義 2.1 (Q4)、§E16.15 定義 2.1 (Q5)をn回だけ用いて証明することができる。この向きの定義により、自由変数pに対する「pはnˉより小さいか、nˉ以上である」という固定境界の分割を、帰納法なしでQ内に構成することができる。
補題 3.1.nを標準自然数とし、A(x)を一変数算術式とする。
- Q⊢∀p(p≺nˉ∨nˉ≼p)である。
- 各標準自然数k≤nについてQ⊢¬A(kˉ)ならば、
Q⊢∀k(k≼nˉ→¬A(k))
である。
- 各標準自然数k<nについてQ⊢¬A(kˉ)ならば、
Q⊢∀k(k≺nˉ→¬A(k))
である。
証明.(1)は§E16.19 補題 3.3 (2)そのものであり、束縛変数の名前だけが異なる。
(2)と(3)では、固定数詞を上界とする候補が有限個の数詞に分かれることを用いる。§E16.19 補題 3.3 (1)により、k≼nˉからk=0ˉ∨⋯∨k=nˉが、k≺nˉからk=0ˉ∨⋯∨k=n−1が得られる。各選言では等号の置換可能性と仮定した有限個の否定証明を用いる。有限選言を消去してkを全称化すると、表示した二つの有界全称文を得る。これは標準自然数nごとに長さの異なる有限証明であり、Q内の帰納法ではない。▨
4 Rosser 文と第一不完全性定理
式の符号からその否定の符号を返す全域構文操作Negは§E16.18 定義 4.1で定義されており、§E16.18 定理 5.2により原始再帰的である。従って§E16.19 定理 7.1 (1)により、NegをQで強く数詞ごとに表現する一変数のグラフ式φNeg(x,u)が得られる。そこで
θ(x):⟺∀p(PrfT(p,x)→∃q(q≼p∧∃u(φNeg(x,u)∧PrfT(q,u))))
と定める。θの自由変数は高々xなので、§E16.22 定理 2.1をθへ適用することができる。この段階でPrfT(q,┌¬RT┐)と直接書くことはできない。RTはこれから対角線補題で得る文であり、その符号はまだ定まっていないからである。書くことができるのは、否定の符号を対応させるグラフ式φNegだけである。これを数詞へ潰す段は、固定点を取った後に置く。
定義 4.1.RTを、§E16.22 定理 2.1を上のθへ適用して得られるLA文とする。すなわちRTは次の固定点同値を満たす。
Q⊢RT↔θ(┌RT┐).(R0) 固定点を取った後は、グラフ式を数詞へ潰すことができる。RTはLA文なのでNeg(┌RT┐)=┌¬RT┐である。§E16.19 定義 1.2で定められる強い数詞ごとの表現の条件を、この入力へ適用すると
Q⊢∀u(φNeg(┌RT┐,u)↔u=┌¬RT┐)である。従ってQは、任意のqについて∃u(φNeg(┌RT┐,u)∧PrfT(q,u))とPrfT(q,┌¬RT┐)の同値を証明する。これを式 (R0)の右辺へ代入すると
Q⊢RT↔∀p(PrfT(p,┌RT┐)→∃q(q≼p∧PrfT(q,┌¬RT┐)))(R) を得る。以下ではこの式 (R)の形だけを用いる。式 (R)では、「RTの各証明には、それ以下の符号をもつ¬RTの証明が存在する」と述べられる。量化子p,qは対象理論内の自然数を走る。以下の証明では、外側で選んだ標準証明符号を数詞として入れた後に、固定境界の有限推論だけをQ内で用いる。
定理 4.2 (Gödel–Rosser の第一不完全性定理).Tを、Qを含み、公理集合を計算可能に列挙することができるLA理論とする。
- Tが無矛盾ならばT⊬GTであり、Tが1-無矛盾ならばT⊬¬GTである。
- Tが無矛盾ならば、T⊬RTかつT⊬¬RTである。
従って、無矛盾で公理集合を計算可能に列挙することができる任意のT⊇Qは構文論的に不完全である。
証明方針は、(1)には定理 2.2を適用することである。(2)では、RTまたは¬RTの標準証明符号を一つ固定する。反対側の標準証明が存在しないことを無矛盾性から得て、そのうち必要な有限範囲だけを補題 3.1によってQ内へ移す。
証明.(1)は定理 2.2で証明した。
(2)の最初の方向を示す。Tが無矛盾であるにもかかわらずT⊢RTであると仮定し、RTの標準証明符号をp0とする。無矛盾性によりT⊬¬RTである。従って、各標準自然数q≤p0について
¬ProofT(q,┌¬RT┐)が成り立つ。§E16.21 命題 5.2 (3)によりPrfTは否定例も数詞ごとに表現するため、各標準自然数q≤p0について
Q⊢¬PrfT(qˉ,┌¬RT┐)である。補題 3.1 (2)から
Q⊢¬∃q(q≼pˉ0∧PrfT(q,┌¬RT┐))(4.2.1) を得る。一方、p0は実際の証明符号なので
Q⊢PrfT(pˉ0,┌RT┐)(4.2.2) である。式 (R)、仮定T⊢RT、および式 (4.2.2)から、Tは式 (4.2.1)で否定した存在文を証明する。Q⊆Tなので式 (4.2.1)もTの定理であり、Tは矛盾する。従ってT⊬RTである。
次にT⊬¬RTを示す。T⊢¬RTと仮定し、その標準証明符号を一つ取ってq0とする。最小のものを選ぶ必要はない。無矛盾性により、RTの標準証明符号は一つも存在しない。§E16.21 命題 5.2 (3)により得られる否定例の表現可能性により、特に、各標準自然数p<q0について
Q⊢¬PrfT(pˉ,┌RT┐)である。補題 3.1 (3)から
Q⊢∀p(p≺qˉ0→¬PrfT(p,┌RT┐))(4.2.3) を得る。また、q0は¬RTの実際の証明符号なので
Q⊢PrfT(qˉ0,┌¬RT┐).(4.2.4) 任意のpを取る。補題 3.1 (1)の固定境界分割により、p≺qˉ0またはqˉ0≼pである。前者では式 (4.2.3)により式 (R)の含意の前件が偽である。後者では、式 (4.2.4)とq=qˉ0を用いると式 (R)の存在量化された後件が成り立つ。従って
Q⊢∀p(PrfT(p,┌RT┐)→∃q(q≼p∧PrfT(q,┌¬RT┐))).(4.2.5) 式 (R)の右から左への含意と式 (4.2.5)からQ⊢RT、従ってT⊢RTである。仮定T⊢¬RTと合わせるとTは矛盾する。従ってT⊬¬RTである。
Rosser の二方向では、標準モデルにおけるTの健全性、1-無矛盾性、またはω-無矛盾性を用いていない。外側で用いたのは、具体的な標準証明符号を一つ取ることとTの構文的無矛盾性だけである。対象理論内では、固定された有限個の数詞についての表現可能性と有限境界分割だけを用いた。▨
例 4.3.q0=4が¬RTの証明符号であると仮定する。p=0,1,2,3ではRTの証明検査が失敗することを、それぞれの否定例としてQが証明する。p≥4では、q=4を式 (R)の後件の証人に用いる。この有限な二分が、一般の標準符号q0に対する証明と同じ構造をもつ。
5 演習
問題 5.1. 次の問いに答えよ。
- T⊢GTからT⊢ProvT(┌GT┐)へ移る際に、Tの健全性を用いない理由を述べよ。
- T⊢¬GTの排除に1-無矛盾性を用いる箇所を特定せよ。
- T⊢RTを仮定する方向で、なぜp0以下の有限個の否定例だけをQへ移せば足りるのか。
- T⊢¬RTを仮定する方向で、p≺qˉ0とqˉ0≼pの各場合に式 (R)の含意をどのように証明するか。
解答 (確認問題の解答).
- GTの具体的な有限証明符号p0を取り、真である原始再帰関係ProofT(p0,┌GT┐)の数詞例をQで証明するからである。意味論的健全性は介在しない。
- T⊢¬GTから得たΣ1文ProvT(┌GT┐)を、標準モデルで真な文へ移す段階で用いる。
- 式 (R)をRTの具体的な証明符号p0へ適用すると、必要な反対側の証明符号は標準自然数q≤p0に限定されるからである。
- p≺qˉ0ではPrfT(p,┌RT┐)を否定して含意を証明する。qˉ0≼pでは、¬RTの証明符号q0自身を存在量化の証人に用いる。
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