1 自己代入を表す式
算術言語をLA={0,S,+,×}とし、変数xの符号をvxとする。構文操作の算術化で固定した捕獲回避代入関数をSub(e,v,n)と書く。第1引数が一変数式の符号であるとき、自然数nを表す数詞を第2引数により指定される自由変数へ代入した式の符号を返す。不正な符号に対する値もあらかじめ固定されている。
定義 1.1.
d(n):=Sub(n,vx,n)と定める。dは、符号nが表す式の自由変数xへnˉを代入した式の符号を返す全域関数である。
命題 1.2.dは原始再帰的である。従って、二変数算術式D(x,y)で、任意の標準自然数nについて
Q⊢∀y(D(nˉ,y)↔y=d(n))を満たすものが存在する。
証明.Subは原始再帰全関数であり、vxは固定した自然数である。対角写像n↦(n,n)、定数関数n↦vx、およびSubの合成によってdを得るため、dは原始再帰的である。原始再帰全関数のQにおける強い数詞ごとの表現可能性を適用すると、表示したD(x,y)が存在する。▨
論理式Dと外的関数dは異なる対象である。D(nˉ,y)は対象言語の式であり、d(n)はメタ理論で計算した自然数である。上の命題が両者を標準数詞ごとに接続する。
2 対角線補題
定理 2.1 (対角線補題).θ(x)を、自由変数が高々xである任意のLA論理式とする。このとき、あるLA文ψが存在して
Q⊢ψ↔θ(┌ψ┐)が成り立つ。従って、Q⊆Tを満たす任意のLA理論Tについても
T⊢ψ↔θ(┌ψ┐)である。
証明方針は、入力された式の符号を直接同じ式へ入れることではない。まず、入力xを自己代入した結果d(x)をθへ渡す補助式を作る。次に、補助式自身の符号を補助式へ代入する。
証明.命題 1.2の式D(x,y)を用いて
β(x):=∃y(D(x,y)∧θ(y))と定める。b=┌β┐とし、文
ψ:=β(bˉ)を取る。Gödel 符号の定義により
d(b)=Sub(b,vx,b)=┌β(bˉ)┐=┌ψ┐(2.1.1) である。
dの強い表現可能性から
を得る。式 (2.1.2)と等号に関する置換可能性を用いると、Qの内部で
ψ↔β(bˉ)↔∃y(D(bˉ,y)∧θ(y))↔θ(d(b))を証明することができる。式 (2.1.1)によりd(b)は文ψの Gödel 数を表す数詞である。従って
Q⊢ψ↔θ(┌ψ┐)となる。Q⊆Tならば、同じ有限証明はTの証明でもある。▨
例 2.3.θ(x)をx=xとする。対角線補題により得られる文ψは
Q⊢ψ↔┌ψ┐=┌ψ┐を満たす。右辺は等号公理から証明されるため、Q⊢ψである。この例では、xが式中に現れること自体ではなく、自己代入の構成が任意の一変数式に一様に適用されることを確認することができる。
3 標準モデルの真理を定義することはできない
算術文全体の集合をSent(LA)とする。メタ理論では
TrueN={┌σ┐:σ∈Sent(LA), N⊨σ}
という自然数の集合を考えることができる。問題は、この集合の所属関係を一つの算術式Tr(x)によって標準モデル内部で定義することができるかどうかである。
定理 3.1 (Tarski の真理定義不能性定理). 自由変数が高々xであるLA論理式Tr(x)で、任意のLA文σについて
N⊨Tr(┌σ┐)⟺N⊨σ(3.1.1) を満たすものは存在しない。
証明方針は、Trが定義する真理を否定する一変数式へ対角線補題を適用することである。得られる文について、対角線補題により真理とTrの否定が同値になり、仮定式 (3.1.1)により真理とTrが同値になる。
証明.式 (3.1.1)を満たす式Tr(x)が存在すると仮定する。θ(x):=¬Tr(x)へ定理 2.1を適用し、
Q⊢ψ↔¬Tr(┌ψ┐)(3.1.2) を満たす文ψを取る。標準モデルはQのモデルであるから、健全性により
N⊨ψ⟺N⊨Tr(┌ψ┐)(3.1.3) である。一方、式 (3.1.1)をσ=ψに適用すると
N⊨Tr(┌ψ┐)⟺N⊨ψ(3.1.4) を得る。式 (3.1.3)と式 (3.1.4)から、命題N⊨ψが自身の否定と同値であることが得られるため矛盾する。従って、式 (3.1.1)を満たす算術式は存在しない。▨
4 メタ言語と対象言語の区別
次の四つは異なる種類の記述である。
- d(n)=mは、自然数を入力とする外的計算についての等式である。
- D(nˉ,mˉ)は、外的計算を表す対象言語の文である。
- Q⊢D(nˉ,mˉ)は、その算術文に対する形式的証明の存在である。
- N⊨D(nˉ,mˉ)は、その算術文の標準モデルにおける真理である。
対角線補題では、項目 (1)から項目 (2)へ表現可能性によって移り、項目 (2)について項目 (3)の同値を構成する。Tarski の定理では、項目 (3)で得た同値をN⊨Qによって項目 (4)へ移し、仮定した真理定義と比較する。どの段階でも、メタ言語の自己参照を前提にはしていない。
5 演習
問題 5.1. 次の問いに答えよ。
- 対角線補題の証明で、β(x)を単にθ(x)とせず、D(x,y)を介して定義する理由を述べよ。
- Tarski の定理の証明で、N⊨Qを用いる箇所を特定せよ。
- Tarski の定理へ理論Tの無矛盾性を追加する必要がない理由を述べよ。
解答 (確認問題の解答).
(1)では、xを式の入力として用いるだけでなく、その入力が表す式へ同じ入力を代入した符号d(x)をθへ渡す必要があることを述べる。(2)では、Q内で証明した固定点同値式 (3.1.2)を標準モデルで真な同値式 (3.1.3)へ移す段階を挙げる。(3)では、矛盾が標準モデルにおける真理定義式 (3.1.1)と固定点同値から直接生じ、任意の追加理論の証明可能性を用いていないことを述べればよい。▨