Gödel 文は「自分は証明可能でない」と述べる文の固定点であり、無矛盾な理論はこれを証明しない。では、逆向きの固定点、すなわち「自分は証明可能である」と述べる文はどうなるか。Henkin が提出したこの問いに、Löb はその文が実際に証明可能であると答えた。さらに Löb の議論は、より一般の定理を与える。理論が「ある文が証明可能ならばその文は成り立つ」という含意を証明することができるのは、その文をすでに証明している場合に限る、という定理である。本記事では、これを導出可能性条件と対角線補題だけから証明する。
1 引き継ぐ設定
理論、証明述語、および記法は§E16.24 定義 1.1のものをそのまま用いる。すなわち、、の公理を列挙する決定的プログラムを一つ固定し、標準的な証明述語から
と定める。は算術式の略記であり、言語へ様相演算子を加えるものではない。矛盾文と無矛盾性文も§E16.24 定義 1.2のとおり、とする。
本記事の証明で中心となる上流の結果は次の二つである。このほか、古典命題論理の派生則と演繹定理(§E16.10 補題 2.1、§E16.10 定理 5.1)、等号の対称律(§E16.10 補題 4.1)、Robinson 算術の公理(§E16.15 定義 2.1)、一階論理の健全性(§E16.10 定理 6.1)、証明述語の標準モデルでの正確性(§E16.21 定理 5.4)、標準モデルがのモデルであること(§E16.15 定理 2.2)を用いる。比較と境界の記述では、Gödel 文の定義と非証明(§E16.23 定義 2.1、§E16.23 定理 2.2)、Tarski の真理定義不能性定理(§E16.22 定理 3.1)、および第二不完全性定理(§E16.24 定理 10.1)を引用する。
- §E16.24 定理 7.2の三条件。任意の固定した文について、ならば(§E16.24 定理 7.2 (D1))、(§E16.24 定理 7.2 (D2))、(§E16.24 定理 7.2 (D3))である。
- §E16.22 定理 2.1の固定点。自由変数が高々である任意の論理式に対して、を満たす文が存在する。同値が内で成り立つことは、標準モデルにおける真偽を論じるときに用いる。であるからでもある。
の無矛盾性は仮定しない。無矛盾性を用いる箇所は、用いる命題ごとに明示する。
2 Henkin の問い
§E16.23 定義 2.1の Gödel 文はの固定点であり、を満たす。Henkin 文は否定を外した固定点である。
注意 2.2 (Henkin 文の真偽は素朴には決まらない).§E16.22 定理 2.1により固定点の同値が内で得られ、§E16.15 定理 2.2により標準モデルはのモデルである。従って§E16.10 定理 6.1の健全性により、標準モデルではとの真偽が一致する。さらに§E16.21 定理 5.4により、が標準モデルで真であることとは同値である。従って、が標準モデルで真であることとは同値である。すなわち「は真である」と「は証明可能である」は同じ主張に帰着し、どちらか一方を仮定しても他方が出るだけである。この素朴な言い換えだけからは、が証明可能であるか否かは決まらない。Gödel 文の場合には、具体的証明の内部化を経由して、固定点の条件と無矛盾性からを導くことができた(§E16.23 定理 2.2)。同じ議論を Henkin 文へ適用することはできない。の証明可能性を仮定しても矛盾が生じないからである。実際、次節以降でを証明する。
3 固定点が与える内部含意
以下の補題、定理、および系では、いずれも文を各主張の中で固定する。
証明.式 (F)の左から右への含意により
である。§E16.24 定理 7.2 (D1)を式 (3.1.1)へ適用すると
を得る。§E16.24 定理 7.2 (D2)を文の対とへ適用すると
であり、式 (3.1.2)と modus ponens により
を得る。次に、§E16.24 定理 7.2 (D2)を文の対とへ適用すると
である。式 (3.1.3)と式 (3.1.4)を命題論理で合成すると
を得る。一方、§E16.24 定理 7.2 (D3)をへ適用すると
である。式 (3.1.5)と式 (3.1.6)を命題論理で合成すると、表示した結論を得る。この導出ではについて何も仮定しておらず、の無矛盾性も用いていない。▨
この補題が本記事の中心である。以下の定理と系は、この含意と、固定点式 (F)の右から左への含意と、§E16.24 定理 7.2 (D1)の三つだけから得る。
4 Löb の定理
定理 4.1 (Löb の定理).を任意の固定した文とする。メタ理論で
ならば、メタ理論で
である。
証明.と仮定する。補題 3.1のを取るとであるから、仮定と命題論理により
を得る。式 (F)の右から左への含意はであるから、式 (4.1.1)と modus ponens により
である。§E16.24 定理 7.2 (D1)を適用するとを得る。これと式 (4.1.1)へ modus ponens を適用するとである。▨
注意 4.2 (仮定と結論はいずれもメタ理論の主張である). Löb の定理の仮定と結論は、どちらもにおける導出の存在を述べるメタ理論の主張である。定理では内の含意が主張されていない。この含意は一般にはの定理ではない。実際、とを取ると、この含意はすなわちを与えるが、はこれを証明しない。内で成り立つ形はであり、次節で別に証明する。この区別は§E16.24 定理 7.2 (D1)の場合と同じであり、外から内への規則と内部の含意を混同してはならない。
5 形式化された Löb の定理
Löb の定理の仮定と結論を、いずれもの内部の証明可能性として述べた形も成り立つ。
定理 5.1.を任意の固定した文とする。このとき
である。
証明.補題 3.1のを取る。同補題のから、命題論理により
である。実際、とを仮定すると、同補題によりを得、仮定した含意によりを得る。
式 (F)の右から左への含意と式 (5.1.1)を合成すると
を得る。§E16.24 定理 7.2 (D1)を式 (5.1.2)へ適用するとであり、§E16.24 定理 7.2 (D2)を文の対とへ適用して modus ponens を用いると
注意 5.2 (形式化された形は Löb の定理を含む).と仮定すると、§E16.24 定理 7.2 (D1)によりである。定理 5.1と modus ponens によりを得、仮定した含意からである。従って定理 4.1は定理 5.1と§E16.24 定理 7.2 (D1)から得ることもできる。二つの証明は同じ補題を共有しており、独立な経路ではない。
6 Henkin の問いへの答え
系 6.1.定義 2.1の Henkin 文についてである。
証明. 固定点の条件の右から左への含意によりである。定理 4.1をについて適用するとを得る。▨
注意 6.2 (Gödel 文との対照).が無矛盾ならば、§E16.23 定理 2.2によりである。一方、Henkin 文については無矛盾性を仮定せずにが成り立つ。固定点の内側の否定の有無だけで、結論が正反対になる。また、固定点の同値は内で成り立ち、標準モデルはのモデルであるから、と§E16.21 定理 5.4を合わせるとは標準モデルで真である。ここでが標準モデルで健全であることは仮定していない。用いたのはの健全性だけである。
7 第二不完全性定理を系として導き直す
系 7.1.が無矛盾ならばである。
証明. 背理法のためと仮定する。はであり、古典命題論理ではからを導くことができるので
である。定理 4.1をについて適用すると、すなわちを得る。
一方、§E16.15 定義 2.1 (Q1)の全称閉包はの公理であり、の具体化と等号の対称律によりである。従ってはとその否定をともに証明し、矛盾する。これは仮定に反する。よってである。▨
注意 7.2 (第二不完全性定理の直接証明との違い).§E16.24 定理 10.1では、Gödel 文の固定点を経由し、内部含意を導いたうえで、第一不完全性定理により得られる外的事実と衝突させた。本節の証明はに対する固定点を経由し、第一不完全性定理を用いていない。結論は同じであるが、用いる上流の結果が異なる。
なお本節の証明は定理 4.1を経由しており、その定理 4.1は§E16.24 定理 7.2 (D1)・§E16.24 定理 7.2 (D2)・§E16.24 定理 7.2 (D3)と§E16.22 定理 2.1に依存する。導出可能性条件と対角線補題の証明はいずれも第二不完全性定理を用いていないので、循環は生じない。本記事で引き継ぐ設定も、証明可能性述語と無矛盾性文の定義だけであり、第二不完全性定理の結論を含まない。
8 反映原理の各例を証明することができないこと
系 8.1.を任意の固定した文とする。ならば
である。
証明.定理 4.1の対偶である。無矛盾性を仮定していない。▨
注意 8.2 (反映原理を図式として証明することができない). 各文に対するを反映の例と呼ぶ。この系では、で証明されない文については対応する反映の例も証明されないことが述べられる。従って、が証明しない文が少なくとも一つ存在する場合には、が反映の例をすべて証明することはない。が無矛盾ならばこの条件は満たされる。
の場合が第二不完全性定理である。実際、が無矛盾ならば、系 7.1の証明で得たによりである。系によりを得る。同じにより、の内部でとは同値であるから、これはと同値である。の場合には、が無矛盾ならば§E16.23 定理 2.2によりなので、である。
「証明可能ならば真である」という言明の各例を、理論が自分自身について図式として証明することはできない。各例をの文として書き下すことはできるが、それらをすべて証明することはできない。この意味で、証明可能性を理論の内部で真理と同じように扱うことはできない。
例 8.3. 自然言語で「この文が真ならばである」と述べる文を考える。が真であると仮定すると、の述べる内容によりを得る。従ってが真であることが示されたように見え、もう一度の内容を用いるとが任意に従う。これは Curry の逆理である。
この議論を算術の内部で再現するには、真理を表す算術式が必要である。§E16.22 定理 2.1により任意のについてを満たすが得られるが、逆理の議論ではさらにという同値、すなわちが真理図式を満たすことが要求される。ところが§E16.22 定理 3.1により、標準モデルの真理を表す算術式は存在しない。従って、この形の議論を算術の内部で実行することはできない。
Löb の定理では、真理述語を証明可能性述語へ置き換えたときに何が残るかが述べられている。は算術式として実在し、§E16.22 定理 2.1により固定点が得られるので、対応する議論は実際に実行することができる。ただし結論は「が任意に従う」ではない。得られるのは、がを証明するならばはを証明する、という条件つきの主張である。証明可能性は真理と異なり算術の内部で表すことができる。しかし、そのように表した述語は、自分自身についての反映の例を理論に証明させない。
9 演習
問題 9.1. 次の問いに答えよ。
- Gödel 文と Henkin 文は、それぞれどの論理式の固定点か。結論が正反対になる理由を述べよ。
- 補題 3.1の証明で、§E16.24 定理 7.2 (D1)、§E16.24 定理 7.2 (D2)、§E16.24 定理 7.2 (D3)はそれぞれどの段で用いられているか。
- 定理 4.1の仮定と結論が、いずれも内の含意ではない理由を述べよ。
- 第二不完全性定理を Löb の定理から導く際に、の無矛盾性を用いる箇所を特定せよ。
- Curry の逆理を算術の内部で再現することができない理由を述べよ。
解答 (確認問題の解答).
- Gödel 文はの固定点、Henkin 文はの固定点である。Gödel 文では、具体的証明の内部化を経由して、固定点の条件と無矛盾性から非証明が従う。Henkin 文へ同じ議論を適用することはできず、代わりに固定点の条件からが得られるため、Löb の定理を適用することができ、証明可能性が従う。
- §E16.24 定理 7.2 (D1)は式 (3.1.1)から式 (3.1.2)を得る段、§E16.24 定理 7.2 (D2)は式 (3.1.3)を得る段と式 (3.1.4)を得る段の二度、§E16.24 定理 7.2 (D3)は式 (3.1.6)を得る段で用いる。
- 仮定は、における導出の存在を述べるメタ理論の主張である。結論も同様である。内で成り立つ形は定理 5.1であり、こちらはを二重に用いた別の文である。
- 無矛盾性は、とがともに成り立つことを矛盾と判定する最後の段だけで用いる。定理 4.1の適用と、からを得る段では用いていない。
- 素朴な議論は真理を表す算術式の存在を要求するが、§E16.22 定理 3.1によりそのような式は存在しない。証明可能性述語は実在するので、置き換えた議論は実行することができるが、結論は任意の文の証明可能性ではなく Löb の定理の形になる。
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10 仮定と主張の境界
本記事で証明したのは、固定した標準的な証明可能性述語についての Löb の定理と、その形式化された形、および三つの系である。
を様相演算子とみなし、§E16.24 定理 7.2 (D1)・§E16.24 定理 7.2 (D2)・§E16.24 定理 7.2 (D3)と定理 5.1を公理スキーマとする様相論理の体系、すなわち証明可能性論理 GL は扱わない。GL の Kripke 意味論、算術的完全性定理、および様相論理の固定点定理も扱わない。本単元では、等号を含む一ソートの古典一階論理、直観主義命題論理、単純型付きラムダ計算に限定する。
反映原理の図式全体を加えた理論の性質、-無矛盾性を用いる変種、Rosser 型の変種、の無矛盾性、および真理述語を加えた拡大も扱わない。
対象理論を以上に限定した理由は、§E16.24 定理 7.2 (D2)と§E16.24 定理 7.2 (D3)の証明が対象理論の帰納法を用いることにある。本記事では導出可能性条件を入力として用いるだけであり、限定を緩めることも強めることもしていない。