1 有限最小化問題と近似比
定義 1.1. 集合Iの要素をインスタンス (instance) という。各インスタンスI∈Iに対し、空でない有限集合F(I)と写像costI:F(I)→[0,∞)が定まっているとする。F(I)の要素をIの実行可能解 (feasible solution)、costI(y)を実行可能解yの費用 (cost) という。この対応の全体を有限最小化問題 (finite minimization problem) という。
F(I)は空でない有限集合であるから
OPT(I)=y∈F(I)mincostI(y)は存在する。これをIの最適値 (optimal value) という。
定義 1.2. 有限最小化問題と、各インスタンスI∈Iに対し実行可能解A(I)∈F(I)を返すアルゴリズムAをとる。実数ρに対し、Aが ρ-近似アルゴリズム (rho-approximation algorithm) であるとは、すべてのインスタンスI∈Iについて
costI(A(I)) ≤ ρOPT(I)が成り立つことをいう。この不等式を満たすρをAの近似比 (approximation ratio) という。
命題 1.3. 有限最小化問題がOPT(I)>0を満たすインスタンスIをもつとする。このとき、ρ-近似アルゴリズムの近似比ρは1以上である。
証明.Aをρ-近似アルゴリズムとし、OPT(I)>0を満たすインスタンスIをとる。A(I)∈F(I)であるから、最適値が最小値であることによりOPT(I)≤costI(A(I))である。近似比の定義とあわせて
OPT(I) ≤ costI(A(I)) ≤ ρOPT(I)を得る。両端をOPT(I)>0で割ると1≤ρである。▨
最大化問題では不等号の向きが逆になり、近似比は1以下の向きで測る。本記事では最小化問題だけを扱うので、以下のρはつねに1以上である。
2 極大なマッチングによる頂点被覆
定義 2.1. 有限単純無向グラフG=(V,E)について、頂点集合C⊆Vが 頂点被覆 (vertex cover) であるとは、Eのすべての辺が少なくとも一方の端点をCにもつことをいう。頂点数が最小である頂点被覆の頂点数をτ(G)と書く。ここでの最小は頂点数についての最小であり、包含に関する極小とは異なる。
Gをインスタンスとし、F(G)をGの頂点被覆全体、costG(C)=∣C∣と定めると、これは定義 1.1の意味の有限最小化問題である。実際、V自身は頂点被覆であるからF(G)は空でなく、Vの部分集合は有限個であるからF(G)は有限集合である。この問題を最小頂点被覆問題 (minimum vertex cover problem) といい、OPT(G)=τ(G)である。
二部グラフに限れば、この頂点被覆は§E13.13 定義 2.1の頂点被覆と同じものである。本記事では二部性を仮定しない。
定義 2.2. 有限単純無向グラフG=(V,E)について、マッチングの定義は§D2.12 定義 1.1に従う。すなわち辺集合M⊆Eがマッチング (matching) であるとは、Mの相異なる二辺が端点を共有しないことをいう。
マッチングMが 極大 (maximal matching) であるとは、M⊊M′を満たすマッチングM′が存在しないことをいう。マッチングMが最大 (maximum matching) であるとは、辺数∣M∣がGのマッチングの中で最大であることをいい、その辺数をν(G)と書く。
命題 2.4. 有限単純無向グラフG=(V,E)について、M=∅から出発し、M∪{e}がマッチングとなる辺e∈E∖Mが存在するかぎり、そのようなeを一つ選んでMへ加える手続きを考える。この手続きは高々m回の反復で停止し、停止時のMはGの極大なマッチングである。
証明. ループ不変条件(§D2.8 定義 1.1)として「MはGのマッチングでありM⊆Eである」をとる。初期化ではM=∅がマッチングであるから成り立つ。維持については、本体はM∪{e}がマッチングである場合にだけeを加えるので、実行後もMはマッチングである。
停止性を示す。φ=m−∣M∣と置く。不変条件によりM⊆Eであるから∣M∣≤mであり、φは非負整数である。本体を一度実行すると∣M∣が1増えるのでφは狭義に減少する。§D2.8 命題 1.4により手続きは有限回で停止し、φの初期値がmであるから反復回数はm以下である。
終了を確かめる。停止時にはループの継続条件が偽であり、M∪{e}がマッチングとなる辺e∈E∖Mは存在しない。ここでM⊊M′を満たすマッチングM′が存在すると仮定し、e∈M′∖Mをとる。M∪{e}⊆M′であり、マッチングの部分集合はマッチングである(部分集合の相異なる二辺はもとの集合の相異なる二辺でもあるから端点を共有しない)ので、M∪{e}はマッチングでありe∈E∖Mである。これは継続条件が偽であることに反する。よって停止時のMは極大なマッチングである。この形の議論が正当性を与えることは§D2.8 定理 1.2による。▨
最適値の下界を与えるのが次の補題である。この補題では極大性を仮定せず、どのマッチングについても成り立つ。
補題 2.5. 有限単純無向グラフGのマッチングMと頂点被覆Cに対し∣M∣≤∣C∣が成り立つ。とくに∣M∣≤τ(G)である。
証明.Cは頂点被覆であるから、Mの各辺eは少なくとも一方の端点をCにもつ。Mは有限集合であるから、各e∈MについてCに属する端点を一つ選び、それをψ(e)と書く。これにより写像ψ:M→Cが定まる。
ψが単射であることを示す。e,e′∈Mがe=e′かつψ(e)=ψ(e′)を満たすと仮定する。ψ(e)はeの端点であり、ψ(e′)はe′の端点であるから、eとe′は頂点ψ(e)を共有する。これはMがマッチングであることに反する。よってψは単射であり∣M∣≤∣C∣である。
Cを頂点数が最小の頂点被覆にとると∣C∣=τ(G)であるから∣M∣≤τ(G)を得る。▨
補題 2.6.Mを有限単純無向グラフG=(V,E)の極大なマッチングとし、Mの辺の端点全体を
C(M)={v∈V: v は M のある辺の端点である}と置く。このときC(M)はGの頂点被覆であり、∣C(M)∣=2∣M∣が成り立つ。
証明. 頂点被覆であること。辺e=uv∈Eをとり、u∈/C(M)かつv∈/C(M)であると仮定する。C(M)の定め方により、Mのどの辺もuを端点にもたず、vも端点にもたない。したがってeはMのどの辺とも端点を共有しない。とくにe∈/Mである(e∈Mならばu∈C(M)となる)。
M∪{e}がマッチングであることを確かめる。M∪{e}の相異なる二辺f,f′をとる。ともにMに属するならば、Mがマッチングであることから端点を共有しない。一方がeで他方がMの辺ならば、上に述べたとおり端点を共有しない。よってM∪{e}はマッチングであり、e∈/MよりM⊊M∪{e}である。これはMの極大性に反する。
したがってEのすべての辺は少なくとも一方の端点をC(M)にもち、C(M)は頂点被覆である。
頂点数。各辺e∈Mに対し、その端点の集合をι(e)と書く。Gは単純でありループをもたないので∣ι(e)∣=2である。C(M)=⋃e∈Mι(e)である。Mの相異なる二辺は端点を共有しないので、e=e′ならばι(e)∩ι(e′)=∅である。よってこの合併は互いに交わらない集合の合併であり、和の法則(§D2.2 定理 2.1)により
∣C(M)∣=e∈M∑∣ι(e)∣=e∈M∑2=2∣M∣である。▨
2.1 証明方針
主定理は二つの主張の組み合わせである。第一は、極大なマッチングMの端点集合C(M)が頂点被覆であることであり、これは補題 2.6により得られる。証明の要点は、両端点がC(M)の外にある辺があれば、その辺をMへ加えてもマッチングのままであり、極大性に反するという一手である。
第二は、∣C(M)∣がτ(G)の2倍以下であることである。∣C(M)∣=2∣M∣であるから、示すべきことは∣M∣≤τ(G)である。ここで用いるのが補題 2.5であり、その一手は「Mの辺は互いに端点を共有しないので、どの頂点被覆もそれらの辺の各々から少なくとも一つの頂点を含み、しかも相異なる辺には相異なる頂点が対応する」という単射の構成である。この一手を省くと、Mの辺数と頂点被覆の頂点数を比べる根拠が無くなる。
二つを合わせると、最適値そのものを知らないまま∣C(M)∣≤2τ(G)が従う。
定理 2.7.G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、MをGの極大なマッチングとする。このときC(M)はGの頂点被覆であり
∣C(M)∣=2∣M∣ ≤ 2τ(G)が成り立つ。
証明.補題 2.6によりC(M)は頂点被覆であり∣C(M)∣=2∣M∣である。
Mはマッチングであるから、補題 2.5により∣M∣≤τ(G)である。両辺を2倍して2∣M∣≤2τ(G)を得る。二つを合わせて主張が従う。▨
系 2.8.命題 2.4の手続きにおいて、各反復でMへ加える辺の選び方を一つ固定する。この選び方をどのように定めても、その手続きによって極大なマッチングMを求め、C(M)を出力するアルゴリズムは、最小頂点被覆問題に対する2-近似アルゴリズムである。
証明.命題 2.4の停止性と極大性の証明は、加えることのできる辺が複数あるときにどれを選ぶかに依存しない。よって選び方をどのように固定しても手続きは停止し、出力されるMは極大なマッチングである。定理 2.7によりC(M)は頂点被覆、すなわち定義 2.1の意味の実行可能解であり、
costG(C(M))=∣C(M)∣≤2τ(G)=2OPT(G)が成り立つ。これは定義 1.2の意味でρ=2の場合の条件である。▨
例 2.9.V={v1,v2,v3,v4}、E={v1v2, v2v3, v3v4}とする。n=4、m=3である。
最適値。C={v2,v3}は頂点被覆である。実際、v1v2はv2を、v2v3はv2を、v3v4はv3を含む。よってτ(G)≤2である。頂点数1の頂点被覆は存在しない。v1v2とv3v4は端点を共有しないので、一つの頂点で両方を覆うことはできないからである。よってτ(G)=2である。
第一の極大なマッチング。M1={v2v3}をとる。v1v2はv2を、v3v4はv3をM1の辺と共有するので、どちらを加えてもマッチングでなくなる。よってM1は極大である。C(M1)={v2,v3}であり∣C(M1)∣=2=2∣M1∣である。この頂点被覆は最小であり、費用の比は2/2=1である。
第二の極大なマッチング。M2={v1v2, v3v4}をとる。二辺は端点を共有しないのでマッチングであり、残る辺v2v3はv2とv3の双方を共有するので加えることができない。よってM2は極大である。C(M2)={v1,v2,v3,v4}であり∣C(M2)∣=4=2∣M2∣である。費用の比は4/2=2であり、定理 2.7の上界がちょうど達成される。
下界の照合。∣M1∣=1≤2=τ(G)かつ∣M2∣=2≤2=τ(G)であり、補題 2.5と整合する。またM2は最大マッチングでありν(G)=2である。辺数3のマッチングは、相異なる6個の頂点を要するのでn=4のこのグラフには存在しない。
三角形での照合。V′={u1,u2,u3}とし、u1u2、u1u3、u2u3の三辺をもつグラフを考える。M={u1u2}は極大である。u1u3はu1を、u2u3はu2を共有するからである。C(M)={u1,u2}であり∣C(M)∣=2である。一方τ=2である。一つの頂点は三辺のうち二辺しか覆わないのでτ≥2であり、{u1,u2}が頂点被覆であるからτ≤2だからである。よってこの場合の費用の比は1である。
出力される頂点被覆は、選ぶ極大なマッチングによって変わる。上の第一と第二の例が示すとおり、辺数の小さい極大なマッチングのほうがよい頂点被覆を与えることがある。定理 2.7により、どの極大なマッチングを選んでも比が2を超えないことが保証される。
3 貪欲な集合被覆
定義 3.1. 正の整数kに対し
Hk=i=1∑ki1と定め、Hkを第k調和数 (harmonic number) という。またH0=0と定める。
定義 3.2. 空でない有限集合U、有限添字集合J、Uの部分集合の族(Sj)j∈J、および正の実数の族(wj)j∈Jが
j∈J⋃Sj=Uを満たすとする。Uを台集合 (universe)、Uの要素を要素 (element)、wjをSjの費用 (cost) という。
添字の部分集合C⊆Jが被覆 (cover) であるとは⋃j∈CSj=Uが成り立つことをいい、その費用をw(C)=∑j∈Cwjと定める。四つ組I=(U,J,(Sj),(wj))をインスタンスとし、F(I)を被覆全体、costI(C)=w(C)と定めると、これは定義 1.1の意味の有限最小化問題である。実際、J自身は被覆であるからF(I)は空でなく、Jの部分集合は有限個であるからF(I)は有限集合である。この問題を重み付き集合被覆問題 (weighted set cover problem) という。
定義 3.3. 重み付き集合被覆問題のインスタンスI=(U,J,(Sj),(wj))に対し、次の手続きを考える。R←UおよびC←∅とする。R=∅であるかぎり次を繰り返す。
Sj∩R=∅を満たすj∈Jのうち、比
∣Sj∩R∣wjを最小にするものを一つ選び、それをj∗とする。j∗をCへ加え、Sj∗∩Rの各要素eに対し課金額 (price) を
price(e)=∣Sj∗∩R∣wj∗と定める。その後R←R∖Sj∗とする。R=∅になったところでCを出力する。
すなわち、選んだ集合の費用を、その集合が新しく覆う要素へ等しく分けて課金する。
命題 3.4.定義 3.3の手続きについて次が成り立つ。
- R=∅である各反復において、選ぶことのできる添字jが存在する。
- 手続きは高々∣U∣回の反復で停止する。
- 停止時のCは被覆である。
- 各要素e∈Uについて、price(e)はちょうど一度だけ定まる。
- 停止時のCについてw(C)=∑e∈Uprice(e)が成り立つ。
証明.(1)を示す。R=∅としe∈Rをとる。R⊆U=⋃j∈JSjであるからe∈Sjを満たすj∈Jが存在し、そのjについてSj∩R=∅である。よって候補となる添字の集合は空でない。Jは有限集合であるから、その中で比を最小にする添字が存在する。
(2)を示す。ループの状態に対して変量∣R∣をとる。これは非負整数である。選んだj∗についてSj∗∩R=∅であるから、R∖Sj∗はRの真部分集合であり∣R∣は狭義に減少する。§D2.8 命題 1.4により手続きは有限回で停止し、∣R∣の初期値が∣U∣であるから反復回数は∣U∣以下である。
(3)を示す。ループ不変条件(§D2.8 定義 1.1)として「R⊆UかつU∖R=⋃j∈CSj」をとる。初期化ではR=UかつC=∅であり、両辺とも空集合である。維持については、j∗を加えた後のC′=C∪{j∗}とR′=R∖Sj∗に対し、Sj∗⊆Uであることから
U∖R′=U∖(R∖Sj∗)=(U∖R)∪(U∩Sj∗)=(U∖R)∪Sj∗=(j∈C⋃Sj)∪Sj∗=j∈C′⋃Sjであり、不変条件が保たれる。停止時には継続条件が偽でありR=∅であるから、不変条件よりU=⋃j∈CSj、すなわちCは被覆である。この形の議論が正当性を与えることは§D2.8 定理 1.2による。
(4)を示す。ある反復で課金される要素はSj∗∩Rの要素であり、その反復の終わりにRから取り除かれる。Rは反復のたびに減るだけであるから、一度取り除かれた要素は以後の反復のRに属さず、再び課金されることはない。また 3 の停止時の条件R=∅と不変条件により、すべての要素はいずれかの反復でRから取り除かれ、そのとき課金される。よって各要素はちょうど一度課金される。
(5)を示す。まず、各反復で選ばれる添字は互いに相異なる。ある反復でj∗が選ばれると、その反復の終わりにRからSj∗が取り除かれてSj∗∩R=∅となり、Rは以後も減るだけであるから、j∗が再び候補になることはないからである。したがって反復の回数は∣C∣に等しく、
w(C)=j∈C∑wj=反復∑wj∗である。各反復について、その反復で課金される要素の個数は∣Sj∗∩R∣であり、各要素への課金額はwj∗/∣Sj∗∩R∣であるから、その反復で課金された額の総和は
∣Sj∗∩R∣⋅∣Sj∗∩R∣wj∗=wj∗である。反復について加え、4 により各要素がちょうど一度課金されることを用いるとw(C)=∑e∈Uprice(e)を得る。▨
3.1 証明方針
近似保証は、(5)によって総費用を要素への課金額の総和へ書き換え、各課金額を個別に評価することによって得られる。
要素を課金された順にe1,…,ek(k=∣U∣)と並べる。elが課金される反復の開始時に残っている集合をRlと書くと、el,el+1,…,ekはまだ課金されていないのでRlに属し、∣Rl∣≥k−l+1である。
次に、Rlをどう覆っても最適値以上の費用はかからない、という事実を用いる。最適な被覆Oをとると、OはRlも覆うので、Oの集合の中に「費用を新しく覆う要素の個数で割った比」がOPT(I)/∣Rl∣以下であるものが存在する。存在しないと仮定して費用を加えると、Oの総費用がOPT(I)を超えるという矛盾が生じるからである。手続きはその比を最小にする添字を選ぶので、elへの課金額はこの値以下である。
最後に∣Rl∣≥k−l+1を代入して和をとると、係数が調和数になる。
補題 3.5. 重み付き集合被覆問題のインスタンスI=(U,J,(Sj),(wj))に対しk=∣U∣と置く。定義 3.3の手続きで課金された順にUの要素をe1,e2,…,ekと並べる(同じ反復で課金された要素どうしの順序は任意に定める)。このとき各1≤l≤kについて
price(el) ≤ k−l+1OPT(I)が成り立つ。
証明. はじめにOPT(I)>0を確かめる。Uは空でないので、どの被覆Cも空でなく、wj>0よりw(C)>0である。よって最適値も正である。
1≤l≤kを固定し、elが課金された反復の開始時におけるRの値をRlと書く。
∣Rl∣≥k−l+1であること。l≤l′≤kをとる。命題 3.4 (4)により各要素はちょうど一度課金され、el′が課金されるのはelが課金される反復と同じか、それより後の反復である。同じ反復ならばel′∈Sj∗∩Rl⊆Rlである。より後の反復ならば、その反復の開始時のRに属し、Rは反復のたびに減るだけであるからel′∈Rlである。el,el+1,…,ekは相異なるk−l+1個の要素であるから∣Rl∣≥k−l+1である。
比の小さい集合が最適な被覆の中に存在すること。O⊆Jをw(O)=OPT(I)を満たす被覆とし、
Ol={j∈O: Sj∩Rl=∅}と置く。OはUを覆いRl⊆Uであるから、Rlの各要素は少なくとも一つのj∈OについてSj∩Rlに属する。したがって
j∈O∑∣Sj∩Rl∣ ≥ ∣Rl∣が成り立つ。左辺はRlの各要素を少なくとも一度数えているからである。Rl=∅であるから、この不等式よりOl=∅である。
すべてのj∈Olについて
∣Sj∩Rl∣wj>∣Rl∣OPT(I)が成り立つと仮定する。両辺に∣Sj∩Rl∣>0を掛けるとwj>∣Rl∣OPT(I)∣Sj∩Rl∣である。j∈Olについて加え、j∈O∖Olについては∣Sj∩Rl∣=0かつwj>0であることを用いると
OPT(I)=j∈O∑wj ≥ j∈Ol∑wj > ∣Rl∣OPT(I)j∈Ol∑∣Sj∩Rl∣=∣Rl∣OPT(I)j∈O∑∣Sj∩Rl∣ ≥ OPT(I)となる。ここで最後の不等号にはOPT(I)>0と上で示した∑j∈O∣Sj∩Rl∣≥∣Rl∣を用いた。両端を比べるとOPT(I)>OPT(I)となり矛盾する。よってj0∈Olが存在して
∣Sj0∩Rl∣wj0 ≤ ∣Rl∣OPT(I)が成り立つ。
結論。elが課金された反復で選ばれた添字をj∗とする。j0はSj0∩Rl=∅を満たすので、その反復における候補である。手続きは候補の中で比を最小にする添字を選ぶので
price(el)=∣Sj∗∩Rl∣wj∗ ≤ ∣Sj0∩Rl∣wj0 ≤ ∣Rl∣OPT(I) ≤ k−l+1OPT(I)である。最後の不等号は∣Rl∣≥k−l+1とOPT(I)>0による。▨
定理 3.6. 重み付き集合被覆問題のインスタンスI=(U,J,(Sj),(wj))に対しk=∣U∣と置く。定義 3.3の手続きが出力する被覆Cについて
w(C) ≤ Hk⋅OPT(I)が成り立つ。
証明.命題 3.4 (3)によりCは被覆であり、5 により
w(C)=e∈U∑price(e)=l=1∑kprice(el)である。ここでe1,…,ekは補題 3.5のとおり課金された順に並べたUの要素である。同補題を各項へ適用すると
w(C) ≤ l=1∑kk−l+1OPT(I)=OPT(I)l=1∑kk−l+11である。和の添字をi=k−l+1と置き換えると、lが1からkまで動くときiはkから1まで動くので
l=1∑kk−l+11=i=1∑ki1=Hkである。よってw(C)≤HkOPT(I)を得る。▨
系 3.7. 正の整数Kを固定し、台集合の要素数がK以下であるインスタンスだけからなる族を考える。定義 3.3の手続きにおいて、各反復で比を最小にする添字の選び方を一つ固定する。この選び方をどのように定めても、その手続きは、この族の上での重み付き集合被覆問題に対するHK-近似アルゴリズムである。とくに、すべての費用が1であるインスタンスに対しては、選ばれる集合の個数が最小の被覆の集合の個数のHK倍以下である。
証明.命題 3.4と補題 3.5の証明は、比を最小にする添字が複数あるときにどれを選ぶかに依存しない。よって定理 3.6は、選び方をどのように固定した場合についても成り立つ。
この族に属するインスタンスIをとり、その台集合の要素数をkとするとk≤Kである。定理 3.6によりw(C)≤HkOPT(I)である。調和数はk≤KのときHk≤HKを満たす。実際、HK−Hk=∑i=k+1K1/i≥0である。よってw(C)≤HKOPT(I)であり、定義 1.2の意味でρ=HKの場合の条件が成り立つ。
すべての費用が1である場合はw(C)=∣C∣であり、被覆の費用はその集合の個数に等しいので、最後の主張が従う。▨
例 3.8.U={e1,e2,e3}、J={1,2,3,4}とし、
S1={e1},S2={e2},S3={e3},S4={e1,e2,e3},w1=31,w2=21,w3=1,w4=23とする。k=∣U∣=3である。
最適値。被覆はUを覆う添字の部分集合である。e1を含む集合はS1とS4、e2を含む集合はS2とS4、e3を含む集合はS3とS4である。したがって被覆は、4を含むか、または1,2,3をすべて含むかのいずれかである。4を含む被覆の費用は3/2以上であり、{4}で3/2が達成される。1,2,3をすべて含み4を含まない被覆は{1,2,3}だけであり、その費用は1/3+1/2+1=11/6である。3/2=9/6<11/6であるからOPT(I)=3/2である。
第一の反復。R={e1,e2,e3}である。比は
∣S1∩R∣w1=11/3=31,∣S2∩R∣w2=11/2=21,∣S3∩R∣w3=11=1,∣S4∩R∣w4=33/2=21であり、最小は1/3でj∗=1である。price(e1)=1/3と定め、R={e2,e3}となる。
第二の反復。比はw2/1=1/2、w3/1=1、w4/2=(3/2)/2=3/4である。S1∩R=∅であるから1は候補ではない。最小は1/2でj∗=2である。price(e2)=1/2と定め、R={e3}となる。
第三の反復。比はw3/1=1、w4/1=3/2である。最小は1でj∗=3である。price(e3)=1と定め、R=∅となって手続きは停止する。
出力と検算。C={1,2,3}であり
w(C)=31+21+1=62+3+6=611である。課金額の総和も1/3+1/2+1=11/6であり、命題 3.4 (5)と一致する。反復回数は3であり、∣U∣=3以下である。
近似保証との照合。H3=1+1/2+1/3=11/6であるから、定理 3.6の上界はH3⋅OPT(I)=(11/6)(3/2)=11/4である。実際の費用は11/6であり、11/6≤11/4が成り立つ。費用の比は(11/6)/(3/2)=11/9であり、1より大きいので、この手続きは最適解を返していない。
課金額の上界との照合。補題 3.5ではprice(el)≤OPT(I)/(k−l+1)が主張される。l=1では1/3≤(3/2)/3=1/2、l=2では1/2≤(3/2)/2=3/4、l=3では1≤(3/2)/1=3/2であり、いずれも成り立つ。
4 演習
問題 4.1.
- 補題 2.5の証明では、Mの各辺からCに属する端点を一つ選んで単射を作っている。この単射性の議論を省き、「どの頂点被覆もMの辺を覆うから∣M∣≤∣C∣である」とだけ書いたとする。この記述が証明になっていない理由を述べ、単射性がどこでMがマッチングであるという仮定を使っているかを指摘せよ。
- 補題 2.6の証明で、極大性を最大性に置き換えたとする。すなわちMが最大マッチングであるという仮定のもとで、同じ結論が得られるかどうかを判定し、得られる場合はその証明を書き、得られない場合は反例を与えよ。
- 定理 2.7の上界2τ(G)がちょうど達成されるグラフの無限族を一つ作り、その族の各要素について∣C(M)∣=2τ(G)を満たす極大なマッチングMが存在することを証明せよ。さらに、頂点数が2r(r≥2)の完全グラフではこの上界が達成されないことを、その最小頂点被覆の頂点数を求めることによって示せ。
- 補題 3.5の証明の中心は、最適な被覆Oの中に比の小さい集合が存在するという背理法の段である。この段を、背理法を用いずに「重み付き平均の最小値は平均以下である」という形の直接の議論として書き直せ。
- 補題 3.5は、費用wjがすべて正であることを二箇所で用いている。その二箇所を特定し、wj=0である集合を許すと結論が成り立たなくなる例を作れ。
- 定義 3.3の手続きにおいて、比を最小にする添字ではなく∣Sj∩R∣を最大にする添字を選ぶ規則に変えたとする。この規則のもとで定理 3.6と同じ形の近似保証が成り立つかどうかを判定し、成り立たないならば、費用の比がHkを超える重み付きインスタンスを構成せよ。
- 集合被覆の各集合の要素数が高々dであるインスタンスに限ると、補題 3.5の議論からより強い保証が得られる。Hdによる近似保証を、本文の課金の議論をどのように書き換えれば得ることができるかを設計し、証明せよ。