§E13.3Möbius 反転

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包除原理(§D2.3 定理 1.2)は、有限集合の合併の要素数を、共通部分の要素数の交代和として表す。この式に現れる符号(−1)∣S∣(-1)^{|S|}は、添字集合の部分集合が包含によって順序づけられていることと切り離せない。実際、同じ形の反転は、部分集合の包含のかわりに整数の整除関係を用いても成り立つ。

本記事では、この二つの反転を同時に含む枠組みを与える。有限半順序集合(P,≤)(P,\le)の区間の上で定義される関数のなす代数を導入し、その中で常に11を取る関数(ゼータ関数)の畳み込み逆元として Möbius 関数を定める。反転公式は、この逆元の存在だけから従う。最後に、有限集合の部分集合を包含で順序づけた集合と、正の整数の約数を整除関係で順序づけた集合の二つへ適用する。

1 区間と接合代数

半順序集合、鎖、反鎖、極大元および被覆関係x⋖yx\lessdot yの定義は§D2.5 定義 3.1で与えられる。以下、(P,≤)(P,\le)は有限半順序集合とする。区間は上流に定義がないので、ここで定める。

定義 1.1.(P,≤)(P,\le)を半順序集合とし、x,y∈Px,y\in Pとする。集合

[x,y]={z∈P : x≤z≤y}[x,y]=\{z\in P\ :\ x\le z\le y\}

をxxからyyへの区間 (interval) とよぶ。x≤yx\le yのときx,y∈[x,y]x,y\in[x,y]であり、x≤yx\le yでないとき[x,y]=∅[x,y]=\emptysetである。PPが有限であれば、すべての区間は有限集合である。x≤yx\le yを満たす対の全体を

Int⁡(P)={(x,y)∈P×P : x≤y}\operatorname{Int}(P)=\{(x,y)\in P\times P\ :\ x\le y\}

と書く。

本記事の帰納法は、いずれも区間の要素数が真に減ることに基づく。この事実を先に切り出しておく。

補題 1.2.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合とし、x≤z≤yx\le z\le yとする。

  1. z≠xz\ne xならば∣[z,y]∣<∣[x,y]∣|[z,y]|<|[x,y]|である。
  2. z≠yz\ne yならば∣[x,z]∣<∣[x,y]∣|[x,z]|<|[x,y]|である。

証明.(1)を示す。w∈[z,y]w\in[z,y]とするとx≤z≤wx\le z\le wとw≤yw\le yからw∈[x,y]w\in[x,y]であり、[z,y]⊆[x,y][z,y]\subseteq[x,y]である。またx∈[x,y]x\in[x,y]である。x∈[z,y]x\in[z,y]と仮定するとz≤xz\le xが成り立ち、x≤zx\le zと合わせて反対称律によりx=zx=zとなって仮定に反する。ゆえにx∉[z,y]x\notin[z,y]であり、[z,y][z,y]は[x,y][x,y]の真部分集合である。PPが有限であるから∣[z,y]∣<∣[x,y]∣|[z,y]|<|[x,y]|である。

(2)を示す。w∈[x,z]w\in[x,z]とするとx≤wx\le wとw≤z≤yw\le z\le yからw∈[x,y]w\in[x,y]であり、[x,z]⊆[x,y][x,z]\subseteq[x,y]である。y∈[x,z]y\in[x,z]と仮定するとy≤zy\le zが成り立ち、z≤yz\le yと合わせてy=zy=zとなって仮定に反する。ゆえにy∉[x,z]y\notin[x,z]であり、同様に∣[x,z]∣<∣[x,y]∣|[x,z]|<|[x,y]|である。▨

定義 1.3.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元11をもつ可換環とする。写像f ⁣:Int⁡(P)→Rf\colon\operatorname{Int}(P)\to Rの全体をI(P,R)I(P,R)と書き、(P,≤)(P,\le)のRR上の接合代数 (incidence algebra) とよぶ。I(P,R)I(P,R)に、和とスカラー倍を各点ごとに

(f+g)(x,y)=f(x,y)+g(x,y),(rf)(x,y)=r f(x,y)(r∈R)(f+g)(x,y)=f(x,y)+g(x,y),\qquad (rf)(x,y)=r\,f(x,y)\quad(r\in R)

と定め、積として畳み込み (convolution)

(f∗g)(x,y)=∑z∈[x,y]f(x,z) g(z,y)(f*g)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}f(x,z)\,g(z,y)

を定める。右辺の和は[x,y][x,y]が有限集合であるから有限和である。さらに

δ(x,y)={1,x=y,0,x<y\delta(x,y)=\begin{cases}1,&x=y,\\ 0,&x<y\end{cases}

と定める。

命題 1.4.I(P,R)I(P,R)は上の演算について、単位元δ\deltaをもつ結合的なRR-代数である。すなわち、(I(P,R),+)(I(P,R),+)はRR-加群であり、畳み込みは結合的かつ和について双線形であり、任意のf∈I(P,R)f\in I(P,R)に対しδ∗f=f∗δ=f\delta*f=f*\delta=fが成り立つ。

証明. 和とスカラー倍は各点ごとの演算であるから、I(P,R)I(P,R)がRR-加群であることはRRがRR-加群であることから従う。

双線形性を示す。(x,y)∈Int⁡(P)(x,y)\in\operatorname{Int}(P)を固定すると

((f1+f2)∗g)(x,y)=∑z∈[x,y](f1(x,z)+f2(x,z))g(z,y)=(f1∗g)(x,y)+(f2∗g)(x,y)\bigl((f_1+f_2)*g\bigr)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}\bigl(f_1(x,z)+f_2(x,z)\bigr)g(z,y)=(f_1*g)(x,y)+(f_2*g)(x,y)

である。第二引数についても、同じ(x,y)(x,y)を固定して

(f∗(g1+g2))(x,y)=∑z∈[x,y]f(x,z)(g1(z,y)+g2(z,y))=(f∗g1)(x,y)+(f∗g2)(x,y)\bigl(f*(g_1+g_2)\bigr)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}f(x,z)\bigl(g_1(z,y)+g_2(z,y)\bigr)=(f*g_1)(x,y)+(f*g_2)(x,y)

である。スカラー倍については、r∈Rr\in Rに対し

((rf)∗g)(x,y)=∑z∈[x,y]r f(x,z) g(z,y)=r (f∗g)(x,y)=∑z∈[x,y]f(x,z) r g(z,y)=(f∗(rg))(x,y)\bigl((rf)*g\bigr)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}r\,f(x,z)\,g(z,y)=r\,(f*g)(x,y) =\sum_{z\in[x,y]}f(x,z)\,r\,g(z,y)=\bigl(f*(rg)\bigr)(x,y)

である。第二の等号はRRにおける分配法則、第三の等号はRRが可換であることによる。いずれの計算も[x,y][x,y]上の有限和についてのものであるから、項ごとの変形をそのまま総和へ移すことができる。

結合性を示す。(x,y)∈Int⁡(P)(x,y)\in\operatorname{Int}(P)とする。定義を二度用いると

((f∗g)∗h)(x,y)=∑w∈[x,y](∑z∈[x,w]f(x,z)g(z,w))h(w,y)=∑(z,w)f(x,z)g(z,w)h(w,y)\bigl((f*g)*h\bigr)(x,y)=\sum_{w\in[x,y]}\Bigl(\sum_{z\in[x,w]}f(x,z)g(z,w)\Bigr)h(w,y) =\sum_{(z,w)}f(x,z)g(z,w)h(w,y)

となる。ここで最後の和は、x≤z≤w≤yx\le z\le w\le yを満たす対(z,w)(z,w)の全体にわたる。同様に

(f∗(g∗h))(x,y)=∑z∈[x,y]f(x,z)(∑w∈[z,y]g(z,w)h(w,y))=∑(z,w)f(x,z)g(z,w)h(w,y)\bigl(f*(g*h)\bigr)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}f(x,z)\Bigl(\sum_{w\in[z,y]}g(z,w)h(w,y)\Bigr) =\sum_{(z,w)}f(x,z)g(z,w)h(w,y)

であり、和の走る範囲は同じくx≤z≤w≤yx\le z\le w\le yを満たす対の全体である。いずれも有限和であるから、二つの式は等しい。

単位元であることを示す。(δ∗f)(x,y)=∑z∈[x,y]δ(x,z)f(z,y)(\delta*f)(x,y)=\sum_{z\in[x,y]}\delta(x,z)f(z,y)において、δ(x,z)\delta(x,z)はz=xz=xのときだけ11であり、他のzzでは00である。ゆえに(δ∗f)(x,y)=f(x,y)(\delta*f)(x,y)=f(x,y)である。(f∗δ)(x,y)(f*\delta)(x,y)についても、δ(z,y)\delta(z,y)がz=yz=yのときだけ11であることからf(x,y)f(x,y)を得る。▨

注意 1.5 (畳み込みは一般には可換でない).P={a,b}P=\{a,b\}にa<ba<bで順序を入れ、R=ZR=\mathbb Zとする。f(a,a)=f(b,b)=0f(a,a)=f(b,b)=0、f(a,b)=1f(a,b)=1と定め、g(a,a)=1g(a,a)=1、g(b,b)=g(a,b)=0g(b,b)=g(a,b)=0と定めると

(f∗g)(a,b)=f(a,a)g(a,b)+f(a,b)g(b,b)=0,(g∗f)(a,b)=g(a,a)f(a,b)+g(a,b)f(b,b)=1(f*g)(a,b)=f(a,a)g(a,b)+f(a,b)g(b,b)=0,\qquad (g*f)(a,b)=g(a,a)f(a,b)+g(a,b)f(b,b)=1

である。したがってf∗g≠g∗ff*g\ne g*fであり、接合代数は一般には可換環でない。左逆元と右逆元を別々に構成したうえで両者の一致を示す必要があるのは、このためである。

2 可逆元と Möbius 関数

2.1 証明方針

f∈I(P,R)f\in I(P,R)の逆元を、区間の要素数についての帰納法で構成する。x=yx=yの場合、(f∗g)(x,x)=f(x,x)g(x,x)(f*g)(x,x)=f(x,x)g(x,x)であるから、g(x,x)g(x,x)を定めるにはf(x,x)f(x,x)がRRの可逆元であることが必要であり、また十分である。x<yx<yの場合、(f∗g)(x,y)=0(f*g)(x,y)=0という条件をz=xz=xの項とそれ以外へ分けると

f(x,x)g(x,y)+∑x<z≤yf(x,z)g(z,y)=0f(x,x)g(x,y)+\sum_{x<z\le y}f(x,z)g(z,y)=0

となる。補題 1.2 (1)によりx<z≤yx<z\le yのとき∣[z,y]∣<∣[x,y]∣|[z,y]|<|[x,y]|であるから、右の和に現れるg(z,y)g(z,y)は帰納法の仮定によりすでに定まっている。f(x,x)f(x,x)が可逆であることを用いてg(x,y)g(x,y)を解くことができ、右逆元が一意に定まる。左逆元も、z=yz=yの項を分ける同じ議論で構成する。最後に、結合性から左逆元と右逆元が一致することを示す。

定理 2.1.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環、f∈I(P,R)f\in I(P,R)とする。ffが畳み込みについて両側逆元をもつことと、すべてのx∈Px\in Pに対しf(x,x)f(x,x)がRRの可逆元であることは同値である。さらに、両側逆元は存在すれば一意である。

証明. 必要性。g∈I(P,R)g\in I(P,R)がf∗g=δf*g=\deltaを満たすとする。x∈Px\in Pに対し[x,x]={x}[x,x]=\{x\}であるからf(x,x)g(x,x)=δ(x,x)=1f(x,x)g(x,x)=\delta(x,x)=1であり、RRが可換であることからf(x,x)f(x,x)は可逆である。

十分性。すべてのxxでf(x,x)f(x,x)が可逆であるとする。g ⁣:Int⁡(P)→Rg\colon\operatorname{Int}(P)\to Rを、区間[x,y][x,y]の要素数n=∣[x,y]∣n=|[x,y]|についての強い帰納法で定める。

n=1n=1のときx=yx=yであり、g(x,x)=f(x,x)−1g(x,x)=f(x,x)^{-1}と定める。

n≥2n\ge2のときx<yx<yである。x<z≤yx<z\le yを満たす各zzについて補題 1.2 (1)により∣[z,y]∣<n|[z,y]|<nであるから、g(z,y)g(z,y)はすでに定まっている。そこで

g(x,y)=−f(x,x)−1∑z∈[x,y]z≠xf(x,z) g(z,y)g(x,y)=-f(x,x)^{-1}\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne x}}f(x,z)\,g(z,y)

と定める。この定義により、x<yx<yのとき

(f∗g)(x,y)=f(x,x)g(x,y)+∑z∈[x,y]z≠xf(x,z)g(z,y)=0=δ(x,y)(f*g)(x,y)=f(x,x)g(x,y)+\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne x}}f(x,z)g(z,y)=0=\delta(x,y)

であり、x=yx=yのとき(f∗g)(x,x)=f(x,x)f(x,x)−1=1=δ(x,x)(f*g)(x,x)=f(x,x)f(x,x)^{-1}=1=\delta(x,x)である。ゆえにf∗g=δf*g=\deltaである。

同様にh ⁣:Int⁡(P)→Rh\colon\operatorname{Int}(P)\to Rを、h(x,x)=f(x,x)−1h(x,x)=f(x,x)^{-1}とし、x<yx<yのとき

h(x,y)=−(∑z∈[x,y]z≠yh(x,z) f(z,y))f(y,y)−1h(x,y)=-\Bigl(\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne y}}h(x,z)\,f(z,y)\Bigr)f(y,y)^{-1}

と定める。x≤z<yx\le z<yのとき補題 1.2 (2)により∣[x,z]∣<∣[x,y]∣|[x,z]|<|[x,y]|であるから、この定義も区間の要素数についての強い帰納法として正当である。同じ計算によりh∗f=δh*f=\deltaである。

一致と一意性。命題 1.4の結合性と単位元の性質により

h=h∗δ=h∗(f∗g)=(h∗f)∗g=δ∗g=gh=h*\delta=h*(f*g)=(h*f)*g=\delta*g=g

である。ゆえにggは両側逆元である。g1,g2g_1,g_2がともに両側逆元ならば、同じ計算でg1=g1∗(f∗g2)=(g1∗f)∗g2=g2g_1=g_1*(f*g_2)=(g_1*f)*g_2=g_2となるので一意である。▨

定義 2.2.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環とする。ζ∈I(P,R)\zeta\in I(P,R)を

ζ(x,y)=1((x,y)∈Int⁡(P))\zeta(x,y)=1\qquad\bigl((x,y)\in\operatorname{Int}(P)\bigr)

と定め、(P,≤)(P,\le)の ゼータ関数 (zeta function) とよぶ。ζ(x,x)=1\zeta(x,x)=1は可逆であるから、定理 2.1によりζ\zetaは両側逆元を一意にもつ。この逆元をμ\muと書き、(P,≤)(P,\le)の Möbius 関数 (Möbius function) とよぶ。すなわちμ∗ζ=ζ∗μ=δ\mu*\zeta=\zeta*\mu=\deltaである。

命題 2.3.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環とし、μ\muを定義 2.2で定められるI(P,R)I(P,R)の Möbius 関数とする。μ\muは次の二つの漸化式のいずれによっても一意に定まる。

  1. μ(x,x)=1\mu(x,x)=1であり、x<yx<yのときμ(x,y)=−∑z∈[x,y]z≠yμ(x,z)\displaystyle\mu(x,y)=-\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne y}}\mu(x,z)である。
  2. μ(x,x)=1\mu(x,x)=1であり、x<yx<yのときμ(x,y)=−∑z∈[x,y]z≠xμ(z,y)\displaystyle\mu(x,y)=-\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne x}}\mu(z,y)である。

証明.μ∗ζ=δ\mu*\zeta=\deltaを書き下すと、(x,y)∈Int⁡(P)(x,y)\in\operatorname{Int}(P)に対し

∑z∈[x,y]μ(x,z)=δ(x,y)\sum_{z\in[x,y]}\mu(x,z)=\delta(x,y)

である。x=yx=yのときこれはμ(x,x)=1\mu(x,x)=1を与え、x<yx<yのときz=yz=yの項を移項すると(1)を得る。同様にζ∗μ=δ\zeta*\mu=\deltaを書き下すと∑z∈[x,y]μ(z,y)=δ(x,y)\sum_{z\in[x,y]}\mu(z,y)=\delta(x,y)であり、z=xz=xの項を移項すると(2)を得る。

一意性を示す。(1)の形の漸化式を満たす二つの関数μ1,μ2\mu_1,\mu_2を取り、∣[x,y]∣|[x,y]|についての強い帰納法でμ1(x,y)=μ2(x,y)\mu_1(x,y)=\mu_2(x,y)を示す。∣[x,y]∣=1|[x,y]|=1のとき両者は11である。∣[x,y]∣≥2|[x,y]|\ge2のとき、漸化式の右辺に現れるzzはz≠yz\ne yを満たすので補題 1.2 (2)により∣[x,z]∣<∣[x,y]∣|[x,z]|<|[x,y]|であり、帰納法の仮定からμ1(x,z)=μ2(x,z)\mu_1(x,z)=\mu_2(x,z)である。ゆえに右辺どうしが等しくμ1(x,y)=μ2(x,y)\mu_1(x,y)=\mu_2(x,y)である。(2)についても同様である。▨

補題 2.4.(P,≤)(P,\le)、(P′,≤′)(P',\le')を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環とし、x≤yx\le yをPPの対、x′≤′y′x'\le'y'をP′P'の対とする。順序同型θ ⁣:[x,y]→[x′,y′]\theta\colon[x,y]\to[x',y'](すなわち全単射であってu≤v  ⟺  θ(u)≤′θ(v)u\le v\iff\theta(u)\le'\theta(v)を満たすもの)が存在するならば

μP(x,y)=μP′(x′,y′)\mu_P(x,y)=\mu_{P'}(x',y')

が成り立つ。

証明. まずθ(x)=x′\theta(x)=x'かつθ(y)=y′\theta(y)=y'である。実際、xxは[x,y][x,y]の最小元である。u′∈[x′,y′]u'\in[x',y']を任意に取ると、θ\thetaが全射であるからu′=θ(u)u'=\theta(u)を満たすu∈[x,y]u\in[x,y]が存在し、x≤ux\le uとθ\thetaが順序を保つことからθ(x)≤′u′\theta(x)\le'u'である。ゆえにθ(x)\theta(x)は[x′,y′][x',y']の最小元であり、最小元は反対称律により一意であるからθ(x)=x′\theta(x)=x'である。yyが[x,y][x,y]の最大元であることから、同じ議論でθ(y)=y′\theta(y)=y'を得る。

∣[x,y]∣|[x,y]|についての強い帰納法で示す。∣[x,y]∣=1|[x,y]|=1のときx=yx=yであり、θ\thetaが全単射であることからx′=y′x'=y'である。両辺とも11である。

∣[x,y]∣≥2|[x,y]|\ge2とする。z∈[x,y]z\in[x,y]、z≠yz\ne yに対し、θ\thetaの制限は[x,z][x,z]から[x′,θ(z)][x',\theta(z)]への順序同型を与える。実際、u∈[x,z]u\in[x,z]とθ(u)∈[x′,θ(z)]\theta(u)\in[x',\theta(z)]が同値であることはθ\thetaが順序同型であることから従う。補題 1.2 (2)により∣[x,z]∣<∣[x,y]∣|[x,z]|<|[x,y]|であるから、帰納法の仮定によりμP(x,z)=μP′(x′,θ(z))\mu_P(x,z)=\mu_{P'}(x',\theta(z))である。またz↦θ(z)z\mapsto\theta(z)は{z∈[x,y]:z≠y}\{z\in[x,y]:z\ne y\}から{z′∈[x′,y′]:z′≠y′}\{z'\in[x',y']:z'\ne y'\}への全単射である。ゆえに命題 2.3 (1)により

μP(x,y)=−∑z∈[x,y]z≠yμP(x,z)=−∑z′∈[x′,y′]z′≠y′μP′(x′,z′)=μP′(x′,y′)\mu_P(x,y)=-\sum_{\substack{z\in[x,y]\\ z\ne y}}\mu_P(x,z) =-\sum_{\substack{z'\in[x',y']\\ z'\ne y'}}\mu_{P'}(x',z')=\mu_{P'}(x',y')

である。▨

3 反転公式

3.1 証明方針

反転公式は、PP上のRR値関数をμ\muで「積分し直す」主張である。証明の中心は、和の順序の交換を行ったのちに現れる内側の和が、ちょうど(ζ∗μ)(z,y)(\zeta*\mu)(z,y)または(μ∗ζ)(x,z)(\mu*\zeta)(x,z)の形をもつことである。

具体的には、g(y)=∑x≤yf(x)g(y)=\sum_{x\le y}f(x)を仮定して∑x≤yg(x)μ(x,y)\sum_{x\le y}g(x)\mu(x,y)を計算する。g(x)g(x)を定義で置き換えると、和はz≤x≤yz\le x\le yを満たす対(z,x)(z,x)の全体にわたる二重和になる。PPが有限であるからこの和は有限和であり、zzについて先に集めることができる。zzを固定したときの内側の和は∑z≤x≤yμ(x,y)\sum_{z\le x\le y}\mu(x,y)であり、ζ(z,x)=1\zeta(z,x)=1を補って書くと(ζ∗μ)(z,y)=δ(z,y)(\zeta*\mu)(z,y)=\delta(z,y)に等しい。z=yz=yの項だけが残り、f(y)f(y)を得る。もう一つの向きの反転では、ζ∗μ\zeta*\muのかわりにμ∗ζ\mu*\zetaを用いる。

定理 3.1 (Möbius の反転公式).(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環、f,g ⁣:P→Rf,g\colon P\to Rとする。すべてのy∈Py\in Pについて

g(y)=∑x∈P, x≤yf(x)g(y)=\sum_{x\in P,\ x\le y}f(x)

が成り立つならば、すべてのy∈Py\in Pについて

f(y)=∑x∈P, x≤yg(x) μ(x,y)f(y)=\sum_{x\in P,\ x\le y}g(x)\,\mu(x,y)

が成り立つ。逆も成り立つ。

証明. 仮定のもとで右辺を計算する。PPが有限であるから、以下の和はすべて有限和である。

∑x≤yg(x)μ(x,y)=∑x≤y(∑z≤xf(z))μ(x,y)=∑(z,x)z≤x≤yf(z) μ(x,y)\sum_{x\le y}g(x)\mu(x,y) =\sum_{x\le y}\Bigl(\sum_{z\le x}f(z)\Bigr)\mu(x,y) =\sum_{\substack{(z,x)\\ z\le x\le y}}f(z)\,\mu(x,y)

である。最後の式でzzを先に固定して集めると

∑x≤yg(x)μ(x,y)=∑z≤yf(z)∑x∈[z,y]μ(x,y)\sum_{x\le y}g(x)\mu(x,y)=\sum_{z\le y}f(z)\sum_{x\in[z,y]}\mu(x,y)

となる。内側の和はζ(z,x)=1\zeta(z,x)=1を補えば(ζ∗μ)(z,y)(\zeta*\mu)(z,y)にほかならず、定義 2.2によりδ(z,y)\delta(z,y)に等しい。ゆえにz=yz=yの項だけが残り、右辺はf(y)f(y)に等しい。

逆を示す。f(y)=∑x≤yg(x)μ(x,y)f(y)=\sum_{x\le y}g(x)\mu(x,y)がすべてのyyで成り立つとする。同じ計算をμ\muとζ\zetaを入れ替えて行うと

∑x≤yf(x)=∑x≤y(∑z≤xg(z)μ(z,x))=∑z≤yg(z)∑x∈[z,y]μ(z,x)=∑z≤yg(z) (μ∗ζ)(z,y)=g(y)\sum_{x\le y}f(x)=\sum_{x\le y}\Bigl(\sum_{z\le x}g(z)\mu(z,x)\Bigr) =\sum_{z\le y}g(z)\sum_{x\in[z,y]}\mu(z,x) =\sum_{z\le y}g(z)\,(\mu*\zeta)(z,y)=g(y)

となる。▨

定理 3.2.(P,≤)(P,\le)を有限半順序集合、RRを単位元をもつ可換環、f,g ⁣:P→Rf,g\colon P\to Rとする。すべてのx∈Px\in Pについて

g(x)=∑y∈P, y≥xf(y)g(x)=\sum_{y\in P,\ y\ge x}f(y)

が成り立つならば、すべてのx∈Px\in Pについて

f(x)=∑y∈P, y≥xμ(x,y) g(y)f(x)=\sum_{y\in P,\ y\ge x}\mu(x,y)\,g(y)

が成り立つ。逆も成り立つ。

証明. 仮定のもとで右辺を計算する。

∑y≥xμ(x,y)g(y)=∑y≥xμ(x,y)∑w≥yf(w)=∑(y,w)x≤y≤wμ(x,y)f(w)=∑w≥xf(w)∑y∈[x,w]μ(x,y)\sum_{y\ge x}\mu(x,y)g(y) =\sum_{y\ge x}\mu(x,y)\sum_{w\ge y}f(w) =\sum_{\substack{(y,w)\\ x\le y\le w}}\mu(x,y)f(w) =\sum_{w\ge x}f(w)\sum_{y\in[x,w]}\mu(x,y)

である。内側の和はζ(y,w)=1\zeta(y,w)=1を補えば(μ∗ζ)(x,w)=δ(x,w)(\mu*\zeta)(x,w)=\delta(x,w)に等しい。ゆえにw=xw=xの項だけが残り、右辺はf(x)f(x)である。逆については、定理 3.1の逆と同じ計算でζ∗μ=δ\zeta*\mu=\deltaを用いればよい。▨

4 部分集合束への適用

命題 4.1.SSを有限集合とし、P=2SP=2^{S}を包含⊆\subseteqで順序づけた半順序集合とする。RRを単位元をもつ可換環とすると、A⊆B⊆SA\subseteq B\subseteq Sに対し

μ(A,B)=(−1)∣B∖A∣\mu(A,B)=(-1)^{|B\setminus A|}

が成り立つ。ここで右辺はRRの元±1\pm1を表す。

証明.m=∣B∖A∣m=|B\setminus A|についての強い帰納法で示す。

m=0m=0のときA=BA=Bであり、命題 2.3によりμ(A,A)=1=(−1)0\mu(A,A)=1=(-1)^{0}である。

m≥1m\ge1とする。A⊆C⊆BA\subseteq C\subseteq Bを満たすCCはC=A∪TC=A\cup T(T⊆B∖AT\subseteq B\setminus A)と一意に書くことができ、∣C∖A∣=∣T∣|C\setminus A|=|T|である。C≠BC\ne BであることとT≠B∖AT\ne B\setminus Aであることは同値である。帰納法の仮定により、T⊊B∖AT\subsetneq B\setminus Aのときμ(A,A∪T)=(−1)∣T∣\mu(A,A\cup T)=(-1)^{|T|}である。∣T∣=k|T|=kを満たすT⊆B∖AT\subseteq B\setminus Aは(mk)\binom mk個あるから(§D2.2 命題 3.1)、命題 2.3 (1)により

μ(A,B)=−∑k=0m−1(mk)(−1)k\mu(A,B)=-\sum_{k=0}^{m-1}\binom mk(-1)^{k}

である。二項定理(§D2.2 定理 5.1)をx=−1x=-1、y=1y=1として用いると、m≥1m\ge1のとき

∑k=0m(mk)(−1)k=(−1+1)m=0\sum_{k=0}^{m}\binom mk(-1)^{k}=(-1+1)^{m}=0

であるから∑k=0m−1(mk)(−1)k=−(−1)m\sum_{k=0}^{m-1}\binom mk(-1)^{k}=-(-1)^{m}である。ゆえにμ(A,B)=(−1)m\mu(A,B)=(-1)^{m}である。▨

例 4.2.S={1,2,3}S=\{1,2,3\}、R=ZR=\mathbb Zとし、命題 2.3 (1)を用いてμ(∅,S)\mu(\emptyset,S)を直接に計算する。まずμ(∅,∅)=1\mu(\emptyset,\emptyset)=1である。∣C∣=1|C|=1の三つのCCについてμ(∅,C)=−μ(∅,∅)=−1\mu(\emptyset,C)=-\mu(\emptyset,\emptyset)=-1である。∣C∣=2|C|=2の三つのCCについては、CCに含まれる真部分集合が∅\emptysetと二つの一元集合であるから

μ(∅,C)=−(1+(−1)+(−1))=1\mu(\emptyset,C)=-\bigl(1+(-1)+(-1)\bigr)=1

である。したがって

μ(∅,S)=−(1+3⋅(−1)+3⋅1)=−1\mu(\emptyset,S)=-\bigl(1+3\cdot(-1)+3\cdot1\bigr)=-1

となり、命題 4.1により得られる(−1)3=−1(-1)^{3}=-1と一致する。

系 4.3.XXを有限集合、A1,…,AnA_1,\dots,A_nをXXの部分集合とする。S⊆[n]S\subseteq[n]に対し

N=(S)=∣{a∈X : {i∈[n] : a∈Ai}=S}∣,N⊇(S)=∣⋂i∈SAi∣N_{=}(S)=\bigl|\{a\in X\ :\ \{i\in[n]\ :\ a\in A_i\}=S\}\bigr|, \qquad N_{\supseteq}(S)=\Bigl|\bigcap_{i\in S}A_i\Bigr|

と定める(S=∅S=\emptysetのとき⋂i∈∅Ai=X\bigcap_{i\in\emptyset}A_i=Xと読む)。このとき

N=(S)=∑T⊇S(−1)∣T∖S∣N⊇(T)N_{=}(S)=\sum_{T\supseteq S}(-1)^{|T\setminus S|}N_{\supseteq}(T)

が成り立つ。とくにS=∅S=\emptysetの場合は§D2.3 系 1.3に一致する。

証明.P=2[n]P=2^{[n]}を包含で順序づけ、R=ZR=\mathbb Zとする。a∈Xa\in Xに対しI(a)={i∈[n]:a∈Ai}I(a)=\{i\in[n]:a\in A_i\}と置くと

a∈⋂i∈SAi  ⟺  S⊆I(a)a\in\bigcap_{i\in S}A_i\iff S\subseteq I(a)

である。したがってXXの元をI(a)I(a)の値ごとに分類し、加法原理(§D2.2 定理 2.1)を適用すると

N⊇(S)=∑T⊇SN=(T)N_{\supseteq}(S)=\sum_{T\supseteq S}N_{=}(T)

となる。定理 3.2をf=N=f=N_{=}、g=N⊇g=N_{\supseteq}として適用すると

N=(S)=∑T⊇Sμ(S,T)N⊇(T)N_{=}(S)=\sum_{T\supseteq S}\mu(S,T)N_{\supseteq}(T)

であり、命題 4.1によりμ(S,T)=(−1)∣T∖S∣\mu(S,T)=(-1)^{|T\setminus S|}である。S=∅S=\emptysetのとき、左辺はどのAiA_iにも属さない元の個数、すなわち∣X∖⋃i=1nAi∣\bigl|X\setminus\bigcup_{i=1}^{n}A_i\bigr|であり、右辺は∑T⊆[n](−1)∣T∣∣⋂i∈TAi∣\sum_{T\subseteq[n]}(-1)^{|T|}\bigl|\bigcap_{i\in T}A_i\bigr|である。▨

包除原理そのものの一次責務は§D2.3 定理 1.2をもつ記事にある。系 4.3では、その等式が部分集合束という特定の半順序集合における反転公式であることが示される。

5 約数の順序集合への適用

正の整数の約数を整除関係で順序づけた集合を導入する。以下、係数環はR=ZR=\mathbb Zとする。

定義 5.1. 正の整数NNに対し、NNの正の約数の全体をDND_Nと書く。d,e∈DNd,e\in D_Nに対し、d≤ed\le eであることをd∣ed\mid e(ddがeeを割り切る)であることと定める。この順序を入れた集合を(DN,∣)(D_N,\mid)と書く。

命題 5.2. 正の整数NNに対し(DN,∣)(D_N,\mid)は有限半順序集合である。

証明.DND_Nは11以上NN以下の整数の部分集合であるから有限集合である。

反射律を示す。正の整数ddに対しd=d⋅1d=d\cdot1であるからd∣dd\mid dである。

推移律を示す。d∣ed\mid eかつe∣fe\mid fとすると、正の整数k,lk,lによってe=dke=dk、f=elf=elと書くことができ、f=d(kl)f=d(kl)であるからd∣fd\mid fである。

反対称律を示す。d∣ed\mid eかつe∣de\mid dとすると、正の整数k,lk,lによってe=dke=dk、d=eld=elと書くことができ、d=dkld=dklである。d>0d>0であるからkl=1kl=1であり、kkとllは正の整数であるからk=l=1k=l=1である。ゆえにd=ed=eである。

以上により(DN,∣)(D_N,\mid)は§D2.5 定義 3.1の意味の半順序集合であり、台集合は有限である。▨

命題 5.3.定義 5.1の記号のもとで、d∣ed\mid eを満たすd,e∈DNd,e\in D_Nに対し、m=e/dm=e/dと置く。写像

θ ⁣:[d,e]⟶Dm,θ(c)=c/d\theta\colon[d,e]\longrightarrow D_{m},\qquad \theta(c)=c/d

は順序同型である(DmD_mはmmの正の約数の全体を整除関係で順序づけたものであり、[d,e][d,e]はDND_Nにおける区間である)。したがって補題 2.4により

μDN(d,e)=μDm(1,m)\mu_{D_N}(d,e)=\mu_{D_{m}}(1,m)

が成り立つ。

証明.c∈[d,e]c\in[d,e]とするとd∣cd\mid cかつc∣ec\mid eである。c/dc/dは正の整数であり、e/d=(c/d)⋅(e/c)e/d=(c/d)\cdot(e/c)であるから(c/d)∣m(c/d)\mid mである。ゆえにθ\thetaはDmD_mへ値を取る。逆にu∣mu\mid mならばc=duc=duはd∣cd\mid cを満たし、e=dm=c⋅(m/u)e=d m=c\cdot(m/u)よりc∣ec\mid eであるからc∈[d,e]c\in[d,e]である。u↦duu\mapsto duとθ\thetaは互いに逆であるからθ\thetaは全単射である。

順序を保つことを示す。c,c′∈[d,e]c,c'\in[d,e]とする。c∣c′c\mid c'ならばc′=ckc'=ckと書くことができ、c′/d=(c/d)kc'/d=(c/d)kであるから(c/d)∣(c′/d)(c/d)\mid(c'/d)である。逆に(c/d)∣(c′/d)(c/d)\mid(c'/d)ならばc′/d=(c/d)kc'/d=(c/d)kと書くことができ、両辺にddを掛けてc′=ckc'=ckを得るのでc∣c′c\mid c'である。ゆえにθ\thetaは順序同型である。▨

系 5.4. 正の整数kkに対しm(k)=μDk(1,k)\mathbf m(k)=\mu_{D_k}(1,k)と定める。命題 5.3により、d∣e∣Nd\mid e\mid NのときμDN(d,e)=m(e/d)\mu_{D_N}(d,e)=\mathbf m(e/d)である。さらにm\mathbf mは

m(1)=1,∑c∣km(c)=0(k≥2)\mathbf m(1)=1,\qquad \sum_{c\mid k}\mathbf m(c)=0\quad(k\ge2)

を満たし、この二条件によって一意に定まる。

証明.kkを固定する。命題 5.3をDkD_kの中でd=1d=1、e=ce=c(c∣kc\mid k)として適用するとμDk(1,c)=m(c)\mu_{D_k}(1,c)=\mathbf m(c)である。定義 2.2によりμ∗ζ=δ\mu*\zeta=\deltaであるから、DkD_kにおいて

δ(1,k)=(μ∗ζ)(1,k)=∑c∈[1,k]μDk(1,c) ζ(c,k)=∑c∣km(c)\delta(1,k)=(\mu*\zeta)(1,k)=\sum_{c\in[1,k]}\mu_{D_k}(1,c)\,\zeta(c,k)=\sum_{c\mid k}\mathbf m(c)

となる。ここでDkD_kにおける区間[1,k][1,k]がDkD_k全体に一致することを用いた。k=1k=1のとき右辺は11でありm(1)=1\mathbf m(1)=1を得る。k≥2k\ge2のとき右辺は00である。

一意性を示す。kkについての強い帰納法による。k=1k=1では値が11に定まる。k≥2k\ge2ではm(k)=−∑c∣k, c<km(c)\mathbf m(k)=-\sum_{c\mid k,\ c<k}\mathbf m(c)であり、右辺に現れるccはkkより小さいので帰納法の仮定により定まっている。▨

系 5.5. 正の整数NNと写像f,g ⁣:DN→Zf,g\colon D_N\to\mathbb Zについて、すべてのe∈DNe\in D_Nで

g(e)=∑d∣ef(d)g(e)=\sum_{d\mid e}f(d)

が成り立つならば、すべてのe∈DNe\in D_Nで

f(e)=∑d∣em(e/d) g(d)f(e)=\sum_{d\mid e}\mathbf m(e/d)\,g(d)

が成り立つ。

証明.命題 5.2によりDND_Nは有限半順序集合であるから、定理 3.1をP=DNP=D_Nへ適用することができ、f(e)=∑d∣eg(d)μDN(d,e)f(e)=\sum_{d\mid e}g(d)\mu_{D_N}(d,e)である。系 5.4によりμDN(d,e)=m(e/d)\mu_{D_N}(d,e)=\mathbf m(e/d)である。▨

例 5.6.N=12N=12とする。まず系 5.4の漸化式からm\mathbf mの値を順に求める。

m(1)=1,m(2)=−1,m(3)=−1,m(4)=−(1−1)=0,m(6)=−(1−1−1)=1,m(12)=−(1−1−1+0+1)=0.\mathbf m(1)=1,\quad \mathbf m(2)=-1,\quad \mathbf m(3)=-1,\quad \mathbf m(4)=-(1-1)=0,\quad \mathbf m(6)=-(1-1-1)=1,\quad \mathbf m(12)=-(1-1-1+0+1)=0.

ここでm(4)\mathbf m(4)では約数1,21,2の値を、m(6)\mathbf m(6)では約数1,2,31,2,3の値を、m(12)\mathbf m(12)では約数1,2,3,4,61,2,3,4,6の値を用いた。

次に Euler の関数(§D2.3 定義 3.1)の値を1212の約数について直接に数える。11以上dd以下でddと互いに素な整数を列挙すると

φ(1)=1,φ(2)=1,φ(3)=2,φ(4)=2,φ(6)=2,φ(12)=4\varphi(1)=1,\quad \varphi(2)=1,\quad \varphi(3)=2,\quad \varphi(4)=2,\quad \varphi(6)=2,\quad \varphi(12)=4

である(たとえばφ(12)\varphi(12)については1,5,7,111,5,7,11の44個である)。g(e)=∑d∣eφ(d)g(e)=\sum_{d\mid e}\varphi(d)を計算すると

g(1)=1,g(2)=2,g(3)=3,g(4)=4,g(6)=6,g(12)=12g(1)=1,\quad g(2)=2,\quad g(3)=3,\quad g(4)=4,\quad g(6)=6,\quad g(12)=12

であり、いずれもg(e)=eg(e)=eである。系 5.5をf=φf=\varphi、g(e)=eg(e)=eとして適用すると

φ(12)=∑d∣12m(12/d) d=m(12)⋅1+m(6)⋅2+m(4)⋅3+m(3)⋅4+m(2)⋅6+m(1)⋅12\varphi(12)=\sum_{d\mid12}\mathbf m(12/d)\,d =\mathbf m(12)\cdot1+\mathbf m(6)\cdot2+\mathbf m(4)\cdot3+\mathbf m(3)\cdot4+\mathbf m(2)\cdot6+\mathbf m(1)\cdot12

であり、値を代入すると0+2+0−4−6+12=40+2+0-4-6+12=4となる。これは直接に数えたφ(12)=4\varphi(12)=4に一致し、§D2.3 例 3.3の値とも一致する。

m\mathbf mを素因数分解によって閉じた形に書く表示は、素因数分解の存在と一意性を用いるので初等整数論に属する。本記事では、系 5.4の漸化式だけを用い、その表示を本論の根拠としない。

注意 5.7. 無限半順序集合の接合代数、Möbius 関数の位相的な解釈、および素因数分解による Möbius 関数の閉じた表示は、本記事では扱っていない。

6 演習

問題 6.1.

  1. 定理 2.1の十分性の証明を、右逆元ggの構成から書き起こして再現せよ。とくに、g(x,y)g(x,y)の定義に現れるg(z,y)g(z,y)がすでに定まっている理由を、区間の要素数の比較として明示せよ。
  2. 定理 2.1の証明では左逆元hhを別に構成した。注意 1.5の例を用いて、右逆元の存在だけからは両側逆元の存在が従わないと考えるべき理由を説明し、実際にh=gh=gを導いた等式の各段階でどの性質を用いたかを述べよ。
  3. 定理 3.1の証明で行った和の順序の交換を、走る添字の対の集合を明示して書き直せ。さらに、PPが無限半順序集合で各区間だけが有限である場合に、この交換が正当化されない例があるかどうかを検討せよ。
  4. 命題 4.1の証明を、命題 2.3 (1)のかわりに命題 2.3 (2)を用いて再構成せよ。用いる二項係数の和がどう変わるかを明示せよ。
  5. PPをnn元の全順序集合{1<2<⋯<n}\{1<2<\dots<n\}とする。μ(i,j)\mu(i,j)をすべてのi≤ji\le jについて求め、定理 3.1により数列の階差と部分和の関係が得られることを確かめよ。
  6. N=30N=30についてm(k)\mathbf m(k)をk∣30k\mid30のすべてで漸化式から計算し、∑d∣30m(d)=0\sum_{d\mid30}\mathbf m(d)=0を確かめよ。さらに系 5.5をg(e)=eg(e)=eへ適用してφ(30)\varphi(30)を求め、直接の数え上げと一致することを確かめよ。

参考文献

  1. Richard P. Stanley, Enumerative Combinatorics, 2nd ed., Cambridge Studies in Advanced Mathematics 49, vol. 1, Cambridge University Press, Cambridge, 2011.接合代数、ゼータ関数、Möbius 関数および反転公式の定式化を参考にした。
  2. Gian-Carlo Rota, On the foundations of combinatorial theory I. Theory of Möbius functions, Zeitschrift für Wahrscheinlichkeitstheorie und Verwandte Gebiete 2 (1964), no. 4, 340–368.Möbius 関数を接合代数の畳み込み逆元として扱う枠組みを参考にした。

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