1 平面的グラフから取り出す二つの事実
証明の出発点は、平面的グラフには次数の小さい頂点が必ず存在するという事実である。これは Euler の公式から導かれる辺の本数の評価の帰結である。この主張は先行記事では§D2.12 定理 3.6の証明の内部にしか現れないので、本記事が独立した補題として立てる。
補題 1.1. 頂点を一つ以上もつ単純平面的グラフGには、次数が5以下の頂点が存在する。
証明.Gの頂点の個数をn、辺の本数をmと書く。
n≤2のときは、Gが単純なので各頂点の次数は1以下であり、主張が成り立つ。
n≥3とする。§D2.12 系 3.4によりm≤3n−6である。握手補題(§D2.7 定理 1.2)により
v∈V∑degG(v)=2m≤6n−12<6nが成り立つ。すべての頂点の次数が6以上であると仮定すると∑v∈VdegG(v)≥6nとなり、この不等式に反する。よって次数が5以下の頂点が存在する。▨
証明では、平面への描き方そのものについての事実も用いる。これらは位相幾何学に属する事実であり、本記事では証明せずに認めて用いる。
2 二色だけを用いる部分に沿って色を入れ替える
彩色を組み替える操作を定める。組み替えても正しい彩色のままであることが要点である。
定義 2.1.Gの彩色cと二つの色i=jに対し、色がiまたはjである頂点の全体が誘導するGの部分グラフをGi,jと書く。Gi,jの連結成分を、彩色cに関する(i,j)-Kempe 鎖 (Kempe chain) という。
補題 2.2.cをGの彩色、i=jを二つの色、Hを(i,j)-Kempe 鎖とする。Hの頂点についてだけ色iと色jを入れ替え、他の頂点の色を変えずに定めた割り当てをc′とすると、c′もGの彩色である。用いる色の集合は増えない。
証明.Gの辺uvをとり、c′(u)=c′(v)を示す。
uとvがともにHに属する場合を考える。c′はcの値に色iと色jの入れ替えという単射を施したものであるから、c(u)=c(v)よりc′(u)=c′(v)が従う。
uとvがともにHに属さない場合を考える。c′(u)=c(u)かつc′(v)=c(v)であるからc′(u)=c′(v)である。
u∈Hかつv∈/Hの場合を考える。u∈Hよりc(u)∈{i,j}であり、色の入れ替えののちもc′(u)∈{i,j}である。ここでc(v)∈{i,j}であると仮定すると、vはGi,jの頂点であり、辺uvはGi,jの辺であるから、HがGi,jの連結成分であることにより、vはuと同じ連結成分、すなわちHに属する。これはv∈/Hに反する。よってc(v)∈/{i,j}であり、c′(v)=c(v)∈/{i,j}である。c′(u)∈{i,j}であるからc′(u)=c′(v)である。
u∈/Hかつv∈Hの場合には、uとvの役割を入れ替えて同じ議論を行えばよい。
用いる色については、c′の値の全体はcの値の全体に含まれるので増えない。▨
3 五色定理
3.1 証明方針
頂点の個数についての累積帰納法で進む。補題 1.1で得た次数5以下の頂点vを取り除き、残りを5色で塗る。vの隣接頂点に現れる色が4種類以下であれば、残った色をvへ与えれば済む。問題は、vの次数がちょうど5であり、隣接頂点に5色すべてが現れる場合である。この場合には、隣接頂点の二つを同じ色にすることによって空きを作る。そのために、vのまわりの巡回順序で向かい合う二つの隣接頂点を選び、その二色だけを用いる Kempe 鎖(定義 2.1)を調べる。二つが同じ Kempe 鎖に属さなければ、一方の Kempe 鎖で色を入れ替えることによって空きが生じる。二つが同じ Kempe 鎖に属する場合には、その Kempe 鎖とvが平面上の単純閉曲線をつくり、その内側と外側に残りの二つの隣接頂点が分かれることを用いて、別の二色について同じ操作を行う。
定理 3.1 (五色定理). すべての単純平面的グラフは5-彩色可能である。
証明. 頂点の個数nについての累積帰納法(§D2.1 命題 1.2)で示す。
n≤5のときは、すべての頂点に相異なる色を与えれば5色以下で正しい彩色になる。
n≥6とし、頂点の個数がnより少ないどの単純平面的グラフも5-彩色可能であると仮定する。Gを頂点の個数がnの単純平面的グラフとし、平面埋め込みを一つ固定する。補題 1.1により、degG(v)≤5である頂点vをとる。注意 1.2 (3)によりG−vは平面的であり、頂点の個数はn−1である。帰納法の仮定によりG−vの5-彩色cが存在する。色は1,2,3,4,5とする。
場合 1.vの隣接頂点に現れる色が4種類以下であるとする。現れない色が少なくとも一つあるので、その色をvへ与えればGの5-彩色が得られる。degG(v)≤4のときは必ずこの場合になる。
場合 2.degG(v)=5であり、隣接頂点に5色すべてが現れるとする。注意 1.2 (2)により、vにおける辺の巡回順序に沿って隣接頂点をv1,v2,v3,v4,v5と並べる。仮定より五つの隣接頂点の色はすべて相異なるので、色の番号を付け替えることにより、c(vt)=t(t=1,…,5)としてよい。
G−vの彩色cに関する(1,3)-Kempe 鎖のうち、v1を含むものをHとする。
場合 2-a.v3∈/Hとする。補題 2.2により、Hの上で色1と色3を入れ替えて得られる割り当てc′もG−vの5-彩色である。v1∈Hであるからc′(v1)=3であり、v3∈/Hであるからc′(v3)=3のままである。v2,v4,v5の色は{1,3}に属さないので、Hに属するかどうかによらず変わらない。したがってc′のもとでvの隣接頂点に現れる色は3,2,3,4,5、すなわち{2,3,4,5}であり、色1が現れない。vへ色1を与えればGの5-彩色が得られる。
場合 2-b.v3∈Hとする。Hは連結であるから、G1,3の中にv1からv3への道Pが存在する。Pの頂点の色はすべて1または3である。ここでc(v2)=2かつc(v4)=4であるから、v2∈/Pかつv4∈/P である。この二つを先に確かめておく。
固定した平面埋め込みにおいて、Pを描く曲線に、辺vv1と辺vv3を描く曲線を継ぎ足すと、平面上の閉曲線Cが得られる。Pは道なので頂点が相異なり、vはG−vの頂点ではないのでPの上に無い。また埋め込みでは辺どうしが端点以外で交わらないので、Cは単純閉曲線である。Cの上にある頂点はvとPの頂点だけであるから、直前に確かめたことによりv2もv4もCの上に無い。
注意 1.2 (2)により、vの十分近くでは辺vv1と辺vv3がvのまわりを二つの部分に分け、巡回順序でv1とv3のあいだにあるv2への辺は一方の部分へ、v4とv5への辺は他方の部分へ出る。vの十分小さい近傍の中でCに属する点は、辺vv1と辺vv3の点だけであるから、この二つの部分は、その近傍からCを除いた集合にほかならない。vはCの上の点であるので、注意 1.2 (1)の局所的な分離により、その集合は内側に属する部分と外側に属する部分の二つへ分かれる。したがって、vの近くにおいてv2へ向かう辺の点とv4へ向かう辺の点は、Cの内側と外側に分かれる。
辺vv2は、Cを構成する辺vv1、辺vv3、およびPの各辺のいずれとも異なる。埋め込みでは相異なる辺が共通の端点以外で交わらず、v2がCの上に無いので、辺vv2がCと共有する点はvだけである。辺vv4についても、Cを構成するどの辺とも異なり、v4がCの上に無いので、Cと共有する点はvだけである。よって、辺vv2から端点vを除いた部分は連結でCと交わらず、平面からCを除いた集合の一つの連結成分に含まれる。辺vv4についても同じことが成り立つ。前段で二つの辺がvの近くで内側と外側に分かれることを見たので、v2はCの一方の側にあり、v4は他方の側にある。
いま、cに関する(2,4)-Kempe 鎖のうちv2を含むものをH′とし、v4∈H′であると仮定する。するとG2,4の中にv2からv4への道Qが存在する。Qを描く曲線は、Cの内側の点と外側の点を結ぶので、注意 1.2 (1)によりCと少なくとも一点を共有する。埋め込みでは相異なる辺が端点以外で交わらず、相異なる頂点は相異なる点に描かれているので、共有する点はQとCに共通する頂点でなければならない。Cの頂点はvとPの頂点である。QはG−vの道であるからvを通らない。Pの頂点の色は1または3、Qの頂点の色は2または4であるから、共通の頂点は存在しない。これは矛盾である。よってv4∈/H′である。
補題 2.2により、H′の上で色2と色4を入れ替えて得られる割り当てc′′もG−vの5-彩色である。c′′(v2)=4であり、v4∈/H′よりc′′(v4)=4のままである。v1,v3,v5の色は{2,4}に属さないので変わらない。したがってc′′のもとでvの隣接頂点に現れる色は{1,3,4,5}であり、色2が現れない。vへ色2を与えればGの5-彩色が得られる。
いずれの場合もGの5-彩色が得られたので、累積帰納法により、すべての単純平面的グラフは5-彩色可能である。▨
証明の場合分けを、小さな平面グラフの上で追う。次の例では、辺を一本足すだけで場合 2-a から場合 2-b へ移ることを確かめる。
例 3.2. 中心の頂点vと、vのまわりの閉路v1v2v3v4v5v1からなる車輪グラフをWと書く。Wは頂点の個数が6、辺の本数が10の単純平面的グラフであり、degW(v)=5、vにおける辺の巡回順序はv1,v2,v3,v4,v5である。W−vは閉路v1v2v3v4v5v1であり、c(vt)=t(t=1,…,5)はW−vの5-彩色である。実際、閉路の各辺の両端の色は(1,2)、(2,3)、(3,4)、(4,5)、(5,1)であり、いずれも相異なる。vの隣接頂点に5色すべてが現れるので、定理 3.1の証明の場合 2 に入る。
場合 2-a が起きる例。Wを考える。G1,3は色が1または3の頂点、すなわちv1とv3が誘導する部分グラフである。W−vでv1とv3は隣接しないのでG1,3は辺をもたず、v1を含む(1,3)-Kempe 鎖はH={v1}であってv3∈/Hである。Hの上で色1と色3を入れ替えるとc′(v1)=3となり、隣接頂点の色は順に3,2,3,4,5になる。このc′はW−vの5-彩色である(各辺の両端の色は(3,2)、(2,3)、(3,4)、(4,5)、(5,3))。色1が現れないのでvへ色1を与えると、vの色1とその隣接頂点の色3,2,3,4,5はすべて異なり、Wの5-彩色が得られる。
場合 2-b が起きる例。Wの外側の面に辺v1v3を描き加えたグラフをW′と書く。W′は頂点の個数が6、辺の本数が11の単純平面的グラフであり(3⋅6−6=12≥11)、degW′(v)=5と巡回順序はWのときと変わらない。c(vt)=tはW′−vの5-彩色である(加えた辺v1v3の両端の色は1と3で異なる)。いまG1,3は辺v1v3をもつので連結であり、v1を含む(1,3)-Kempe 鎖はH={v1,v3}であってv3∈Hである。すなわち場合 2-b に入る。道はP=v1v3であり、閉曲線Cは辺v1v3、辺vv1、辺vv3を継いだものである。c(v2)=2、c(v4)=4であるからv2∈/Pかつv4∈/Pである。辺v1v3を外側の面のうちv2の側を回るように描くと、Cはv2を囲み、v4とv5はCの外側にある。G2,4はv2とv4が誘導する部分グラフであり、W′−vでv2とv4は隣接しないので、v2を含む(2,4)-Kempe 鎖はH′={v2}であってv4∈/H′である。H′の上で色2と色4を入れ替えるとc′′(v2)=4となり、隣接頂点の色は順に1,4,3,4,5になる。このc′′はW′−vの5-彩色である(各辺の両端の色は(1,4)、(4,3)、(3,4)、(4,5)、(5,1)、および(1,3))。色2が現れないのでvへ色2を与えると、W′の5-彩色が得られる。
一本の辺を足しただけで、(1,3)-Kempe 鎖が二つの成分から一つの成分へ変わり、場合 2-a から場合 2-b へ移った。
4 演習
問題 4.1.
- 定理 3.1の証明の場合 2-b について、道P、単純閉曲線C、Kempe 鎖H′の三つを、vの隣接頂点の色を自分で指定したうえで構成し直し、v4∈/H′を導く矛盾の道筋を最初から書き下せ。
- 同じ証明で、v2∈/Pかつv4∈/Pという一手を省くと、どの断定が根拠を失うかを述べよ。またこの一手の根拠がPの頂点の色の指定であることを、c(v2)とc(v4)の値を用いて説明せよ。
- 場合 2 で選ぶ二色の組を(1,3)と(2,4)ではなく(1,2)と(3,4)に取り替えると、証明のどの段階が成立しなくなるかを、vのまわりの巡回順序に即して述べよ。とくに、v1とv2から作った単純閉曲線がv3とv4を分離するかどうかを判定せよ。
- 補題 2.2の証明を、u∈Hかつv∈/Hの場合だけ再現せよ。HがGi,jの連結成分であることを、どこで用いたかを明示せよ。HをGi,jの連結とはかぎらない部分グラフに取り替えると主張が成り立たない例を、道P3の2-彩色について一つ作れ。
- 補題 1.1の証明でn≤2の場合を分けて扱う理由を、§D2.12 系 3.4で課される仮定に即して述べよ。
- §D2.12 定理 3.6と定理 3.1のそれぞれについて、平面性をどのような形で用いているかを一文ずつで述べ、注意 3.3の指摘と対応づけよ。
- 注意 1.2 (3)を認めずに証明を進めることができるかどうかを判定せよ。判定にあたって、証明のどの行が 3 を用いているかを指摘せよ。
- 例 3.2のW′について、加える辺をv1v3ではなくv2v5とし、同じく外側の面へ描いたグラフを考えよ。c(vt)=tから出発したとき、場合 2-a と場合 2-b のどちらに入るかを判定し、vへ与える色を求めよ。