1 Hamilton 道と Hamilton 閉路
定義 1.1.G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、n=∣V∣とする。
- Gの道が Hamilton 道 (Hamiltonian path) であるとは、その道がVのすべての頂点をちょうど一度ずつ通ることをいう。すなわち、頂点列x1,x2,…,xnがVの相異なる頂点をすべて尽くし、1≤i≤n−1についてxixi+1∈Eを満たすとき、この列をx1からxnへの Hamilton 道という。
- n≥3とする。Gの閉路が Hamilton 閉路 (Hamiltonian cycle) であるとは、その閉路がVのすべての頂点をちょうど一度ずつ通ることをいう。すなわち、頂点列x1,x2,…,xnがVの相異なる頂点をすべて尽くし、1≤i≤n−1についてxixi+1∈Eを満たし、さらにxnx1∈Eを満たすとき、x1,x2,…,xn,x1をGの Hamilton 閉路という。
- Hamilton 閉路をもつグラフを Hamilton グラフ (Hamiltonian graph) という。
閉路の長さは3以上であるから(§D2.7 定義 2.1)、Hamilton 閉路を論じるためにはn≥3が必要である。以下、Hamilton 閉路を扱う主張ではつねにn≥3を仮定する。
2 Ore の条件
定理 2.1 (Ore の定理).n≥3とし、G=(V,E)を∣V∣=nの有限単純無向グラフとする。Gにおいて隣接しない任意の相異なる二頂点u,v、すなわちu=vかつuv∈/Eを満たす任意のu,v∈Vに対しdegG(u)+degG(v)≥nが成り立つならば、Gは Hamilton 閉路をもつ。
2.1 証明方針
背理法による。頂点集合Vを固定すると、その上の単純グラフは有限個であるから、Ore の条件を満たしながら Hamilton 閉路をもたないグラフのうち、辺数が最大のものを取ることができる。これをGとする。
n≥3の完全グラフは Hamilton 閉路をもつので、Gには隣接しない相異なる二頂点u,vが存在する。辺uvを加えたグラフは Ore の条件を保ち、辺数が一つ大きいので Hamilton 閉路をもつ。その閉路は辺uvを通るから、辺uvを取り除けばGにおけるuからvへの Hamilton 道x1=u,x2,…,xn=vが得られる。
ここからが本質的な一手である。x1がxiと隣接するような添字iの集合をI、xi−1がxnと隣接するような添字iの集合をJとすると、∣I∣=degG(u)、∣J∣=degG(v)であり、いずれも{2,…,n}に含まれる。Ore の条件から∣I∣+∣J∣≥nが得られるが、{2,…,n}の元はn−1個しかないので、IとJは共通の元iをもつ。このiに対して、Hamilton 道の前半をそのままたどり、辺xi−1xnで後半へ飛び移って逆向きにたどり、辺xix1で出発点へ戻ると、Hamilton 閉路が得られる。これはGの取り方に矛盾する。
証明.n≥3を固定し、∣V∣=nである集合Vを固定する。Ore の条件を満たしながら Hamilton 閉路をもたないV上の有限単純無向グラフが存在すると仮定する。V上の単純グラフは辺集合がVの二元部分集合の集合の部分集合として定まるので有限個であり、そのようなグラフの全体は空でない有限集合である。ゆえに、そのうち辺数が最大のものを一つ取ることができる。これをG=(V,E)とする。
隣接しない二頂点の存在.Gは完全グラフではない。実際、Vの頂点を任意にy1,…,ynと並べると、完全グラフではyiyi+1とyny1がすべて辺であるから、n≥3よりy1,…,yn,y1は Hamilton 閉路になる。これはGが Hamilton 閉路をもたないことに反する。ゆえにu=vかつuv∈/Eを満たすu,v∈Vが存在する。
辺を一本加える.G+=(V,E∪{uv})と置く。G+も Ore の条件を満たす。実際、G+で隣接しない相異なる二頂点y,zはGでも隣接せず、辺を加えても次数は減らないのでdegG+(y)+degG+(z)≥degG(y)+degG(z)≥nが成り立つ。G+の辺数はGの辺数より1大きいので、Gの取り方よりG+は Hamilton 閉路をもたないグラフではない。すなわちG+は Hamilton 閉路Hをもつ。
Hamilton 道を取り出す.Hは辺uvを通る。実際、Hが辺uvを通らなければHの辺はすべてEに属し、HはGの Hamilton 閉路になって、Gが Hamilton 閉路をもたないことに反する。Hから辺uvを取り除くと、Gにおけるuからvへの Hamilton 道が得られる。これをu=x1, x2, …, xn=vと書く。x1,…,xnはVの頂点をちょうど一度ずつ尽くし、1≤i≤n−1についてxixi+1∈Eである。
二つの添字集合. 次の集合を定める。I={i: 2≤i≤n, x1xi∈E},J={i: 2≤i≤n, xi−1xn∈E}.
写像i↦xiは{2,…,n}からV∖{x1}への全単射であり、x1に隣接する頂点はV∖{x1}に属する。ゆえに§D2.2 命題 1.5より∣I∣=degG(x1)=degG(u)である。同様に、写像i↦xi−1は{2,…,n}からV∖{xn}への全単射であるから∣J∣=degG(xn)=degG(v)である。
共通の添字の存在.uとvはGで隣接しないから、Ore の条件より∣I∣+∣J∣=degG(u)+degG(v)≥nである。一方I∪J⊆{2,…,n}であり、∣{2,…,n}∣=n−1である。もしI∩J=∅ならば§D2.2 定理 2.1より∣I∣+∣J∣=∣I∪J∣≤n−1<nとなって矛盾する。ゆえにI∩J=∅であり、i∈I∩Jを一つ取ることができる。
このiは2ではない。実際、2∈Jとするとx1xn∈E、すなわちuv∈Eとなり、uとvが隣接しないことに反する。ゆえに3≤i≤nである。
閉路の構成. 頂点列x1, x2, …, xi−1, xn, xn−1, …, xi, x1を考える。この列に現れる頂点はx1,…,xi−1とxi,…,xnであり、あわせてVのすべての頂点をちょうど一度ずつ尽くす。連続する対がいずれもEに属することを確かめる。
- 1≤j≤i−2に対する対xjxj+1は Hamilton 道の辺であるからEに属する。
- 対xi−1xnはi∈JであることからEに属する。
- i≤j≤n−1に対する対xj+1xjは Hamilton 道の辺xjxj+1と同じであるからEに属する。列xn,xn−1,…,xiはこれらの対を逆順にたどったものである。
- 対xix1はi∈IであることからEに属する。
現れる対は(i−2)+1+(n−i)+1=n個であり、n≥3であるから、この列はGの Hamilton 閉路である。これはGが Hamilton 閉路をもたないことに反する。
以上より仮定は誤りであり、n≥3かつ Ore の条件を満たす有限単純無向グラフはすべて Hamilton 閉路をもつ。▨
3 Dirac の条件
最小次数についての条件は、Ore の条件よりも確かめやすい形をしている。
系 3.1 (Dirac の定理).n≥3とし、G=(V,E)を∣V∣=nの有限単純無向グラフとする。δ(G)≥n/2が成り立つならば、Gは Hamilton 閉路をもつ。
証明.Gが Ore の条件を満たすことを示す。u=vかつuv∈/Eを満たすu,v∈Vを任意に取る。最小次数の定義よりdegG(u)≥δ(G)かつdegG(v)≥δ(G)であるからdegG(u)+degG(v)≥2δ(G)≥2⋅2n=nが成り立つ。隣接しない相異なる二頂点が存在しない場合、Ore の条件は空虚に成り立つ。いずれの場合もGは Ore の条件を満たすから、定理 2.1よりGは Hamilton 閉路をもつ。▨
4 具体例
例 4.1.V={1,2,3,4,5}とし、EをVの二元部分集合全体から{1,2}と{3,4}を除いたものとする。すなわちE={13,14,15,23,24,25,35,45}であり、∣E∣=(25)−2=8である。次数はdeg(1)=∣{3,4,5}∣=3,deg(2)=3,deg(3)=∣{1,2,5}∣=3,deg(4)=3,deg(5)=∣{1,2,3,4}∣=4である。次数の総和は3+3+3+3+4=16=2⋅8であり、§D2.7 定理 1.2と一致する。
隣接しない相異なる二頂点は{1,2}と{3,4}の二組だけであり、次数の和はいずれも3+3=6≥5=nである。ゆえに Ore の条件が成り立つ。
証明の手順をたどる。隣接しない二頂点としてu=1、v=2を取る。G+=G+12において、1,2,3,5,4,1は Hamilton 閉路である。実際、辺12(新たに加えた辺)、23、35、54、41はいずれもG+の辺である。この閉路から辺12を取り除くと、1から2への Hamilton 道x1=1,x2=4,x3=5,x4=3,x5=2を得る。実際、14、45、53、32はいずれもEに属する。
添字集合を計算する。x1=1であるからI={i: 2≤i≤5, 1xi∈E}={2,3,4}である(x2=4で14∈E、x3=5で15∈E、x4=3で13∈E、x5=2で12∈/E)。∣I∣=3=deg(1)である。x5=2であるからJ={i: 2≤i≤5, xi−12∈E}={3,4,5}である(x1=1で12∈/E、x2=4で24∈E、x3=5で25∈E、x4=3で23∈E)。∣J∣=3=deg(2)である。
∣I∣+∣J∣=6≥5=nであり、∣{2,3,4,5}∣=4=n−1であるから、I∩J={3,4}は空でない。i=3を取ると、証明が与える閉路はx1, x2, x5, x4, x3, x1,すなわち1, 4, 2, 3, 5, 1である。用いる辺は14、42、23、35、51であり、いずれもEに属する。5頂点をすべて一度ずつ通るので、これはGの Hamilton 閉路である。i=4を取ると閉路1,4,5,2,3,1が得られ、用いる辺14、45、52、23、31もすべてEに属する。
例 4.2. Ore の条件のnをn−1へ下げることはできない.V={a1,a2}⊔{b1,b2,b3}とし、aiとbjをすべて結んだ完全二部グラフK2,3を考える。n=5、deg(ai)=3、deg(bj)=2であり、辺数は6である。隣接しない相異なる二頂点は、同じ部に属する二頂点である。{a1,a2}の次数の和は3+3=6≥5であり、{bi,bj}の次数の和は2+2=4である。したがって、隣接しない二頂点の次数の和の最小値は4=n−1である。
一方、K2,3は Hamilton 閉路をもたない。K2,3は二部グラフであるから§D2.7 定理 5.3より奇数長の閉路をもたないが、5頂点の Hamilton 閉路は長さ5で奇数だからである。ゆえに、Ore の条件の右辺をn−1へ下げると結論は成り立たない。
Dirac の条件のn/2を下げることはできない.n=6とし、V={1,2,3}⊔{4,5,6}の各部を完全グラフにし、部の間には辺を張らないグラフGを考える。各頂点の次数は2であるからδ(G)=2=n/2−1である。しかし1と4は互いに到達可能ではなく、Gは連結ではない(§D2.7 定義 2.3)。Hamilton 閉路が存在すれば、その閉路に沿って任意の二頂点の間に歩道が得られてGは連結になるから、Gは Hamilton 閉路をもたない。ゆえに、Dirac の条件をδ(G)≥n/2−1へ弱めると結論は成り立たない。
十分条件であって必要条件ではない. 長さ5の閉路C5は Hamilton 閉路(C5自身)をもつが、すべての頂点の次数が2であり、隣接しない二頂点の次数の和は4<5=nである。ゆえに Ore の条件は成り立たない。
5 演習
問題 5.1.
- 定理 2.1の証明で、辺数が最大の反例を取る段階を、頂点集合を固定する理由まで含めて書き下せ。頂点集合を固定しないと、最大値の存在をどのように保証することができなくなるかを述べよ。
- 定理 2.1の証明でI∩J=∅を導く一手を、IとJの元の個数と、{2,…,n}の元の個数を明示して書き下せ。さらに、IとJをいずれも{1,…,n}の部分集合として定義した場合に、この一手が成り立たなくなる理由を述べよ。
- 定理 2.1の証明で構成した閉路について、i∈I∩Jのiが2になり得ないことを示す議論を再現せよ。もしi=2を許すと、構成した列がどの点で閉路にならないかを述べよ。
- 定理 2.1の結論を「Gは Hamilton 道をもつ」に弱めた主張を、Ore の条件の右辺をn−1にした仮定のもとで証明せよ。証明では、Gに新しい頂点wを加えてVのすべての頂点と結んだグラフへ定理 2.1を適用する道筋を用いてよい。
- 系 3.1の証明を、nが奇数の場合と偶数の場合に分けて、次数が整数であることをどこで用いるかまで含めて書き直せ。
- n=6の有限単純グラフで、Ore の条件を満たすが Dirac の条件を満たさないものを一つ構成し、定理 2.1により得られる Hamilton 閉路を実際に一つ書き下せ。