「かつ」「または」「でない」は、命題から新しい命題を組み立てる演算です。数におけるやと同じように、真理値に対して機械的に働く計算として扱います。
1 論理演算の真理値表
三つの演算は、真理値表によって完全に定まります。
定義 1.1 (論理積・論理和・否定). 命題、に対し、論理積 (conjunction)(かつ)、論理和 (disjunction)(または)、否定 (negation)(でない)の真理値を次で定める。
| T | T | T | T | F |
| T | F | F | T | F |
| F | T | F | T | T |
| F | F | F | F | T |
- かつ() は、との両方が真である場合にかぎり真になります。
- または() は、との少なくとも一方が真であれば真になります。
- 否定() は、真理値を入れ替えます。
日常語の「または」は、「コーヒーまたは紅茶をお選びください」のように、どちらか一方だけを選ぶという意味で使われることがあります。数学の「または」に、その意味はありません。両方が成り立つ場合を含めるかどうかで結論が変わる場面では、「少なくとも一方」「ちょうど一方」のように、文章で範囲を明示します。
2 ド・モルガン則
二つの論理式が、含まれる命題の真偽の組合せのすべてについて同じ真理値をとるとき、二つの論理式は同値であるといい、で結びます。
定理 2.1 (ド・モルガン則). 任意の命題、について、次の二つが成り立つ。
証明.、の真偽の4通りの組合せについて、各式の真理値は次のようになる。
| T | T | T | F | F | F | F |
| T | F | F | T | F | T | T |
| F | T | F | T | T | F | T |
| F | F | F | T | T | T | T |
との列は、すべての行で一致する。
| T | T | T | F | F | F | F |
| T | F | T | F | F | T | F |
| F | T | T | F | T | F | F |
| F | F | F | T | T | T | T |
との列も、すべての行で一致する。二つの表は、の真偽の組合せを尽くしているので、二式とも成り立つ。▨
複合命題全体の否定を各命題の否定へ書き換えるとき、「かつ」と「または」が入れ替わります。
3 分配法則とブール代数
を掛け算、を足し算になぞらえると、数の計算と同じ形の規則が成り立ちます。
公式 3.1 (分配法則).
どちらも定義 1.1の真理値表から、8通りを書き出せば確かめることができます。真を、偽をとみなして真理値を計算する体系をブール代数と呼びます。
閑話休題:論理演算は1種類あれば足りる 「かつ」「または」「でない」の3種類すべてを、基本の演算として置く必要はありません。ド・モルガン則によってが成り立つので、「または」は「かつ」と「でない」から組み立てることができます。つまり2種類あれば足ります。では1種類ではどうでしょうか。これも足ります。「どちらも真ではない」を表す演算(NOR。)を考えると、となるので否定を作ることができ、否定を作ることができれば、もも順に組み立てることができます。1種類の演算だけで、あらゆる真理値の計算を表すことができるのです(年にシェファーが示しました。「両方が真ではない」を表す NAND でも同じことができます)。
1種類の演算ですべてを表すことができるというこの事実は、理論上の遊びではありません。前の記事の閑話休題で見たとおり、論理演算は電子回路として実装することができますが、部品を1種類に統一することができれば、製造と検証のうえで大きな利点になります。実際、年代のアポロ宇宙船の誘導コンピュータは、論理部分を NOR 回路を中心とした少数種の集積回路で組み上げました。信頼することができる少数の部品へ設計を絞るという判断です。人類を月へ運んだ計算機の中身は、を組み合わせれば何でも書くことができるという、この単元の演習問題そのものでした。