条件を「それを満たすものの集まり」として扱うと、論理の演算がそのまま集まりの演算になります。そのための言葉を先に定めます。
1 集合を書き表す二つの記法
定義 1.1 (集合と要素). ものの集まりのうち、あるものがその集まりに属するかどうかが一意に定まるものを集合 (set) という。集合を作る一つひとつのものを要素といい、が集合の要素であることを、要素でないことをと書く。
集合の表し方には、次の二通りがあります。
- 外延的記法は、要素を書き並べます。のように書きます。
- 内包的記法は、要素が満たす条件を書きます。のように書き、縦線の左に要素の形を、右に条件を置きます。
上の二つの式は、どちらもの正の約数全体の集合を表しています。要素が有限個で少なければ外延的記法が読みやすく、要素が多い場合や無限にある場合には内包的記法を使います。のように、要素を書き並べることができない集合は、内包的記法でしか表すことができません。
内包的記法は、条件と集合とを直接に結び付ける書き方です。
2 要素であることと、部分集合であること
定義 2.1 (部分集合).のすべての要素がの要素でもあるとき、はの部分集合 (subset) であるといい、と書く。
は、条件についての「」に対応します。とは別の記号です。の左に来るのは要素であり、の左に来るのは集合です。について、は正しく、も正しい一方、とはいずれも誤りです。
3 四つの演算
定義 3.1 (和集合・共通部分・補集合・差集合). 全体集合をとし、、をその部分集合とする。
- 和集合 (union)は、またはの少なくとも一方に属する要素の全体である。
- 共通部分 (intersection)は、との両方に属する要素の全体である。
- 補集合 (complement)は、に属してに属さない要素の全体である。
- 差集合 (set difference)は、に属してに属さない要素の全体である。
和集合、共通部分、補集合は、それぞれ「または」「かつ」「でない」に一対一で対応します。差集合はと書き換えることができるので、新しい演算というよりも、共通部分と補集合を組み合わせた記法です。補集合はにあたります。
例 3.2.、、とすると、、、、である。
4 空集合と全体集合
要素を一つも持たない集合を空集合と呼び、と書きます。空集合は、どの集合の部分集合でもあります。「のすべての要素がの要素である」という条件は、確かめるべき要素が一つも無いので、が何であっても成り立つからです。であり、共通部分が空集合であることは、二つの集合が共通の要素を持たないことを意味します。
全体集合は、その議論で考える対象の範囲を定める集合です。全体集合を決めなければ、補集合を定めることができません。「に属さないもの」だけでは、どこまでを候補にするのかが決まらないからです。の補集合は、とすればですが、を正の整数全体とすればを要素にもつ無限集合になります。補集合を書く場面では、全体集合が何であるかを先に決めておきます。であり、、です。
5 集合の等式とド・モルガン則
集合の関係をベン図に描くと、等式の見通しを得ることができます。ただし、図から読み取った関係と、一般の集合についての証明とは区別します。集合の等式を証明するには、の任意の要素がに属することと、の任意の要素がに属することを示します。二つの向きを示せば、とが成り立ち、が従います。
公式 5.1 (集合のド・モルガン則). 全体集合をとし、、をその部分集合とする。
証明.を任意に取る。§A3.2 定理 2.1により、がに属さないことと、がにもにも属さないことは同値である。したがって、とは同値である。同じ論理則により、がに属さないことと、がに属さないか、またはに属さないことは同値である。したがって、とは同値である。は任意であったので、二つの集合の等式が成り立つ。▨
閑話休題:「集まり」を素朴に定義したために、数学の基礎が揺らいだ ものの集まりのうち、属するかどうかが定まるもの——この定義は、素朴に運用すると破綻します。年、ラッセルは次の集合を考えました。自分自身を要素として含まない集合の全体です。さて、自身はに属するでしょうか。属するとすると、の定義(自分自身を含まないものの集まり)からが従います。属さないとすると、定義の条件を満たすのでが従います。どちらの場合にも矛盾が出ます。有名な言い換えが床屋のパラドックスです。「自分でひげを剃らない村人全員の、そして彼らだけのひげを剃る」床屋は、自分のひげを剃るのでしょうか。
このパラドックスは、集合論によって数学全体を基礎づけようとしていたフレーゲの大著の第2巻が印刷中であったときに、ラッセルからの手紙で届きました。フレーゲは後に付録を加えてこの問題に触れています。以後、数学者たちは、どんな条件からでも集合を作ってよいという素朴な運用を放棄し、すでにある集合から、決められた操作によってだけ新しい集合を作るという公理的集合論を整備して危機を収拾しました(§F1 公理的集合論が扱います)。本記事で使っているやの記法は、一度数学を壊しかけたうえで修理された道具です。高等学校で扱う範囲では安全に使うことができますが、どんな集まりでも集合にすることができるわけではない、という但し書きが背後に付いています。