条件文からは、機械的な書き換えによって三つの命題を作ることができます。名前を定めます。
1 対偶律と逆・裏の関係
定義 1.1 (逆・裏・対偶). 命題に対して、次の 逆 (converse)、裏 (inverse)、対偶 (contrapositive) を定める。
この項目でもっとも重要な事実を先に述べます。
定理 1.2 (対偶律). 任意の命題、についてが成り立つ。
真理値表で確かめます。
| T | T | T | F | F | T |
| T | F | F | T | F | F |
| F | T | T | F | T | T |
| F | F | T | T | T | T |
証明. 上の表の第3列と第6列は、4行すべてで一致する。との真偽の組み合わせを尽くしているので、二つは同値である。▨
定理 1.3. 任意の命題、について、の逆と裏は同値である。
証明. 逆の対偶はである。定理 1.2により、逆と裏は同値である。▨
例 1.4. 実数について、条件文はすべてので真である。しかし、逆と裏は、いずれものときに偽となる。したがって、もとの条件文と逆・裏は一般には同値ではない。
真理集合の言葉でも同じことが見えます。はにあたり、対偶はにあたります。のどの要素もに属することと、に属さないどの要素もに属さないことは、同じ包含関係を二つの側から述べたものです。
2 対偶による証明を選ぶ判断
もとの命題と対偶は真偽が一致するので、もとの命題を示す代わりに、対偶を示してもかまいません。どちらを示すかは、仮定から手がかりを取り出しやすいほうを選びます。
定理 2.1. 整数について、が偶数ならばは偶数である。
もとの仮定からは、となる整数を取ることができます。対偶の仮定からは、となる整数を取ることができます。後者の式を二乗すれば、の偶奇を直接調べることができます。
対偶を用いるかどうかは、もとの仮定と結論の否定から、それぞれどのような式を書き下すことができるかを比べて判断します。整数の偶奇、有理数と無理数の区別、不等式の向きに関する命題でも、結論の否定を仮定したほうが計算を進めやすい場合には、対偶による証明を選びます。
例 2.2. 実数について、ならばまたはである。対偶を示す。かつならば、二つの不等式を足してを得る。したがって、対偶律により、もとの主張が成り立つ。逆は一般には成り立たない。ではだがである。
閑話休題:人間は対偶による判断を苦手とする 机の上にカードが4枚あります。表にはアルファベットが、裏には数字が書いてあり、いま見えている面は「A」「K」「4」「7」です。規則「母音のカードの裏は偶数である」が守られているかどうかを確かめるには、どのカードを裏返す必要があるでしょうか。年にウェイソンが行ったこの実験で、正答率はおよそでした。多くの人は「A と 4」を選びます。正解は「A と 7」です。規則は(母音ならば偶数)なので、確かめるべきは前件を満たす A と、対偶の前件を満たす奇数の 7 です。「4」を裏返すのは逆(偶数ならば母音)を確かめる行為であって、規則はそれを主張していません。
興味深いのはここからです。同じ論理構造を「ビールを飲んでいるなら20歳以上である」という規則に置き換え、「ビール」「コーラ」「25歳」「16歳」の4人から選ばせると、ほとんどの人が正しく「ビールと16歳」を選びます。抽象的な記号ではしか正答することができない問題が、規則違反の監視という文脈では、ほぼ全員が正答することができるのです。人間の論理的な判断は一様ではなく、文脈に強く依存しています。逆と裏を機械的な書き換えとして訓練する本単元の方針は、この偏りに対する備えです。直感は文脈によって答えを変えますが、真理値表と対偶の規則は変えません。