1 有限連分数と互除法
定義 1.1. 整数a0と正整数a1,…,akから作る
[a0;a1,…,ak]=a0+a1+⋯+ak111を有限単純連分数 (finite simple continued fraction) という。k=0のときは[a0]=a0とする。
証明. 有理数をp/qと書く。ただしp∈Z、q∈N≥1とする。除法の原理によりp=a0q+r、0≤r<qと書く。r=0ならp/q=[a0]である。r>0なら
qp=a0+q/r1としてq/rに同じ操作を行う。この操作で現れる分母は余りの列であり、正整数のまま狭義に減少するので、有限回で停止する。二番目以降に整数部分を取り出す数は1より大きいから、商は正整数である。最後に余りが0になる数も1より大きいので、整数である末項は2以上となる。
末項が2以上の表示では、後ろから順に計算すると、各[aj;…,ak](1≤j≤k)は1より大きい。したがって、k≥1ならa0<[a0;a1,…,ak]<a0+1であり、a0はもとの数以下の最大の整数に等しい。整数部分を引いて逆数を取ると次の末尾の式が定まり、同じ議論で各項が順に定まる。整数に達した時点では、複数項の表示は上の狭義不等式に反するから、一項で停止する。よって、項と表示の長さは一意である。
有限単純連分数は、正の末尾から有限回の有理数の四則計算で求められるので、その値は有理数である。▨
例 1.3.43/30の整数部分を取り出して逆数を取ると、
3043=1+3013=1+30/131,1330=2+134=2+13/41,413=3+41となる。したがって43/30=[1;2,3,4]である。この計算に現れる項は、ユークリッドの互除法
43=1⋅30+13,30=2⋅13+4,13=3⋅4+1,4=4⋅1の商の列である。
2 無理数の展開
定義 2.1. 無理数αに対し、α0=αとおき、各j∈N≥0についてajをαj以下の最大の整数とし、
αj+1=αj−aj1と定める。各αjを完全商 (complete quotient) といい、項の列をα=[a0;a1,a2,…]と書く。
αjが無理数なら、αj−ajは0と1の間の無理数です。その逆数αj+1も無理数であり、1より大きいため、操作は途中で止まりません。j≥1ではaj≥1となります。
例 2.2.2では
2=1+2+11,2+1=2+2+11となるので、2=[1;2,2,2,…]である。黄金比x=(1+5)/2は1<x<2とx=1+1/xを満たすので、x=[1;1,1,1,…]である。
3 近似分数の計算と誤差
定義 3.1.a0を整数とし、a1,a2,…を正整数とする。単純連分数を第k項で打ち切った有限連分数[a0;a1,…,ak]を、第k近似分数 (convergent) という。収束分数ともいう。近似分数では、打ち切った位置を保つため、末項が1の表示もそのまま用いる。
命題 3.2.a0∈Z、aj∈N≥1(j≥1)とする。整数列pk,qkを
p−2=0,p−1=1,q−2=1,q−1=0,pk=akpk−1+pk−2,qk=akqk−1+qk−2(k≥0)によって定める。すべてのk≥0についてqk>0であり、
[a0;a1,…,ak]=qkpk,pkqk−1−pk−1qk=(−1)k+1が成り立つ。pk/qkは既約分数である。任意の実数t>0に対し、末尾をak+1/tとした式Fk(t)は
Fk(t)=[a0;a1,…,ak+1/t]=qkt+qk−1pkt+pk−1を満たす。k=0のとき、左辺はa0+1/tを表す。
さらに、無理数αの完全商αjと項ajから同じ漸化式でpk,qkを定めると、すべてのk≥0について
α=qkαk+1+qk−1pkαk+1+pk−1,α−qkpk=qk(qkαk+1+qk−1)(−1)k,α−qkpk=qk(qkαk+1+qk−1)1<qkqk+11が成り立つ。
証明.q0=1、q1=a1≥1と漸化式から、すべてのk≥0についてqk>0である。F0(t)=a0+1/t=(p0t+p−1)/(q0t+q−1)である。k≥1では、帰納法の仮定と漸化式から
Fk(t)=Fk−1(ak+1/t)=(akqk−1+qk−2)t+qk−1(akpk−1+pk−2)t+pk−1=qkt+qk−1pkt+pk−1を得る。k≥1の近似分数はFk−1(ak)=pk/qkであり、k=0では[a0]=p0/q0である。
p0q−1−p−1q0=−1であり、k≥1では
pkqk−1−pk−1qk=−(pk−1qk−2−pk−2qk−1)なので、行列式の等式が帰納的に従う。pk,qkの共通の正の約数はこの差も割るので、pk,qkは互いに素である。
αj=aj+1/αj+1を有限回代入すると、α=Fk(αk+1)である。この表示と行列式の等式から
α−qkpk=qk(qkαk+1+qk−1)pk−1qk−pkqk−1=qk(qkαk+1+qk−1)(−1)kを得る。αk+1>ak+1なので、
qkαk+1+qk−1>ak+1qk+qk−1=qk+1.両辺が正であることから、誤差の不等式が従う。▨
例 3.3.43/30=[1;2,3,4]の近似分数は、漸化式から
11,23,710,3043となる。最後の近似分数は元の有理数と一致する。
例 3.4.2=[1;2,2,…]の近似分数は、漸化式から
1,23,57,1217,2941,7099,169239となる。命題 3.2の誤差評価により
2−7099<70⋅1691=118301<100001である。
問題 3.5. 整数pと正整数qが1<p/q<2を満たすとする。
2−qp>4q21を示せ。さらに、q≥4である同じ範囲の分数について、∣2−p/q∣≤1/q3は成り立たないことを示せ。
解答.
2は無理数なので、整数p2−2q2は0ではなく、∣p2−2q2∣≥1である。1<p/q<2と1<2<2から
2−qp=q2(p/q+2)∣p2−2q2∣≥q2(p/q+2)1>4q21となる。q≥4なら1/q3≤1/(4q2)なので、∣2−p/q∣≤1/q3は成り立たない。▨
例 3.6. 円周率の展開はπ=[3;7,15,1,292,…]であり、
[3;7]=722=3.1428…,[3;7,15,1]=113355=3.1415929…となる。355/113の表示は末項が1であるが、第3近似分数として打切り位置を保っている。22/7はアルキメデスの円周率の評価に現れ、355/113は五世紀の中国の数学者祖沖之による近似として知られる。355/113は三桁の分母で円周率と小数第六位まで一致する。
閑話休題:連分数と暦 季節の周期である回帰年は約365.2422日である。米国海軍天文台の解説では、グレゴリオ暦の平均年を365.2425日としている。365日の暦と回帰年との一年あたりのずれ0.2422日を閏日で補うには、閏日を置く回数と年数との比を0.2422に近づければよい。0.2422=[0;4,7,1,3,…]の近似分数は
41,297,338,12831,…となる。1/4は四年に一回、8/33は三十三年に八回の閏日を置く割合である。グレゴリオ暦では四百年に九十七回の閏日を置き、その割合は97/400である。97/400は上の連分数の近似分数ではない。数値0.2422に対する誤差を比較すると、
338−0.2422=16500037<100003=40097−0.2422となる。
歴史上、四年に一回の閏日を置く方式はユリウス暦に採用された。十一世紀のペルシャの数学者・詩人ウマル・ハイヤームが関わった暦には、三十三年に八回の閏日を置く方式が帰属されている。また、十七世紀のホイヘンスは、太陽系の模型を歯車で作る際に、惑星の公転周期の比を歯数の比で近似するために連分数を用いたとされる。歯数を整数で選ぶ問題でも、分母を抑えた有理数近似が必要になる。