§A4.10フェルマーの最終定理 n = 4

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n≥3n \geq 3のときxn+yn=znx^n + y^n = z^nが正整数解をもたないという主張が、フェルマーの最終定理です。一般のnnの証明には20世紀末までかかりましたが、n=4n = 4の場合だけは、 §A4.9 無限降下法と素因数分解の一意性だけで片づきます。この記事では、その証明を最後まで書きます。

1 四乗の和と平方数

x4+y4=z4x^4+y^4=z^4に正整数解があれば、(x,y,z2)(x,y,z^2)はx4+y4=z2x^4+y^4=z^2の正整数解になります。したがって、右辺が平方数である場合の非存在を示すと、右辺が四乗数である場合の非存在も従います。降下の途中で構成する三つ組はp4+q4=r2p^4+q^4=r^2を満たすため、右辺を平方数とする方程式について証明します。

2 原始ピタゴラス数の一般形

定義 2.1.a2+b2=c2a^2+b^2=c^2を満たす正整数の三つ組(a,b,c)(a,b,c)で、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1であるものを 原始ピタゴラス数 (primitive Pythagorean triple) という。

補題 2.2. 正整数a,b,ca,b,cがa2+b2=c2a^2+b^2=c^2とgcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1を満たし、bbが偶数であるとする。このとき、m>n>0m>n>0、gcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1を満たし、偶奇が異なる整数m,nm,nが存在して、a=m2−n2,b=2mn,c=m2+n2a=m^2-n^2,\qquad b=2mn,\qquad c=m^2+n^2が成り立つ。

証明.bbが偶数でgcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1であるから、aaは奇数である。c2=a2+b2c^2=a^2+b^2より、ccも奇数であり、b>0b>0よりc>ac>aである。a,ca,cをともに割る素数があれば、b2=c2−a2b^2=c^2-a^2も割る。§A4.2 補題 2.1により、その素数はbbを割り、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1に反する。11より大きい公約数には素因子があるので、gcd⁡(a,c)=1\gcd(a,c)=1である。

正整数(c−a)/2(c-a)/2と(c+a)/2(c+a)/2の共通素因数は、和ccと差aaを割る。したがって、この二つの正整数は互いに素である。また、(b2)2=c−a2c+a2\left(\frac b2\right)^2=\frac{c-a}{2}\frac{c+a}{2}である。§A4.2 定理 2.2により、右辺の各素因数は一方の因子だけに現れ、その指数は偶数である。よって、正整数m,nm,nが存在して、c+a2=m2,c−a2=n2\frac{c+a}{2}=m^2,\qquad \frac{c-a}{2}=n^2と書くことができる。a>0a>0よりm>nm>nであり、和と差を取るとa=m2−n2a=m^2-n^2、c=m2+n2c=m^2+n^2を得る。b2=4m2n2b^2=4m^2n^2とb>0b>0よりb=2mnb=2mnである。二つの因子が互いに素であることからgcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1であり、aaが奇数であることからm,nm,nの偶奇は異なる。▨

問題 2.3. 正整数m>nm>nがgcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1を満たし、m,nm,nの偶奇が異なるとする。a=m2−n2a=m^2-n^2、b=2mnb=2mn、c=m2+n2c=m^2+n^2と置くと、a2+b2=c2a^2+b^2=c^2かつgcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1となることを示せ。また、bbが偶数である原始ピタゴラス数(a,b,c)(a,b,c)に対し、補題 2.2の条件と表示式を満たす正整数の組(m,n)(m,n)がただ一つであることを示せ。

解答.

m>n>0m>n>0よりa,b,ca,b,cは正整数であり、直接展開すると(m2−n2)2+(2mn)2=(m2+n2)2(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2となる。m,nm,nの偶奇が異なるのでaaは奇数である。a,ba,bが共通の素因数ℓ\ellをもつと仮定する。aaが奇数なのでℓ≠2\ell\ne2である。§A4.2 補題 2.1により、ℓ∣2mn\ell\mid 2mnからℓ∣m\ell\mid mまたはℓ∣n\ell\mid nが従う。さらにℓ∣m2−n2\ell\mid m^2-n^2であるから、どちらの場合もℓ\ellはm,nm,nの両方を割る。これはgcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1に矛盾する。11より大きい公約数には素因子があるので、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1である。

与えられた原始ピタゴラス数の表示の存在は補題 2.2による。その表示ではm2=c+a2,n2=c−a2m^2=\frac{c+a}{2},\qquad n^2=\frac{c-a}{2}である。正整数m,nm,nはそれぞれの平方からただ一つに定まるので、表示は一意である。▨

注意 2.4.m,nm,nの偶奇が異なるという条件は、三平方の等式そのものには必要ないが、原始的であるために必要である。たとえばm=3,n=1m=3,n=1は互いに素であるが、得られる三つ組は(8,6,10)(8,6,10)であり、三数がすべて22で割り切れる。

3 四乗の和が平方数とならないことの証明

定理 3.1.x4+y4=z2x^4+y^4=z^2を満たす正整数x,y,zx,y,zは存在しない。

証明.x4+y4=z2x^4+y^4=z^2に正整数解があると仮定し、§A3.10 定理 2.1の最小数原理により、第三成分zzが最小の解(x,y,z)(x,y,z)を取る。素数ℓ\ellがx,yx,yをともに割るなら、ℓ4∣z2\ell^4\mid z^2である。§A4.2 定理 2.2により、z2z^2に現れるℓ\ellの指数はzzに現れる指数の二倍であるので、ℓ2∣z\ell^2\mid zとなる。すると(x/ℓ,y/ℓ,z/ℓ2)(x/\ell,y/\ell,z/\ell^2)は同じ方程式の正整数解であり、z/ℓ2<zz/\ell^2<zである。これはzzの最小性に反するので、gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1である。x,yx,yがともに奇数ならz2=x4+y4≡2(mod4)z^2=x^4+y^4\equiv2\pmod4となり、平方数の剰余が0,10,1であることに反する。したがってx,yx,yのちょうど一方が偶数であり、必要なら入れ替えてyyを偶数、xxを奇数とする。

gcd⁡(x2,y2)=1\gcd(x^2,y^2)=1であるので、補題 2.2により、x2=m2−n2,y2=2mn,z=m2+n2x^2=m^2-n^2,\qquad y^2=2mn,\qquad z=m^2+n^2を満たす整数m>n>0m>n>0が存在し、m,nm,nは互いに素で、偶奇が異なる。mmが偶数でnnが奇数なら、m2−n2≡3(mod4)m^2-n^2\equiv3\pmod4となり、x2≡1(mod4)x^2\equiv1\pmod4に反する。よってmmは奇数、nnは偶数である。

x2+n2=m2x^2+n^2=m^2である。x,nx,nの共通素因数はm2m^2を割り、§A4.2 補題 2.1によりmmを割るので、gcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1に反する。したがってgcd⁡(x,n)=1\gcd(x,n)=1である。nnが偶数であるから、補題 2.2により、x=a2−b2,n=2ab,m=a2+b2x=a^2-b^2,\qquad n=2ab,\qquad m=a^2+b^2を満たす整数a>b>0a>b>0が存在し、a,ba,bは互いに素で、偶奇が異なる。

y2=2mn=4abmy^2=2mn=4abmとyyが偶数であることから、(y2)2=abm\left(\frac y2\right)^2=abmである。a,ma,mの共通素因数はm−a2=b2m-a^2=b^2を割り、したがってbbを割るので、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1に反する。b,mb,mの共通素因数もm−b2=a2m-b^2=a^2を割り、したがってaaを割るので、同じ互いに素の条件に反する。よってa,b,ma,b,mはどの二つも互いに素である。§A4.2 定理 2.2により、積abmabmの各素因数は三因子のうち一つだけに現れ、その指数は偶数である。したがって、正整数p,q,rp,q,rを用いてa=p2,b=q2,m=r2a=p^2,\qquad b=q^2,\qquad m=r^2と書くことができる。

m=a2+b2m=a^2+b^2に代入するとr2=p4+q4r^2=p^4+q^4となるので、(p,q,r)(p,q,r)は最初の方程式の正整数解である。一方、r≤r2=m≤m2<m2+n2=zr\le r^2=m\le m^2<m^2+n^2=zであるので、新しい解の第三成分rrはzzより小さい。これはzzが正整数解の第三成分の最小値であることに矛盾する。したがって、x4+y4=z2x^4+y^4=z^2に正整数解は存在しない。▨

系 3.2.x4+y4=z4x^4+y^4=z^4に正整数解は存在しない。さらに、任意の正整数kkに対し、x4k+y4k=z4kx^{4k}+y^{4k}=z^{4k}に正整数解は存在しない。

証明.x4+y4=z4x^4+y^4=z^4に正整数解(x,y,z)(x,y,z)があれば、(x,y,z2)(x,y,z^2)が定理 3.1に反する正整数解となる。また、x4k+y4k=z4kx^{4k}+y^{4k}=z^{4k}に正整数解があれば、(xk,yk,zk)(x^k,y^k,z^k)が四乗の方程式の正整数解となるので、直前に示した非存在に反する。▨

4 演習

  1. 主証明でx2+n2=m2x^2+n^2=m^2に原始ピタゴラス数の表示を適用するときのgcd⁡(x,n)=1\gcd(x,n)=1を、本文の方針に沿って詳しく確かめよ。
  2. 主証明で(y/2)2=abm(y/2)^2=abmを得たときのgcd⁡(b,m)=1\gcd(b,m)=1を確かめよ。
  3. x4+y4=z2x^4+y^4=z^2の非存在から、x4+y4=z4x^4+y^4=z^4の非存在が従う手順を書け。また、この議論がn=8,12,16,…n=8,12,16,\dotsにも使えることを説明せよ。
  4. 互いに素な奇数m>n>0m>n>0に対して、a=m2−n2a=m^2-n^2、b=2mnb=2mn、c=m2+n2c=m^2+n^2とする。a2+b2=c2a^2+b^2=c^2は成り立つが、gcd⁡(a,b,c)=2\gcd(a,b,c)=2となることを示せ。
解答.

項目 (1)について、素数ℓ\ellがx,nx,nをともに割ると仮定する。x2+n2=m2x^2+n^2=m^2よりℓ\ellはm2m^2を割り、§A4.2 補題 2.1によりmmを割る。これはgcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1に反する。11より大きい公約数には素因子があるので、gcd⁡(x,n)=1\gcd(x,n)=1である。▨

解答.

項目 (2)について、素数ℓ\ellがb,mb,mをともに割ると仮定する。m=a2+b2m=a^2+b^2よりℓ\ellはa2a^2を割り、§A4.2 補題 2.1によりaaを割る。これはgcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1に反する。11より大きい公約数には素因子があるので、gcd⁡(b,m)=1\gcd(b,m)=1である。▨

解答.

項目 (3)について、x4+y4=z4x^4+y^4=z^4に正整数解があれば、(x,y,z2)(x,y,z^2)がx4+y4=z2x^4+y^4=z^2の正整数解となる。したがって、平方数を右辺とする方程式の非存在から、四乗数を右辺とする方程式の非存在が従う。n=4kn=4k、k≥1k\ge1の場合に正整数解があれば、(X,Y,Z)=(xk,yk,zk)(X,Y,Z)=(x^k,y^k,z^k)がX4+Y4=Z4X^4+Y^4=Z^4の正整数解となるので、同じ非存在に反する。▨

解答.

項目 (4)について、展開すると(m2−n2)2+(2mn)2=(m2+n2)2=c2(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2=c^2を得る。m,nm,nは奇数であるから、a,b,ca,b,cはすべて偶数であり、c=m2+n2≡2(mod4)c=m^2+n^2\equiv2\pmod4である。三数を割る奇素数ℓ\ellが存在すれば、ℓ\ellはc+a=2m2c+a=2m^2とc−a=2n2c-a=2n^2を割るので、§A4.2 補題 2.1によりm,nm,nをともに割る。これはgcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1に矛盾する。よって三数に共通の奇素因子はなく、ccが44で割り切れないことからgcd⁡(a,b,c)=2\gcd(a,b,c)=2である。等式は保たれるが、原始性は失われる。▨

閑話休題:フェルマーの書き込みとその後の証明 フェルマーは、ディオファントスの『算術』の余白に、xn+yn=znx^n+y^n=z^nがn≥3n\ge3で正整数解をもたないという主張を書き残した。その書き込みには、証明を見つけたが、余白が狭いため書くことができないという趣旨の文がある。ただし、フェルマー自身が完全な証明を書き残したのはn=4n=4の場合だけであり、無限降下法による議論であった。一般のnnについて彼がどのような証明を考えていたかは分かっていない。

n=4n=4の場合から、nnが44の倍数である場合も従う。また、nnが奇素数ppを約数にもつなら、xn+yn=znx^n+y^n=z^nの正整数解から(xn/p,yn/p,zn/p)(x^{n/p},y^{n/p},z^{n/p})というpp乗の方程式の正整数解が得られる。33以上の整数で44の倍数でないものは奇素数を約数にもつので、残るのは奇素数ppに対するxp+yp=zpx^p+y^p=z^pの非存在である。オイラーはn=3n=3、ディリクレとルジャンドルはn=5n=5、ラメはn=7n=7の場合を証明した。素数は無限にあるため、有限個の指数について証明するだけでは一般の場合の証明にはならない。

一般の場合の証明は、アンドリュー・ワイルズによる論文として1995年に発表された。その証明には、楕円曲線と保型形式を結ぶ谷山・志村予想のうち、必要な部分が用いられた。n=4n=4の場合の証明は、合同式、素因数分解の一意性、最小数原理によって論証を閉じることができる。

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