無限降下法は、最小の反例を仮定し、そこからさらに小さい反例を構成して矛盾する証明法です。 整数論で典型的ですが、正の整数値の量が定まる問題なら、組合せや図形の整数化にも現れます。
1 最小数原理と無限降下法
自然数からなる空でない集合には最小元があるという性質を、最小数原理といいます。§A3.10 定理 2.1により、最小数原理と数学的帰納法の原理は同値です。無限降下法では、最小数原理を用いて、解や反例が存在しないことを証明します。
命題 1.1.を正整数からなる集合とする。どのに対しても、を満たすが存在するならば、は空集合である。
証明.が空でないと仮定する。§A3.10 定理 2.1の最小数原理により、には最小元が存在する。仮定により、を満たすが存在し、の最小性に反する。したがって、は空集合である。▨
定義 1.2. 解や反例に正整数の量を対応させ、任意の解や反例から、同じ条件を満たし、対応する量がより小さい解や反例を構成して、解や反例が存在しないことを示す論法を 無限降下法 (infinite descent) という。
解や反例に対応する量の集合をとすれば、命題 1.1を用いることができます。
注意 1.3. 正整数についての主張をとする。無限降下法で示す条件「が成り立たなければ、を満たす正整数でが成り立たないものが存在する」の対偶は、「より小さいすべての正整数についてが成り立つならば、が成り立つ」である。後者をすべての正整数について要求すると、の場合には、より小さい正整数がないのでが結論となる。の場合には、§A3.10 定理 3.1の帰納段階となる。したがって、各正整数について降下の条件を示すことは、強い数学的帰納法によってすべてのを示すことに対応する。
方程式の非存在を示す場合には、を「比較する量がとなる解は存在しない」と取る。より小さい解の構成は、が成り立たないことから、あるについてが成り立たないことを導く操作である。
2 方程式の正整数解
例 2.1. 方程式は正整数解をもたない。
証明. 正整数解が存在すると仮定し、最小数原理により、が最小の解を取る。が偶数なので、を満たす正整数が存在する。代入するととなるので、も同じ方程式の正整数解である。とよりとなり、の最小性に反する。したがって、正整数解は存在しない。▨
3 四乗の和と平方数
注意 3.1. 方程式は正整数解をもたない(§A4.10 定理 3.1)。その証明では、が最小の正整数解が存在すると仮定し、原始ピタゴラス数の一般形(§A4.10 補題 2.2)を二度用いて、を満たす正整数解を構成する。となるため、の最小性に矛盾する。
平方根2の例では第1成分を比較しましたが、四乗数の証明では第三成分を比較します。因数分解によって新しい整数を作っただけでは降下は成立しません。新しい組が同じ方程式の解であり、比較する量が小さくなることが必要です。
4 最小化する量と順序
最小数原理を用いるには、比較する量が正整数であることを確かめます。問題に応じて、次の量を選ぶことがあります。
- 分子・分母をもつ分数解では、正の分母、または正整数である分子と分母の和を選びます。
- ピタゴラス型方程式の正整数解では、斜辺、または変数の最大値を選びます。
- 組合せ構成では、要素数、面積、操作回数を選ぶことがあります。要素数や操作回数がとなる場合には、それぞれにを加えて正整数にします。面積を選ぶ場合には、面積そのもの、または固定した単位面積で割った値が正整数となることを確かめます。
- 整数配置では、最大値、総和、または複数の量の辞書式順序を選ぶことがあります。最大値や総和を選ぶ場合にも、値が正整数となる条件が必要です。
注意 4.1. 正整数の組を「が小さい組を先にし、が等しければが小さい組を先にする」という辞書式順序で比較する。この順序では、正整数の組からなる空でない集合には最小元がある。実際、最小数原理により、集合に現れる第1成分の最小値を取ることができる。第1成分がである組の第2成分の集合は空でないので、その最小値も取ることができる。組は辞書式順序について最小である。
たとえば整数配置の正整数値の最大値と総和をこの順序で比較するなら、降下には、またはかつが必要である。成分を任意の整数や実数に広げた場合には、同じ最小元の議論をそのまま用いることはできない。
5 演習
- 最小反例法でが無理数であることを証明せよ。
- の降下証明で、新しい解のどの量が元より小さいかを明記せよ。
- 「正整数解があれば、互いに素な正整数解もある」という約分が、どの問題で許されるかを説明せよ。
- 無限降下と、単に「無限に続くから矛盾」と言う議論の違いを説明せよ。
解答.
項目 (1)について、の正整数解が存在すると仮定し、が最小の解を取る。整数の平方の法での剰余はであるから、よりである。正整数を用いてと書き、代入するとを得る。したがって、は同じ方程式の正整数解である。とよりであり、の最小性に反する。よって、に正整数解は存在しない。
が有理数ならば、正整数を用いてと書くことができる。両辺を平方してを掛けるととなり、正整数解の非存在に反する。したがって、は無理数である。▨
解答.
項目 (2)について、§A4.10 定理 3.1の証明では、第三成分が最小の正整数解を取る。二度の原始ピタゴラス数の表示によって、を得て、、、と書く。したがって、であり、が新しい正整数解となる。が正整数であることからとなる。比較する量は第三成分であり、新しい解のが元の解のより小さい。▨
解答.
項目 (3)の約分には、共通因子で割った成分が正整数であり、もとの方程式を満たすことが必要である。たとえば、が整数係数の斉次多項式で、次数がであるとき、任意の正整数に対してが成り立つ。の正整数解の全成分を共通因子で割ると、割った成分も同じ方程式を満たす。を三成分の最大公約数とすれば、得られる三成分の最大公約数はである。
では、左辺と右辺の次数が異なるため、三成分を一様に割ることはできない。しかし、素数がをともに割るならば、である。§A4.2 定理 2.2により、の素因数の指数はの指数の二倍なので、となる。よって、は同じ方程式の正整数解である。に共通素因数がある間、この操作を繰り返すと、第1成分が正整数のまま狭義減少するので、有限回での解に至る。
これに対して、の解の二成分をで割ると、となる。割った成分が整数であったとしても、もとの方程式を満たさないため、この約分は許されない。▨
解答.
項目 (4)について、各段階の量が正整数であり、ならば、である。したがって、回の降下の後にはとなり、で正値を保つことができなくなる。
単に対象や解が無限個あることや、手順が無限に続くことは矛盾ではない。数列は正整数のまま無限に続くが、減少しない。数列は正の値を保ちながら狭義減少するが、整数値ではない。無限降下で矛盾を導くためには、量が正整数値を取り、各段階で狭義減少することが必要である。▨
問題 5.1. 方程式の整数解がだけであることを、無限降下法によって示せ。
解答.
でない整数解が存在すると仮定し、が最小となるものを選ぶ。は正整数である。方程式を法で考えるとは偶数である。整数を用いてと置き、両辺をで割るととなる。再び法で考えるとは偶数である。整数を用いてと置き、両辺をで割るととなるので、も偶数である。したがって、は整数の組であり、より、もとの方程式を満たす。この組もではなく、絶対値の最大値は正整数であり、となる。これはの最小性に矛盾するので、でない整数解は存在しない。は方程式を満たすので、求める整数解はだけである。▨
整数論での降下の具体例は §A4.17 競技数学入門 でも扱っています。