1 はさみうちの原理とその条件
定理 1.1 (数列のはさみうちの原理). ある正の整数Nが存在し、すべてのn≥Nについて
an≤bn≤cnが成り立つとする。さらに
n→∞liman=n→∞limcn=Lならば、
n→∞limbn=Lである。
nが大きいときanとcnはともにLの近くにあり、bnはその間にあるので、bnもLの近くにあります。この定理のε-Nによる証明は§D1.6 定理 3.1に委ねます。有限個の項が極限を変えないので、不等式はすべての正の整数について成り立つ必要はなく、ある番号から先で成り立てば十分です。
定理 1.2 (関数のはさみうちの原理). 関数f,g,hが、点aのある穿孔近傍、すなわちあるδ>0に対する0<∣x−a∣<δを満たすすべてのxからなる共通の定義域で定義されているとする。その定義域のすべてのxについて
g(x)≤f(x)≤h(x)が成り立つとする。さらに
x→alimg(x)=x→alimh(x)=Lならば、
x→alimf(x)=Lである。
同じ主張はx→∞およびx→−∞に対しても成り立つ。x→∞の場合には、ある実数Mに対してf,g,hがx>Mを満たすすべてのxからなる共通の定義域で定義され、そのすべてのxで不等式が成り立つと仮定する。x→−∞の場合には、ある実数Mに対してf,g,hがx<Mを満たすすべてのxからなる共通の定義域で定義され、そのすべてのxで不等式が成り立つと仮定する。
関数の場合も同じ理由で成り立ちます。xがaに十分近いとき(x→±∞ではxが十分大きい、または十分小さいとき)、g(x)とh(x)はともにLの近くにあり、f(x)はその間にあるからです。不等式を確かめる範囲は0<∣x−a∣<δだけでよく、x=aでの値は結論に関係しません。
例 1.3. すべての正の整数nについて
−1≤(−1)n≤1であり、両端の定数数列はそれぞれ−1と1に収束するが、二つの極限は一致しない。同じ両端に挟まれる数列でも、定数数列0は0に収束するのに対し、{(−1)n}は§B1.7 定理 2.1の 4 により振動して収束しない。したがって、両端の極限が一致するという仮定を欠くと、挟まれた数列の極限は決まらない。
2 有界な量を含む評価
sinnのように絶対値が一定の範囲に収まる量に、0に近づく量を掛けた式は、その範囲を使って上下から挟むことができます。
例 2.1.−1≤sinn≤1の各辺を正の整数nで割ると、不等号の向きは変わらず
−n1≤nsinn≤n1である。両端が0に収束するため、定理 1.1より
n→∞limnsinn=0である。
3 ある番号から先で成り立つ評価
極限では、必要な不等式が成り立ち始める番号を明示します。
例 3.1.n≥4ならばn−3≥n/4なので、n≥4について
0≤n3−3n2+nn=n(n−3)+11≤n24である。n=1,2,3では不等式が成り立たない(n=1,2では中央の式の分母n3−3n2+nが負であり、n=3では中央の式の値1が94を超える)が、定理 1.1で要求されるのはある番号から先の不等式だけであり、有限個の項は極限に影響しない。したがって
n→∞limn3−3n2+nn=0である。
4 下からの評価による発散
発散を示すには、上から挟む必要はなく、下から評価するだけで足ります。
定理 4.1. ある正の整数Nが存在し、すべてのn≥Nについてan≤bnが成り立つとする。anが正の無限大へ発散するならば、bnも正の無限大へ発散する。
anが正の無限大へ発散するので、どんな実数Kを与えても、ある番号N1から先のすべてのnでan>Kとなります。n≥max{N,N1}ではbn≥an>Kが成り立つので、bnもどんな実数Kも越えて限りなく大きくなります。一般的な証明は§D1.6 極限の性質の証明に委ねます。不等号の向きを逆にしたbn≤anからは、anが正の無限大へ発散してもbnの発散は結論できません。an=n、bn=0がその例です。
例 4.2.n≥4ならば
n2−3n=n(n−3)≥4n2である。n2/4は正の無限大へ発散するので、定理 4.1よりn2−3nも正の無限大へ発散する。
5 指数関数を含む評価
指数関数の増加を、二項定理による下からの評価に置き換えることができます。
例 5.1.n≥2について、二項定理の展開の項はすべて正なので
2n=(1+1)n≥(2n)=2n(n−1)である。(1n)=nだけを残すとn/2n≤1しか得られないが、分子nより次数の高い項(2n)を残すと
0<2nn≤n−12(n≥2)となり、右端が0に収束する。したがって、定理 1.1よりn/2n→0である。
6 相加平均と相乗平均による評価
積を直接扱いにくい場合には、相加平均と相乗平均の関係によって和へ置き換えます。
例 6.1. 正の数1/n,2/n,…,n/nに相加平均と相乗平均の関係を用いると、
(nnn!)1/n≤n21+2+⋯+n=2nn+1≤43(n≥2)である。両辺をn乗すると
0<nnn!≤(43)n(n≥2)となる。右辺が0に収束するため、
n→∞limnnn!=0である。
7 関数の評価
関数でも、数列と同じように不等式が成り立つ範囲を確かめます。定理 1.2では、x→aでは0<∣x−a∣<δの範囲で、x→∞ではx>Mの範囲で、三つの関数が定義されて不等式が成り立つことが求められます。
例 7.1.x>0とし、二辺の長さがxと1である直角三角形を考える。斜辺の長さはx2+1であり、斜辺は長さxの辺より長いので
x2+1−x>0である。一方、有理化すると
x2+1−x=x2+1+x1であり、x2+1≥xから
0<x2+1−x≤2x1を得る。この不等式はx>0のすべてのxで成り立つので、定理 1.2のM=0の場合に当たる。右端2x1=21⋅x1は、x→∞limx1=0と§B1.10 定理 3.1 (2)からx→∞のとき0に収束するため、定理 1.2より
x→∞lim(x2+1−x)=0である。
8 図形的な大小
図形の面積や長さによる評価も、不等式が成り立つ配置と範囲を明示すれば用いることができます。単位円の中の三角形と扇形の面積を比べて、sinxをxで上から評価します。弧度法と単位円による三角関数の定義、および扇形の面積が中心角に比例することは、§A2.2 一般角と弧度法、三角関数の定義で扱っています。
例 8.1. 角は弧度法で測る。0<x<2πとし、原点Oを中心とする半径1の円周上に、点A(1,0)と点P(cosx,sinx)をとる。三角形OAPは扇形OAPに含まれ、扇形には弦APと弧APに挟まれた部分が残るので、扇形の面積のほうが真に大きい。三角形OAPの面積は、底辺OA=1、高さsinxから21sinxである。扇形の面積は中心角に比例し、中心角2πのとき円全体の面積πになるので、π⋅2πx=2xである。したがって
21sinx<2x,すなわち0<sinx<x(0<x<2π)である。−2π<x<0では0<−x<2πなので、この不等式を−xに用いると0<sin(−x)<−xである。sin(−x)=−sinx=∣sinx∣であるから、∣sinx∣<∣x∣となる。よって0<∣x∣<2πのすべてのxについて
−∣x∣≤sinx≤∣x∣が成り立つ。x→0のとき−∣x∣と∣x∣はともに0に収束するので、定理 1.2(a=0、δ=2π)より
x→0limsinx=0である。
同じ単位円からx<tanxも得られ、xsinxを上下から挟む例は§B1.12 基本極限(sin x / x)で扱います。
9 演習
評価では、下限と上限の両方の極限が一致すること、不等式が成り立つ範囲、および分母の符号を順に確認します。
問題 9.1. 次の問いに答えよ。
- 数列{an}がすべての正の整数nについて−2≤an≤3を満たすとき、nanの極限を求めよ。
- n≥5で成り立つ不等式を作り、n→∞limn2−4nn+1を求めよ。
- 二項定理によって3nを下から評価し、n→∞lim3nn2=0を示せ。
- 例 6.1で、(nnn!)1/n≤43の両辺をn乗するとき、不等号の向きが保たれる理由を説明せよ。
解答.
- −2≤an≤3の各辺を正の整数nで割ると−n2≤nan≤n3であり、両端は0に収束する。定理 1.1より極限は0である。
- n≥5ではn+1≤56nかつn−4≥5nなので、n2−4n=n(n−4)≥5n2>0である。したがって
0<n2−4nn+1≤n2/56n/5=n6(n≥5)
であり、定理 1.1より極限は0である。
- n≥3について、二項定理から
3n=(1+2)n≥23(3n)=34n(n−1)(n−2)
である。n≥4ではn−1≥n/2かつn−2≥n/2なので(n−1)(n−2)≥n2/4であり、
0<3nn2≤4(n−1)(n−2)3n≤n3(n≥4)
となる。右端が0に収束するので、定理 1.1よりn2/3n→0である。
- 0≤s≤tならば、tn−sn=(t−s)(tn−1+tn−2s+⋯+sn−1)の二つの因数がともに0以上なのでsn≤tnである。いまはs=(nnn!)1/n>0、t=43であり、どちらも0以上なので、両辺をn乗しても不等号の向きは保たれる。
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