1 逆関数と、その値の対応
定義 1.1 (逆関数).X、Yを空でない実数の部分集合とし、f:X→Yを全単射とする。§B2.7 定理 3.1によってただ一つ定まるfの逆写像f−1:Y→Xを、fの逆関数 (inverse function) という。
定理 1.2.f:X→Yを全単射とし、f−1:Y→Xをその逆関数とする。このとき次が成り立つ。
- Xの要素aとYの要素bについて、b=f(a)であることとa=f−1(b)であることは同値である。
- f−1の定義域はYであり、これはfの値域f(X)に等しい。
- f−1の値域は、fの定義域Xに等しい。
証明. 1 を示す。b=f(a)とすると、§B2.7 定理 3.1の条件f−1(f(x))=xをx=aに適用してf−1(b)=f−1(f(a))=aである。逆にa=f−1(b)とすると、条件f(f−1(y))=yをy=bに適用してf(a)=f(f−1(b))=bである。
2 を示す。f−1はYからXへの写像であるから、その定義域はYである。またfは全射であるから、Yのどの要素もfによる値としてあらわれ、f(X)=Yが成り立つ。
3 を示す。§B2.7 定理 3.1によりf−1は全単射であり、とくにXへの全射であるから、f−1の値域は終域Xに等しい。▨
2 終域を固定した逆関数が定まる条件
§B2.7 定理 3.1では、全単射fに対して二つの等式を満たす逆写像が定まることが述べられています。次の定理はその逆の向きを含み、XとYが空でない集合でありさえすれば、実数の部分集合でなくても成り立ちます。
定理 2.1.f:X→Yを写像とする。
- g(f(x))=xとf(g(y))=yをともに満たす写像g:Y→Xが存在することは、fが全単射であることと同値である。
- 1 のgが存在するとき、gはただ一つであり、fの逆写像f−1である。
とくにXとYが実数の部分集合であるとき、二つの等式を満たす写像g:Y→Xが存在するための必要十分条件はfが全単射であることであり、このgが逆関数f−1である。
証明. 1 の「存在すれば全単射」を示す。g:Y→Xを、g(f(x))=xとf(g(y))=yをともに満たす写像とする。
はじめにfが単射であることを示す。Xの要素x1、x2がf(x1)=f(x2)を満たすとする。両辺へgを施すとg(f(x1))=g(f(x2))であり、条件g(f(x))=xをx=x1とx=x2に適用してx1=x2となる。値が等しいことから入力が等しいことが従うので、これは§B2.7 定義 2.1の単射の条件の対偶にあたり、fは単射である。
次にfが全射であることを示す。Yの要素yを任意にとり、x=g(y)と置く。gはYからXへの写像であるからxはXの要素であり、条件f(g(y))=yからf(x)=yである。したがって、Yのどの要素についても、それを値とするXの要素が存在する。
単射性と全射性が示されたので、fは全単射である。
1 の「全単射ならば存在する」は§B2.7 定理 3.1である。2 は、fが全単射であるとき、§B2.7 定理 3.1では二つの等式を満たすgがただ一つであり、それが逆写像f−1であることが述べられている。最後の文は、XとYが実数の部分集合のとき、定義 1.1によりこのf−1を逆関数とよぶことによる。▨
証明では二つの等式を別々に用いました。g(f(x))=xからは単射性が従い、f(g(y))=yからは全射性が従います。一方の等式だけでは、もう一方の性質は従いません。次の例がそれを確かめます。全単射とは限らない写像について、片側の等式の扱いは§B2.7 注意 4.2にもあります。
例 2.2.
- f:[0,∞)→Rをf(x)=x2、g:R→[0,∞)をg(y)=∣y∣で定める。0以上の実数xについて∣x2∣=x2であるからg(f(x))=x2=xであり、g(f(x))=xはすべてのx∈[0,∞)で成り立つ。しかしfは全射でない。実際、x2=−1を満たす0以上の実数xは存在しない。f(g(−1))=f(1)=1=−1であり、f(g(y))=yはすべてのy∈Rでは成り立たない。
- F:R→[0,∞)をF(x)=x2、G:[0,∞)→RをG(y)=yで定める。0以上の実数yについてF(G(y))=(y)2=yであり、F(G(y))=yはすべてのy∈[0,∞)で成り立つ。しかしFは単射でない。実際、F(1)=F(−1)=1であり、1=−1である。G(F(−1))=1=1=−1であり、G(F(x))=xはすべてのx∈Rでは成り立たない。
3 単射であるだけの写像と、終域の取り替え
fが単射であって全射でないとき、fは全単射でないから、定理 2.1により、二つの等式を満たすg:Y→Xは存在しません。値域に入らないYの要素yには、f(x)=yを満たすXの要素が無く、g(y)として対応させるべきものが無いからです。この場合には、終域を値域f(X)に取り替えたうえで逆写像を定めます。
定理 3.1.f:X→Yを単射とし、f~:X→f(X)をfの終域を値域に取り替えた写像とする。このときf~は全単射であり、その逆写像f~−1:f(X)→Xがただ一つ定まる。このf~−1は、f(X)の要素yに対して、f(x)=yを満たすXの要素xを対応させる写像である。
証明.§B2.7 定理 5.2により、fが単射であるからf~は全単射である。したがって§B2.7 定理 3.1により、逆写像f~−1がただ一つ定まる。f(X)の要素yについてx=f~−1(y)と置くと、§B2.7 定理 3.1の条件f~(f~−1(y))=yによりf~(x)=yであり、f~の定め方からf(x)=yである。fは単射であるから、f(x)=yを満たすXの要素はxのほかにない。▨
例 3.2.f:[0,∞)→Rをf(x)=x2で定める。§B2.7 例 5.3のとおり、fは単射であって全射ではない。値域は、0以上のすべての実数xについてx2≥0であること、および0以上の実数yに対してyが0以上で(y)2=yを満たすことから、f([0,∞))=[0,∞)である。
fは全射でないから、定理 2.1により、終域Rを変えないままでは逆関数は定まらない。そこで定理 3.1に従い、終域を値域に取り替えた写像h:[0,∞)→[0,∞)、h(x)=x2を考える。hは全単射であり、逆関数h−1:[0,∞)→[0,∞)がただ一つ定まる。0以上の実数yに対してh−1(y)はx2=yを満たす0以上の実数xであり、これはyである。すなわちh−1(y)=yである。
終域を値域に取り替えるには、単射であることの確かめが要ります。区間上で狭義単調な関数は、次の定理により単射であることをすぐに確かめることができます。
定理 3.3.Iを区間とし、f:I→RがIで狭義単調増加であるとする。すなわち、Iの要素x1、x2についてx1<x2ならばf(x1)<f(x2)である。このとき、fは単射である。さらに、定理 3.1の逆関数f~−1:f(I)→Iも、f(I)で狭義単調増加である。
証明.fが単射であることを示す。Iの要素x1、x2がx1=x2を満たすとする。一般性を失わずx1<x2とすると、仮定からf(x1)<f(x2)であるからf(x1)=f(x2)である。よってfは単射である。
f~−1が狭義単調増加であることを示す。f(I)の要素y1、y2がy1<y2を満たすとし、x1=f~−1(y1)、x2=f~−1(y2)と置く。定理 1.2の 1 によりf(x1)=y1、f(x2)=y2である。x1≥x2と仮定する。x1=x2ならばy1=f(x1)=f(x2)=y2となり、x1>x2ならばfの狭義単調増加性からy1=f(x1)>f(x2)=y2となる。どちらもy1<y2に反する。よってx1<x2、すなわちf~−1(y1)<f~−1(y2)である。▨
狭義単調減少な関数についても、不等号の向きを入れ替えて同じ議論ができ、単射であり、逆関数も狭義単調減少です。教科書では、狭義単調な関数について「値域の上で逆関数を考える」と述べることが多く、これは終域を値域f(I)に取り替えたf~の逆関数を考えることにあたります。この性質は、指数関数の逆関数として対数関数を定める場面で使われます。詳しくは§B3.5 対数関数が扱います。
4 グラフが直線y=xに関して対称であること
定理 4.1.X、Yを空でない実数の部分集合とし、f:X→Yを全単射とする。座標平面において、y=f(x)のグラフとy=f−1(x)のグラフは、直線y=xに関して対称である。
証明. はじめに、実数a、bについて、点(a,b)と点(b,a)が直線y=xに関して対称であることを確かめる。a=bのとき、二つの点は一致し、直線y=xの上にある。a=bのとき、二点を結ぶ線分の中点は(2a+b,2a+b)であり、これは直線y=xの上にある。また、二点を通る直線の傾きはb−aa−b=−1であり、直線y=xの傾き1との積が−1であるから、二つの直線は垂直に交わる。よって(a,b)と(b,a)は直線y=xに関して対称である。
次に、点(a,b)がy=f(x)のグラフ上にあることと、点(b,a)がy=f−1(x)のグラフ上にあることが同値であることを示す。前者は、aがXの要素であってb=f(a)が成り立つことである。定理 1.2の 1 により、これはbがYの要素であってa=f−1(b)が成り立つことと同値であり、後者にあたる。
したがって、y=f(x)のグラフの各点は、直線y=xに関する対称移動によってy=f−1(x)のグラフの点へ写り、その逆も成り立つ。二つのグラフは直線y=xに関して対称である。▨
例 3.2のhとh−1について、この対称性を図に示します。
5 逆関数の求め方
全単射であることは、Yのどの要素yについても、f(x)=yを満たすXの要素xがちょうど一つ存在することと同じです。少なくとも一つ存在することが全射であり、高々一つであることが単射です。そのため、f(x)=yをxについて解いてXの中にただ一つの解が得られれば、全単射であることと逆関数の値が同時に分かります。定理 1.2の 1 により、その解がf−1(y)だからです。二つのグラフを同じ座標平面へ描くために変数の名前をそろえるときは、得られた式のyをxに書き換えてy=f−1(x)とします。
例 5.1.f:[0,∞)→[1,∞)をf(x)=x2+1で定める。
1以上の実数yを任意にとり、f(x)=yを満たす0以上の実数xを調べる。x2+1=yはx2=y−1と同値であり、y−1≥0である。x≥0のときx2=y−1となるのはx=y−1の場合だけであり、このxは0以上である。したがってf(x)=yの解は[0,∞)の中にちょうど一つあり、fは全単射である。解がf−1(y)であるからf−1(y)=y−1である。
f−1の定義域はfの値域[1,∞)であり、f−1の値域はfの定義域[0,∞)である。変数の名前をそろえると、逆関数のグラフはy=x−1である。
6 演習
問題 6.1 (逆関数を求める).
- f:(−∞,0]→[0,∞)をf(x)=x2で定める。fが全単射であることを示し、逆関数f−1を求めよ。また、y=f(x)とy=f−1(x)のグラフの関係を述べよ。
- f:[1,∞)→[−1,∞)をf(x)=x2−2xで定める。fが全単射であることを示し、逆関数f−1とその定義域・値域を求めよ。
- f:R→Rをf(x)=−x3で定める。fは全単射であり、y=f(x)とy=f−1(x)のグラフは点(1,−1)を共有することを示せ。この点が直線y=xの上にないことから、二つのグラフの交点がつねに直線y=xの上にあるとは限らないことを確かめよ。
解答.
- 0以上の実数yを任意にとる。x≤0のとき、x2=yとなるのはx=−yの場合だけである(x=−∣x∣=−x2だからである)。−y≤0であり(−y)2=yであるから、f(x)=yの解は(−∞,0]の中にちょうど一つあり、fは全単射である。解がf−1(y)であるからf−1(y)=−yであり、定義域は[0,∞)、値域は(−∞,0]である。定理 4.1により、y=x2(x≤0)とy=−xのグラフは直線y=xに関して対称である。
- f(x)=(x−1)2−1である。−1以上の実数yを任意にとる。f(x)=yは(x−1)2=y+1と同値であり、y+1≥0である。x≥1のときx−1≥0であるから、x−1=y+1、すなわちx=1+y+1だけが解である。このxは1以上であるから、解は[1,∞)の中にちょうど一つあり、fは全単射である。f−1(y)=1+y+1であり、定義域はfの値域[−1,∞)、値域はfの定義域[1,∞)である。検算として、f(1+y+1)=(y+1)2−1=yである。
- 実数yを任意にとる。f(x)=yはx3=−yと同値である。x↦x3は狭義単調増加であるから定理 3.3により単射であり、実数の3乗根の存在から、x3=−yを満たす実数xはちょうど一つある。よってfは全単射である。f(1)=−1であるから、点(1,−1)はy=f(x)のグラフ上にある。次に、f(−1)=1であるから定理 1.2の 1 によりf−1(1)=−1であり、点(1,−1)はy=f−1(x)のグラフ上にもある。点(1,−1)はy=xを満たさないので、二つのグラフの交点が直線y=xの上にあるとは限らない。
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