1 関数方程式とは
定義 1.1 (関数方程式). 定義域D、終域Eをもつ未知の関数f:D→Eに対して、Dの要素に関する等式を課したものを関数方程式 (functional equation) という。
定義 1.2 (関数方程式の解). 関数方程式を満たす関数を、その方程式の解 (solution) という。解をすべて求めることを、その関数方程式を解くという。
解を求めるときは、まず入力に0、互いに反対の数、等しい数などを代入して、関数の値に関する関係を取り出します。この段階で得られるのは、fが解であるために必要な条件だけです。そこで、得られた候補を最後に元の等式へ代入し、すべての入力で成り立つこと(十分性)を確かめます。必要条件から出発した候補が、元の等式を満たすとは限らないからです。
例 1.3.f:R→Rがすべての実数x,yについてf(x+y)=f(x)+y2を満たすとする。xとyを入れ替えるとf(y+x)=f(y)+x2であり、x+y=y+xであるからf(x)+y2=f(y)+x2である。したがってf(x)−x2=f(y)−y2がすべてのx,yで成り立ち、この値は定数kである。すなわち候補はf(x)=x2+kに限られる。
しかしx=y=1を元の等式へ代入すると、左辺はf(2)=4+k、右辺はf(1)+1=2+kとなり一致しない。よって、この関数方程式を満たすfは存在しない。
2 コーシーの関数方程式
定義 2.1 (加法的な関数). 関数f:R→Rが、すべての実数x,yについてf(x+y)=f(x)+f(y)を満たすとき、fは加法的 (additive) であるという。この等式をコーシーの関数方程式という。
定理 2.2. 加法的な関数f:R→Rは、すべての有理数qとすべての実数xについてf(qx)=qf(x)を満たす。連続性は仮定しない。
証明.x=y=0を代入するとf(0)=2f(0)であるからf(0)=0である。f(0)=f(x+(−x))=f(x)+f(−x)からf(−x)=−f(x)である。
正の整数nについて、等式を繰り返し用いるとf(nx)=nf(x)である。−nについてはf(−nx)=−f(nx)=−nf(x)であり、n=0ではf(0)=0であるから、f(mx)=mf(x)がすべての整数mで成り立つ。
nを正の整数とする。f(x)=f(n⋅(x/n))=nf(x/n)であるからf(x/n)=f(x)/nである。有理数qを整数mと正の整数nによりq=m/nと書くと、f(qx)=f(m⋅nx)=mf(nx)=nmf(x)=qf(x)である。▨
定理 2.3. 連続な関数f:R→Rが、すべての実数x,yについて
f(x+y)=f(x)+f(y)
を満たすとする。このとき、c=f(1)とおけば、すべての実数xについてf(x)=cxである。逆に、任意の実数cに対してx↦cxはこの等式を満たす。
証明.fは加法的であるから、定理 2.2をx=1に適用して、有理数qについてf(q)=qf(1)=cqを得る。
実数xを任意にとる。§D1.4 実数の連続性 の§D1.4 系 2.2により示される有理数の稠密性から、各正の整数kに対して∣qk−x∣<1/kを満たす有理数qkを選ぶことができる。するとqk→xである。fはxで連続であるから、§B1.10 定理 6.4によりf(qk)→f(x)である。一方f(qk)=cqk→cxであるため、極限の一意性からf(x)=cxである。
最後にf(x)=cxを元の等式へ代入するとc(x+y)=cx+cyであり、逆の主張も成り立つ。▨
3 代入で決まる例
例 3.1.f:R→Rがすべての実数xについて2f(x)+f(−x)=3x+6を満たすとする。xを−xに置き換えると2f(−x)+f(x)=−3x+6である。最初の式を2倍して後の式を引けば3f(x)=9x+6、したがってf(x)=3x+2である。元の式へ代入すると確かに成り立つ。
例 3.2. 連続な関数f:R→Rがすべての実数x,yについてf(x+f(y))=f(x)+yを満たすとする。
x=0を代入するとf(f(y))=f(0)+yである。f(y1)=f(y2)ならばf(f(y1))=f(f(y2))からy1=y2となるので、fは単射である(§B2.7 定義 2.1)。また任意の実数tに対しy=t−f(0)とおくとf(f(y))=tであるから、fは全射でもある。
y=0を代入するとf(x+f(0))=f(x)であり、単射性からx+f(0)=x、すなわちf(0)=0である。したがってf(f(y))=yである。次にy=f(z)を代入するとf(x+f(f(z)))=f(x)+f(z)であり、f(f(z))=zであるからf(x+z)=f(x)+f(z)がすべての実数x,zで成り立つ。fは連続な加法的関数であるから、定理 2.3によりf(x)=cx(c=f(1))である。
元の等式へ代入するとf(x+f(y))=cx+c2y、右辺はcx+yであるから、c2=1が必要である。c=±1のときf(x)=cxは確かに元の等式を満たす。したがって解はf(x)=xとf(x)=−xである。
4 演習
問題 4.1 (単調な加法的関数). 加法的な関数f:R→Rが単調増加である(x≤yならばf(x)≤f(y))とき、すべての実数xについてf(x)=f(1)xであることを示しなさい。ただし、fの連続性は仮定しない。
解答 (演習の解答).
c=f(1)とおく。定理 2.2をx=1に適用すると、有理数qについてf(q)=cqである。実数xを任意にとり、§D1.4 系 2.2により各正の整数kに対して∣qk−x∣<1/(2k)を満たす有理数qkをとる。有理数pk=qk−1/(2k)、rk=qk+1/(2k)についてpk<x<rkであり、∣pk−x∣<1/k、∣rk−x∣<1/kである。fは単調増加であるからf(pk)≤f(x)≤f(rk)、すなわちcpk≤f(x)≤crkである。pk→x、rk→xであるからcpk→cx、crk→cxであり、はさみうちによりf(x)=cxである。▨
問題 4.2 (f(f(x))=xと単調性). 関数f:R→Rがすべての実数xについてf(f(x))=xを満たすとする。
-
fは全単射であることを示しなさい。
-
さらにfが狭義単調増加である(x<yならばf(x)<f(y))とき、f(x)=xであることを示しなさい。
解答.
(1)について、g=fとおくと、g(f(x))=xとf(g(y))=yがすべての実数x,yで成り立つ。したがって§B2.8 定理 2.1 (1)によりfは全単射である。
(2)について、あるxについてf(x)>xとすると、fが狭義単調増加であるからf(f(x))>f(x)>xとなり、f(f(x))=xに反する。f(x)<xとするとf(f(x))<f(x)<xとなり、やはり反する。よってすべてのxでf(x)=xである。逆にf(x)=xは条件を満たす。▨
問題 4.3 (二次の項をもつ加法型の方程式). 連続な関数f:R→Rがすべての実数x,yについてf(x+y)=f(x)+f(y)+2xyを満たすとき、fを求め、元の等式へ代入して確かめなさい。
解答.
g(x)=f(x)−x2とおくと、gは連続であり、g(x+y)=f(x)+f(y)+2xy−(x+y)2=(f(x)−x2)+(f(y)−y2)=g(x)+g(y)であるから加法的である。定理 2.3によりg(x)=cx(c=g(1)=f(1)−1)、すなわちf(x)=x2+cxである。逆にf(x)=x2+cxのときf(x+y)=(x+y)2+c(x+y)=f(x)+f(y)+2xyが成り立つ。▨