§A1.12二項定理

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二つの項の和を何度も掛けると、展開した式には同じ次数の項が繰り返し現れます。指数が大きくなるほど、すべての積を書いてから同類項をまとめる計算は長くなります。たとえば、(2x−3)4(2x-3)^4のx2x^2の係数だけを知りたい場合には、その係数を直接求める規則があると便利です。

二項定理は、非負整数乗の展開で現れる項と係数をまとめて表す公式です。展開公式の学習を一般の指数へ広げるとともに、式全体を展開せずに必要な係数を取り出すための基礎になります。

本記事では、二項定理を導入し、展開や係数の計算に用いる方法を説明します。

1 二項係数とパスカルの三角形

非負整数nnに対して、n!=1⋅2⋯nn!=1\cdot2\cdots nとし、0!=10!=1と定めます。整数kkが0≤k≤n0\le k\le nを満たすとき、二項係数を

(nk)=n!k!(n−k)!\binom nk=\frac{n!}{k!(n-k)!}

と定めます。特に(n0)=(nn)=1\binom n0=\binom nn=1です。組合せの数nCk{}_nC_kと二項係数が一致することの説明は§B4.3 順列・組合せで扱います。ここでは階乗の式から二項係数を計算します。

例 1.1.(42)\binom42は

(42)=4!2!2!=4⋅3⋅2⋅1(2⋅1)(2⋅1)=6\binom42=\frac{4!}{2!2!} =\frac{4\cdot3\cdot2\cdot1}{(2\cdot1)(2\cdot1)}=6

である。端の係数は(40)=(44)=1\binom40=\binom44=1であり、n=0n=0のときも(00)=1\binom00=1である。

公式 1.2.n≥1n\ge1、1≤k≤n1\le k\le nを整数とする。このとき

(nk)=(n−1k−1)+(n−1k)\binom nk=\binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}k

が成り立つ。ただしk=nk=nの場合、右辺の(n−1n)\binom{n-1}nは00とする。

証明.1≤k≤n−11\le k\le n-1の場合、階乗の式を通分すると

(n−1k−1)+(n−1k)=k(n−1)!+(n−k)(n−1)!k!(n−k)!=n!k!(n−k)!=(nk)\begin{aligned} \binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}k &=\frac{k(n-1)!+(n-k)(n-1)!}{k!(n-k)!}\\ &=\frac{n!}{k!(n-k)!}=\binom nk \end{aligned}

となる。k=nk=nでは両辺は11である。▨

二項係数をnnごとに並べたものを、パスカルの三角形といいます。

例 1.3.n=0,1,2,3,4n=0,1,2,3,4の二項係数をk=0,1,…,nk=0,1,\ldots,nの順に並べると

n=01n=111n=2121n=31331n=414641\begin{array}{c|ccccc} n=0&1\\ n=1&1&1\\ n=2&1&2&1\\ n=3&1&3&3&1\\ n=4&1&4&6&4&1 \end{array}

となる。

各行の端は11であり、端以外の数は直前の行の隣接する二数の和です。この関係は、階乗から導いた漸化式に対応します。

2 二項定理と一般項

公式 2.1 (二項定理).nnを非負整数、a,ba,bを実数または実数係数多項式とする。このとき

(a+b)n=∑k=0n(nk)an−kbk(a+b)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk a^{n-k}b^k

が成り立つ。指数が00の因子は定数11として扱い、n=0n=0の両辺も11とする。

証明.n=0n=0では両辺は11である。n−1n-1の場合に公式が成り立つとし、n≥1n\ge1とする。展開した(a+b)n−1(a+b)^{n-1}にa+ba+bを掛けると、端の項an,bna^n,b^nの係数はともに11である。1≤k≤n−11\le k\le n-1に対して、an−kbka^{n-k}b^kを生じる項は、an−1−kbka^{n-1-k}b^kにaaを掛けた項と、an−kbk−1a^{n-k}b^{k-1}にbbを掛けた項である。その係数の和は

(n−1k)+(n−1k−1)=(nk)\binom{n-1}k+\binom{n-1}{k-1}=\binom nk

であるから、nnの場合の公式も成り立つ。したがって帰納法により、すべての非負整数nnについて公式が成り立つ。▨

二項定理の和をk=0,1,…,nk=0,1,\ldots,nの順に書いたとき、第(k+1)(k+1)項(nk)an−kbk\binom nk a^{n-k}b^kを一般項といいます。指定された次数の係数を求めるには、一般項の文字の次数からkkを定め、数値部分を計算します。

例 2.2.(2x−3)4(2x-3)^4のx2x^2の係数を求める。一般項は

(4k)(2x)4−k(−3)k\binom4k(2x)^{4-k}(-3)^k

である。xxの次数が22になる条件は4−k=24-k=2であり、k=2k=2である。したがって求める項は

(42)(2x)2(−3)2=6⋅4x2⋅9=216x2\binom42(2x)^2(-3)^2=6\cdot4x^2\cdot9=216x^2

となり、係数は216216である。

(2x−3)n(2x-3)^nの場合も、一般項(nk)(2x)n−k(−3)k\binom nk(2x)^{n-k}(-3)^kの次数n−kn-kを用います。係数の計算には2n−k2^{n-k}と(−3)k(-3)^kが含まれるので、指数と符号をともに確かめます。

二つの冪の積では、展開の前に因子を組み替えると、現れる次数を先に定めることができます。

例 2.3.nnを非負整数とする。実数係数多項式として

(1+x)n(1−x)n=((1+x)(1−x))n=(1−x2)n=∑k=0n(−1)k(nk)x2k(1+x)^n(1-x)^n =\bigl((1+x)(1-x)\bigr)^n =(1-x^2)^n =\sum_{k=0}^n(-1)^k\binom nk x^{2k}

である。最後の等式には公式 2.1を用いた。したがって、0≤k≤n0\le k\le nに対するx2kx^{2k}の係数は(−1)k(nk)(-1)^k\binom nkであり、奇数次数の項は現れない。二つの因子を別々に展開して掛けた場合にも、奇数次数の項の係数の総和は零になる。

問題 2.4. 実数係数多項式(1+x)8(1−x)6(1+x)^8(1-x)^6のx7x^7とx8x^8の係数を求めよ。

解答.(1+x)8(1−x)6=(1+x)2(1−x2)6=(1+2x+x2)∑k=06(−1)k(6k)x2k(1+x)^8(1-x)^6=(1+x)^2(1-x^2)^6 =(1+2x+x^2)\sum_{k=0}^6(-1)^k\binom6k x^{2k}

である。和の中には偶数次数の項しかないので、x7x^7は2x2xとx6x^6の積だけから生じる。その係数は

2(−1)3(63)=−402(-1)^3\binom63=-40

である。x8x^8は11とx8x^8の積、およびx2x^2とx6x^6の積から生じる。その係数は

(−1)4(64)+(−1)3(63)=15−20=−5(-1)^4\binom64+(-1)^3\binom63=15-20=-5

である。▨

閑話休題:パスカルの三角形とフラクタル パスカルの三角形の数を、奇数なら黒、偶数なら白に塗り分けると、段数を増やすにつれて、シェルピンスキーのギャスケットに対応する自己相似の模様が現れます。二項係数の偶奇には、nnとkkの2進表示が関係します。kkの各桁がnnの対応する桁を超えないとき、かつそのときに限り、(nk)\binom nkは奇数です。この条件は、kkとn−kn-kの2進法の加算で繰り上がりが生じないことと同値です。一般の素数ppで割った余りに対しても、pp進表示の各桁の二項係数から余りを求めるリュカの定理があります。整数の計算規則と、三角形の模様の繰り返しが結びついています。

1654年のパスカルとフェルマーの往復書簡では、算術三角形の論考と賭金の分配方法が論じられています。二項係数は、二項分布の確率計算にも用いられます。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

二項定理を用いて、次の展開における指定された項の係数、または和の値を求めよ。

解法の型一般項 nCk a^(n-k) bkb^k の次数が指定の次数と一致する k を求め、係数部分を計算する

  1. (x + 3/x)^6 の展開式における定数項を求めよ。

    (x+3x)6の定数項\left(x + \dfrac{3}{x}\right)^{6} \quad \text{の定数項}
  2. (x² - 1/x)^4 の展開式における x5x^5 の係数を求めよ。

    (x2−1x)4における x5 の係数\left(x^{2} - \dfrac{1}{x}\right)^{4} \quad \text{における } x^{5} \text{ の係数}
  3. (3x + 3y)^4 の展開式における x2x^2y2y^2 の係数を求めよ。

    (3x+3y)4における x2y2 の係数(3x + 3y)^{4} \quad \text{における } x^{2} y^{2} \text{ の係数}
  4. n == 7 のとき、符号を交互につけた和 7C0 - 7C1 + 7C2 - … + (-1)^7 × 7C7 の値を求めよ。

    ∑k=07(−1)k(7k)\displaystyle\sum_{k=0}^{7} (-1)^{k} \binom{7}{k}
  5. (3x - y)^6 の展開式における x5x^5 y の係数を求めよ。

    (3x−y)6における x5y の係数(3x - y)^{6} \quad \text{における } x^{5} y \text{ の係数}
  6. (x + 2y)^5 の展開式における x3x^3y2y^2 の係数を求めよ。

    (x+2y)5における x3y2 の係数(x + 2y)^{5} \quad \text{における } x^{3} y^{2} \text{ の係数}
  7. n == 7 のとき、和 7C0 + 2 × 7C1 + 2² × 7C2 + … + 2^7 × 7C7 の値を求めよ。

    ∑k=072k(7k)\displaystyle\sum_{k=0}^{7} 2^{k} \binom{7}{k}
  8. n == 5 のとき、二項係数の総和 5C0 + 5C1 + … + 5C5 の値を求めよ。

    ∑k=05(5k)\displaystyle\sum_{k=0}^{5} \binom{5}{k}
  9. n == 8 のとき、符号を交互につけた和 8C0 - 8C1 + 8C2 - … + (-1)^8 × 8C8 の値を求めよ。

    ∑k=08(−1)k(8k)\displaystyle\sum_{k=0}^{8} (-1)^{k} \binom{8}{k}
  10. (2x - 3y)^4 の展開式における x y3y^3 の係数を求めよ。

    (2x−3y)4における xy3 の係数(2x - 3y)^{4} \quad \text{における } x y^{3} \text{ の係数}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

二項定理を用いて、次の展開における指定された項の係数、または和の値を求めよ。

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