1 整式の除法の手順
実数を係数とする整式Aを零でない整式Bで割るとき、
A=BQ+R
を満たし、R=0またはRの次数がBの次数より小さくなる商Qと余りRを求めます。§A1.3 公式 4.1により、実数係数の商と余りはただ一通りに定まります。零の余りには次数を要求しません。
筆算では、割られる式の最高次の項を除式の最高次の項で割って商の項を決めます。その項と除式の積を引くと、最高次の項が消えます。残った式について同じ操作を繰り返し、残りが0または除式より低い次数になったときに終了します。
例 1.1.x3−2x+1をx−1で割る。最初にx3/x=x2を商へ置き、積を引くと
(x3−2x+1)−x2(x−1)=x2−2x+1となる。次にx2/x=xを商へ加え、
(x2−2x+1)−x(x−1)=−x+1とする。最後に(−x)/x=−1を商へ加えると
(−x+1)−(−1)(x−1)=0となる。よって商はx2+x−1、余りは0である。実際に
(x−1)(x2+x−1)=x3−2x+1と展開して検算することができる。
§A1.3 例 4.2では、x2+5x+3をx+2で割った余りは−3でした。除法は余りが零の場合と非零の場合をともに扱います。非零の余りが残る場合も、たとえば二次式で割った余りは一次以下のpx+qの形となります。
2 組立除法
x−aで割る場合には、除法の計算を係数だけで記録する組立除法を使うことができます。被除式の次数が1以上の場合は、最高次の係数をそのまま商の係数とし、それにaを掛けた値を次の係数へ加えます。得た係数に再びaを掛けて次へ加える操作を続け、最後に得た数を余りとします。被除式が定数または零の場合には、商は0、余りは被除式そのものです。
例 2.1.x3−2x+1をx−1で割るとき、係数を欠けた項の0も含めて1,0,−2,1と並べる。a=1を用いて
1,0+1⋅1=1,−2+1⋅1=−1,1+1⋅(−1)=0と計算する。最初の三つの数が商x2+x−1の係数であり、最後の0が余りである。通常の除法で最高次の項を消す際にも、x−1の定数項−1との積を引くため、次の係数へ商の係数を加える。したがって二つの方法は同じ計算を行っている。
3 剰余の定理
一次式で割った余りは、零の場合も含めて定数です。この定数を求めるには、除法の等式へ一つの値を代入します。
公式 3.1.A(x)を実数係数の整式、aを実数とする。A(x)をx−aで割った余りはA(a)である。
証明. 除法の等式をA(x)=(x−a)Q(x)+Rと書く。余りRは定数であり、x=aを代入するとA(a)=Rを得る。▨
例 3.2.A(x)=x3−2x+1ではA(1)=1−2+1=0であり、x−1で割った余りが0となることを代入だけでも確認することができる。x+2=x−(−2)で割った余りはA(−2)=−8+4+1=−3である。
二つの異なる一次式の積で割る場合も、余りの次数と代入した値から余りを定めることができます。
定理 3.3.A(x)を実数係数の整式、a,bを異なる実数とする。A(x)を(x−a)(x−b)で割った余りは
R(x)=A(a)a−bx−b+A(b)b−ax−aである。
証明. 除法の等式を
A(x)=(x−a)(x−b)Q(x)+S(x)と書く。余りSは一次以下であり、x=a,bを代入するとS(a)=A(a)、S(b)=A(b)となる。
主張の式で定めたRも一次以下で、R(a)=A(a)、R(b)=A(b)を満たす。S(x)−R(x)=ux+vと書くと、ua+v=ub+v=0である。この二つの式を引いてu(a−b)=0を得る。a=bからu=0、さらにv=0である。よってS=Rとなる。▨
問題 3.4. 実数係数の整式x100+x+1をx2−1で割った余りを求めよ。
解答.
A(x)=x100+x+1と置くと、A(1)=3、A(−1)=1である。x2−1=(x−1)(x+1)なので、定理 3.3により余りは
32x+1+−2x−1=x+2である。▨
4 因数定理
整式が別の整式で割り切れるとは、余りが零であることです。そのとき除式は元の整式の因数となります。
証明.公式 3.1により、余りが零であることとA(a)=0は同値である。余りが零なら、除法の等式はA(x)=(x−a)Q(x)となる。逆にその等式が成り立つなら、x=aの代入によりA(a)=0である。▨
上の三次式の例ではA(1)=0から因子x−1が得られ、除法によって残りの因子x2+x−1が求まります。高次式では実数解を見つけるたびに一次因子を取り出して、残りの式の次数を下げることができます。
5 整数根と有理根の候補
実数係数の整式の根を、定数項の約数だけから求めることはできません。係数が整数の場合には、整数根と有理根の候補を次のように絞ります。
証明.A(r)=0なら、c0=−r(cnrn−1+⋯+c1)なのでrはc0を割る。A(p/q)=0の両辺をqn倍すると
cnpn+cn−1pn−1q+⋯+c1pqn−1+c0qn=0となる。pはc0qnを、qはcnpnを割る。p,qは互いに素なので、pはc0を、qはcnを割る。▨
定数項が0の場合は、まず0が根であることを確認し、xをくくってから残りの式へ候補の条件を使います。有理数係数の場合は、全係数の分母の公倍数を掛けて整数係数へ直します。この非零定数倍は根の集合を変えません。
6 係数の範囲
本記事の除法は実数係数で行います。整数係数の整式どうしを割っても、商が整数係数になるとは限りません。たとえばxを2x+1で割る商は1/2、余りは−1/2です。係数として認める数の範囲を変えた場合に、同じ除法がどこまで通用するかは§E8 体論入門で扱います。