展開すると、積で書かれた式が和の形になります。たとえばを展開するとになります。しかし、和の形だけを見ていると、元の式がどのような積からできているかは明らかではありません。
因数分解では、展開とは逆の向きに式を書き直し、和の形では明らかでなかった因数を求めます。
積の形は、式の構造を調べるだけでなく、方程式の解を求める際にも重要です。
本記事では、整数係数の多項式を中心に、因数分解の基本を説明します。
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展開すると、積で書かれた式が和の形になります。たとえばを展開するとになります。しかし、和の形だけを見ていると、元の式がどのような積からできているかは明らかではありません。
因数分解では、展開とは逆の向きに式を書き直し、和の形では明らかでなかった因数を求めます。
積の形は、式の構造を調べるだけでなく、方程式の解を求める際にも重要です。
本記事では、整数係数の多項式を中心に、因数分解の基本を説明します。
多項式を多項式の積に書き直す操作を因数分解といい、積に現れる多項式を因数といいます。ここでは、特に断らない限り整数係数の多項式を整数係数の因数の積に分解します。符号を除く正の整数の共通因子を最初に外し、定数だけの式をさらに分解することはしません。
例 1.1.は因数分解である。右辺を展開すると
となり、元の多項式に戻る。因数分解の結果が正しいかどうかは、展開して確かめることができる。
まずすべての項に共通する因数を取り出し、残った式の形を調べます。
例 2.1. 整数係数の式では、両項にが共通するので
となる。右辺を分配法則で展開すると元の式に戻る。
公式 2.2. 実数係数多項式に対して
が成り立つ。
これらは§A1.3 公式 3.1を逆向きに使った公式です。整数係数で分解するときは、公式に現れるも整数係数の式として選びます。
をと分解するには、展開したときの係数を比較します。
公式 3.1.を整数とする。、ならば
が成り立つ。逆にこの多項式の等式が成り立つならば、、である。
右辺を展開するととなるので、の係数と定数項がそれぞれ一致することが条件です。
例 3.2.を整数係数で因数分解する。積がとなる整数の組から、和がとなるを選ぶ。、であるから
となる。
問題 3.3.を整数とする。を整数係数の一次式2個の積へ分解することができるをすべて求め、それぞれの因数分解を書け。
二つの一次式の先頭係数の積はである。両方がである場合は両方の因子の符号を変えることで、積を変えずに両方をにすることができる。したがって、整数を用いるの形を調べればよい。
展開するとなので、必要十分な条件は、である。積が正なのでの符号は同じである。順序を区別しなければ、積が6となる整数の組は
だけである。よって
各右辺を展開すると、一次の係数は順に、定数項はすべてとなる。したがって、求める整数はであり、ほかにはない。▨
の係数がでない二次式では、二つの一次式の先頭係数も選ぶ必要があります。整数について
と展開されるので、の係数を、定数項をに分け、残るの係数を交差する積の和と照合します。この手順をたすきがけといいます。
例 4.1.を整数係数で因数分解する。先頭係数を、定数項をと分けると、交差する積の和は
となり、の係数とも一致する。したがって
である。右辺を展開するととなり、元の式に戻る。
和と積を使う方法もたすきがけも、整数の候補を選び、展開した係数を照合する方法です。先頭係数と定数項の分け方が複数ある場合は、の係数が一致する組を調べます。演習の後半では、係数と定数項の候補を広げた式を扱います。
例 5.1. 整数係数で分解するとき、まず共通の数因子を外して
となる。
このように、の形を展開した三次式では、共通因数を外す操作とたすきがけを組み合わせます。
三乗の和と差は、一次式と二次式の積へ書き直すことができます。
公式 6.1.を実数または実数係数多項式とする。このとき
が成り立つ。
証明. 分配法則により
である。差の公式のをに置き換えると、和の公式を得る。▨
例 6.2. 整数係数でを因数分解する。、なので
となる。積を展開するとであり、元の式へ戻る。
残った二次式には
がすべての実数で成り立つ。§A1.3 定理 3.2により、二次式を正の次数の因子へ分解するなら、一次式2個の積になる。しかし、一方の一次式がとなる実数で積もとなるので、この正値性と両立しない。したがって、残った二次式は実数係数でも、整数係数でも正の次数の多項式の積へ分解することができない。
因数分解を終える範囲は、係数として認める数によって変わります。この演習では整数係数の範囲で共通の数因子をすべて外し、残る因子を正の次数の整数係数多項式の積へさらに分けることができなくなった形を答えとします。問題文が別の係数範囲を指定している場合は、その指定に従います。係数の範囲を定めなければ、分解の完了条件も定まりません。
注意 7.1.は多項式の等式として正しいが、因数に共通の数因子が残っている。整数係数で数因子を外す約束に従うと、まで書き直す。展開の一致だけでなく、指定された係数範囲と数因子の扱いも確かめる。
例 7.2.は、整数係数の正の次数の多項式の積には分解することができない。分解するとすれば二つの一次式の積であり、先頭係数の積はなので、それぞれの先頭係数はまたはとなる。その積は(は整数)の形に書き直される。係数を照合すると、となり、を満たす整数が必要となるが、そのような整数はない。
実数係数ならばを係数に用いて
と分解することができる。右辺は平方差の公式によりとなる。
整数・有理数・実数・複素数などの係数範囲による分解の違いと、これ以上分解することができないことの一般的な判定は、§F4 可換環論へ委ねます。
閑話休題:整数の因数分解とRSA暗号 整数についても、与えられた数を積に分ける因数分解を考えることができます。適切に選んだ大きな異なる二つの素数では、その積を計算することに比べ、積から素因数を求めることは既知の古典的な計算方法では困難と考えられています。ただし、桁数だけで因数分解に必要な時間を断定することはできません。
この困難性を安全性の前提とする暗号方式の一つがRSA暗号です。公開鍵には二素数の積と公開指数が含まれ、秘密鍵には秘密指数が含まれます。素因数を求めることができると、秘密指数の計算につながります。
RSAはHTTPSの一部の構成や電子署名で使われてきましたが、HTTPSや暗号通貨のすべてがRSAだけに依存するわけではありません。量子計算のためのショアのアルゴリズムは整数の因数分解を高速に行います。大規模な量子計算機が実現した場合にRSAの安全性が失われる恐れがあるため、耐量子暗号の開発が進められています。多項式の因数分解と整数の因数分解は対象が異なりますが、与えられた対象を積に分けるという共通の構造を持ちます。
条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。
次の整数係数多項式を、整数係数多項式の範囲で因数分解せよ。
解法の型手順1: 共通因数でくくる
解法の型手順2: 公式に当てはめる
解法の型手順3: 和と積から探す
解法の型手順4: たすき掛け
解法の型手順5: 総合(共通因数 中身を分解)
解法の型手順6: 先頭係数と定数項の約数候補を広く調べ、交差積の和を確認する。
解法の型手順7: まず共通因数 x を括り、残った二次式にたすき掛けを使う。
問題を解いてから「解答・解説」を開けます。
次の整数係数多項式を、整数係数多項式の範囲で因数分解せよ。
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