§A1.13複素数の四則と解と係数の関係

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二次方程式では、実数の解が存在しない場合があります。たとえば、x2−2x+5=0x^2-2x+5=0を平方完成すると(x−1)2=−4(x-1)^2=-4となり、実数の二乗が負にならないことから、実数の範囲では解を求めることができません。方程式の解をさらに扱うには、計算に用いる数の範囲を広げる必要があります。

複素数は、二乗が負になる数を含めて、数の計算を広げるための対象です。複素数の四則を定めることで、実数の解がない二次方程式にも解を与え、解の和や積と係数の関係を調べることができます。数の範囲を広げることは、方程式の性質を統一して扱うことにつながります。

本記事では、複素数の計算を導入し、二次方程式の解と係数の関係を説明します。

1 複素数と相等

二乗すると−1-1になる虚数単位iiを用い、実数a,ba,bによってa+bia+biと表される数を複素数といいます。aaを実部、bbを虚部といいます。複素数全体をC\Cと書きます。実数は虚部が00の複素数として扱います。

公式 1.1.a,b,c,da,b,c,dを実数とする。複素数の相等は

a+bi=c+di⟺a=c かつ b=da+bi=c+di\quad\Longleftrightarrow\quad a=c\text{ かつ }b=d

で定まる。特にa+bi=0a+bi=0となることとa=b=0a=b=0となることは同値である。

2 複素数の四則

加法と減法では実部どうし、虚部どうしを計算します。乗法では分配法則で展開し、i2=−1i^2=-1を用いて実部と虚部を整理します。

公式 2.1.a,b,c,da,b,c,dを実数とする。このとき

(a+bi)+(c+di)=(a+c)+(b+d)i,(a+bi)−(c+di)=(a−c)+(b−d)i,(a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)i\begin{aligned} (a+bi)+(c+di)&=(a+c)+(b+d)i,\\ (a+bi)-(c+di)&=(a-c)+(b-d)i,\\ (a+bi)(c+di)&=(ac-bd)+(ad+bc)i \end{aligned}

である。(c,d)≠(0,0)(c,d)\ne(0,0)ならば

a+bic+di=ac+bdc2+d2+bc−adc2+d2i\frac{a+bi}{c+di} =\frac{ac+bd}{c^2+d^2}+\frac{bc-ad}{c^2+d^2}i

である。

証明. 加法と減法の式は、実部と虚部をそれぞれ加減する規則である。乗法では

(a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bdi2=(ac−bd)+(ad+bc)i(a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bdi^2=(ac-bd)+(ad+bc)i

となる。(c,d)≠(0,0)(c,d)\ne(0,0)ならc2+d2>0c^2+d^2>0であり

(c+di)(c−di)=c2+d2(c+di)(c-di)=c^2+d^2

である。したがって分子と分母にc−dic-diを掛けると

a+bic+di=(a+bi)(c−di)c2+d2=(ac+bd)+(bc−ad)ic2+d2\frac{a+bi}{c+di} =\frac{(a+bi)(c-di)}{c^2+d^2} =\frac{(ac+bd)+(bc-ad)i}{c^2+d^2}

を得る。▨

例 2.2.z=2+3iz=2+3i、w=1−iw=1-iとする。このとき

z+w=3+2i,z−w=1+4i,zw=2−2i+3i−3i2=5+i,zw=(2+3i)(1+i)(1−i)(1+i)=−1+5i2=−12+52i\begin{aligned} z+w&=3+2i,\\ z-w&=1+4i,\\ zw&=2-2i+3i-3i^2=5+i,\\ \frac zw&=\frac{(2+3i)(1+i)}{(1-i)(1+i)} =\frac{-1+5i}{2}=-\frac12+\frac52i \end{aligned}

となる。除数wwは零でない。

3 共役複素数

複素数z=a+biz=a+biに対して、zˉ=a−bi\bar z=a-biをzzの共役複素数といいます。分母と分子に分母の共役を掛けると、分母を実数にすることができます。

公式 3.1.a,ba,bを実数、(a,b)≠(0,0)(a,b)\ne(0,0)とする。このとき

1a+bi=a−bia2+b2\frac1{a+bi}=\frac{a-bi}{a^2+b^2}

である。

命題 3.2.z,wz,wを複素数とする。このとき

z+w‾=zˉ+wˉ,zw‾=zˉwˉ,zˉ‾=z\overline{z+w}=\bar z+\bar w,\qquad \overline{zw}=\bar z\bar w,\qquad \overline{\bar z}=z

が成り立つ。実数rrに対してrˉ=r\bar r=rであり、zˉ=z\bar z=zとなることとzzが実数であることは同値である。

証明.z=a+biz=a+bi、w=c+diw=c+di、a,b,c,d∈Ra,b,c,d\in\Rと書く。和について

z+w‾=(a+c)−(b+d)i=(a−bi)+(c−di)=zˉ+wˉ\overline{z+w}=(a+c)-(b+d)i=(a-bi)+(c-di)=\bar z+\bar w

である。積について

zw‾=(ac−bd)−(ad+bc)i=(a−bi)(c−di)=zˉwˉ\overline{zw}=(ac-bd)-(ad+bc)i=(a-bi)(c-di)=\bar z\bar w

である。またzˉ‾=a−bi‾=a+bi=z\overline{\bar z}=\overline{a-bi}=a+bi=zである。r=r+0ir=r+0iなら共役もrrである。a−bi=a+bia-bi=a+biであることは、相等の規則により−b=b-b=b、すなわちb=0b=0と同値である。▨

4 二次方程式の複素数解

実数の範囲では二乗が負になることはありませんが、複素数ではi2=−1i^2=-1を用いて負の二乗値を扱います。

定理 4.1.a,b,ca,b,cを実数とし、a≠0a\ne0、D=b2−4ac<0D=b^2-4ac<0とする。このとき、方程式ax2+bx+c=0ax^2+bx+c=0の複素数解は

x=−b±i−D2ax=\frac{-b\pm i\sqrt{-D}}{2a}

の二つである。

証明. 方程式を4a4a倍して平方完成すると、(2ax+b)2=D(2ax+b)^2=Dである。r=−D>0r=\sqrt{-D}>0と置くと

(2ax+b−ir)(2ax+b+ir)=0(2ax+b-ir)(2ax+b+ir)=0

となる。零でない複素数には逆数があるので、少なくとも一方の因子が零であり、逆にそれぞれの因子を零とする値は元の方程式を満たす。2a≠02a\ne0なので、主張の二解を得る。▨

例 4.2. 複素数の範囲でx2−2x+5=0x^2-2x+5=0を解く。平方完成すると

(x−1)2=−4=(2i)2(x-1)^2=-4=(2i)^2

となる。よって

(x−1−2i)(x−1+2i)=0(x-1-2i)(x-1+2i)=0

である。零でない複素数には逆数があるので、二つの因子の積が零なら少なくとも一方が零である。したがって二解は

α=1+2i,β=1−2i\alpha=1+2i,\qquad \beta=1-2i

である。実際に(1±2i)2−2(1±2i)+5=0(1\pm2i)^2-2(1\pm2i)+5=0となる。また

α+β=2,αβ=(1+2i)(1−2i)=5\alpha+\beta=2,\qquad \alpha\beta=(1+2i)(1-2i)=5

であり、二次式の一次係数と定数項に対応する。

零多項式でない多項式PPに対してP(z)=0P(z)=0を満たす複素数zzを根といいます。根zzの重複度は、P(x)P(x)を(x−z)(x-z)で繰り返し割ったときに、この一次因子を取り出すことができる回数です。

公式 4.3.A,B,C∈CA,B,C\in\C、A≠0A\ne0とする。二次方程式Ax2+Bx+C=0Ax^2+Bx+C=0の二解を、重解を重複度込みで数えてα,β\alpha,\betaとすると

α+β=−BA,αβ=CA\alpha+\beta=-\frac BA,\qquad \alpha\beta=\frac CA

が成り立つ。

証明.α\alphaが解なので、C=−Aα2−BαC=-A\alpha^2-B\alphaである。したがって

Ax2+Bx+C=(x−α)(Ax+B+Aα)=A(x−α)(x+BA+α)Ax^2+Bx+C=(x-\alpha)(Ax+B+A\alpha) =A(x-\alpha)\left(x+\frac BA+\alpha\right)

である。第二の一次因子の根はβ=−B/A−α\beta=-B/A-\alphaであり、重解ならこの根もα\alphaと一致する。よってα+β=−B/A\alpha+\beta=-B/Aである。またC=−Aα2−Bα=AαβC=-A\alpha^2-B\alpha=A\alpha\betaから積の式を得る。▨

解と係数の関係を用いると、二解を個別に求めずに和・積や平方和を計算することができます。

解と係数の関係は、与えられた二数を解とする二次方程式を求めるときにも用います。

定理 4.4.α,β\alpha,\betaを複素数とする。二数α,β\alpha,\betaを重複度込みで根にもつ、最高次の係数が11である二次多項式は

x2−(α+β)x+αβx^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta

だけである。この多項式の係数がすべて実数であることは、α,β\alpha,\betaがともに実数であるか、またはβ=αˉ\beta=\bar\alphaであることと同値である。

証明.

(x−α)(x−β)=x2−(α+β)x+αβ(x-\alpha)(x-\beta)=x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta

であるから、右辺は指定された根をもつ。公式 4.3により、指定された根をもつ最高次の係数が11の二次多項式では、一次の係数は−(α+β)-(\alpha+\beta)、定数項はαβ\alpha\betaに限られる。

α=a+bi\alpha=a+bi、β=c+di\beta=c+diと書く。ただしa,b,c,da,b,c,dは実数である。和と積がともに実数なら、虚部を比較してb+d=0b+d=0とad+bc=0ad+bc=0を得る。d=−bd=-bを代入するとb(c−a)=0b(c-a)=0である。b=0b=0の場合はd=0d=0なので二数はともに実数である。b≠0b\ne0の場合はc=ac=aなのでβ=a−bi=αˉ\beta=a-bi=\bar\alphaである。

逆に、二数がともに実数なら和と積も実数である。β=αˉ\beta=\bar\alphaの場合はα+β=2a\alpha+\beta=2a、αβ=a2+b2\alpha\beta=a^2+b^2なので、和と積はともに実数である。▨

問題 4.5.x2−3x+3=0x^2-3x+3=0の二解をα,β\alpha,\betaとする。α,β\alpha,\betaを個別に求めずに、α/β\alpha/\betaとβ/α\beta/\alphaを二解とする、最高次の係数が11である二次方程式を求めよ。その方程式を複素数の範囲で解け。

解答.

公式 4.3によりα+β=3\alpha+\beta=3、αβ=3\alpha\beta=3である。積が零でないので、α,β\alpha,\betaはともに零でなく、二つの比は定義される。

αβ+βα=(α+β)2−2αβαβ=9−63=1,αββα=1\frac{\alpha}{\beta}+\frac{\beta}{\alpha} =\frac{(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta}{\alpha\beta} =\frac{9-6}{3}=1,\qquad \frac{\alpha}{\beta}\frac{\beta}{\alpha}=1

である。定理 4.4により、求める方程式は

t2−t+1=0t^2-t+1=0

である。平方完成すると(t−1/2)2=−3/4(t-1/2)^2=-3/4となるので、二解は

t=1+i32,t=1−i32t=\frac{1+i\sqrt3}{2},\qquad t=\frac{1-i\sqrt3}{2}

である。▨

5 実数係数と共役根

実数係数の多項式では、共役を取っても係数が変わりません。

命題 5.1.PPを零多項式でない実数係数多項式とする。複素数zzがPPの根ならばzˉ\bar zも根であり、両者の重複度は等しい。実数の根はその共役と一致する。

証明.P(x)=∑k=0nakxkP(x)=\sum_{k=0}^n a_kx^k、ak∈Ra_k\in\Rと書く。命題 3.2により

P(z)‾=∑k=0nakzˉk=P(zˉ)\overline{P(z)}=\sum_{k=0}^na_k\bar z^k=P(\bar z)

である。P(z)=0P(z)=0ならP(zˉ)=0P(\bar z)=0となる。

zzの重複度をmmとすると、複素係数多項式QQを用いて

P(x)=(x−z)mQ(x),Q(z)≠0P(x)=(x-z)^mQ(x),\qquad Q(z)\ne0

と書くことができる。QQの各係数を共役にした多項式をQ∗Q^*とすると、上の積の各係数の共役を取って

P(x)=(x−zˉ)mQ∗(x)P(x)=(x-\bar z)^mQ^*(x)

を得る。Q∗(zˉ)=Q(z)‾≠0Q^*(\bar z)=\overline{Q(z)}\ne0であるから、zˉ\bar zの重複度もmmである。実数の共役は元の実数と等しい。▨

閑話休題:複素数と科学技術の計算 16世紀の三次方程式の解の公式の研究では、実数の解を求める途中に負の数の平方根が現れました。デカルトは1637年の『幾何学』で、曲線の交点に対応しない根を「想像上の」根として分類しています。英語の imaginary という名称にも、この語が残っています。

オイラーの等式eiθ=cos⁡θ+isin⁡θe^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\thetaでθ=π\theta=\piとすると、eiπ+1=0e^{i\pi}+1=0となり、e,i,π,1,0e,i,\pi,1,0の五つの定数が一つの式に現れます。零でない複素数を掛ける操作は、複素数平面上では原点を中心とする回転と拡大縮小に対応します。iiを掛けると反時計回りに90°90°回転し、零を掛けるとすべての点が原点へ移ります。

複素数は、波や振動を扱う計算に用いられます。交流回路の計算では複素インピーダンスを用い、標準的な量子力学では複素数値の波動関数を用います。音や画像の周波数解析にはフーリエ変換とFFTを用い、圧縮には関連するコサイン変換なども用います。マンデルブロ集合も複素数の反復計算によって定まります。複素写像は、翼の周囲の理想化した流れのモデルにも用いられます。

6 計算と条件の確認

実部と虚部を整理するときは、i2i^2が残っていないことを確かめます。複素数の等号は実部と虚部の二つの等号を表すため、両者を別々に比較します。除法では除数が零でないことを、共役根を用いる場合には係数がすべて実数であることを確かめます。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の計算をせよ(答えは a+bia+bi の形で)。

解法の型i2=−1i^2=-1。商は分母の共役を分母・分子に掛ける。

  1. (1)−3+15i−3−3i\dfrac{-3+15i}{-3-3i}
  2. (2)i60i^{60}
  3. (3)(−2+3i)(4−3i)(-2+3i)(4-3i)
  4. (4)i87i^{87}
  5. (5)(2−2i)(1−i)(2-2i)(1-i)
  6. (6)i65i^{65}
  7. (7)(4−i)(−1−i)(4-i)(-1-i)
  8. (8)8−i−1+2i\dfrac{8-i}{-1+2i}
  9. (9)(1+2i)(1−2i)(1+2i)(1-2i)
  10. (10)(1+4i)(3−i)(1+4i)(3-i)

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の計算をせよ(答えは a+bia+bi の形で)。

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