§A1.14不等式の証明

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文字を含む式の大小は、代入する値によって変わります。しかし、値が変わっても一定の範囲を超えない式もあります。たとえば、正の数xxに対するx+1/xx+1/xの最小値を求めるには、いくつかの値を代入して比べるだけでは、すべての正の数についての結論を得ることができません。

不等式の証明では、与えられた条件を満たすどの値についても大小関係が成り立つ理由を示します。この考え方は、不等式を満たす値の範囲を求める学習から、式の値を一様に評価する学習へ進むための基礎です。最大値や最小値を扱う際には、等号が成り立つ値も大切になります。

本記事では、基本的な不等式の証明を通じて、式の大小を評価する考え方を説明します。

1 差の平方による証明

実数A,BA,Bに対してA≥BA\ge Bを示すことは、差A−BA-Bが非負であることを示すことと同値です。差を実数の平方や平方の和に表すと、各平方が非負であることを用いることができます。

命題 1.1. 実数a,ba,bに対して

a2+b2≥2aba^2+b^2\ge2ab

が成り立つ。等号が成り立つこととa=ba=bは同値である。

証明.

a2+b2−2ab=(a−b)2≥0a^2+b^2-2ab=(a-b)^2\ge0

である。差が零となることはa−b=0a-b=0と同値であるから、等号条件はa=ba=bである。▨

2 相加平均と相乗平均の関係

非負実数a,ba,bの相加平均は(a+b)/2(a+b)/2、相乗平均はab\sqrt{ab}です。平方根を用いた差の表示から、二つの平均を比較します。

命題 2.1.a,ba,bを非負実数とする。このとき

a+b2≥ab\frac{a+b}{2}\ge\sqrt{ab}

が成り立つ。等号が成り立つこととa=ba=bは同値である。

証明.a,b≥0a,b\ge0なので、a,b\sqrt a,\sqrt bは非負実数である。命題 1.1をa,b\sqrt a,\sqrt bに適用し、§A1.2 公式 2.4を用いると

a+b≥2ab=2aba+b\ge2\sqrt a\sqrt b=2\sqrt{ab}

を得る。両辺を22で割ると、求める不等式が成り立つ。等号条件はa=b\sqrt a=\sqrt bであり、これはa=ba=bと同値である。▨

例 2.2.x>0x>0とする。xxと1/x1/xはともに正なので、相加平均と相乗平均の関係により

x+1/x2≥x⋅1x=1\frac{x+1/x}{2}\ge\sqrt{x\cdot\frac1x}=1

となる。よってx+1/x≥2x+1/x\ge2である。等号条件はx=1/xx=1/x、すなわちx2=1x^2=1であり、x>0x>0と合わせるとx=1x=1である。x=1x=1で左辺は22となるので、この範囲での最小値は22である。

注意 2.3. 相加平均と相乗平均の関係では、平均を取る二つの数がそれぞれ非負であることが必要である。実数の平方根g(x)\sqrt{g(x)}が定義される条件は、被開平数g(x)g(x)が非負であることであり、変数xxが非負であることとは異なる。たとえばx+1\sqrt{x+1}はx≥−1x\ge-1で定義されるので、x=−1/2x=-1/2でも実数として定まる。

3 二乗による変形と等号条件

命題 3.1.A,BA,Bを非負実数とする。このとき

A≥B⟺A2≥B2A\ge B\quad\Longleftrightarrow\quad A^2\ge B^2

が成り立つ。

証明.A≥BA\ge BならばA−B≥0A-B\ge0、A+B≥0A+B\ge0なので、A2−B2=(A−B)(A+B)≥0A^2-B^2=(A-B)(A+B)\ge0である。逆にA2≥B2A^2\ge B^2とする。A+B>0A+B>0ならば正の数A+BA+Bで差を割ってA−B≥0A-B\ge0を得る。A+B=0A+B=0ならば非負性からA=B=0A=B=0であり、A≥BA\ge Bが成り立つ。▨

二乗を用いて不等式を変形する前に、両辺の非負性を確かめます。平方完成による証明では、どの平方が零になるかによって等号条件を求めます。最大値や最小値を求める場合は、等号条件を満たす値が指定された範囲に存在することも確認します。

4 コーシー・シュワルツの不等式

積の和の平方を、二つの平方和の積で評価します。差の平方による証明では、零成分を含む場合も同じ等号条件で扱います。

命題 4.1 (コーシー・シュワルツの不等式).a,b,x,ya,b,x,yを実数とする。このとき

(a2+b2)(x2+y2)≥(ax+by)2(a^2+b^2)(x^2+y^2)\ge(ax+by)^2

が成り立つ。等号が成り立つこととay=bxay=bxは同値である。

証明. 差を展開すると

(a2+b2)(x2+y2)−(ax+by)2=a2y2+b2x2−2abxy=(ay−bx)2≥0\begin{aligned} (a^2+b^2)(x^2+y^2)-(ax+by)^2 &=a^2y^2+b^2x^2-2abxy\\ &=(ay-bx)^2\ge0 \end{aligned}

となる。差が零となることはay−bx=0ay-bx=0と同値であるから、等号条件はay=bxay=bxである。▨

注意 4.2. 等号条件ay=bxay=bxは(a,b)=(0,0)(a,b)=(0,0)または(x,y)=(0,0)(x,y)=(0,0)の場合も含む。成分の比が定義されない場合があるため、等号条件を常にa:b=x:ya:b=x:yと書くことはできない。

条件として与えられた一次式を、不等式の右辺に現れる積の和に合わせます。

例 4.3. 実数x,yx,yがx+y=1x+y=1を満たすとき、x2+4y2x^2+4y^2の最小値を求める。命題 4.1をx,2y,1,1/2x,2y,1,1/2に適用すると

(x2+4y2)(1+14)≥(x+12⋅2y)2=1(x^2+4y^2)\left(1+\frac14\right) \ge \left(x+\frac12\cdot2y\right)^2=1

である。したがってx2+4y2≥4/5x^2+4y^2\ge4/5である。等号条件はx/2=2yx/2=2y、すなわちx=4yx=4yである。x+y=1x+y=1と合わせるとx=4/5,y=1/5x=4/5,y=1/5となる。この組で等号が成り立つので、最小値は4/54/5である。

問題 4.4. 実数x,yx,yにx+y=1x+y=1とx≠4yx\ne4yを課す。この範囲のすべてのx,yx,yについて

x2+4y2≥cx^2+4y^2\ge c

が成り立つ実数ccのうち、最大のものを求めよ。また、この範囲でx2+4y2x^2+4y^2が最小値をもつかどうかを調べよ。

解答.

x=4/5+tx=4/5+t、y=1/5−ty=1/5-tと書くことができる。条件x≠4yx\ne4yはt≠0t\ne0と同値であり、

x2+4y2=45+5t2x^2+4y^2=\frac45+5t^2

である。したがってc=4/5c=4/5は条件を満たすが、等号を満たす組は存在しない。

c>4/5c>4/5とすると、

t=c−4/510>0t=\sqrt{\frac{c-4/5}{10}}>0

を選んだ組では

x2+4y2=45+c−4/52<cx^2+4y^2=\frac45+\frac{c-4/5}{2}<c

となる。よって求めるccの最大値は4/54/5である。

任意のt≠0t\ne0に対し、ttをt/2t/2に替えた組も条件を満たし、

45+5(t2)2<45+5t2\frac45+5\left(\frac t2\right)^2<\frac45+5t^2

となる。したがって、指定された範囲でx2+4y2x^2+4y^2は最小値をもたない。▨

コーシー・シュワルツの不等式は、平面ベクトルの内積を成分で表した形にも対応します。内積を用いた表示は∣u⃗⋅v⃗∣≤∣u⃗∣∣v⃗∣|\vec u\cdot\vec v|\le|\vec u||\vec v|です。

閑話休題:牛革の伝説と等周不等式 カルタゴを建国したディドー女王に関する伝説では、牛一頭の皮で覆う広さの土地を交渉し、皮を細い帯に切ることで広い土地を得たと伝えられています。この伝説は、境界の長さを定めて面積を最大にする問題を連想させます。ただし、境界の全周の長さを固定する問題と、海岸の一部を境界に用いる問題は区別する必要があります。

平面内の十分に正則な単純閉曲線が囲む領域について、全周の長さをLL、面積をAAとすると

L2≥4πAL^2\ge4\pi A

という等周不等式が成り立ちます。等号が成り立つ境界は円です。等号条件によって、面積を最大にする図形の形が定まります。

空間で固定した体積に対して表面積を最小にする問題では、球が対応する形です。外力や支持枠の影響を無視し、表面張力が一様な単独の泡を考えるモデルでは、表面エネルギーを最小にする球が現れます。これは平面の等周不等式とは対象の異なる主張ですが、等号の形が最適な図形を定めるという点で対応します。

等周問題の厳密な証明には、面積を最大にする図形が存在するかという問題も関係します。シュタイナーの改善手順には最大図形の存在を仮定する問題があり、19世紀にワイエルシュトラスやエドラーによる厳密な証明が与えられました。改善の手順があることと、最大値が実際に達成されることは別の問題です。最大値の存在は、解析の最大値の定理でも扱います。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の式の最小値(または最大値)を、等号成立条件とあわせて求めよ。

解法の型相加相乗平均は a > 0, b > 0 のときに限り a+b ≥\ge 2√(ab)(正であることの確認が必須)。コーシー・シュワルツ (a²+b²)(x²+y²) ≥\ge (ax+by)² は実数全体で成立。等号成立条件を必ず添える

  1. 実数 x, y が x² + y² == 25 を満たすとき、4x + 3y の最大値を、そのときの (x, y) とともに求めよ。

    x2+y2=25のときの 4x+3y の最大値x^{2} + y^{2} = 25 \quad \text{のときの } 4x + 3y \text{ の最大値}
  2. x > 0 のとき、3x + 48/x の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    3x+48x(x>0)3x + \dfrac{48}{x} \quad (x > 0)
  3. x > 1 のとき、x + 16/(x - 1) の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    x+16x−1(x>1)x + \dfrac{16}{x - 1} \quad (x > 1)
  4. 実数 x, y が x² + y² == 169 を満たすとき、12x + 5y の最大値を、そのときの (x, y) とともに求めよ。

    x2+y2=169のときの 12x+5y の最大値x^{2} + y^{2} = 169 \quad \text{のときの } 12x + 5y \text{ の最大値}
  5. x > 2 のとき、x + 4/(x - 2) の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    x+4x−2(x>2)x + \dfrac{4}{x - 2} \quad (x > 2)
  6. x > 0、y > 0 のとき、(x + 3y)(1/x + 3/y) の最小値を、等号が成り立つ条件とともに求めよ。

    (x+3y)(1x+3y)(x>0, y>0)\left(x + 3y\right)\left(\dfrac{1}{x} + \dfrac{3}{y}\right) \quad (x > 0,\ y > 0)
  7. x > 0 のとき、x + 4/x の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    x+4x(x>0)x + \dfrac{4}{x} \quad (x > 0)
  8. x > 3 のとき、x + 4/(x - 3) の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    x+4x−3(x>3)x + \dfrac{4}{x - 3} \quad (x > 3)
  9. x > 0、y > 0、x + y == 5 のとき、4/x + 9/y の最小値を、等号が成り立つ (x, y) とともに求めよ。

    4x+9y(x>0, y>0, x+y=5)\dfrac{4}{x} + \dfrac{9}{y} \quad (x > 0,\ y > 0,\ x + y = 5)
  10. x > 1 のとき、x + 4/(x - 1) の最小値を、等号が成り立つ x の値とともに求めよ。

    x+4x−1(x>1)x + \dfrac{4}{x - 1} \quad (x > 1)

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の式の最小値(または最大値)を、等号成立条件とあわせて求めよ。

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