1 対称性・巡回性・交代性
実数係数の三文字の多項式について、文字を入れ替えたときの変化を調べます。
定義 1.1 (対称式・巡回式・交代式).F(a,b,c)を実数係数多項式とする。三文字の任意の入れ替えで変わらない多項式を 対称式 (symmetric polynomial) という。
F(a,b,c)=F(b,c,a)=F(c,a,b)を満たす多項式を 巡回式 (cyclic polynomial) という。任意の二文字を交換すると符号が反転する多項式を 交代式 (alternating polynomial) という。
2 等しい文字の代入と差の因子
二文字を等しくしたときに式全体が恒等的に零になる場合には、文字の差を因子として取り出します。
命題 2.1. 実数係数多項式F(a,b,c)が恒等式F(a,a,c)=0を満たすならば、a−bはFの因子である。さらにFが巡回式ならば、実数係数多項式H(a,b,c)が存在して
F(a,b,c)=(a−b)(b−c)(c−a)H(a,b,c)と表される。
証明.Fをbの冪についてF(a,b,c)=∑k=0mfk(a,c)bkと書く。F(a,a,c)=0より
F(a,b,c)=k=1∑mfk(a,c)(bk−ak)である。各k≥1について
bk−ak=(b−a)j=0∑k−1bk−1−jajなので、F=(a−b)Qと書くことができる。この計算は、他の文字の多項式を係数にしても一次因子を取り出す因数定理の計算である。
Fが巡回式なら、F(a,c,c)=F(c,c,a)=0である。したがって
0=(a−c)Q(a,c,c)となり、Q(a,c,c)=0である。実数係数多項式の積では、各変数の最高次項を順に比較すると、零でない二つの多項式の積は零にならない。ここでは零でない因子a−cを消去した。同じ冪差の計算でQ=(b−c)Rと書くことができる。
またF(a,b,a)=F(a,a,b)=0より
0=(a−b)(b−a)R(a,b,a)である。零でない因子(a−b)(b−a)を消去してR(a,b,a)=0を得る。cの冪差について同じ計算を用いると、R=(c−a)Hと書くことができる。ゆえに主張の分解を得る。▨
3 交代式と商の形
因子を取り出した後は、次数と文字交換の性質から商を求めます。
各項に含まれる文字の指数の和を、その項の全次数といいます。すべての項の全次数が同じである多項式を同次式といいます。たとえばa2bとabcは、ともに全次数3の項です。
例 3.1. 実数係数多項式
F=a2(b−c)+b2(c−a)+c2(a−b)を因数分解する。Fは巡回式であり、a=bを代入すると
a2(a−c)+a2(c−a)+c2(a−a)=0となる。命題 2.1によりD=(a−b)(b−c)(c−a)が因子である。FとDはともに三次同次式であるから、商は定数である。a=1,b=2,c=3ではF=−2,D=2なので商は−1であり
F=−(a−b)(b−c)(c−a)を得る。代入は商の定数を決めるために用い、因子の存在は恒等式から得た。
例 3.2. 実数係数多項式
G=a3(b−c)+b3(c−a)+c3(a−b)を因数分解する。巡回和を表す記号を用いるとG=∑cyca3(b−c)と書く。Gは巡回式で、a=bの代入で零になるので、命題 2.1によりG=DHと書くことができる。ただしD=(a−b)(b−c)(c−a)である。Gは四次同次式、Dは三次同次式なので、Hは一次同次式である。
a,bを交換するとGの三項は符号を反転し、Dも符号を反転する。他の二文字の交換も、巡回置換とa,bの交換を組み合わせると符号を反転する。したがって任意の二文字交換τに対して
(−D)H(τ(a,b,c))=−DH(a,b,c)である。零でないDを消去すると、Hは対称式である。一次同次式H=ua+vb+wcが対称であることからu=v=wとなり、H=k(a+b+c)と書くことができる。
c=0を代入すると
G=ab(a−b)(a+b),D=−ab(a−b)なのでk=−1である。よって
G=−(a−b)(b−c)(c−a)(a+b+c)である。右辺の最初の三因子を展開してから−(a+b+c)を掛けると、a3b−a3c+b3c−b3a+c3a−c3bとなり、元の式と一致する。
定理 3.3. 実数係数の対称多項式F(a,b,c)が恒等式F(a,a,c)=0を満たすとする。このとき、実数係数多項式K(a,b,c)が存在して
F(a,b,c)=(a−b)2(b−c)2(c−a)2K(a,b,c)と表される。
証明.D=(a−b)(b−c)(c−a)と置く。Fは巡回式でもあるので、命題 2.1によりF=DHと書くことができる。任意の二文字交換τに対してFは変わらず、Dは符号を変える。したがって
DH(a,b,c)=−DH(τ(a,b,c))となる。零でない多項式Dを消去するとH(τ(a,b,c))=−H(a,b,c)を得る。よってHは交代式である。
特にH(a,a,c)=−H(a,a,c)であるから、実数係数の範囲でH(a,a,c)=0となる。巡回置換は二文字交換を二回行って実現することができるので、Hは巡回式でもある。再び命題 2.1を用いるとH=DKと書くことができる。したがってF=D2Kである。▨
4 対称な差の平方和
対称性を調べる方法は、不等式の差を非負量へ変形する際にも用います。
例 4.1. 実数a,b,cに対してa2+b2+c2≥ab+bc+caを示す。差を二倍すると
2(a2+b2+c2−ab−bc−ca)=(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2≥0である。右辺が零となることは三つの差がすべて零となることと同値なので、等号条件はa=b=cである。二文字を交換しても変わらない差を、差の平方の和へ変形している。
5 因数分解の手順
因数分解を行う際には、次の順で式の構造を確かめます。
- 式がどの文字の入れ替えで変わらないかを確認します。
- a=b、b=cなど、二文字を等しくする条件を代入します。
- 式全体が恒等的に零になることを示します。
- 因数定理の計算を適用する文字と、係数として扱う数や式の範囲を明示します。
- 巡回性を用いて、残る差の因子を取り出します。
- 次数、商の対称性、数値代入から残る商を求めます。
- 得られた因子の積を展開して、元の式と一致することを確かめます。
6 演習
問題 6.1.a2(b−c)+b2(c−a)+c2(a−b)の因数分解を、全体の展開を行わずに示せ。
解答.
式は巡回不変であり、a=bを代入すると零になる。命題 2.1により三つの差の積D=(a−b)(b−c)(c−a)が因子である。次数がともに三なので商は定数である。(a,b,c)=(1,2,3)では元の式が−2、D=2であるから、商は−1である。▨
問題 6.2.∑cyca4(b−c)が(a−b)(b−c)(c−a)で割り切れることを示し、商を求めよ。
解答.
T=a4(b−c)+b4(c−a)+c4(a−b)は巡回不変であり、a=bを代入すると零になる。命題 2.1によりT=DHと書くことができる。T,Dはそれぞれ五次と三次の同次式なのでHは二次同次式である。任意の二文字交換でT,Dがともに符号を反転するため、商は対称である。二次同次対称式の各二乗項の係数は等しく、各異なる二文字の積の係数も等しいので
H=u(a2+b2+c2)+v(ab+bc+ca)と書くことができる。c=0では
T=ab(a3−b3)=ab(a−b)(a2+ab+b2),D=−ab(a−b)であるからu=v=−1である。ゆえに商は−(a2+b2+c2+ab+bc+ca)である。▨
問題 6.3. 巡回式F(a,b,c)が恒等式F(a,a,c)=0を満たすとき、Fが三因子の積(a−b)(b−c)(c−a)で割り切れる理由を、三つの因子が定数以外の共通因数をもたないことに触れて説明せよ。
解答.
a−b,b−c,c−aは互いに定数倍でない一次式なので、定数以外の共通因数はない。積の因子を実際に順に取り出すには、F=(a−b)Qとした後にb=cを代入する。巡回性から(a−c)Q(a,c,c)=0となるので、零でないa−cを消去してQ=(b−c)Rを得る。さらにc=aを代入すると(a−b)(b−a)R(a,b,a)=0となるので、R=(c−a)Hを得る。したがってF=(a−b)(b−c)(c−a)Hである。▨
問題 6.4.a2+b2+c2≥ab+bc+caの等号条件を、平方和への分解から求めよ。
解答.
差の二倍は(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2である。各平方が非負なので、和が零となることはa−b=b−c=c−a=0と同値である。したがって等号条件はa=b=cである。▨
問題 6.5. 実数係数多項式
4(a2+b2+c2−ab−bc−ca)3−(2a−b−c)2(2b−c−a)2(2c−a−b)2を、対称性と二文字を等しくする代入を用いて因数分解せよ。
解答.
与えられた多項式をFとする。文字を交換すると最初の括弧は変わらず、後半の三つの平方因子は並べ替わるので、Fは対称式である。a=bを代入すると
a2+b2+c2−ab−bc−ca=(a−c)2であり、
(2a−b−c)(2b−c−a)(2c−a−b)=−2(a−c)3である。したがってF(a,a,c)=4(a−c)6−4(a−c)6=0となる。
定理 3.3により(a−b)2(b−c)2(c−a)2はFの因子である。Fの次数は高くても6であり、この因子の次数は6なので、商は定数である。(a,b,c)=(1,0,−1)を代入すると、F=108、差の平方の積は4となる。よって
F=27(a−b)2(b−c)2(c−a)2である。
u=a−b、v=b−cと置くと
a2+b2+c2−ab−bc−ca=u2+uv+v2であり、後半の平方前の積は(2u+v)(v−u)(−u−2v)である。元の式をu,vで展開すると
27u4v2+54u3v3+27u2v4=27u2v2(u+v)2となり、得た三つの差の平方の積と一致する。▨
競技問題でも、二文字を等しくしたときに零になるかどうかと、文字の入れ替えに対する変化を先に調べると、因子を取り出す手順を定めることができます。