§A1.11分数式の計算と定義域

最終更新

数の分数では、通分や約分によって計算しやすい形を選びます。分母に文字を含む式でも同じ計算を行いますが、式の形だけを見ると、代入することができる値を見失うことがあります。たとえば、x−2(x−2)(x+1)\dfrac{x-2}{(x-2)(x+1)}を約分すると分母からx−2x-2が消えるため、元の式でx=2x=2を除いていたことが見えにくくなります。

多項式の商で表される分数式では、計算とともに、式が定義される範囲である定義域を扱います。多項式の変形から分数式の変形へ進むには、等しい値を表す式を求めることと、その等しさが成り立つ範囲を保つことの両方が必要です。

本記事では、定義域に注意しながら分数式を計算する考え方を説明します。

1 分数式と定義域

実数係数の多項式A(x),B(x)A(x),B(x)を用い、BBが零多項式でないとき、A(x)/B(x)A(x)/B(x)の形の式を分数式といいます。変数xxは実数とし、分数式の定義域をB(x)≠0B(x)\ne0となる実数の範囲とします。

注意 1.1. 約分するのは、分子と分母に共通する非零の因子である。和や差の中の項どうしを消すことはできない。

例 1.2. 分数式x−2(x−2)(x+1)\dfrac{x-2}{(x-2)(x+1)}の定義域はx≠2,−1x\ne2,-1である。この範囲ではx−2≠0x-2\ne0なので

x−2(x−2)(x+1)=1x+1,x≠2,−1\frac{x-2}{(x-2)(x+1)}=\frac1{x+1},\qquad x\ne2,-1

と約分することができる。

注意 1.3. 約分後の式1/(x+1)1/(x+1)だけならx=2x=2でも定義されるが、元の分数式ではx=2x=2は除外される。元の分数式と等しい式として扱うときは、約分後も元の定義域を保つ。

2 四則計算

分数式の加法と減法では、分母の共通の倍式を用いて通分します。乗法では分子どうしと分母どうしを掛けます。除法では除数の逆数を掛けますが、除数が定義されることに加え、除数が零でないことも必要です。

公式 2.1.A,B,C,DA,B,C,Dを実数係数多項式とし、B,DB,Dは零多項式でないとする。実数xxがB(x)≠0B(x)\ne0、D(x)≠0D(x)\ne0を満たすとき

A(x)B(x)+C(x)D(x)=A(x)D(x)+B(x)C(x)B(x)D(x),A(x)B(x)−C(x)D(x)=A(x)D(x)−B(x)C(x)B(x)D(x),A(x)B(x)C(x)D(x)=A(x)C(x)B(x)D(x)\begin{aligned} \frac{A(x)}{B(x)}+\frac{C(x)}{D(x)}&=\frac{A(x)D(x)+B(x)C(x)}{B(x)D(x)},\\ \frac{A(x)}{B(x)}-\frac{C(x)}{D(x)}&=\frac{A(x)D(x)-B(x)C(x)}{B(x)D(x)},\\ \frac{A(x)}{B(x)}\frac{C(x)}{D(x)}&=\frac{A(x)C(x)}{B(x)D(x)} \end{aligned}

が成り立つ。さらにC(x)≠0C(x)\ne0ならば

A(x)B(x)÷C(x)D(x)=A(x)D(x)B(x)C(x)\frac{A(x)}{B(x)}\div\frac{C(x)}{D(x)} =\frac{A(x)D(x)}{B(x)C(x)}

が成り立つ。各式は、変形前の条件を満たす範囲で扱う。

例 2.2.x≠0,−1x\ne0,-1とする。二つの分母の共通の倍式x(x+1)x(x+1)を用いると

1x+1x+1=(x+1)+xx(x+1)=2x+1x(x+1)\frac1x+\frac1{x+1} =\frac{(x+1)+x}{x(x+1)} =\frac{2x+1}{x(x+1)}

となる。

例 2.3.x≠1,−1x\ne1,-1とする。通分して分子の差を取ると

1x−1−1x+1=(x+1)−(x−1)(x−1)(x+1)=2x2−1\frac1{x-1}-\frac1{x+1} =\frac{(x+1)-(x-1)}{(x-1)(x+1)} =\frac2{x^2-1}

となる。引く分子x−1x-1の全体に負号を掛ける。

例 2.4.x≠1,−1x\ne1,-1とする。分子と分母の積を作り、非零の因子を約分すると

x−1x+1x+2x−1=(x−1)(x+2)(x+1)(x−1)=x+2x+1,x≠1,−1\frac{x-1}{x+1}\frac{x+2}{x-1} =\frac{(x-1)(x+2)}{(x+1)(x-1)} =\frac{x+2}{x+1},\qquad x\ne1,-1

となる。結果の式では分母からx−1x-1が消えても、元の除外点x=1x=1は残る。

例 2.5. 分数式xx−1÷x+1x−2\dfrac{x}{x-1}\div\dfrac{x+1}{x-2}を計算する。二つの分母が零でない条件はx≠1,2x\ne1,2であり、除数が零でない条件はx≠−1x\ne-1である。この範囲で

xx−1÷x+1x−2=xx−1x−2x+1=x(x−2)(x−1)(x+1),x≠1,2,−1\frac{x}{x-1}\div\frac{x+1}{x-2} =\frac{x}{x-1}\frac{x-2}{x+1} =\frac{x(x-2)}{(x-1)(x+1)},\qquad x\ne1,2,-1

となる。逆数を取るとx−2x-2は分子へ移るが、元の除数はx=2x=2で定義されないので、この除外点を保つ。

問題 2.6.ttを実数の定数とする。実数xxについて

x2−t2x2−1÷x−tx−1\frac{x^2-t^2}{x^2-1}\div\frac{x-t}{x-1}

を簡単にし、元の式の定義域を求めよ。さらに、定義域から除く異なる実数の個数が変わるttの値をすべて求めよ。

解答.

二つの分数式の分母が零でない条件はx≠1,−1x\ne1,-1である。この範囲で除数(x−t)/(x−1)(x-t)/(x-1)が零でない条件はx≠tx\ne tである。したがって元の式の定義域は

x∈R,x≠1,−1,tx\in\R,\qquad x\ne1,-1,t

である。この範囲では

x2−t2x2−1÷x−tx−1=(x−t)(x+t)(x−1)(x+1)x−1x−t=x+tx+1\begin{aligned} \frac{x^2-t^2}{x^2-1}\div\frac{x-t}{x-1} &=\frac{(x-t)(x+t)}{(x-1)(x+1)}\frac{x-1}{x-t}\\ &=\frac{x+t}{x+1} \end{aligned}

となる。

t=1t=1またはt=−1t=-1では、除外する異なる実数は1,−11,-1の2個である。t≠1,−1t\ne1,-1では、除外する異なる実数は1,−1,t1,-1,tの3個である。特にt=1t=1では、計算結果をさらに11と書くことができるが、元の式の定義域は引き続きx≠1,−1x\ne1,-1である。▨

3 方程式と不等式の定義域

分数式を含む方程式では、分母が零でない範囲を定めてから、両辺に分母の共通の倍式を掛けます。不等式の場合には、掛ける式が正か負かによって不等号の向きが変わるため、符号も確かめます。

例 3.1. 実数xxについてx−1x+2>0\dfrac{x-1}{x+2}>0を解く。定義域はx≠−2x\ne-2である。分子が零になるx=1x=1と、分母が零になるx=−2x=-2で区間を分ける。

x<−2x<-2では分子と分母がともに負なので商は正である。−2<x<1-2<x<1では分子が負で分母が正なので商は負である。x>1x>1では両者が正なので商は正である。x=1x=1では商は零であり、厳密不等号を満たさない。したがって解は

(−∞,−2)∪(1,∞)(-\infty,-2)\cup(1,\infty)

である。

計算の結果には、約分や逆数によって式から消えた除外点も含めて、元の定義域を書き添えます。分母を払うときは、方程式の同値性と、不等式で掛ける式の符号をそれぞれ確かめます。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の分数式を約分して既約な形にせよ。あわせて、式が定義されない x の値も答えよ。

解法の型分子・分母を因数分解し、共通因数で割ってから除外値を確認する。

  1. 例題 1

    x2+6x+8x2+3x−4\dfrac{x^{2}+6x+8}{x^{2}+3x-4}
  2. 例題 2

    x2+x−6x2+4x+3\dfrac{x^{2}+x-6}{x^{2}+4x+3}
  3. 例題 3

    x2−3x+2x2−x\dfrac{x^{2}-3x+2}{x^{2}-x}
  4. 例題 4

    x2−2x−15x2+5x+6\dfrac{x^{2}-2x-15}{x^{2}+5x+6}
  5. 例題 5

    x2−2x−3x2+6x+5\dfrac{x^{2}-2x-3}{x^{2}+6x+5}
  6. 例題 6

    x2+x−2x2−5x+4\dfrac{x^{2}+x-2}{x^{2}-5x+4}
  7. 例題 7

    x2+x−2x2−6x+5\dfrac{x^{2}+x-2}{x^{2}-6x+5}
  8. 例題 8

    x2+4x+3x2+2x−3\dfrac{x^{2}+4x+3}{x^{2}+2x-3}
  9. 例題 9

    x2+2x−15x2+4x−5\dfrac{x^{2}+2x-15}{x^{2}+4x-5}
  10. 例題 10

    x2−6x+5x2−9x+20\dfrac{x^{2}-6x+5}{x^{2}-9x+20}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の分数式を約分して既約な形にせよ。あわせて、式が定義されない x の値も答えよ。

演習を読み込み中…