1 加法定理
証明. 単位円上にP=(cosα,sinα)、Q=(cosβ,sinβ)をとる。座標の差から
PQ2=2−2(cosαcosβ+sinαsinβ).O,P,Qが一直線上にない場合、三角形OPQの余弦定理§A2.1 定理 3.2により
PQ2=2−2cos(α−β)が得られる。実際、∠POQはα−βを整数回の一周と符号の反転によって[0,π]へ移した角であり、単位円のx軸対称性と周期により余弦は変わらない。二つの距離の式を比較すると余弦の差の公式を得る。P=Qの場合には右辺の積の和が1、P=−Qの場合には−1であり、それぞれcos(α−β)と一致する。したがって差の公式はすべての実数角で成り立つ。
単位円の対称性からcos(−β)=cosβ、sin(−β)=−sinβである。差の公式のβを−βに替えると余弦の和の公式を得る。また、単位円上の座標の交換からcos(π/2−t)=sint、sin(π/2−t)=costである。よって
sin(α+β)=cos((π/2−α)−β)=sinαcosβ+cosαsinβ.βを−βに替えると正弦の差の公式を得る。▨
証明. 正弦の加法定理を余弦の加法定理で割り、分子と分母をcosαcosβで割る。分母条件からcos(α±β)=0なので左辺も定義される。▨
例 1.3.15∘=45∘−30∘、75∘=45∘+30∘なので
sin15∘=46−2,sin75∘=46+2.b=4、c=2、間の角A=75∘の三角形の面積は
S=21bcsinA=6+2となる。角の和の計算によって、三角形の面積を根号で表すことができる。
2 倍角と半角
証明. 加法定理でβ=αと置くと倍角公式を得る。sin2α+cos2α=1を用いて余弦の式を変形する。倍角公式のαをα/2に替え、平方の項について解くと半角公式を得る。▨
例 2.2.α=4π/3ではα/2=2π/3が第2象限に属する。したがって
sin2α=21−(−1/2)=23,cos2α=−21+(−1/2)=−21.半角公式から平方根をとる際には、半角の象限によって符号を選ぶ。平方の公式は、三角関数の積分で次数を下げる際にも用いる。
3 積和公式と和積公式
証明. 正弦の和と差の加法定理を足すと第1式、引くと第2式を得る。余弦の和と差の加法定理を足すと第3式、差の式から和の式を引くと第4式を得る。それぞれ両辺を2で割る。▨
証明. 積和公式にα=(u+v)/2、β=(u−v)/2を代入する。このときα+β=u、α−β=vである。▨
例 3.3.
sin75∘+sin15∘=2sin45∘cos30∘=26.和積公式により、二つの正弦の和を基本角の積として求めることができる。
4 三角関数の合成
証明.(a/R)2+(b/R)2=1なので、指定された正弦と余弦をもつ角φが存在する。加法定理を展開すると
Rsin(θ+φ)=Rcosφsinθ+Rsinφcosθ=asinθ+bcosθ.sin(θ+φ)は[−1,1]のすべての値をとるため、最大値と最小値も従う。▨
例 4.3.
3sinθ+cosθ=2sin(θ+π/6).実数全体での最大値は2で、θ=π/3+2kπ(k∈Z)で達する。最小値は−2で、θ=4π/3+2kπで達する。角の範囲が制限される場合には、これらの角が範囲内にあるかを確認する必要がある。
閑話休題:波の重ね合わせと三角関数 振動をcos(ω1t)、cos(ω2t)で表すモデルでは、和積公式によって
cos(ω1t)+cos(ω2t)=2cos2(ω1−ω2)tcos2(ω1+ω2)tを得ます。ω1とω2が近い場合、差に対応する因子は和に対応する因子よりゆっくり変化します。この式は、二つの音のうなりを表すモデルになります。
AM変調では、例えば(1+mcosωmt)cosωctのように、信号によって搬送波の振幅を変えます。積和公式により、実数m,ωm,ωc,tに対して
(1+mcosωmt)cosωct=cosωct+2mcos((ωc+ωm)t)+2mcos((ωc−ωm)t)が成り立ちます。弦の振動、光や電波などの周期的な現象にも、三角関数を使うモデルがあります。
フーリエ級数では、異なる振動数の正弦と余弦の和によって関数を展開します。関数の種類と収束の条件を確かめる必要があり、任意の波形が無条件に展開されるという主張ではありません。音声処理における正弦波の分解も、このようなモデルの応用です。
複素数を用いると、オイラーの公式eiθ=cosθ+isinθとei(α+β)=eiαeiβの実部・虚部の比較によって加法定理を表すことができます。また、和積公式に似た関数方程式から三角関数を特徴づける結果もあります。その定式化には、関数方程式の形、連続性などの仮定、定数倍や双曲線関数を含めるかという範囲の指定が必要です。