1 行列で表す一次変換
定義 1.1 (2×2行列による一次変換). ベクトルの和と実数倍を保つ平面から自身への写像を、平面の一次変換 (linear transformation of the plane) という。実数a,b,c,d,x,yに対して
A=(acbd),x=(xy),TA(x)=Ax=(ax+bycx+dy)と定める。
命題 1.2. 任意の2×2実行列Aに対してTAは平面の一次変換である。反対に、任意の平面の一次変換Tは、ただ一つの2×2実行列AによってT=TAと表される。
e1=(10),e2=(01)とすると、T(e1),T(e2)が、それぞれAの第1列と第2列になる。
証明. 列ベクトルx,yと実数rをとる。成分を計算すると
A(x+y)=Ax+Ay,A(rx)=rAxとなるので、TAはベクトルの和と実数倍を保つ。
次に、ベクトルの和と実数倍を保つ一次変換Tをとり、
T(e1)=(ac),T(e2)=(bd)と書く。任意の列ベクトルはx=xe1+ye2と表されるから、
T(x)=xT(e1)+yT(e2)=(ax+bycx+dy)=TA(x)となる。Tを表す行列の2列はT(e1),T(e2)でなければならないので、その行列は一意である。▨
定義 1.3. 2×2実行列
A=(acbd),B=(prqs)の 積 (matrix product) を
AB=(ap+brcp+draq+bscq+ds)と定める。
定理 1.4. 2×2実行列A,Bに対し、列ベクトルへTBを作用させてからTAを作用させる合成は
TA∘TB=TABである。したがって、先に作用する変換の行列は積の右側に置かれる。
証明.A=(acbd)、B=(prqs)とする。TA,TBはベクトルの和と実数倍を保つので、合成TA∘TBも和と実数倍を保つ。命題 1.2により、この合成を表す行列の第1列と第2列は、それぞれ
A(pr)=(ap+brcp+dr),A(qs)=(aq+bscq+ds)である。したがって、合成を表す行列はABであり、TA∘TB=TABである。▨
2 回転と代表的な変換
定理 2.1. 原点を中心として列ベクトルを反時計回りに角θだけ回転する一次変換の行列は
Rθ=(cosθsinθ−sinθcosθ)である。また、任意の実数α,βに対して
RαRβ=Rα+βが成り立つ。
証明. 任意の非零列ベクトル(xy)をr(cosφsinφ)(r>0、φ∈R)と表す。角θだけ回転したベクトルはr(cos(φ+θ)sin(φ+θ))である。加法定理により、その成分は
(xcosθ−ysinθxsinθ+ycosθ)となる。零ベクトルは回転しても零である。したがって、回転はすべての列ベクトルに対してRθの作用と一致する。
単位ベクトルe1,e2をとる。それぞれの偏角は0,2πであるから、角θだけ回転すると、
e1⟼(cosθsinθ),e2⟼(cos(2π+θ)sin(2π+θ))=(−sinθcosθ).この二つの像を列に並べるとRθを得る。
行列積を計算すると、
RαRβ=(cosαcosβ−sinαsinβsinαcosβ+cosαsinβ−(cosαsinβ+sinαcosβ)cosαcosβ−sinαsinβ).三角関数の加法定理を各成分に用いると、この行列はRα+βに等しい。▨
例 2.3. 実数θに対して、原点を通りx軸の正の向きと角θをなす直線をℓθとする。直線ℓθに関する対称移動の行列を求める。
角−θの回転によって直線ℓθはx軸に移る。続いてx軸に関する対称移動を行い、角θだけ回転すると、もとの直線ℓθに関する対称移動となる。回転は距離と直角を保つので、直線に平行な成分はもとに戻り、直線に垂直な成分だけが反転する。
x軸に関する対称移動の行列をSとすると、求める行列は
Sθ=RθSR−θである。c=cosθ、s=sinθとおいて計算すると、
Sθ=(cs−sc)(100−1)(c−ssc)=(c2−s22cs2css2−c2)=(cos2θsin2θsin2θ−cos2θ).たとえばθ=π/4では、直線はy=xであり、行列は(0110)となる。したがって、この対称移動は点(x,y)を点(y,x)へ移す。
問題 2.4. 任意の実数α,βに対して、原点を通りx軸の正の向きと角α,βをなす直線を、それぞれℓα,ℓβとする。直線ℓαに関する対称移動を行った後に、直線ℓβに関する対称移動を行う合成の行列と回転角を求めよ。対称移動の順序を逆にした場合の回転角も求めよ。
解答.
例 2.3で求めた行列を用いると、合成の行列はSβSαである。加法定理により、
SβSα=(cos2βcos2α+sin2βsin2αsin2βcos2α−cos2βsin2αcos2βsin2α−sin2βcos2αsin2βsin2α+cos2βcos2α)=(cos(2β−2α)sin(2β−2α)−sin(2β−2α)cos(2β−2α))=R2(β−α).したがって、合成は原点を中心とする反時計回りの角2(β−α)の回転である。順序を逆にすると、α,βを入れ替えた積SαSβ=R2(α−β)となる。回転角は2(α−β)=−2(β−α)であり、いずれの角も2πの整数倍を加えた角と同じ回転を表す。▨
3 複素数の積との対応
定理 3.1. 複素数x+iyにu+ivを掛ける変換は、列ベクトル(xy)に行列
(uv−vu)を掛ける一次変換と一致する。特にu2+v2=1ならば、ある実数θによってu=cosθ、v=sinθと表され、この行列はRθである。
証明. 複素数の積を展開すると、
(u+iv)(x+iy)=(ux−vy)+i(vx+uy)となる。実部と虚部を列に並べると、
(ux−vyvx+uy)=(uv−vu)(xy)を得る。u2+v2=1の場合には点(u,v)が単位円上にあるので、u=cosθ、v=sinθを満たす実数θが存在し、行列はRθに等しい。▨
4 逆変換、面積、向き
定理 4.1.A=(acbd)に対してdetA=ad−bcと定める。二つの列ベクトルu=(pq)、v=(rs)が作る平行四辺形の符号付き面積をps−qrとすると、Au,Avが作る符号付き面積は
(detA)(ps−qr)である。
detA=0であることとTAに逆変換が存在することは同値である。detA>0ならば向きは保たれ、detA<0ならば向きは反転する。u,vが一直線上にない場合、面積の比は∣detA∣である。detA=0の場合、平面全体の像は一つの直線または原点に潰れる。
証明.Au=(ap+bqcp+dq)、Av=(ar+bscr+ds)と書く。この二つの列ベクトルが作る符号付き面積を展開すると、
(ap+bq)(cr+ds)−(cp+dq)(ar+bs)=(ad−bc)(ps−qr)となる。したがって、符号付き面積にはdetAが掛かる。符号付き面積の符号は二辺の向きを表し、その絶対値は通常の面積を表すので、向きと面積比についての主張も従う。
detA=0とする。このとき
A−1=ad−bc1(d−c−ba)と置いて両側から掛けると、A−1A=AA−1=(1001)となる。よってTA−1はTAの逆変換である。
detA=0とする。第1列(ac)が零ベクトルでなければ、第2列(bd)は第1列の実数倍である。実際、a=0ならばad=bcから第2列は第1列のb/a倍であり、a=0ならばc=0かつb=0であるから第2列は第1列のd/c倍である。第1列が零ベクトルならば、像は第2列の実数倍だけからなる。したがって、detA=0のとき、像は一つの直線または原点であり、平面全体にはならない。逆変換が存在すればTAは平面全体への全射になるので、detA=0の場合には逆変換が存在しない。▨
2×2行列は現行の高等学校の学習指導要領には含まれない内容ですが、本記事では回転を積として計算するための基礎として扱いました。一般の次元の線形写像、固有値、対角化、行列式の一般論は扱いません。