1 直角三角形の三角比
直角三角形の鋭角0∘<θ<90∘に対して、斜辺は直角の対辺、対辺はθの向かいの辺、隣辺はθに接する斜辺以外の辺です。
定義 1.1 (三角比). 直角三角形の鋭角θに対して、正弦 (sine)、余弦 (cosine)、正接 (tangent) をそれぞれ
sinθ=斜辺対辺,cosθ=斜辺隣辺,tanθ=隣辺対辺と定める。同じ鋭角をもつ直角三角形は相似であるから、各比は三角形の大きさによらず角θだけで定まる。
例 1.2. 冒頭の図ではAB=4を固定している。したがって
BC=4tanθ,AC=cosθ4.θ=45∘ならBC=4、AC=42である。角だけでは辺の絶対的な長さは定まらず、長さを求めるにはAB=4のような尺度が必要である。
2 基本値と鈍角への拡張
正三角形の一辺を2として高さを下ろすと、三平方の定理§A5.4 定理 1.1により高さは3です。また、直角をはさむ辺がともに1の二等辺直角三角形の斜辺は2です。辺の比から次の値を得ます。
0∘≤θ≤180∘では、原点を中心とする半径1の上半円上で、正のx軸から角θをなす点を(x,y)とします。sinθ=y、cosθ=x、x=0のときtanθ=y/xと定めると、鋭角での辺の比と一致します。
証明. 半円上の座標はx2+y2=1を満たす。角180∘−θに対応する点は(x,y)をy軸について反転した(−x,y)であるから、正弦は変わらず余弦の符号が変わる。▨
例 2.3.120∘=180∘−60∘であるから
sin120∘=23,cos120∘=−21,tan120∘=−3.鈍角ではx<0、y>0なので、余弦と正接は負となる。端点ではsin0∘=sin180∘=0、cos0∘=1、cos180∘=−1である。90∘ではx=0なので正接は定義されない。
3 三角形の面積と余弦定理
証明.A=(0,0)、B=(c,0)、C=(bcosA,bsinA)と置く。0∘<A<180∘なので、底辺ABに対する高さはbsinA>0である。よってS=bcsinA/2であり、他の2式は底辺を取り替えて得る。▨
定理 3.2 (余弦定理). 三角形ABCの辺a,b,cと対角A,B,Cに対して
a2=b2+c2−2bccosA,b2=c2+a2−2cacosB,c2=a2+b2−2abcosC.
証明.A=(0,0)、B=(c,0)、C=(bcosA,bsinA)と置く。三平方の定理§A5.4 定理 1.1により
a2=(bcosA−c)2+(bsinA)2=b2+c2−2bccosA.他の2式は頂点の名称を取り替えて得る。A=90∘の場合にはcosA=0なので三平方の定理の式に戻る。▨
例 3.3.b=3、c=4、A=120∘の三角形では
a2=9+16−24(−21)=37,a=37.面積はS=3⋅4⋅(3/2)/2=33である。逆にa=37、b=3、c=4が与えられたときには
cosA=2bcb2+c2−a2=−21からA=120∘を得る。
4 正弦定理
定理 4.1 (正弦定理). 三角形ABCの辺a,b,cと対角A,B,C、外接円の半径R>0に対して
sinAa=sinBb=sinCc=2R.
証明. 面積の3表示をabc/2で割るとsinA/a=sinB/b=sinC/cを得る。外接円の中心をO=(u,v)とし、A=(0,0)、B=(c,0)、C=(bcosA,bsinA)と置く。OA2=OB2からu=c/2である。OA2=OC2を展開すると
2ubcosA+2vbsinA=b2,v=2sinAb−ccosA.sinA>0なので除算は可能である。余弦定理定理 3.2により
R2=u2+v2=4sin2Ac2sin2A+(b−ccosA)2=4sin2Aa2.R,a,sinAは正であるから2R=a/sinAを得る。▨
例 4.2.A=30∘、B=45∘、a=2の三角形では
C=105∘,b=sin30∘2sin45∘=22,R=2sin30∘2=2.正弦定理を使う際には、各辺とその対角を組にする。
例 4.3. 三角形ABCでa=BC=2、b=CA=2、A=30∘とする。正弦定理により
sinB=absinA=22.0∘<B<180∘なので、上半円上の対応する二点からB=45∘または135∘を得る。どちらの場合もA+B<180∘であり、残りの角はそれぞれC=105∘、15∘となる。
辺c=ABは、余弦定理によって
2=4+c2−23c,c=3−1またはc=3+1を満たす。両方の長さについて実際に三角形が存在する。A=(0,0)、C=(3,1)、B=(c,0)と置くと、c>0であり、CA=2、A=30∘、BC2=(c−3)2+1=2となる。c=3+1の場合はB=45∘、c=3−1の場合はB=135∘である。
したがって、二辺とその一方の対角が同じでも、三角形の残りの辺と角は一通りに定まるとは限らない。
閑話休題:行けない場所までの距離を測る 三角比を用いた測量では、既知の長さと観測した角から、直接測ることが難しい長さを求めます。紀元前3世紀、エラトステネスは、離れた2つの町で夏至の正午に太陽が作る影の角度がわずかに違うことに気づき、その角度差と町の間の距離だけから地球の周囲の長さを推定しました。距離や角度の見積りには不確かさもありますが、地上の観測だけで地球の大きさに迫ったのです。同じ発想は近代の三角測量——基線と角度から地形を割り出す——に発展しました。伊能忠敬の全国測量は、導線法を主に用いながら、天文観測なども組み合わせて日本地図を作り上げました。
空へ目を向けると、三角比は宇宙の距離計にもなります。地球が太陽のまわりを公転して位置を変えると、近くの星は遠くの星に対してわずかに動いて見えます(年周視差)。地球の公転軌道を基線として、この小さな角度から星までの距離を計算することができ、距離の単位「パーセク」はこの視差角に由来します。カーナビのGPSも、複数の衛星までの距離から現在地を割り出す測位です。三角比による距離の計算と、衛星までの距離による測位とでは、観測する量と必要な仮定が異なります。