§A2.13複素数平面

最終更新

複素数を平面上の点として表すと、数の計算を図形の変化として考えることができます。たとえば、非零の複素数に虚数単位iiを掛けると、その点は原点からの距離を保ったまま反時計回りに直角だけ回転します。一般の掛け算や割り算についても、積や商が距離と方向をどのように変えるかを明らかにする必要があります。

複素数平面では、非零の複素数を原点からの距離と方向の角によって表し、その表示を極形式と呼びます。極形式は、回転と拡大・縮小を数の計算で扱うための基本的な方法です。また、累乗根が平面上のどこに並ぶかという問いも、距離と角の関係として捉えることができます。

本記事では、複素数の極形式と、それを用いた計算や図形の解釈について解説します。

1 複素数平面と極形式

定義 1.1 (複素数平面). 複素数z=x+iyz=x+iy(x,y∈Rx,y\in\R、i2=−1i^2=-1)を点(x,y)(x,y)に対応させた平面を 複素数平面 (complex plane) と呼ぶ。実部xxを横軸、虚部yyを縦軸にとる。同じ複素数を、原点から点(x,y)(x,y)へのベクトルとしても表す。絶対値は∣z∣=x2+y2|z|=\sqrt{x^2+y^2}であり、そのベクトルの長さに等しい。

定義 1.2 (極形式). 非零の複素数z=x+iyz=x+iyに対し、r=∣z∣>0r=|z|>0とし、cos⁡θ=x/r\cos\theta=x/r、sin⁡θ=y/r\sin\theta=y/rを満たす実数角θ\thetaを 偏角 (argument) と呼ぶ。表示

z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)z=r(\cos\theta+i\sin\theta)

を 極形式 (polar form) と呼ぶ。偏角は整数kkによる2kπ2k\piの差を除いて定まり、arg⁡z\arg zと書く。z=0z=0には偏角を定めない。

例 1.3.z=3+iz=\sqrt3+iではr=2r=2、cos⁡θ=3/2\cos\theta=\sqrt3/2、sin⁡θ=1/2\sin\theta=1/2なので、偏角の一つはπ/6\pi/6である。

下の図では、絶対値と偏角による点の位置を示しています。

2 積と商による回転・拡大・縮小

公式 2.1.zj=rj(cos⁡θj+isin⁡θj)z_j=r_j(\cos\theta_j+i\sin\theta_j)(j=1,2j=1,2、rj>0r_j>0)に対して

z1z2=r1r2(cos⁡(θ1+θ2)+isin⁡(θ1+θ2)),z_1z_2=r_1r_2\bigl(\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\bigr),z1z2=r1r2(cos⁡(θ1−θ2)+isin⁡(θ1−θ2)).\frac{z_1}{z_2}=\frac{r_1}{r_2}\bigl(\cos(\theta_1-\theta_2)+i\sin(\theta_1-\theta_2)\bigr).

固定した非零複素数w=ρ(cos⁡α+isin⁡α)w=\rho(\cos\alpha+i\sin\alpha)を掛ける操作は、原点を中心に角α\alphaだけ回転し、原点からの距離をρ\rho倍する操作である。wwで割る操作は、角−α-\alphaの回転と距離の1/ρ1/\rho倍に対応する。これらの操作では原点は原点に移る。

証明. 積を展開してi2=−1i^2=-1と加法定理§A2.3 定理 1.1を用いると

(cos⁡θ1+isin⁡θ1)(cos⁡θ2+isin⁡θ2)=cos⁡(θ1+θ2)+isin⁡(θ1+θ2)(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)(\cos\theta_2+i\sin\theta_2) =\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)

となる。またcos⁡2θ2+sin⁡2θ2=1\cos^2\theta_2+\sin^2\theta_2=1により

1z2=1r2(cos⁡θ2−isin⁡θ2)=1r2(cos⁡(−θ2)+isin⁡(−θ2)).\frac1{z_2}=\frac1{r_2}(\cos\theta_2-i\sin\theta_2) =\frac1{r_2}(\cos(-\theta_2)+i\sin(-\theta_2)).

積の公式をz1z_1と1/z21/z_2に用いると商の公式を得る。固定したwwに対する公式により距離と偏角の変化が示されるので、回転と拡大・縮小の解釈も従う。▨

例 2.2.z=3+i=2(cos⁡(π/6)+isin⁡(π/6))z=\sqrt3+i=2(\cos(\pi/6)+i\sin(\pi/6))にiiを掛けると

iz=−1+3i=2(cos⁡(2π/3)+isin⁡(2π/3)).iz=-1+\sqrt3i=2(\cos(2\pi/3)+i\sin(2\pi/3)).

絶対値は22のままで、点は反時計回りにπ/2\pi/2回転する。また

1+i3+i=(1+i)(3−i)4=3+14+i3−14\frac{1+i}{\sqrt3+i} =\frac{(1+i)(\sqrt3-i)}4 =\frac{\sqrt3+1}{4}+i\frac{\sqrt3-1}{4}

の絶対値は2/2\sqrt2/2、偏角の一つはπ/4−π/6=π/12\pi/4-\pi/6=\pi/12である。商では距離の比と角の差を用いる。

問題 2.3. 相異なる複素数a,ba,bに対応する点をA,B\mathrm A,\mathrm Bとする。三角形ABC\mathrm{ABC}が正三角形となるような点C\mathrm Cに対応する複素数ccをすべて求め、得られた二つの値を回転によって説明せよ。

解答.

複素数の差b−ab-aはベクトルAB→\overrightarrow{\mathrm{AB}}に対応し、∣b−a∣|b-a|は辺AB\mathrm{AB}の長さである。b−a≠0b-a\ne0なので

w=c−ab−aw=\frac{c-a}{b-a}

とおくことができる。三辺の長さが等しい条件は、商の絶対値の公式により

∣w∣=1,∣w−1∣=1|w|=1,\qquad |w-1|=1

と同値である。w=u+ivw=u+iv(u,v∈Ru,v\in\R)と書けば

u2+v2=1,(u−1)2+v2=1u^2+v^2=1,\qquad (u-1)^2+v^2=1

となる。二つの式を引くとu=1/2u=1/2であり、第一の式からv=±3/2v=\pm\sqrt3/2を得る。したがって

c=a+(b−a)(12±32i)c=a+(b-a)\left(\frac12\pm\frac{\sqrt3}{2}i\right)

が全解である。逆に、二つの値はいずれも∣c−a∣=∣c−b∣=∣b−a∣>0|c-a|=|c-b|=|b-a|>0を満たすので、正三角形の頂点となる。b−a≠0b-a\ne0であるため二つの値は異なる。

係数1/2±(3/2)i1/2\pm(\sqrt3/2)iは、絶対値が11、偏角がそれぞれπ/3,−π/3\pi/3,-\pi/3の複素数である。したがって、ベクトルAB→\overrightarrow{\mathrm{AB}}を反時計回りまたは時計回りにπ/3\pi/3回転し、始点をA\mathrm Aとすることで、二つの頂点を得る。▨

3 ド・モアブルの定理と累乗根

定理 3.1 (ド・モアブルの定理).z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)z=r(\cos\theta+i\sin\theta)、r>0r>0に対して、任意の整数mmについて

zm=rm(cos⁡mθ+isin⁡mθ)z^m=r^m(\cos m\theta+i\sin m\theta)

が成り立つ。m≥1m\ge1ならz=0z=0の累乗も00である。

証明. 正整数mmでは、積の公式を繰り返し用いると、絶対値はrmr^m、偏角はmθm\thetaとなる。m=0m=0では両辺が11である。m=−q<0m=-q<0では、z−1=r−1(cos⁡(−θ)+isin⁡(−θ))z^{-1}=r^{-1}(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta))のqq乗に正整数の場合を用いる。▨

定理 3.2. 正整数n≥1n\ge1と非零複素数w=R(cos⁡φ+isin⁡φ)w=R(\cos\varphi+i\sin\varphi)(R>0R>0)に対して、zn=wz^n=wの解は、相異なる次のnn個である。

zk=R1/n(cos⁡φ+2kπn+isin⁡φ+2kπn),k=0,1,…,n−1.z_k=R^{1/n}\left(\cos\frac{\varphi+2k\pi}{n}+i\sin\frac{\varphi+2k\pi}{n}\right), \qquad k=0,1,\ldots,n-1.

w=0w=0なら、解はz=0z=0だけである。

証明. 各zkz_kをnn乗すると、ド・モアブルの定理と周期性によりwwを得る。0≤j,k<n0\le j,k<nで二つの根が同じなら、偏角の差2(k−j)π/n2(k-j)\pi/nが2π2\piの整数倍である。したがってk−jk-jはnnの倍数であり、この範囲ではk=jk=jに限る。逆にzn=w≠0z^n=w\ne0とすると、z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)z=r(\cos\theta+i\sin\theta)、r>0r>0と書くことができる。絶対値と偏角を比較してrn=Rr^n=R、nθ=φ+2ℓπn\theta=\varphi+2\ell\pi(ℓ∈Z\ell\in\Z)を得る。ℓ=nq+k\ell=nq+k、0≤k<n0\le k<nと書くと、θ=(φ+2kπ)/n+2qπ\theta=(\varphi+2k\pi)/n+2q\piなのでz=zkz=z_kである。よって全解を列挙した。zn=0z^n=0の場合には、∣z∣n=0|z|^n=0からz=0z=0が従う。▨

注意 3.3. 偏角の値を一つに選ぶ場合には、0≤θ<2π0\le\theta<2\piや−π<θ≤π-\pi<\theta\le\piなどの範囲を指定する。累乗根の公式でφ\varphiをφ+2π\varphi+2\piに替えても、根の列挙の順序が変わるだけで解の集合は同じである。非零の数のnn乗根はnn個あるが、零のnn乗根は零だけである。

例 3.4.w=8i=8(cos⁡(π/2)+isin⁡(π/2))w=8i=8(\cos(\pi/2)+i\sin(\pi/2))の3乗根は、絶対値22、偏角π/6,5π/6,3π/2\pi/6,5\pi/6,3\pi/2の三点なので

z=3+i,−3+i,−2iz=\sqrt3+i,\quad -\sqrt3+i,\quad -2i

である。w=1w=1ではR=1,φ=0R=1,\varphi=0として

zk=cos⁡2kπn+isin⁡2kπn(k=0,…,n−1)z_k=\cos\frac{2k\pi}{n}+i\sin\frac{2k\pi}{n}\quad(k=0,\ldots,n-1)

を得る。これらは単位円上に角の間隔2π/n2\pi/nで並び、n≥3n\ge3の場合には正nn角形の頂点となる。n=1n=1では点11だけ、n=2n=2では二点1,−11,-1である。

閑話休題:正17角形の作図と累乗根n≥3n\ge3のとき、1のnn乗根は正nn角形の頂点です。定規とコンパスによる正多角形の作図は、その頂点の座標を四則演算と平方根の有限回の操作で表すことができるか、という代数の問題として扱います。

ガウスは正17角形が作図可能であることを示しました。cos⁡(2π/17)\cos(2\pi/17)を平方根の入れ子で表すには、1の17乗根を組にまとめ、その和が満たす2次方程式を段階的に解きます。17−1=16=2417-1=16=2^4はこの分解に関係しますが、次数が16であることだけでは、任意の代数的な数を平方根で表すことができるとは結論されません。必要なのは、根の組の和を順に求めることのできる2次方程式の連鎖です。正多角形の作図可能性の分類は、累乗根の入れ替えの構造を扱うガロア理論(§E8 体論入門)につながります。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の零でない複素数を極形式で表せ。偏角は 0≤θ<2π0\leq\theta<2\pi とする。

解法の型z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)z=r(\cos\theta+i\sin\theta) とおく。まず r=∣z∣r=|z| を求め、次に偏角を選ぶ。

  1. (1)z=−3+iz = -\sqrt{3} + i
  2. (2)z=1−iz = 1 - i
  3. (3)z=−3z = -3
  4. (4)z=3+iz = \sqrt{3} + i
  5. (5)z=1+3iz = 1 + \sqrt{3}i

正の整数 n に対する次の値を計算せよ。底の複素数は零でない。

解法の型極形式に直し、指数を偏角に掛ける。

  1. (1)(1−i)4(1-i)^{4}
  2. (2)(1+3i)3(1+\sqrt{3}i)^{3}
  3. (3)(1+i)8(1+i)^{8}
  4. (4)(1+i)6(1+i)^{6}
  5. (5)(1+i)4(1+i)^{4}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

演習を読み込み中…

演習を読み込み中…

前提記事