1 複素数平面と極形式
定義 1.1 (複素数平面). 複素数z=x+iy(x,y∈R、i2=−1)を点(x,y)に対応させた平面を 複素数平面 (complex plane) と呼ぶ。実部xを横軸、虚部yを縦軸にとる。同じ複素数を、原点から点(x,y)へのベクトルとしても表す。絶対値は∣z∣=x2+y2であり、そのベクトルの長さに等しい。
例 1.3.z=3+iではr=2、cosθ=3/2、sinθ=1/2なので、偏角の一つはπ/6である。
下の図では、絶対値と偏角による点の位置を示しています。
2 積と商による回転・拡大・縮小
証明. 積を展開してi2=−1と加法定理§A2.3 定理 1.1を用いると
(cosθ1+isinθ1)(cosθ2+isinθ2)=cos(θ1+θ2)+isin(θ1+θ2)となる。またcos2θ2+sin2θ2=1により
z21=r21(cosθ2−isinθ2)=r21(cos(−θ2)+isin(−θ2)).積の公式をz1と1/z2に用いると商の公式を得る。固定したwに対する公式により距離と偏角の変化が示されるので、回転と拡大・縮小の解釈も従う。▨
例 2.2.z=3+i=2(cos(π/6)+isin(π/6))にiを掛けると
iz=−1+3i=2(cos(2π/3)+isin(2π/3)).絶対値は2のままで、点は反時計回りにπ/2回転する。また
3+i1+i=4(1+i)(3−i)=43+1+i43−1の絶対値は2/2、偏角の一つはπ/4−π/6=π/12である。商では距離の比と角の差を用いる。
問題 2.3. 相異なる複素数a,bに対応する点をA,Bとする。三角形ABCが正三角形となるような点Cに対応する複素数cをすべて求め、得られた二つの値を回転によって説明せよ。
解答.
複素数の差b−aはベクトルABに対応し、∣b−a∣は辺ABの長さである。b−a=0なので
w=b−ac−aとおくことができる。三辺の長さが等しい条件は、商の絶対値の公式により
∣w∣=1,∣w−1∣=1と同値である。w=u+iv(u,v∈R)と書けば
u2+v2=1,(u−1)2+v2=1となる。二つの式を引くとu=1/2であり、第一の式からv=±3/2を得る。したがって
c=a+(b−a)(21±23i)が全解である。逆に、二つの値はいずれも∣c−a∣=∣c−b∣=∣b−a∣>0を満たすので、正三角形の頂点となる。b−a=0であるため二つの値は異なる。
係数1/2±(3/2)iは、絶対値が1、偏角がそれぞれπ/3,−π/3の複素数である。したがって、ベクトルABを反時計回りまたは時計回りにπ/3回転し、始点をAとすることで、二つの頂点を得る。▨
3 ド・モアブルの定理と累乗根
証明. 正整数mでは、積の公式を繰り返し用いると、絶対値はrm、偏角はmθとなる。m=0では両辺が1である。m=−q<0では、z−1=r−1(cos(−θ)+isin(−θ))のq乗に正整数の場合を用いる。▨
証明. 各zkをn乗すると、ド・モアブルの定理と周期性によりwを得る。0≤j,k<nで二つの根が同じなら、偏角の差2(k−j)π/nが2πの整数倍である。したがってk−jはnの倍数であり、この範囲ではk=jに限る。逆にzn=w=0とすると、z=r(cosθ+isinθ)、r>0と書くことができる。絶対値と偏角を比較してrn=R、nθ=φ+2ℓπ(ℓ∈Z)を得る。ℓ=nq+k、0≤k<nと書くと、θ=(φ+2kπ)/n+2qπなのでz=zkである。よって全解を列挙した。zn=0の場合には、∣z∣n=0からz=0が従う。▨
例 3.4.w=8i=8(cos(π/2)+isin(π/2))の3乗根は、絶対値2、偏角π/6,5π/6,3π/2の三点なので
z=3+i,−3+i,−2iである。w=1ではR=1,φ=0として
zk=cosn2kπ+isinn2kπ(k=0,…,n−1)を得る。これらは単位円上に角の間隔2π/nで並び、n≥3の場合には正n角形の頂点となる。n=1では点1だけ、n=2では二点1,−1である。
閑話休題:正17角形の作図と累乗根n≥3のとき、1のn乗根は正n角形の頂点です。定規とコンパスによる正多角形の作図は、その頂点の座標を四則演算と平方根の有限回の操作で表すことができるか、という代数の問題として扱います。
ガウスは正17角形が作図可能であることを示しました。cos(2π/17)を平方根の入れ子で表すには、1の17乗根を組にまとめ、その和が満たす2次方程式を段階的に解きます。17−1=16=24はこの分解に関係しますが、次数が16であることだけでは、任意の代数的な数を平方根で表すことができるとは結論されません。必要なのは、根の組の和を順に求めることのできる2次方程式の連鎖です。正多角形の作図可能性の分類は、累乗根の入れ替えの構造を扱うガロア理論(§E8 体論入門)につながります。