1 和・差・実数倍
平面または空間の点Aから点Bへの変位を、ベクトルABと呼びます。始点と終点を同じだけ平行移動した矢印は同じベクトルを表します。始点と終点が一致するときは零ベクトル0となり、向きは定まりません。零でないベクトルでは、大きさと向きが同じであることが、同じ変位を表す条件です。
和a+bは、bを平行移動して始点をaの終点に合わせたとき、aの始点からbの終点への変位です。同じ始点に置いた二つのベクトルが平行でない場合には、和は平行四辺形の対角線に対応します。
実数kに対する実数倍kaは、k>0ならaと同じ向き、k<0なら逆向きで、大きさが∣k∣∣a∣となるベクトルです。k=0またはa=0なら零ベクトルです。差はa−b=a+(−b)と定めます。長さや質量のように、向きを含まず実数で表す量をスカラーと呼びます。
下の図は、同じ始点に置いたa,bと、その和を示しています。bの先端を動かすと、和の終点も成分の変化に合わせて動きます。
2 平面と空間の成分表示
直交座標を用いると、ベクトルの成分は終点の座標から始点の座標を引いた値です。たとえば平面の二点A=(xA,yA)、B=(xB,yB)に対してAB=(xB−xA,yB−yA)です。空間ではz座標の差も加えます。各成分は、対応する座標軸の正の向きを基準にした符号付きの変位を表します。
証明. 矢印をつないだ変位では、各座標の変化量が加算される。反対向きの変位では各変化量の符号が反転し、実数倍では各変化量がk倍になる。長さは三平方の定理で求める。空間では、まずxy平面への射影の長さの平方がa12+a22となり、その長さと第3成分に三平方の定理を用いる。実数倍の長さの式は、平方和からk2をくくり出して得られる。▨
3 位置ベクトルと一次結合
定義 3.1 (位置ベクトル). 原点Oを固定したとき、点Aの 位置ベクトル (position vector) はOAである。点Aの座標がその成分となる。
OA+AB=OBなので、AB=OB−OAです。
定義 3.2 (一次結合). 同じ平面または空間のベクトルa1,…,anに対して、実数c1,…,cnを用いた和
c1a1+⋯+cnanを、それらのベクトルの 一次結合 (linear combination) と呼ぶ。各ciを係数と呼ぶ。
例 3.3. 平面でA=(1,2)、B=(4,0)とすると
AB=(4,0)−(1,2)=(3,−2),2OA−OB=(2,4)−(4,0)=(−2,4).原点をOとし、点AをベクトルBA=(−3,2)だけ平行移動した点をCとする。その位置ベクトルは
OC=OA+BA=2OA−OB=(−2,4)である。したがって、平行移動後の点の座標はC=(−2,4)である。
空間でa=(1,−2,3)、b=(2,1,−1)とすると
2a+b=(2,−4,6)+(2,1,−1)=(4,−3,5).和、差、一次結合は平面でも空間でも各成分について計算する。
問題 3.4. 平面または空間で原点Oを定め、点A,Bの位置ベクトルをa,bとする。実数r,sを固定し、OP=ra+sbによって点Pを定める。座標軸の向きと単位長さを変えずに原点を任意の点O′へ移したとき、同じ係数を用いた一次結合
rO′A+sO′Bが、原点O′のどの選び方に対しても同じ点Pの位置ベクトルを表すための必要十分条件を求めよ。また、二点間の変位ABが原点の選び方によらないことを示せ。
解答.
OO′=hとおくと、原点O′からの位置ベクトルは
O′A=a−h,O′B=b−h,O′P=ra+sb−hである。一方、同じ係数を用いた一次結合は
r(a−h)+s(b−h)=ra+sb−(r+s)hとなる。したがって、この一次結合がO′Pに等しい条件は
(r+s−1)h=0である。r+s=1なら、任意のhに対して等式が成り立つ。逆に、任意の原点O′に対して等式が成り立つなら、O′=Oと選ぶことでh=0となるため、r+s−1=0を得る。よって、求める必要十分条件はr+s=1である。
二点間の変位は
AB=O′B−O′A=(b−h)−(a−h)=b−aとなり、原点の選び方によらない。たとえば中点の位置ベクトル(a+b)/2は係数の和が1なので、原点を変えても同じ中点を表す。これに対して、a+bを位置ベクトルとする点は、原点を別の点へ変えて同じ和を計算すると別の点になる。▨