§A2.9平面・空間ベクトルの演算と成分表示

最終更新

点AAから点BBへ進み、続いて点BBから点CCへ進むと、全体としては点AAから点CCへ移動したことになります。この関係を計算で扱うには、各移動の距離だけでなく向きも表す必要があります。点の位置の変化を表すベクトルを用いると、移動をつなぐ関係を和として書くことができます。

ベクトルは、図形における移動と座標の計算を結び付ける基本的な概念です。平面と空間では座標の数が異なりますが、各座標の変化量を成分として扱う方法は共通です。本記事では、ベクトルの演算を図形と成分の両方から説明します。

1 和・差・実数倍

平面または空間の点A\mathrm Aから点B\mathrm Bへの変位を、ベクトルAB→\overrightarrow{\mathrm{AB}}と呼びます。始点と終点を同じだけ平行移動した矢印は同じベクトルを表します。始点と終点が一致するときは零ベクトル0⃗\vec0となり、向きは定まりません。零でないベクトルでは、大きさと向きが同じであることが、同じ変位を表す条件です。

和a⃗+b⃗\vec a+\vec bは、b⃗\vec bを平行移動して始点をa⃗\vec aの終点に合わせたとき、a⃗\vec aの始点からb⃗\vec bの終点への変位です。同じ始点に置いた二つのベクトルが平行でない場合には、和は平行四辺形の対角線に対応します。

実数kkに対する実数倍ka⃗k\vec aは、k>0k>0ならa⃗\vec aと同じ向き、k<0k<0なら逆向きで、大きさが∣k∣∣a⃗∣|k||\vec a|となるベクトルです。k=0k=0またはa⃗=0⃗\vec a=\vec0なら零ベクトルです。差はa⃗−b⃗=a⃗+(−b⃗)\vec a-\vec b=\vec a+(-\vec b)と定めます。長さや質量のように、向きを含まず実数で表す量をスカラーと呼びます。

下の図は、同じ始点に置いたa⃗,b⃗\vec a,\vec bと、その和を示しています。b⃗\vec bの先端を動かすと、和の終点も成分の変化に合わせて動きます。

2 平面と空間の成分表示

直交座標を用いると、ベクトルの成分は終点の座標から始点の座標を引いた値です。たとえば平面の二点A=(xA,yA)\mathrm A=(x_A,y_A)、B=(xB,yB)\mathrm B=(x_B,y_B)に対してAB→=(xB−xA,yB−yA)\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(x_B-x_A,y_B-y_A)です。空間ではzz座標の差も加えます。各成分は、対応する座標軸の正の向きを基準にした符号付きの変位を表します。

公式 2.1. 実成分のベクトルa⃗=(a1,a2)\vec a=(a_1,a_2)、b⃗=(b1,b2)\vec b=(b_1,b_2)と実数kkに対して

a⃗+b⃗=(a1+b1,a2+b2),a⃗−b⃗=(a1−b1,a2−b2),ka⃗=(ka1,ka2).\vec a+\vec b=(a_1+b_1,a_2+b_2),\qquad \vec a-\vec b=(a_1-b_1,a_2-b_2),\qquad k\vec a=(ka_1,ka_2).

空間の三成分でも、各成分に同じ演算を行う。大きさは

∣a⃗∣=a12+a22(平面),∣a⃗∣=a12+a22+a32(空間)|\vec a|=\sqrt{a_1^2+a_2^2}\quad\text{(平面)},\qquad |\vec a|=\sqrt{a_1^2+a_2^2+a_3^2}\quad\text{(空間)}

であり、∣ka⃗∣=∣k∣∣a⃗∣|k\vec a|=|k||\vec a|である。

証明. 矢印をつないだ変位では、各座標の変化量が加算される。反対向きの変位では各変化量の符号が反転し、実数倍では各変化量がkk倍になる。長さは三平方の定理で求める。空間では、まずxyxy平面への射影の長さの平方がa12+a22a_1^2+a_2^2となり、その長さと第3成分に三平方の定理を用いる。実数倍の長さの式は、平方和からk2k^2をくくり出して得られる。▨

3 位置ベクトルと一次結合

定義 3.1 (位置ベクトル). 原点O\mathrm Oを固定したとき、点A\mathrm Aの 位置ベクトル (position vector) はOA→\overrightarrow{\mathrm{OA}}である。点A\mathrm Aの座標がその成分となる。

OA→+AB→=OB→\overrightarrow{\mathrm{OA}}+\overrightarrow{\mathrm{AB}}=\overrightarrow{\mathrm{OB}}なので、AB→=OB→−OA→\overrightarrow{\mathrm{AB}}=\overrightarrow{\mathrm{OB}}-\overrightarrow{\mathrm{OA}}です。

定義 3.2 (一次結合). 同じ平面または空間のベクトルa⃗1,…,a⃗n\vec a_1,\ldots,\vec a_nに対して、実数c1,…,cnc_1,\ldots,c_nを用いた和

c1a⃗1+⋯+cna⃗nc_1\vec a_1+\cdots+c_n\vec a_n

を、それらのベクトルの 一次結合 (linear combination) と呼ぶ。各cic_iを係数と呼ぶ。

例 3.3. 平面でA=(1,2)\mathrm A=(1,2)、B=(4,0)\mathrm B=(4,0)とすると

AB→=(4,0)−(1,2)=(3,−2),2OA→−OB→=(2,4)−(4,0)=(−2,4).\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(4,0)-(1,2)=(3,-2),\qquad 2\overrightarrow{\mathrm{OA}}-\overrightarrow{\mathrm{OB}}=(2,4)-(4,0)=(-2,4).

原点をO\mathrm Oとし、点A\mathrm AをベクトルBA→=(−3,2)\overrightarrow{\mathrm{BA}}=(-3,2)だけ平行移動した点をC\mathrm Cとする。その位置ベクトルは

OC→=OA→+BA→=2OA→−OB→=(−2,4)\overrightarrow{\mathrm{OC}} =\overrightarrow{\mathrm{OA}}+\overrightarrow{\mathrm{BA}} =2\overrightarrow{\mathrm{OA}}-\overrightarrow{\mathrm{OB}} =(-2,4)

である。したがって、平行移動後の点の座標はC=(−2,4)\mathrm C=(-2,4)である。

空間でa⃗=(1,−2,3)\vec a=(1,-2,3)、b⃗=(2,1,−1)\vec b=(2,1,-1)とすると

2a⃗+b⃗=(2,−4,6)+(2,1,−1)=(4,−3,5).2\vec a+\vec b=(2,-4,6)+(2,1,-1)=(4,-3,5).

和、差、一次結合は平面でも空間でも各成分について計算する。

問題 3.4. 平面または空間で原点O\mathrm Oを定め、点A,B\mathrm A,\mathrm Bの位置ベクトルをa⃗,b⃗\vec a,\vec bとする。実数r,sr,sを固定し、OP→=ra⃗+sb⃗\overrightarrow{\mathrm{OP}}=r\vec a+s\vec bによって点P\mathrm Pを定める。座標軸の向きと単位長さを変えずに原点を任意の点O′\mathrm O'へ移したとき、同じ係数を用いた一次結合

rO′A→+sO′B→r\overrightarrow{\mathrm{O'A}}+s\overrightarrow{\mathrm{O'B}}

が、原点O′\mathrm O'のどの選び方に対しても同じ点P\mathrm Pの位置ベクトルを表すための必要十分条件を求めよ。また、二点間の変位AB→\overrightarrow{\mathrm{AB}}が原点の選び方によらないことを示せ。

解答.

OO′→=h⃗\overrightarrow{\mathrm{OO'}}=\vec hとおくと、原点O′\mathrm O'からの位置ベクトルは

O′A→=a⃗−h⃗,O′B→=b⃗−h⃗,O′P→=ra⃗+sb⃗−h⃗\overrightarrow{\mathrm{O'A}}=\vec a-\vec h,\qquad \overrightarrow{\mathrm{O'B}}=\vec b-\vec h,\qquad \overrightarrow{\mathrm{O'P}}=r\vec a+s\vec b-\vec h

である。一方、同じ係数を用いた一次結合は

r(a⃗−h⃗)+s(b⃗−h⃗)=ra⃗+sb⃗−(r+s)h⃗r(\vec a-\vec h)+s(\vec b-\vec h) =r\vec a+s\vec b-(r+s)\vec h

となる。したがって、この一次結合がO′P→\overrightarrow{\mathrm{O'P}}に等しい条件は

(r+s−1)h⃗=0⃗(r+s-1)\vec h=\vec0

である。r+s=1r+s=1なら、任意のh⃗\vec hに対して等式が成り立つ。逆に、任意の原点O′\mathrm O'に対して等式が成り立つなら、O′≠O\mathrm O'\ne\mathrm Oと選ぶことでh⃗≠0⃗\vec h\ne\vec0となるため、r+s−1=0r+s-1=0を得る。よって、求める必要十分条件はr+s=1r+s=1である。

二点間の変位は

AB→=O′B→−O′A→=(b⃗−h⃗)−(a⃗−h⃗)=b⃗−a⃗\overrightarrow{\mathrm{AB}} =\overrightarrow{\mathrm{O'B}}-\overrightarrow{\mathrm{O'A}} =(\vec b-\vec h)-(\vec a-\vec h) =\vec b-\vec a

となり、原点の選び方によらない。たとえば中点の位置ベクトル(a⃗+b⃗)/2(\vec a+\vec b)/2は係数の和が11なので、原点を変えても同じ中点を表す。これに対して、a⃗+b⃗\vec a+\vec bを位置ベクトルとする点は、原点を別の点へ変えて同じ和を計算すると別の点になる。▨

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

実ベクトル a⃗,b⃗∈R2\vec a,\vec b\in\mathbb R^2 が次で与えられるとき、指定されたベクトルを成分で表せ。

解法の型成分ごとに計算する

  1. (1)a⃗=(−4,−4), b⃗=(0,2) のとき2a⃗+3b⃗\vec{a} = (-4, -4),\ \vec{b} = (0, 2)\ \text{のとき}\quad 2\vec{a} +3\vec{b}
  2. (2)a⃗=(−3,−3), b⃗=(−3,−3) のとき−a⃗−2b⃗\vec{a} = (-3, -3),\ \vec{b} = (-3, -3)\ \text{のとき}\quad -\vec{a} -2\vec{b}
  3. (3)a⃗=(4,−2), b⃗=(1,−4) のとき−a⃗+3b⃗\vec{a} = (4, -2),\ \vec{b} = (1, -4)\ \text{のとき}\quad -\vec{a} +3\vec{b}
  4. (4)a⃗=(−3,1), b⃗=(4,−2) のとき−a⃗−2b⃗\vec{a} = (-3, 1),\ \vec{b} = (4, -2)\ \text{のとき}\quad -\vec{a} -2\vec{b}
  5. (5)a⃗=(−2,−3), b⃗=(0,−4) のとき2a⃗+b⃗\vec{a} = (-2, -3),\ \vec{b} = (0, -4)\ \text{のとき}\quad 2\vec{a} +\vec{b}
  6. (6)a⃗=(−4,0), b⃗=(−3,−2) のとき3a⃗−2b⃗\vec{a} = (-4, 0),\ \vec{b} = (-3, -2)\ \text{のとき}\quad 3\vec{a} -2\vec{b}
  7. (7)a⃗=(4,−1), b⃗=(1,4) のとき3a⃗−2b⃗\vec{a} = (4, -1),\ \vec{b} = (1, 4)\ \text{のとき}\quad 3\vec{a} -2\vec{b}
  8. (8)a⃗=(2,−4), b⃗=(3,−3) のとき2a⃗+b⃗\vec{a} = (2, -4),\ \vec{b} = (3, -3)\ \text{のとき}\quad 2\vec{a} +\vec{b}
  9. (9)a⃗=(1,1), b⃗=(−3,−3) のとき−a⃗+b⃗\vec{a} = (1, 1),\ \vec{b} = (-3, -3)\ \text{のとき}\quad -\vec{a} +\vec{b}
  10. (10)a⃗=(1,3), b⃗=(3,−4) のとき2a⃗+b⃗\vec{a} = (1, 3),\ \vec{b} = (3, -4)\ \text{のとき}\quad 2\vec{a} +\vec{b}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

実ベクトル a⃗,b⃗∈R2\vec a,\vec b\in\mathbb R^2 が次で与えられるとき、指定されたベクトルを成分で表せ。

演習を読み込み中…

前提記事