§A2.8不等式の表す領域

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直線や円を方程式で表したのに対し、その片側や内部にある点を表すには不等式を用います。たとえば、y>0y>0を満たす点は、xx軸より上にある点です。不等式を満たす点の集合を領域として捉えることによって、座標に対する条件を図形として調べることができます。

領域の中で座標や式の値がどこまで大きくなるかを考えるときには、境界上の点も領域に含まれるかどうかが問題になります。領域は、複数の条件の下で最大値や最小値を求めるための基本的な対象です。本記事では、不等式が表す領域と、その領域上での最大値・最小値を扱います。

1 不等式の領域と境界

不等式の表す領域は、その不等式を満たす実数平面の点(x,y)(x,y)の集合です。y=f(x)y=f(x)を境界とする不等式では、y>f(x)y>f(x)は境界の上側、y<f(x)y<f(x)は下側を表します。円を境界とする場合には、中心(a,b)(a,b)、半径r>0r>0に対して

(x−a)2+(y−b)2<r2(x-a)^2+(y-b)^2<r^2

が内部を、逆向きの>>が外部を表します。左辺が中心からの距離の平方であるためです。

狭義の不等号<,><,>は等号を満たす境界を含みません。≤,≥\le,\geは境界を含みます。図では境界を含むときに実線、含まないときに破線を使います。連立不等式の領域は、各不等式の領域の共通部分です。「または」で結ぶ条件の領域は、各条件の領域の合併です。図の重なった三角形でも、破線上の点は連立不等式を満たしません。

注意 1.1. 直線を境界とする一次不等式では、境界上にない一点を代入すると、どちらの側が条件を満たすかを判定することができる。原点が境界上にあるなら別の点を使う。また、x>2x>2は鉛直線x=2x=2の右側を表し、境界を含まない。境界が鉛直線の場合には、上下ではなく左右を判定する。

2 一次式の等位直線と頂点の値

実係数a,ba,bが(a,b)≠(0,0)(a,b)\ne(0,0)を満たすとき、一次式ax+byax+byが一定値kkをとる点の集合は直線ax+by=kax+by=kです。kkを変えると直線は平行に移動します。a=b=0a=b=0の場合には式が常に00なので、等位集合はk=0k=0なら全平面、k≠0k\ne0なら空集合です。

定理 2.1. 境界が有限個の辺からなる、空でない有界閉多角形領域の上では、実係数a,ba,bに対する一次式f(x,y)=ax+byf(x,y)=ax+byの最大値と最小値は、ともに頂点のいずれかで達成される。係数がともに00の場合も含む。

証明.a=b=0a=b=0ならffは領域全体で00であり、どの頂点でも最大値と最小値を達成する。(a,b)≠(0,0)(a,b)\ne(0,0)の場合、領域をDDとし、任意の点P=(x0,y0)∈D\mathrm P=(x_0,y_0)\in Dを通る直線上の点を

P(t)=(x0+ta,y0+tb)(t∈R)\mathrm P(t)=(x_0+ta,y_0+tb)\qquad(t\in\R)

と置く。この直線とDDの共通部分は、有限個の閉線分と孤立点からなる。実際、直線と各辺との交わりは一点、線分、または空集合である。それらの点と線分の端で直線を区切ると、境界と交わらない各区間は全体が領域内にあるか、全体が領域外にある。辺が有限個で、領域が有界かつ閉であるため、領域内にある部分には有限の端があり、その端も領域に属する。

P\mathrm Pを含む閉線分を共通部分内で両端まで延ばしたものをEF\mathrm E\mathrm Fとし、端をE=P(t−)\mathrm E=\mathrm P(t_-)、F=P(t+)\mathrm F=\mathrm P(t_+)(t−≤0≤t+t_-\le0\le t_+)と置く。孤立点の場合にはt−=t+=0t_-=t_+=0とする。端が領域の内部にあれば線分をその端の先へ延ばすことができるので、両端は境界上にある。

f(P(t))=f(P)+t(a2+b2)f(\mathrm P(t))=f(\mathrm P)+t(a^2+b^2)

より、f(E)≤f(P)≤f(F)f(\mathrm E)\le f(\mathrm P)\le f(\mathrm F)である。

各端は、境界のいずれかの辺UV\mathrm U\mathrm V上にある。U=(xU,yU)\mathrm U=(x_U,y_U)、V=(xV,yV)\mathrm V=(x_V,y_V)と置くと、その辺上の点Q\mathrm Qは、0≤s≤10\le s\le1を用いて

Q=((1−s)xU+sxV,(1−s)yU+syV)\mathrm Q=((1-s)x_U+sx_V,(1-s)y_U+sy_V)

と表され、f(Q)=(1−s)f(U)+sf(V)f(\mathrm Q)=(1-s)f(\mathrm U)+sf(\mathrm V)である。したがってf(Q)f(\mathrm Q)は両端頂点での値の間にある。全頂点での最小値をmm、最大値をMMとすると、m≤f(E)≤f(P)≤f(F)≤Mm\le f(\mathrm E)\le f(\mathrm P)\le f(\mathrm F)\le Mを得る。頂点は有限個で、いずれもDDに属するため、m,Mm,Mをとる頂点がそれぞれ最小値と最大値を達成する。▨

等位直線と平行な辺では、一次式の値は一定です。その辺の両端が最大値をとるなら辺全体も最大値をとります。領域が非有界の場合や境界を含まない場合には、有限な極値を達成するとは限りません。頂点の値を比べる前に、領域と境界の条件を確認します。

3 開領域と閉領域の最大値・最小値

例 3.1. 図の領域はy<−x+4y<-x+4,y<2x+1y<2x+1,y>0y>0の共通部分である。三本の境界の交点は

A=(−12,0),B=(1,3),C=(4,0)\mathrm A=\left(-\frac12,0\right),\qquad \mathrm B=(1,3),\qquad \mathrm C=(4,0)

となる。実際、y=0y=0を二本の斜線に代入するとx=−1/2,4x=-1/2,4を得て、−x+4=2x+1-x+4=2x+1を解くとx=1x=1,y=3y=3を得る。不等号をすべて広義に変えた閉三角形では0≤y≤30\le y\le3であり、最小値00は辺AC\mathrm{AC}上、最大値33は頂点B\mathrm Bで達成される。同じ閉三角形において、一次式x+2yx+2yの値は、頂点A,B,C\mathrm A,\mathrm B,\mathrm Cでそれぞれ−1/2,7,4-1/2,7,4である。したがって定理 2.1により、x+2yx+2yの最小値は−1/2-1/2、最大値は77であり、それぞれ頂点A,B\mathrm A,\mathrm Bで達成される。

もとの開三角形では0<y<30<y<3である。上限については二本の斜線の条件から

y−12<x<4−y,y<3\frac{y-1}{2}<x<4-y,\qquad y<3

と分かる。逆に、任意の0<y<30<y<3に対して(1,y)(1,y)は三つの不等式を満たす。したがってyyのとる値は区間(0,3)(0,3)全体であり、最大値も最小値もない。n=1,2,…n=1,2,\ldotsに対して(1,1/n)(1,1/n)と(1,3−1/n)(1,3-1/n)はともに領域内にあり、yyの値はそれぞれ00と33に近づくが、端の値には達しない。

問題 3.2. 実数平面で

x2+y2≤1,x+y≥1x^2+y^2\le1,\qquad x+y\ge1

を同時に満たす領域を求め、この領域上での2x+y2x+yの最大値と最小値、およびそれらの値をとる点を求めよ。

解答.

境界の円x2+y2=1x^2+y^2=1と直線x+y=1x+y=1の共有点は、y=1−xy=1-xを代入して

x2+(1−x)2=1,2x(x−1)=0x^2+(1-x)^2=1,\qquad 2x(x-1)=0

を解くと、(0,1)(0,1)と(1,0)(1,0)である。領域内ではx≤1x\le1、y≤1y\le1であるため、x+y≥1x+y\ge1から

x≥1−y≥0,y≥1−x≥0x\ge1-y\ge0,\qquad y\ge1-x\ge0

を得る。したがって求める領域は、第一象限の単位円弧と、(0,1)(0,1)と(1,0)(1,0)を結ぶ線分とで囲まれた、境界を含む領域である。

領域内では

2x+y=(x+y)+x≥12x+y=(x+y)+x\ge1

であり、等号が成り立つのはx+y=1x+y=1かつx=0x=0のときに限る。点(0,1)(0,1)は領域に属するので、最小値は11であり、この点だけで達成される。

最大値については

(2x+y)2=5(x2+y2)−(x−2y)2≤5(2x+y)^2 =5(x^2+y^2)-(x-2y)^2 \le5

である。2x+y≥12x+y\ge1なので2x+y≤52x+y\le\sqrt5を得る。等号が成り立つには

x2+y2=1,x=2yx^2+y^2=1,\qquad x=2y

が必要である。x,y≥0x,y\ge0の条件と合わせると、候補は

(x,y)=(25,15)(x,y)=\left(\frac2{\sqrt5},\frac1{\sqrt5}\right)

だけである。この点ではx+y=3/5>1x+y=3/\sqrt5>1であり、領域に属する。よって最大値は5\sqrt5であり、この点だけで達成される。

境界の円と直線の共有点では2x+y2x+yの値は11と22であるが、最大値5\sqrt5はどちらでも達成されない。等位直線2x+y=52x+y=\sqrt5と原点との距離は11であり、この直線は最大値をとる点で単位円に接する。▨

閑話休題:線形計画法とシンプレックス法 一次不等式の制約の下で一次式を最大化・最小化する問題を線形計画問題と呼びます。ダンツィヒが1947年に考案したシンプレックス法は、実行可能領域の頂点間を移動して目的関数の値を改善する方法です。変数が多い場合にも、頂点での極値という性質が計算の根拠になります。航空機の運用、物流、発電、生産などの計画では、多数の制約を一次不等式で表すモデルが用いられます。

ダンツィヒには、大学院の講義で黒板の二つの未解決問題を宿題だと思って持ち帰り、解いて提出したという逸話もあります。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

x,y を実数とする。次の連立不等式が表す非空・有界・閉領域において、z の最大値と、そのときの (x, y) を求めよ。

解法の型領域は多角形。直線 ax + by == z を平行移動して考えると、最大・最小は頂点で起こる

  1. 例題 1

    {x+2y≤8x+y≤6x≥0y≥0z=4x+7y\begin{cases} x+2y \le 8 \\ x+y \le 6 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 4x+7y
  2. 例題 2

    {x+3y≤6x+y≤4x≥0y≥0z=6x+12y\begin{cases} x+3y \le 6 \\ x+y \le 4 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 6x+12y
  3. 例題 3

    {x+y≤52x+y≤6x≥0y≥0z=9x+6y\begin{cases} x+y \le 5 \\ 2x+y \le 6 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 9x+6y
  4. 例題 4

    {x+2y≤8x+y≤6x≥0y≥0z=5x+8y\begin{cases} x+2y \le 8 \\ x+y \le 6 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 5x+8y
  5. 例題 5

    {x+2y≤143x+y≤12x≥0y≥0z=8x+6y\begin{cases} x+2y \le 14 \\ 3x+y \le 12 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 8x+6y
  6. 例題 6

    {x+3y≤243x+y≤24x≥0y≥0z=12x+12y\begin{cases} x+3y \le 24 \\ 3x+y \le 24 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 12x+12y
  7. 例題 7

    {x+y≤62x+y≤8x≥0y≥0z=4x+3y\begin{cases} x+y \le 6 \\ 2x+y \le 8 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 4x+3y
  8. 例題 8

    {x+2y≤4x+y≤3x≥0y≥0z=5x+8y\begin{cases} x+2y \le 4 \\ x+y \le 3 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 5x+8y
  9. 例題 9

    {x+y≤53x+y≤9x≥0y≥0z=5x+3y\begin{cases} x+y \le 5 \\ 3x+y \le 9 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 5x+3y
  10. 例題 10

    {x+3y≤153x+y≤21x≥0y≥0z=10x+6y\begin{cases} x+3y \le 15 \\ 3x+y \le 21 \\ x \ge 0 \\ y \ge 0 \end{cases}\qquad z = 10x+6y

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

x,y を実数とする。次の連立不等式が表す非空・有界・閉領域において、z の最大値と、そのときの (x, y) を求めよ。

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