1 この記事で証明する定理
定理 1.1 (三平方の定理). 非退化な三角形ABCの正の辺長をBC=a、CA=b、AB=cとする。角は通常の角とする。次が成り立つ。
- ∠C=90°ならばa2+b2=c2である。
- ABが最大辺であり、a2+b2=c2ならば∠C=90°である。
a,b>0なので、a2+b2=c2ならばc>aかつc>bです。したがって、逆の最大辺という条件は平方和の等式から従い、二つの主張は直角と平方和の等式の必要十分性を表します。
2 直角三角形と斜辺への垂線
下の図では、頂点Cを半円上で動かして、直角三角形の形の変化を観察することができます。直角の頂点Cから斜辺ABへ下ろした垂線の足をHとしています。三角形ACH、CBH、ABCの相似を、続く証明で用います。
図はA=BとCが直径の端点以外にある非退化な配置を示しています。半円上の有限個の位置での観察は、三平方の等式の証明ではありません。直径に対する円周角が直角であることは、後の§A5.5 系 5.1で証明します。
3 相似による証明
証明.定理 1.1 (1)を示す。∠C=90°とし、Cから斜辺ABへ下ろした垂線の足をHとする。∠A、∠Bは鋭角なので、Hは線分ABの内部にある。
∠CAH=∠BACであり、∠AHC=∠ACB=90°である。よって§A5.1 定理 3.1 (1)により△ACH∼△ABCである。対応する辺の比からABAC=ACAH,すなわちb2=AH⋅c.
∠CBH=∠ABC、∠BHC=∠BCA=90°なので、同じ相似条件により△BCH∼△BACである。対応する辺の比からBABC=BCBH,すなわちa2=BH⋅c.
二式を足すと、AH+BH=AB=cだからa2+b2=(BH+AH)c=c⋅c=c2.▨
4 正方形の面積による証明
証明.定理 1.1 (1)を示す。直角をはさむ二辺の長さをa,b、斜辺の長さをcとする。一辺がa+bの正方形PQRSをとり、辺PQ,QR,RS,SPの内部にそれぞれ点E,F,G,Hを
PE=QF=RG=SH=a,EQ=FR=GS=HP=bとなるようにとる。四隅の三角形PEH,QFE,RGF,SHGは、直角をはさむ二辺がそれぞれa,bであるから、二辺夾角の合同条件によりもとの直角三角形と合同である。したがって、内側の四角形EFGHの四辺はいずれもcである。
もとの直角三角形の二つの鋭角をα,βとすれば、α+β=90°である。点Eにおいて、直線PQと内側の四角形が作る三つの角の和は180°であり、両端の角はα,βである。よって∠HEF=90°となる。他の三つの頂点でも同じ角の計算により直角となるので、EFGHは一辺がcの正方形である。
四隅の三角形と内側の正方形は、内部を重ねずに正方形PQRSを分割する。面積を足し合わせると(a+b)2=4⋅2ab+c2.左辺を展開して2abを両辺から引けば、a2+b2=c2を得る。▨
相似による証明では、各脚の平方を、斜辺とその分割長との積として表しました。面積による証明では、正方形の面積を部分の面積の和として表しました。前者は相似な三角形の辺の比を用い、後者は合同な三角形の配置と面積の加法性を用いています。
5 三平方の定理の逆
証明.定理 1.1 (2)を示す。a2+b2=c2とし、∠C′=90°、B′C′=a、C′A′=bである直角三角形△A′B′C′をとる。定理 1.1 (1)により、その斜辺はA′B′=a2+b2=c2=c=AB.△ABCと△A′B′C′は三辺がそれぞれ等しいので、三辺相等の合同条件により合同である。合同な三角形の対応する角は等しいから∠C=∠C′=90°である。▨
例 5.1. 辺の長さの比が3:4:5である非退化な三角形では、あるt>0によって辺長を3t,4t,5tと書く。(3t)2+(4t)2=(5t)2なので、定理 1.1 (2)により最大辺の向かいの角は直角である。等間隔の結び目によって12区間に分けた伸縮しないロープを用い、結び目の間隔をtとする。ロープの両端を合わせ、3区間、4区間、5区間の部分をそれぞれ一直線に張って三角形の三辺とすれば、長さ3tと4tの辺の間に直角を作ることができる。
6 高さと面積の最大値
問題 6.1. 線分ABの内部に点Hをとり、Hを通りABに垂直な直線上に、Hと異なる点Cをとる。p=AH、q=HB、h=CHとする。三角形ABCがCを直角とする直角三角形であるための必要十分条件がh2=pqであることを示せ。また、斜辺の長さがc>0である直角三角形の面積の最大値と、その値をとる三角形を求めよ。
解答.
∠ACB=90°とする。∠AHC=∠CHB=90°であり、∠CAHと∠BCHはともに90°−∠CBHに等しい。§A5.1 定理 3.1 (1)により△ACH∼△CBHであるから、対応する辺の比はAH/CH=CH/BHとなる。したがってh2=pqである。
逆にh2=pqとする。直角三角形AHC,BHCに定理 1.1 (1)を用いると、
AC2=p2+h2=p(p+q),BC2=q2+h2=q(p+q).二式を足せばAC2+BC2=(p+q)2=AB2である。各辺長は正なのでABは最大辺であり、定理 1.1 (2)により∠ACB=90°となる。
斜辺の長さをcに固定すると、p+q=cである。0≤(p−q)2=(p+q)2−4pq=c2−4h2なので、h≤c/2となる。三角形の面積はch/2であるからc2/4以下であり、等号が成り立つのはp=q=c/2のときである。このときAC2=p(p+q)=BC2なので、三角形は二等辺直角三角形である。実際にp=q=h=c/2として三角形を作れば、既に示した十分性から直角三角形となり、面積はc2/4である。よって最大値はc2/4であり、二等辺直角三角形で達成される。▨