1 融合積の構成
定義 1.1. 群A,B,Cと単射準同型ιA:C→A、ιB:C→Bを取る。自由積A∗Bの標準準同型をjA,jBとし、
N=⟨⟨jA(ιA(c))jB(ιB(c))−1∣c∈C⟩⟩を、表示された元をすべて含む最小の正規部分群とする。群G=(A∗B)/Nを、この二つの単射準同型に沿う融合積 (amalgamated free product) といい、A∗CBと書く。商写像とjA,jBの合成をqA:A→G、qB:B→Gと書く。また、qC=qAιA=qBιBとする。ここで最小の正規部分群は、指定された元を含む正規部分群の交わりとして存在する。
命題 1.2. 融合積G=A∗CBと群Qを取る。準同型fA:A→Q、fB:B→QがfAιA=fBιBを満たすならば、fqA=fA、fqB=fBを満たす準同型f:G→Qがただ一つ存在する。
証明.§E7.9 定理 2.5により、fA,fBを延長する準同型f:A∗B→Qがただ一つ存在する。任意のc∈Cについてf(jA(ιA(c))jB(ιB(c))−1)=1なので、N⊆kerfである。§E7.7 定理 2.4により、fはG上の準同型を一意に誘導する。GはqA(A)とqB(B)で生成されるため、所定の制限を持つ準同型はこの一つに限られる。▨
命題 1.3. 融合積A∗CBは、Aの各元aに対応する記号[a]AとBの各元bに対応する記号[b]Bを生成元とし、関係式
[x]F[y]F=[xy]F(F∈{A,B}, x,y∈F),[ιA(c)]A=[ιB(c)]B(c∈C)を持つ群と同型である。この同型は[a]AをqA(a)、[b]BをqB(b)に移す。
証明. 表示された群をPとする。各因子の乗法関係により、x↦[x]Fは準同型である。実際、[1]F2=[1]Fから[1]F=1も従う。二つの準同型はC上で一致するので、命題 1.2はA∗CB→Pを与える。一方、qA,qBは表示されたすべての関係を満たすので、§E7.9 定理 3.2はP→A∗CBを与える。両合成は各群の生成元を固定するため恒等写像である。▨
2 融合積の正規形
補題 2.2. 融合積G=A∗CBの代表集合TA,TBに関する形式正規形全体をW、評価をEとする。各因子Fの元xに対し、置換RxF:W→Wが存在して
RyF∘RxF=RxyF,R1F=idW,E(RxF(w))=E(w)qF(x)を満たす。また、すべてのc∈CについてRιA(c)A=RιB(c)Bである。
証明.F∈{A,B}を固定する。空であるかF以外の因子で終わる交互代表列pに対し、z∈Fをz=rιF(d)と分解して
Ψp(z)={(p,r;d)(p;d)r=1,r=1と置く。pの後に高々一つのFの代表を持つ形式正規形は、ちょうどΨp(F)の元である。任意の形式正規形について、最後の代表がFに属すれば、その代表を除いた列がpであり、最後の代表をrn、末尾係数をcとしてz=rnιF(c)である。最後の代表がFに属さない場合と代表列が空の場合は、代表列全体がpであり、z=ιF(c)である。したがってWはΨp(F)の非交和であり、各ΨpはFからその部分集合への全単射である。
x∈Fに対して
RxF(Ψp(z))=Ψp(zx)と定める。zxの代表が1になる場合も、次にy∈Fを掛けて非単位代表が現れる場合も、列pは変わらない。結合律(zx)y=z(xy)からRyFRxF=RxyFが従う。またR1F=idWであり、Rx−1FはRxFの逆写像である。分解zx=rιF(d)は因子内の等式なので、評価についてE(RxF(w))=E(w)qF(x)が成り立つ。
h∈Cとする。最後の代表がFに属すればrnιF(c)ιF(h)=rnιF(ch)であり、属さなければιF(c)ιF(h)=ιF(ch)の代表は1である。空の代表列についても後者の計算が成り立つ。ゆえに
RιF(h)F(r1,…,rn;c)=(r1,…,rn;ch)であり、両因子から定まる置換は一致する。▨
証明. 形式正規形全体をW、その評価をE、空の代表列と係数1の組をoとする。補題 2.2の置換に対して
ρF(x)=Rx−1Fと置く。通常の写像の合成を積とする置換群Sym(W)において
ρF(xy)=Ry−1x−1F=Rx−1F∘Ry−1F=ρF(x)ρF(y)であり、ρAιA=ρBιBである。命題 1.2によって準同型ρ:G→Sym(W)を得る。w⋅g=ρ(g−1)(w)と定めれば(w⋅g)⋅h=w⋅(gh)であり、w⋅qF(x)=RxF(w)である。
g∈Gを両因子の元の像の積として書く。基点oにそれらを順に右から作用させると、評価との適合性により、評価がgに等しい形式正規形を得る。逆に、形式正規形w=(r1,…,rn;c)の評価をoに作用させると、各riの掛け込みで異なる因子の代表が一つずつ付加され、最後に係数がcになる。したがってo⋅E(w)=wである。E(w)=E(w′)ならばw=o⋅E(w)=o⋅E(w′)=w′なので、正規形は一意である。▨
系 2.4. 融合積G=A∗CBについて、次が成り立つ。
- 標準準同型qA:A→GとqB:B→Gは単射である。
- n≥1とし、xi∈Fi∖ιFi(C)、Fi∈{A,B}、Fi=Fi+1とする。このときqF1(x1)⋯qFn(xn)=1である。
証明.(1)を示す。x∈Fをx=rιF(c)と書く。qF(x)の正規形は、r=1ならば(r;c)、r=1ならば(;c)である。定理 2.3により、qF(x)=1ならばr=1,c=1なのでx=1である。
(2)を示す。最初のi−1個の元を掛け込んだ正規形の末尾係数をcとする。ιFi(c)xiがιFi(C)に属すれば、xiもこの部分群に属することになり、仮定に反する。したがってιFi(c)xiの代表は非単位元である。因子は交互に変わるため、各段階で代表が一つ増え、最終正規形の代表数はnとなる。定理 2.3により、この元は単位元ではない。▨
例 2.5.C=1ならば、融合積A∗CBの形式正規形は自由積A∗Bの交互簡約語に一致する。実際、代表集合は各因子全体であり、末尾係数は常に1である。
ιA:C→Aが同型ならば、代表集合TAは{1}である。したがって融合積の正規形は(;c)または(r;c)(r∈TB∖{1})であり、qBは全射である。系 2.4 (1)によりqBは同型である。ιBが同型の場合にはqAが同型となる。
3 HNN 拡大の構成
定義 3.1. 群B、部分群U,V≤B、同型θ:U→Vを取る。無限巡回群⟨t⟩とBの自由積を、tut−1θ(u)−1(u∈U)をすべて含む最小の正規部分群で割った群を
HNN 拡大 (HNN extension) といい、H(B,U,V,θ)と書く。標準準同型をq:B→H(B,U,V,θ)とし、tの像もtと書く。この群はq(B)とtで生成され、
tq(u)t−1=q(θ(u))(u∈U)を満たす。Bを基群 (base group)、tを安定文字 (stable letter) という。
命題 3.2. HNN 拡大H=H(B,U,V,θ)と群Qを取る。準同型f:B→Qと元s∈Qが、すべてのu∈Uについてsf(u)s−1=f(θ(u))を満たすならば、Φq=f、Φ(t)=sを満たす準同型Φ:H→Qがただ一つ存在する。
証明.tk↦skは⟨t⟩からQへの準同型である。§E7.9 定理 2.5によって、この準同型とfを延長する準同型Φ:B∗⟨t⟩→Qを得る。仮定からtut−1θ(u)−1∈kerΦなので、§E7.7 定理 2.4はH上の準同型Φを与える。Hはq(B)とtで生成されるため、Φは一意である。▨
命題 3.3. HNN 拡大H(B,U,V,θ)は、Bの各元bに対応する記号[b]と記号tを生成元とし、
[b][c]=[bc](b,c∈B),t[u]t−1=[θ(u)](u∈U)を関係式とする群と同型である。同型は[b]をq(b)に移し、tをtに移す。
証明. 表示された群をPとする。乗法関係によりb↦[b]は準同型であり、残りの関係により命題 3.2を適用してH(B,U,V,θ)→Pを得る。一方、q(b)とtは表示の全関係を満たすので、§E7.9 定理 3.2はP→H(B,U,V,θ)を与える。両合成は生成元を固定するため恒等写像である。▨
4 HNN 拡大の正規形
補題 4.3. HNN 拡大の形式正規形への右掛け込みRa,Tεは置換であり、
Rd∘Ra=Rad,R1=idΩ,T−ε∘Tε=idΩを満たす。また、評価E:Ω→H(B,U,V,θ)に対して
E(Ra(w))=E(w)q(a),E(Tε(w))=E(w)tεである。
証明.w=r1tε1⋯rntεnbを取る。Raは末尾係数だけを変えるので、RdRa=Rad、R1=idΩであり、逆写像はRa−1である。Tεが最後の安定文字を取り消す場合、残る列は元の正規形の一部であり、末尾係数には代表の条件がない。安定文字を付加する場合には、直前が逆符号ならば新しい代表は1でない。したがって、いずれの場合も結果は形式正規形である。
Tεが安定文字を付加したとする。b=rhの分解に対して、付加後の最後の符号はε、末尾係数はφε(h)∈K−εである。次のT−εでの代表は1なので、付加した安定文字が取り消され、末尾係数は
rφ−ε(φε(h))=rh=bに戻る。元のn=0の場合もこの計算が成り立つ。
Tεが安定文字を取り消したとする。元の最後の符号は−εであり、b∈Kεである。取消し後の末尾係数rnφε(b)は、rn∈T−ε、φε(b)∈K−εによる代表分解になっている。n=1ならば安定文字が残っていないため、次のT−εは付加を行う。n>1でεn−1=−εならば同符号なので付加を行う。n>1でεn−1=εならば、元の正規形の条件からrn=1なので付加を行う。いずれもrnt−εbが復元される。両符号についてT−εTε=idΩが成り立つので、T+1とT−1は互いに逆である。
HNN 拡大の定義関係から、h∈Kεに対して
q(h)tε=tεq(φε(h)),t−εq(h)tε=q(φε(h))である。前者は付加の場合、後者は取消しの場合の評価の等式を与える。Raの評価の等式はq(ba)=q(b)q(a)による。▨
補題 4.4. HNN 拡大の形式正規形への右掛け込みに対して、h∈Kεならば
Tε∘Rh=Rφε(h)∘Tεが成り立つ。特に、すべてのu∈Uについて
T−1∘Ru∘T+1=Rθ(u)である。
証明. 形式正規形の末尾係数をb=rk(r∈Tε,k∈Kε)と分解する。bh=r(kh)は同じ代表rを持つため、Rhを先に適用しても、Tεが付加と取消しのどちらを行うかは変わらない。付加の場合、TεRhの結果の末尾係数は
φε(kh)=φε(k)φε(h)であり、これはRφε(h)Tεの末尾係数に等しい。取消しの場合にはb∈Kεであり、両者の末尾係数は
rnφε(bh)=rnφε(b)φε(h)によって等しい。それ以外の代表と符号も一致するので、二つの写像は等しい。
ε=+1、h=θ(u)とすればT+1Rθ(u)=RuT+1である。補題 4.3により、左からT−1を合成すると結論を得る。▨
証明. 形式正規形全体をΩとし、安定文字を含まず末尾係数が1である正規形をoとする。補題 4.3により
f:B→Sym(Ω),f(b)=Rb−1は準同型である。ここで置換の積は通常の写像の合成である。s=T−1と置く。補題 4.4の等式の逆を取ると
sf(u)s−1=T−1Ru−1T+1=Rθ(u)−1=f(θ(u))となる。したがって命題 3.2は、ρq=f、ρ(t)=T−1を満たす準同型ρ:H→Sym(Ω)を与える。w⋅g=ρ(g−1)(w)と定めれば、これは右作用であり、w⋅q(b)=Rb(w)、w⋅tε=Tε(w)となる。
Hはq(B)とtで生成される。補題 4.3の評価の等式により、これらの元を基点oに順に作用させれば、任意の元を表す形式正規形を得る。逆に、形式正規形w=r1tε1⋯rntεnbの評価をoに作用させると、各安定文字の直前の末尾係数はriであり、その代表分解はri⋅1である。逆符号が隣接する場合にはri=1なので、どの段階にも取消しは起きない。末尾のbを掛けるとwそのものとなり、o⋅E(w)=wを得る。E(w)=E(w′)ならばw=o⋅E(w)=o⋅E(w′)=w′なので、一意性が従う。▨
系 4.6. 任意の群B、部分群U,V≤B、同型θ:U→Vに対し、標準準同型q:B→H(B,U,V,θ)は単射である。
証明.b∈Bの像の正規形は、安定文字を含まず末尾係数がbのものである。定理 4.5により、この像が単位元ならばb=1である。▨
5 Britton の補題と具体例
定義 5.1. HNN 拡大H(B,U,V,θ)について、基群を標準単射によってその像と同一視する。語b0tε1b1⋯tεnbn(bi∈B、εi∈{+1,−1})に現れるtbt−1(b∈U)またはt−1bt(b∈V)という部分を
pinch (pinch) という。
定理 5.2. HNN 拡大H(B,U,V,θ)において、n≥1、b0,…,bn∈B、ε1,…,εn∈{+1,−1}とする。語b0tε1b1⋯tεnbnが pinch を含まないならば、この語が表す元は単位元でない。この主張を Britton の補題という。
証明.K+1=V、K−1=Uとし、単位元を含む左剰余類の代表を固定する。b0の後に最初の安定文字を掛け込むと、安定文字は一つ付加され、その直後の末尾係数c1はK−ε1に属する。1≤i<nとし、i番目の安定文字まで取消しが生じず、その直後の末尾係数ciがK−εiに属すると仮定する。次のbiを掛けた末尾係数はcibiである。εi+1=εiならば、同符号なので次の掛け込みに取消しは起きない。εi+1=−εiならば、
cibi∈Kεi+1⟺bi∈Kεi+1である。右辺が成り立つと pinch が存在するため、仮定に反する。したがってこの場合も代表は1でなく、取消しは起きない。いずれの場合も、付加後の末尾係数はφεi+1の値域K−εi+1に属する。帰納法によって、全n個の安定文字が正規形に残る。末尾のbnを掛けても安定文字数は変わらない。定理 4.5により、この元は安定文字数が0の単位元とは異なる。▨
例 5.3.B=1ならばU=V=1であり、HNN 拡大の両代表集合は{1}である。正規形の符号はすべて同じなので、各元は一意にtk(k∈Z)と書かれる。したがってこの HNN 拡大は無限巡回群である。
U=V=1ならば、HNN 拡大の定義における共役関係は恒等式だけであり、群はB∗⟨t⟩に等しい。正規形で逆符号の安定文字が取り消されるのは、その間の基群係数が1の場合に限られる。
U=V=Bならば、θはBの自己同型であり、両代表集合は{1}である。定理 4.5により各元は一意にtkb(k∈Z,b∈B)と書かれる。
例 5.4. 群
BS(2,3)=⟨a,t∣ta2t−1=a3⟩は Baumslag–Solitar 群の一例である。無限巡回群B=⟨x⟩とその部分群U=⟨x2⟩、V=⟨x3⟩に対し、θ(x2k)=x3k(k∈Z)と定めると、θ:U→Vは同型である。このときH=H(B,U,V,θ)はBS(2,3)と同型である。
実際、a↦q(x)、t↦tは表示の関係式を満たすので、§E7.9 定理 3.2によりBS(2,3)→Hを与える。逆にxk↦akはB上の準同型であり、表示の一関係から、すべての整数kについて
ta2kt−1=(ta2t−1)k=a3kが成り立つ。命題 3.2によりH→BS(2,3)を得る。両合成は各群の生成元を固定するため恒等写像である。
系 4.6によりq(x)は無限位数であるから、aも無限位数である。この表示は生成元二つと関係式一つからなるので、BS(2,3)は有限表示群である。