§E7.29融合積と HNN 拡大

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自由積は、二つの群の演算を保ちながら一つの群にまとめる構成である。さらに、二つの群の中で指定された同型な部分群を一致させたり、一つの群の同型な部分群を共役によって結び付けたりしたい場合がある。関係式を書き加えるだけでは、もとの群の異なる元が構成後も区別されるかどうかは明らかでない。

融合積は二つの群を指定された部分群に沿って結び付ける構成であり、HNN 拡大は新しい元による共役が指定された部分群間の同型を実現する構成である。例えば、無限巡回群の生成元の平方を立方へ移す部分群間の同型を、共役として実現することができる。融合積と HNN 拡大は、もとの群を部分群として保ちながら新しい関係を導入するための基本的な構成である。

本記事では、融合積と HNN 拡大の基本的な構造と具体例について解説する。

1 融合積の構成

定義 1.1. 群A,B,CA,B,Cと単射準同型ιA ⁣:C→A\iota_A\colon C\to A、ιB ⁣:C→B\iota_B\colon C\to Bを取る。自由積A∗BA*Bの標準準同型をjA,jBj_A,j_Bとし、

N=⟨ ⁣⟨jA(ιA(c))jB(ιB(c))−1∣c∈C⟩ ⁣⟩N=\bigl\langle\!\bigl\langle j_A(\iota_A(c))j_B(\iota_B(c))^{-1}\mid c\in C \bigr\rangle\!\bigr\rangle

を、表示された元をすべて含む最小の正規部分群とする。群G=(A∗B)/NG=(A*B)/Nを、この二つの単射準同型に沿う融合積 (amalgamated free product) といい、A∗CBA*_C Bと書く。商写像とjA,jBj_A,j_Bの合成をqA ⁣:A→Gq_A\colon A\to G、qB ⁣:B→Gq_B\colon B\to Gと書く。また、qC=qAιA=qBιBq_C=q_A\iota_A=q_B\iota_Bとする。ここで最小の正規部分群は、指定された元を含む正規部分群の交わりとして存在する。

命題 1.2. 融合積G=A∗CBG=A*_C Bと群QQを取る。準同型fA ⁣:A→Qf_A\colon A\to Q、fB ⁣:B→Qf_B\colon B\to QがfAιA=fBιBf_A\iota_A=f_B\iota_Bを満たすならば、fqA=fAf q_A=f_A、fqB=fBf q_B=f_Bを満たす準同型f ⁣:G→Qf\colon G\to Qがただ一つ存在する。

証明.§E7.9 定理 2.5により、fA,fBf_A,f_Bを延長する準同型f~ ⁣:A∗B→Q\widetilde f\colon A*B\to Qがただ一つ存在する。任意のc∈Cc\in Cについてf~(jA(ιA(c))jB(ιB(c))−1)=1\widetilde f(j_A(\iota_A(c))j_B(\iota_B(c))^{-1})=1なので、N⊆ker⁡f~N\subseteq\ker\widetilde fである。§E7.7 定理 2.4により、f~\widetilde fはGG上の準同型を一意に誘導する。GGはqA(A)q_A(A)とqB(B)q_B(B)で生成されるため、所定の制限を持つ準同型はこの一つに限られる。▨

命題 1.3. 融合積A∗CBA*_C Bは、AAの各元aaに対応する記号[a]A[a]_AとBBの各元bbに対応する記号[b]B[b]_Bを生成元とし、関係式

[x]F[y]F=[xy]F(F∈{A,B}, x,y∈F),[ιA(c)]A=[ιB(c)]B(c∈C)[x]_F[y]_F=[xy]_F\quad(F\in\{A,B\},\ x,y\in F), \qquad [\iota_A(c)]_A=[\iota_B(c)]_B\quad(c\in C)

を持つ群と同型である。この同型は[a]A[a]_AをqA(a)q_A(a)、[b]B[b]_BをqB(b)q_B(b)に移す。

証明. 表示された群をPPとする。各因子の乗法関係により、x↦[x]Fx\mapsto[x]_Fは準同型である。実際、[1]F2=[1]F[1]_F^2=[1]_Fから[1]F=1[1]_F=1も従う。二つの準同型はCC上で一致するので、命題 1.2はA∗CB→PA*_C B\to Pを与える。一方、qA,qBq_A,q_Bは表示されたすべての関係を満たすので、§E7.9 定理 3.2はP→A∗CBP\to A*_C Bを与える。両合成は各群の生成元を固定するため恒等写像である。▨

2 融合積の正規形

定義 2.1. 融合積G=A∗CBG=A*_C Bについて、各F∈{A,B}F\in\{A,B\}の左剰余類集合F/ιF(C)F/\iota_F(C)の代表集合TFT_Fを取り、1∈TF1\in T_Fとする。各x∈Fx\in Fは一意にx=rιF(c)x=r\iota_F(c)(r∈TF,c∈Cr\in T_F,c\in C)と書かれる。この代表集合に関する融合積の形式正規形 (formal normal form) とは、

(r1,…,rn;c)(r_1,\ldots,r_n;c)

というデータであって、n≥0n\geq0、c∈Cc\in C、各rir_iはTA∖{1}T_A\setminus\{1\}またはTB∖{1}T_B\setminus\{1\}に属し、隣接する代表が異なる因子に属するものをいう。各代表には所属する因子の標識を付ける。n=0n=0のデータも許す。形式正規形全体の集合をWWとし、その評価E ⁣:W→GE\colon W\to Gを

E(r1,…,rn;c)=qF1(r1)⋯qFn(rn)qC(c)E(r_1,\ldots,r_n;c)=q_{F_1}(r_1)\cdots q_{F_n}(r_n)q_C(c)

と定める。ここでri∈TFir_i\in T_{F_i}である。

補題 2.2. 融合積G=A∗CBG=A*_C Bの代表集合TA,TBT_A,T_Bに関する形式正規形全体をWW、評価をEEとする。各因子FFの元xxに対し、置換RxF ⁣:W→WR_x^F\colon W\to Wが存在して

RyF∘RxF=RxyF,R1F=idW,E(RxF(w))=E(w)qF(x)R_y^F\circ R_x^F=R_{xy}^F,\qquad R_1^F=\mathrm{id}_W,\qquad E(R_x^F(w))=E(w)q_F(x)

を満たす。また、すべてのc∈Cc\in CについてRιA(c)A=RιB(c)BR_{\iota_A(c)}^A=R_{\iota_B(c)}^Bである。

証明.F∈{A,B}F\in\{A,B\}を固定する。空であるかFF以外の因子で終わる交互代表列ppに対し、z∈Fz\in Fをz=rιF(d)z=r\iota_F(d)と分解して

Ψp(z)={(p,r;d)r≠1,(p;d)r=1\Psi_p(z)= \begin{cases} (p,r;d)&r\ne1,\\ (p;d)&r=1 \end{cases}

と置く。ppの後に高々一つのFFの代表を持つ形式正規形は、ちょうどΨp(F)\Psi_p(F)の元である。任意の形式正規形について、最後の代表がFFに属すれば、その代表を除いた列がppであり、最後の代表をrnr_n、末尾係数をccとしてz=rnιF(c)z=r_n\iota_F(c)である。最後の代表がFFに属さない場合と代表列が空の場合は、代表列全体がppであり、z=ιF(c)z=\iota_F(c)である。したがってWWはΨp(F)\Psi_p(F)の非交和であり、各Ψp\Psi_pはFFからその部分集合への全単射である。

x∈Fx\in Fに対して

RxF(Ψp(z))=Ψp(zx)R_x^F(\Psi_p(z))=\Psi_p(zx)

と定める。zxzxの代表が11になる場合も、次にy∈Fy\in Fを掛けて非単位代表が現れる場合も、列ppは変わらない。結合律(zx)y=z(xy)(zx)y=z(xy)からRyFRxF=RxyFR_y^F R_x^F=R_{xy}^Fが従う。またR1F=idWR_1^F=\mathrm{id}_Wであり、Rx−1FR_{x^{-1}}^FはRxFR_x^Fの逆写像である。分解zx=rιF(d)zx=r\iota_F(d)は因子内の等式なので、評価についてE(RxF(w))=E(w)qF(x)E(R_x^F(w))=E(w)q_F(x)が成り立つ。

h∈Ch\in Cとする。最後の代表がFFに属すればrnιF(c)ιF(h)=rnιF(ch)r_n\iota_F(c)\iota_F(h)=r_n\iota_F(ch)であり、属さなければιF(c)ιF(h)=ιF(ch)\iota_F(c)\iota_F(h)=\iota_F(ch)の代表は11である。空の代表列についても後者の計算が成り立つ。ゆえに

RιF(h)F(r1,…,rn;c)=(r1,…,rn;ch)R_{\iota_F(h)}^F(r_1,\ldots,r_n;c)=(r_1,\ldots,r_n;ch)

であり、両因子から定まる置換は一致する。▨

定理 2.3. 融合積G=A∗CBG=A*_C Bについて、左剰余類集合A/ιA(C)A/\iota_A(C)、B/ιB(C)B/\iota_B(C)の単位元を含む代表集合TA⊆AT_A\subseteq A、TB⊆BT_B\subseteq Bをそれぞれ固定する。各g∈Gg\in Gは、これらの代表集合に関する形式正規形によって一意に表される。

証明. 形式正規形全体をWW、その評価をEE、空の代表列と係数11の組をooとする。補題 2.2の置換に対して

ρF(x)=Rx−1F\rho_F(x)=R_{x^{-1}}^F

と置く。通常の写像の合成を積とする置換群Sym⁡(W)\operatorname{Sym}(W)において

ρF(xy)=Ry−1x−1F=Rx−1F∘Ry−1F=ρF(x)ρF(y)\rho_F(xy)=R_{y^{-1}x^{-1}}^F =R_{x^{-1}}^F\circ R_{y^{-1}}^F=\rho_F(x)\rho_F(y)

であり、ρAιA=ρBιB\rho_A\iota_A=\rho_B\iota_Bである。命題 1.2によって準同型ρ ⁣:G→Sym⁡(W)\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(W)を得る。w⋅g=ρ(g−1)(w)w\cdot g=\rho(g^{-1})(w)と定めれば(w⋅g)⋅h=w⋅(gh)(w\cdot g)\cdot h=w\cdot(gh)であり、w⋅qF(x)=RxF(w)w\cdot q_F(x)=R_x^F(w)である。

g∈Gg\in Gを両因子の元の像の積として書く。基点ooにそれらを順に右から作用させると、評価との適合性により、評価がggに等しい形式正規形を得る。逆に、形式正規形w=(r1,…,rn;c)w=(r_1,\ldots,r_n;c)の評価をooに作用させると、各rir_iの掛け込みで異なる因子の代表が一つずつ付加され、最後に係数がccになる。したがってo⋅E(w)=wo\cdot E(w)=wである。E(w)=E(w′)E(w)=E(w')ならばw=o⋅E(w)=o⋅E(w′)=w′w=o\cdot E(w)=o\cdot E(w')=w'なので、正規形は一意である。▨

系 2.4. 融合積G=A∗CBG=A*_C Bについて、次が成り立つ。

  1. 標準準同型qA ⁣:A→Gq_A\colon A\to GとqB ⁣:B→Gq_B\colon B\to Gは単射である。
  2. n≥1n\geq1とし、xi∈Fi∖ιFi(C)x_i\in F_i\setminus\iota_{F_i}(C)、Fi∈{A,B}F_i\in\{A,B\}、Fi≠Fi+1F_i\ne F_{i+1}とする。このときqF1(x1)⋯qFn(xn)≠1q_{F_1}(x_1)\cdots q_{F_n}(x_n)\ne1である。

証明.(1)を示す。x∈Fx\in Fをx=rιF(c)x=r\iota_F(c)と書く。qF(x)q_F(x)の正規形は、r≠1r\ne1ならば(r;c)(r;c)、r=1r=1ならば( ;c)(\,;c)である。定理 2.3により、qF(x)=1q_F(x)=1ならばr=1,c=1r=1,c=1なのでx=1x=1である。

(2)を示す。最初のi−1i-1個の元を掛け込んだ正規形の末尾係数をccとする。ιFi(c)xi\iota_{F_i}(c)x_iがιFi(C)\iota_{F_i}(C)に属すれば、xix_iもこの部分群に属することになり、仮定に反する。したがってιFi(c)xi\iota_{F_i}(c)x_iの代表は非単位元である。因子は交互に変わるため、各段階で代表が一つ増え、最終正規形の代表数はnnとなる。定理 2.3により、この元は単位元ではない。▨

例 2.5.C=1C=1ならば、融合積A∗CBA*_C Bの形式正規形は自由積A∗BA*Bの交互簡約語に一致する。実際、代表集合は各因子全体であり、末尾係数は常に11である。

ιA ⁣:C→A\iota_A\colon C\to Aが同型ならば、代表集合TAT_Aは{1}\{1\}である。したがって融合積の正規形は( ;c)(\,;c)または(r;c)(r;c)(r∈TB∖{1}r\in T_B\setminus\{1\})であり、qBq_Bは全射である。系 2.4 (1)によりqBq_Bは同型である。ιB\iota_Bが同型の場合にはqAq_Aが同型となる。

3 HNN 拡大の構成

定義 3.1. 群BB、部分群U,V≤BU,V\leq B、同型θ ⁣:U→V\theta\colon U\to Vを取る。無限巡回群⟨t⟩\langle t\rangleとBBの自由積を、tut−1θ(u)−1tut^{-1}\theta(u)^{-1}(u∈Uu\in U)をすべて含む最小の正規部分群で割った群を HNN 拡大 (HNN extension) といい、H(B,U,V,θ)H(B,U,V,\theta)と書く。標準準同型をq ⁣:B→H(B,U,V,θ)q\colon B\to H(B,U,V,\theta)とし、ttの像もttと書く。この群はq(B)q(B)とttで生成され、

tq(u)t−1=q(θ(u))(u∈U)tq(u)t^{-1}=q(\theta(u))\qquad(u\in U)

を満たす。BBを基群 (base group)、ttを安定文字 (stable letter) という。

命題 3.2. HNN 拡大H=H(B,U,V,θ)H=H(B,U,V,\theta)と群QQを取る。準同型f ⁣:B→Qf\colon B\to Qと元s∈Qs\in Qが、すべてのu∈Uu\in Uについてsf(u)s−1=f(θ(u))sf(u)s^{-1}=f(\theta(u))を満たすならば、Φq=f\Phi q=f、Φ(t)=s\Phi(t)=sを満たす準同型Φ ⁣:H→Q\Phi\colon H\to Qがただ一つ存在する。

証明.tk↦skt^k\mapsto s^kは⟨t⟩\langle t\rangleからQQへの準同型である。§E7.9 定理 2.5によって、この準同型とffを延長する準同型Φ~ ⁣:B∗⟨t⟩→Q\widetilde\Phi\colon B*\langle t\rangle\to Qを得る。仮定からtut−1θ(u)−1∈ker⁡Φ~tut^{-1}\theta(u)^{-1}\in\ker\widetilde\Phiなので、§E7.7 定理 2.4はHH上の準同型Φ\Phiを与える。HHはq(B)q(B)とttで生成されるため、Φ\Phiは一意である。▨

命題 3.3. HNN 拡大H(B,U,V,θ)H(B,U,V,\theta)は、BBの各元bbに対応する記号[b][b]と記号ttを生成元とし、

[b][c]=[bc](b,c∈B),t[u]t−1=[θ(u)](u∈U)[b][c]=[bc]\quad(b,c\in B),\qquad t[u]t^{-1}=[\theta(u)]\quad(u\in U)

を関係式とする群と同型である。同型は[b][b]をq(b)q(b)に移し、ttをttに移す。

証明. 表示された群をPPとする。乗法関係によりb↦[b]b\mapsto[b]は準同型であり、残りの関係により命題 3.2を適用してH(B,U,V,θ)→PH(B,U,V,\theta)\to Pを得る。一方、q(b)q(b)とttは表示の全関係を満たすので、§E7.9 定理 3.2はP→H(B,U,V,θ)P\to H(B,U,V,\theta)を与える。両合成は生成元を固定するため恒等写像である。▨

4 HNN 拡大の正規形

定義 4.1. HNN 拡大H=H(B,U,V,θ)H=H(B,U,V,\theta)について

K+1=V,K−1=U,φ+1=θ−1,φ−1=θK_{+1}=V,\qquad K_{-1}=U,\qquad \varphi_{+1}=\theta^{-1},\qquad\varphi_{-1}=\theta

と置く。したがってφε ⁣:Kε→K−ε\varphi_\varepsilon\colon K_\varepsilon\to K_{-\varepsilon}は同型である。各ε∈{+1,−1}\varepsilon\in\{+1,-1\}に対して左剰余類集合B/KεB/K_\varepsilonの代表集合Tε\mathcal T_\varepsilonを取り、1∈Tε1\in\mathcal T_\varepsilonとする。この代表集合に関するHNN 拡大の形式正規形 (formal normal form) とは、

r1tε1⋯rntεnbr_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n}b

というデータであって、n≥0n\geq0、b∈Bb\in B、εi∈{+1,−1}\varepsilon_i\in\{+1,-1\}、ri∈Tεir_i\in\mathcal T_{\varepsilon_i}を満たし、εi=−εi+1\varepsilon_i=-\varepsilon_{i+1}ならばri+1≠1r_{i+1}\ne1となるものをいう。n=0n=0のデータは基群の元bbだけからなる。形式正規形全体をΩ\Omegaとし、評価を

E ⁣:Ω→H,E(r1tε1⋯rntεnb)=q(r1)tε1⋯q(rn)tεnq(b)E\colon\Omega\to H,\qquad E(r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n}b) =q(r_1)t^{\varepsilon_1}\cdots q(r_n)t^{\varepsilon_n}q(b)

と定める。

注意 4.2. HNN 拡大の代表集合T+1,T−1\mathcal T_{+1},\mathcal T_{-1}に関する形式正規形全体をΩ\Omegaとする。a∈Ba\in Bに対し、写像Ra ⁣:Ω→ΩR_a\colon\Omega\to\Omegaを末尾係数bbをbabaに変える操作として定める。

ε∈{+1,−1}\varepsilon\in\{+1,-1\}に対する写像Tε ⁣:Ω→ΩT_\varepsilon\colon\Omega\to\Omegaを次のように定める。正規形w=r1tε1⋯rntεnbw=r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n}bの末尾係数を、b=rhb=rh(r∈Tε,h∈Kεr\in\mathcal T_\varepsilon,h\in K_\varepsilon)と分解する。n>0n>0、εn=−ε\varepsilon_n=-\varepsilon、r=1r=1の三条件がすべて成り立つときは

Tε(w)=r1tε1⋯rn−1tεn−1(rnφε(b))T_\varepsilon(w)=r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_{n-1}t^{\varepsilon_{n-1}}\bigl(r_n\varphi_\varepsilon(b)\bigr)

とする。n=1n=1のとき、右辺は基群係数r1φε(b)r_1\varphi_\varepsilon(b)だけである。それ以外のときは

Tε(w)=r1tε1⋯rntεnrtεφε(h)T_\varepsilon(w)=r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n} r t^\varepsilon\varphi_\varepsilon(h)

とする。後者の式では、n=0n=0の場合も許す。

補題 4.3. HNN 拡大の形式正規形への右掛け込みRa,TεR_a,T_\varepsilonは置換であり、

Rd∘Ra=Rad,R1=idΩ,T−ε∘Tε=idΩR_d\circ R_a=R_{ad},\qquad R_1=\mathrm{id}_\Omega,\qquad T_{-\varepsilon}\circ T_\varepsilon=\mathrm{id}_\Omega

を満たす。また、評価E ⁣:Ω→H(B,U,V,θ)E\colon\Omega\to H(B,U,V,\theta)に対して

E(Ra(w))=E(w)q(a),E(Tε(w))=E(w)tεE(R_a(w))=E(w)q(a),\qquad E(T_\varepsilon(w))=E(w)t^\varepsilon

である。

証明.w=r1tε1⋯rntεnbw=r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n}bを取る。RaR_aは末尾係数だけを変えるので、RdRa=RadR_dR_a=R_{ad}、R1=idΩR_1=\mathrm{id}_\Omegaであり、逆写像はRa−1R_{a^{-1}}である。TεT_\varepsilonが最後の安定文字を取り消す場合、残る列は元の正規形の一部であり、末尾係数には代表の条件がない。安定文字を付加する場合には、直前が逆符号ならば新しい代表は11でない。したがって、いずれの場合も結果は形式正規形である。

TεT_\varepsilonが安定文字を付加したとする。b=rhb=rhの分解に対して、付加後の最後の符号はε\varepsilon、末尾係数はφε(h)∈K−ε\varphi_\varepsilon(h)\in K_{-\varepsilon}である。次のT−εT_{-\varepsilon}での代表は11なので、付加した安定文字が取り消され、末尾係数は

rφ−ε(φε(h))=rh=br\varphi_{-\varepsilon}(\varphi_\varepsilon(h))=rh=b

に戻る。元のn=0n=0の場合もこの計算が成り立つ。

TεT_\varepsilonが安定文字を取り消したとする。元の最後の符号は−ε-\varepsilonであり、b∈Kεb\in K_\varepsilonである。取消し後の末尾係数rnφε(b)r_n\varphi_\varepsilon(b)は、rn∈T−εr_n\in\mathcal T_{-\varepsilon}、φε(b)∈K−ε\varphi_\varepsilon(b)\in K_{-\varepsilon}による代表分解になっている。n=1n=1ならば安定文字が残っていないため、次のT−εT_{-\varepsilon}は付加を行う。n>1n>1でεn−1=−ε\varepsilon_{n-1}=-\varepsilonならば同符号なので付加を行う。n>1n>1でεn−1=ε\varepsilon_{n-1}=\varepsilonならば、元の正規形の条件からrn≠1r_n\ne1なので付加を行う。いずれもrnt−εbr_nt^{-\varepsilon}bが復元される。両符号についてT−εTε=idΩT_{-\varepsilon}T_\varepsilon=\mathrm{id}_\Omegaが成り立つので、T+1T_{+1}とT−1T_{-1}は互いに逆である。

HNN 拡大の定義関係から、h∈Kεh\in K_\varepsilonに対して

q(h)tε=tεq(φε(h)),t−εq(h)tε=q(φε(h))q(h)t^\varepsilon=t^\varepsilon q(\varphi_\varepsilon(h)),\qquad t^{-\varepsilon}q(h)t^\varepsilon=q(\varphi_\varepsilon(h))

である。前者は付加の場合、後者は取消しの場合の評価の等式を与える。RaR_aの評価の等式はq(ba)=q(b)q(a)q(ba)=q(b)q(a)による。▨

補題 4.4. HNN 拡大の形式正規形への右掛け込みに対して、h∈Kεh\in K_\varepsilonならば

Tε∘Rh=Rφε(h)∘TεT_\varepsilon\circ R_h=R_{\varphi_\varepsilon(h)}\circ T_\varepsilon

が成り立つ。特に、すべてのu∈Uu\in Uについて

T−1∘Ru∘T+1=Rθ(u)T_{-1}\circ R_u\circ T_{+1}=R_{\theta(u)}

である。

証明. 形式正規形の末尾係数をb=rkb=rk(r∈Tε,k∈Kεr\in\mathcal T_\varepsilon,k\in K_\varepsilon)と分解する。bh=r(kh)bh=r(kh)は同じ代表rrを持つため、RhR_hを先に適用しても、TεT_\varepsilonが付加と取消しのどちらを行うかは変わらない。付加の場合、TεRhT_\varepsilon R_hの結果の末尾係数は

φε(kh)=φε(k)φε(h)\varphi_\varepsilon(kh)=\varphi_\varepsilon(k)\varphi_\varepsilon(h)

であり、これはRφε(h)TεR_{\varphi_\varepsilon(h)}T_\varepsilonの末尾係数に等しい。取消しの場合にはb∈Kεb\in K_\varepsilonであり、両者の末尾係数は

rnφε(bh)=rnφε(b)φε(h)r_n\varphi_\varepsilon(bh)=r_n\varphi_\varepsilon(b)\varphi_\varepsilon(h)

によって等しい。それ以外の代表と符号も一致するので、二つの写像は等しい。

ε=+1\varepsilon=+1、h=θ(u)h=\theta(u)とすればT+1Rθ(u)=RuT+1T_{+1}R_{\theta(u)}=R_uT_{+1}である。補題 4.3により、左からT−1T_{-1}を合成すると結論を得る。▨

定理 4.5. HNN 拡大H=H(B,U,V,θ)H=H(B,U,V,\theta)について、左剰余類集合B/VB/V、B/UB/Uの単位元を含む代表集合T+1⊆B\mathcal T_{+1}\subseteq B、T−1⊆B\mathcal T_{-1}\subseteq Bをそれぞれ固定する。各g∈Hg\in Hは、これらの代表集合に関する形式正規形によって一意に表される。

証明. 形式正規形全体をΩ\Omegaとし、安定文字を含まず末尾係数が11である正規形をooとする。補題 4.3により

f ⁣:B→Sym⁡(Ω),f(b)=Rb−1f\colon B\to\operatorname{Sym}(\Omega),\qquad f(b)=R_{b^{-1}}

は準同型である。ここで置換の積は通常の写像の合成である。s=T−1s=T_{-1}と置く。補題 4.4の等式の逆を取ると

sf(u)s−1=T−1Ru−1T+1=Rθ(u)−1=f(θ(u))sf(u)s^{-1}=T_{-1}R_{u^{-1}}T_{+1}=R_{\theta(u)^{-1}}=f(\theta(u))

となる。したがって命題 3.2は、ρq=f\rho q=f、ρ(t)=T−1\rho(t)=T_{-1}を満たす準同型ρ ⁣:H→Sym⁡(Ω)\rho\colon H\to\operatorname{Sym}(\Omega)を与える。w⋅g=ρ(g−1)(w)w\cdot g=\rho(g^{-1})(w)と定めれば、これは右作用であり、w⋅q(b)=Rb(w)w\cdot q(b)=R_b(w)、w⋅tε=Tε(w)w\cdot t^\varepsilon=T_\varepsilon(w)となる。

HHはq(B)q(B)とttで生成される。補題 4.3の評価の等式により、これらの元を基点ooに順に作用させれば、任意の元を表す形式正規形を得る。逆に、形式正規形w=r1tε1⋯rntεnbw=r_1t^{\varepsilon_1}\cdots r_nt^{\varepsilon_n}bの評価をooに作用させると、各安定文字の直前の末尾係数はrir_iであり、その代表分解はri⋅1r_i\cdot1である。逆符号が隣接する場合にはri≠1r_i\ne1なので、どの段階にも取消しは起きない。末尾のbbを掛けるとwwそのものとなり、o⋅E(w)=wo\cdot E(w)=wを得る。E(w)=E(w′)E(w)=E(w')ならばw=o⋅E(w)=o⋅E(w′)=w′w=o\cdot E(w)=o\cdot E(w')=w'なので、一意性が従う。▨

系 4.6. 任意の群BB、部分群U,V≤BU,V\leq B、同型θ ⁣:U→V\theta\colon U\to Vに対し、標準準同型q ⁣:B→H(B,U,V,θ)q\colon B\to H(B,U,V,\theta)は単射である。

証明.b∈Bb\in Bの像の正規形は、安定文字を含まず末尾係数がbbのものである。定理 4.5により、この像が単位元ならばb=1b=1である。▨

5 Britton の補題と具体例

定義 5.1. HNN 拡大H(B,U,V,θ)H(B,U,V,\theta)について、基群を標準単射によってその像と同一視する。語b0tε1b1⋯tεnbnb_0t^{\varepsilon_1}b_1\cdots t^{\varepsilon_n}b_n(bi∈Bb_i\in B、εi∈{+1,−1}\varepsilon_i\in\{+1,-1\})に現れるtbt−1tbt^{-1}(b∈Ub\in U)またはt−1btt^{-1}bt(b∈Vb\in V)という部分を pinch (pinch) という。

定理 5.2. HNN 拡大H(B,U,V,θ)H(B,U,V,\theta)において、n≥1n\geq1、b0,…,bn∈Bb_0,\ldots,b_n\in B、ε1,…,εn∈{+1,−1}\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_n\in\{+1,-1\}とする。語b0tε1b1⋯tεnbnb_0t^{\varepsilon_1}b_1\cdots t^{\varepsilon_n}b_nが pinch を含まないならば、この語が表す元は単位元でない。この主張を Britton の補題という。

証明.K+1=VK_{+1}=V、K−1=UK_{-1}=Uとし、単位元を含む左剰余類の代表を固定する。b0b_0の後に最初の安定文字を掛け込むと、安定文字は一つ付加され、その直後の末尾係数c1c_1はK−ε1K_{-\varepsilon_1}に属する。1≤i<n1\leq i<nとし、ii番目の安定文字まで取消しが生じず、その直後の末尾係数cic_iがK−εiK_{-\varepsilon_i}に属すると仮定する。次のbib_iを掛けた末尾係数はcibic_ib_iである。εi+1=εi\varepsilon_{i+1}=\varepsilon_iならば、同符号なので次の掛け込みに取消しは起きない。εi+1=−εi\varepsilon_{i+1}=-\varepsilon_iならば、

cibi∈Kεi+1⟺bi∈Kεi+1c_ib_i\in K_{\varepsilon_{i+1}} \quad\Longleftrightarrow\quad b_i\in K_{\varepsilon_{i+1}}

である。右辺が成り立つと pinch が存在するため、仮定に反する。したがってこの場合も代表は11でなく、取消しは起きない。いずれの場合も、付加後の末尾係数はφεi+1\varphi_{\varepsilon_{i+1}}の値域K−εi+1K_{-\varepsilon_{i+1}}に属する。帰納法によって、全nn個の安定文字が正規形に残る。末尾のbnb_nを掛けても安定文字数は変わらない。定理 4.5により、この元は安定文字数が00の単位元とは異なる。▨

例 5.3.B=1B=1ならばU=V=1U=V=1であり、HNN 拡大の両代表集合は{1}\{1\}である。正規形の符号はすべて同じなので、各元は一意にtkt^k(k∈Zk\in\Z)と書かれる。したがってこの HNN 拡大は無限巡回群である。

U=V=1U=V=1ならば、HNN 拡大の定義における共役関係は恒等式だけであり、群はB∗⟨t⟩B*\langle t\rangleに等しい。正規形で逆符号の安定文字が取り消されるのは、その間の基群係数が11の場合に限られる。

U=V=BU=V=Bならば、θ\thetaはBBの自己同型であり、両代表集合は{1}\{1\}である。定理 4.5により各元は一意にtkbt^kb(k∈Z,b∈Bk\in\Z,b\in B)と書かれる。

例 5.4. 群

BS⁡(2,3)=⟨a,t∣ta2t−1=a3⟩\operatorname{BS}(2,3)=\langle a,t\mid ta^2t^{-1}=a^3\rangle

は Baumslag–Solitar 群の一例である。無限巡回群B=⟨x⟩B=\langle x\rangleとその部分群U=⟨x2⟩U=\langle x^2\rangle、V=⟨x3⟩V=\langle x^3\rangleに対し、θ(x2k)=x3k\theta(x^{2k})=x^{3k}(k∈Zk\in\Z)と定めると、θ ⁣:U→V\theta\colon U\to Vは同型である。このときH=H(B,U,V,θ)H=H(B,U,V,\theta)はBS⁡(2,3)\operatorname{BS}(2,3)と同型である。

実際、a↦q(x)a\mapsto q(x)、t↦tt\mapsto tは表示の関係式を満たすので、§E7.9 定理 3.2によりBS⁡(2,3)→H\operatorname{BS}(2,3)\to Hを与える。逆にxk↦akx^k\mapsto a^kはBB上の準同型であり、表示の一関係から、すべての整数kkについて

ta2kt−1=(ta2t−1)k=a3kta^{2k}t^{-1}=(ta^2t^{-1})^k=a^{3k}

が成り立つ。命題 3.2によりH→BS⁡(2,3)H\to\operatorname{BS}(2,3)を得る。両合成は各群の生成元を固定するため恒等写像である。

系 4.6によりq(x)q(x)は無限位数であるから、aaも無限位数である。この表示は生成元二つと関係式一つからなるので、BS⁡(2,3)\operatorname{BS}(2,3)は有限表示群である。

参考文献

  1. Jean-Pierre Serre, Trees, translated by John Stillwell, Springer Monographs in Mathematics, Springer, 2003.融合積と HNN 拡大の正規形に関する参考文献である。
  2. Joseph J. Rotman, An Introduction to the Theory of Groups, 4th ed., Graduate Texts in Mathematics 148, Springer, 1995.群の表示、融合積および HNN 拡大に関する参考文献である。

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