§E7.30剰余有限性と副有限完備化

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無限群から有限群への準同型は、異なる元を同じ元へ移すことがある。しかし、準同型を変えれば、ある準同型では区別されなかった元を区別することができる場合がある。例えば、自由群のどの非単位元に対しても、単位元と異なる像を与える有限群への準同型が存在する。有限群への準同型をすべて用いたとき、もとの群の元をどこまで区別することができるかが問題となる。

剰余有限性は、任意の非単位元を有限群への準同型によって単位元から区別することができるという性質である。副有限完備化は、有限商の元を商の間の写像と整合するように集めた群であり、有限商が記録する情報を一つの群として扱うことを可能にする。剰余有限性は、無限群の構造を有限群によって捉えるための基本的な条件である。

本記事では、剰余有限性と副有限完備化の基本的な性質について解説する。

1 剰余有限群と Hopf 群

定義 1.1. 群GGが剰余有限 (residually finite) であるとは、任意のg∈G∖{e}g\in G\setminus\{e\}に対して、有限群QQと準同型φ ⁣:G→Q\varphi\colon G\to Qが存在してφ(g)≠eQ\varphi(g)\neq e_Qとなることをいう。群GGが Hopf 群 (Hopfian group) であるとは、任意の全射自己準同型f ⁣:G→Gf\colon G\to Gが単射であることをいう。

命題 1.2. 群GGについて、次の条件は同値である。

  1. GGは剰余有限である。
  2. 任意のg∈G∖{e}g\in G\setminus\{e\}に対して、有限指数正規部分群N⊴GN\trianglelefteq Gが存在してgN≠NgN\neq Nとなる。
  3. 有限指数正規部分群すべての交わりは{e}\{e\}である。

証明.QQを有限群、φ ⁣:G→Q\varphi\colon G\to Qを準同型とすると、N=ker⁡φN=\ker\varphiは正規部分群であり、G/NG/Nはφ(G)\varphi(G)と同型であるから有限である。また、φ(g)≠eQ\varphi(g)\neq e_Qとg∉Ng\notin Nは同値である。逆に、有限指数正規部分群NNに対して標準全射G→G/NG\to G/Nは有限群への準同型であり、gN≠NgN\neq Nならばggを単位元へ写さない。したがって(1)⇔\Leftrightarrow(2)が成り立つ。

すべての有限指数正規部分群はeeを含む。それらの交わりが{e}\{e\}であるための必要十分条件は、任意のg≠eg\neq eに対して、ggを含まない有限指数正規部分群が存在することである。したがって(2)⇔\Leftrightarrow(3)が成り立つ。▨

2 自由群の剰余有限性

定理 2.1. 任意の集合XXに対して、自由群F(X)F(X)は剰余有限である。

証明.w∈F(X)∖{e}w\in F(X)\setminus\{e\}を取り、その簡約語をy1⋯yℓy_1\cdots y_\ellとする。ここでℓ≥1\ell\geq1であり、各yiy_iはX±1X^{\pm1}の文字である。zi=yℓ+1−iz_i=y_{\ell+1-i}とおき、有限集合S={0,…,ℓ}S=\{0,\ldots,\ell\}を取る。各x∈Xx\in Xに対して、SS上の部分写像pxp_xの値を

{px(i−1)=i(zi=x),px(i)=i−1(zi=x−1)(1≤i≤ℓ)\begin{cases} p_x(i-1)=i & (z_i=x),\\ p_x(i)=i-1 & (z_i=x^{-1}) \end{cases} \qquad(1\leq i\leq\ell)

によって指定する。

同じ向きの指定どうしは、異なる添字に対して始点も終点も異なる。異なる向きの指定が始点を共有するならば、隣接する文字列zi,zi+1z_i,z_{i+1}がx−1,xx^{-1},xとなる。異なる向きの指定が終点を共有するならば、隣接する文字列がx,x−1x,x^{-1}となる。いずれの場合もy1⋯yℓy_1\cdots y_\ellの簡約性に反する。したがってpxp_xは、その定義域から像への全単射である。定義域と像の補集合は同じ有限個数をもつので、その間の全単射を選ぶことによってpxp_xを置換σx∈Sym⁡(S)\sigma_x\in\operatorname{Sym}(S)へ拡張することができる。語に現れない生成元xxに対してはσx=id⁡S\sigma_x=\id_Sとする。

§E7.9 定理 1.6により、x↦σxx\mapsto\sigma_xは準同型ρ ⁣:F(X)→Sym⁡(S)\rho\colon F(X)\to\operatorname{Sym}(S)へ一意に延長される。各iiについて、zi=xz_i=xならばρ(zi)(i−1)=i\rho(z_i)(i-1)=iであり、zi=x−1z_i=x^{-1}ならばσx(i)=i−1\sigma_x(i)=i-1からρ(zi)(i−1)=σx−1(i−1)=i\rho(z_i)(i-1)=\sigma_x^{-1}(i-1)=iである。置換の積は写像の合成であるから、§E7.9 式 (1.6.1)により

ρ(w)(0)=ρ(y1)∘⋯∘ρ(yℓ)(0)=ℓ.\rho(w)(0) =\rho(y_1)\circ\cdots\circ\rho(y_\ell)(0) =\ell.

ℓ≠0\ell\neq0なのでρ(w)\rho(w)は恒等置換ではない。Sym⁡(S)\operatorname{Sym}(S)は有限群であるから、F(X)F(X)は剰余有限である。▨

3 有限生成剰余有限群の Hopf 性

定理 3.1. 有限生成剰余有限群は Hopf 群である。

証明.GGを有限生成剰余有限群、f ⁣:G→Gf\colon G\to Gを全射自己準同型とする。x∈ker⁡f∖{e}x\in\ker f\setminus\{e\}が存在すると仮定する。命題 1.2 (2)により、x∉Nx\notin Nを満たす有限指数正規部分群N⊴GN\trianglelefteq Gが存在する。d=[G:N]d=[G:N]とおき、指数ddの正規部分群全体の集合をNd\mathcal N_dとする。§E7.28 命題 3.4によりNd\mathcal N_dは有限である。

M∈NdM\in\mathcal N_dに対して、合成G→fG→G/MG\xrightarrow{f}G\to G/Mは全射であり、その核はf−1(M)f^{-1}(M)である。したがってf−1(M)f^{-1}(M)は正規部分群で、G/f−1(M)≅G/MG/f^{-1}(M)\cong G/Mより指数はddである。また、ffの全射性からf(f−1(M))=Mf(f^{-1}(M))=Mが成り立つので、M↦f−1(M)M\mapsto f^{-1}(M)はNd\mathcal N_d上の単射である。有限集合上の単射は置換であるから、ある整数m≥1m\geq1に対して

(fm)−1(N)=N(f^m)^{-1}(N)=N

となる。ところがf(x)=ef(x)=eなのでfm(x)=e∈Nf^m(x)=e\in Nであり、x∈(fm)−1(N)=Nx\in(f^m)^{-1}(N)=Nとなる。これはx∉Nx\notin Nに反する。したがってker⁡f={e}\ker f=\{e\}であり、ffは単射である。▨

4 有限商の逆極限

定義 4.1. 群GGの有限指数正規部分群全体をN(G)\mathcal N(G)と書く。N,M∈N(G)N,M\in\mathcal N(G)がN⊆MN\subseteq Mを満たすとき、標準全射を

qNM ⁣:G/N⟶G/M,gN⟼gMq_{NM}\colon G/N\longrightarrow G/M,\qquad gN\longmapsto gM

と書く。L⊆N⊆ML\subseteq N\subseteq Mに対してqNM∘qLN=qLMq_{NM}\circ q_{LN}=q_{LM}である。また、N∩MN\cap Mは有限指数正規部分群である。実際、準同型G→G/N×G/MG\to G/N\times G/Mの核はN∩MN\cap Mであり、その像は有限である。

群GGの副有限完備化 (profinite completion) を

G^=lim←⁡N∈N(G)G/N={(uN)N∈N(G)∈∏N∈N(G)G/N | qNM(uN)=uM whenever N⊆M}\widehat G =\varprojlim_{N\in\mathcal N(G)}G/N =\left\{(u_N)_{N\in\mathcal N(G)}\in \prod_{N\in\mathcal N(G)}G/N\ \middle|\ q_{NM}(u_N)=u_M\text{ whenever }N\subseteq M\right\}

と定め、各成分の群演算によって積と逆元を定める。各g∈Gg\in Gに対して(gN)N∈N(G)(gN)_{N\in\mathcal N(G)}はこの整合条件を満たす。写像

ηG ⁣:G⟶G^,g⟼(gN)N∈N(G)\eta_G\colon G\longrightarrow\widehat G,\qquad g\longmapsto(gN)_{N\in\mathcal N(G)}

を標準写像 (canonical map) と呼ぶ。

命題 4.2. 任意の群GGに対して、G^\widehat Gは積群∏N∈N(G)G/N\prod_{N\in\mathcal N(G)}G/Nの部分群であり、ηG\eta_Gは群準同型である。その核は

ker⁡ηG=⋂N∈N(G)N\ker\eta_G=\bigcap_{N\in\mathcal N(G)}N

である。したがって、ηG\eta_Gが単射であるための必要十分条件は、GGが剰余有限であることである。

証明. 各qNMq_{NM}は準同型であるから、整合条件を満たす二つの族の積と、整合条件を満たす族の逆元も整合条件を満たす。単位元の族も整合条件を満たす。したがってG^\widehat Gは積群の部分群である。ηG\eta_Gの各成分は標準全射G→G/NG\to G/Nであるから、ηG\eta_Gは準同型である。g∈Gg\in Gに対してηG(g)\eta_G(g)が単位元であることは、すべてのN∈N(G)N\in\mathcal N(G)に対してgN=NgN=Nとなることと同値である。したがって核は主張の交わりであり、単射性の特徴づけは命題 1.2から従う。▨

例 4.3.GGを有限群とすると、ηG ⁣:G→G^\eta_G\colon G\to\widehat Gは同型である。実際、{e}∈N(G)\{e\}\in\mathcal N(G)であり、整合条件を満たす族(uN)N(u_N)_Nは成分u{e}∈G/{e}≅Gu_{\{e\}}\in G/\{e\}\cong Gによって一意に定まる。この成分をg∈Gg\in Gと同一視すると、各NNについてuN=q{e}N(u{e})=gNu_N=q_{\{e\}N}(u_{\{e\}})=gNである。したがって成分u{e}u_{\{e\}}を取る写像はηG\eta_Gの逆写像である。特に、単位群の副有限完備化は単位群である。

5 Hopf 群でない Baumslag–Solitar 群

例 5.1. Baumslag–Solitar 群

G=BS⁡(2,3)=⟨a,t∣ta2t−1=a3⟩G=\operatorname{BS}(2,3)=\langle a,t\mid ta^2t^{-1}=a^3\rangle

は Hopf 群ではない。

a↦a2a\mapsto a^2、t↦tt\mapsto tとすると、

t(a2)2t−1=(ta2t−1)2=a6=(a2)3t(a^2)^2t^{-1}=(ta^2t^{-1})^2=a^6=(a^2)^3

であるから、§E7.9 定理 3.2により自己準同型f ⁣:G→Gf\colon G\to Gが定まる。その像はa2a^2とttを含み、a3=ta2t−1a^3=ta^2t^{-1}も含む。a=(a2)−1a3a=(a^2)^{-1}a^3なので、像は生成元a,ta,tを含み、ffは全射である。

元

w=tat−1a ta−1t−1a−1w=tat^{-1}a\,ta^{-1}t^{-1}a^{-1}

に対して

f(w)=(ta2t−1)a2(ta−2t−1)a−2=a3a2a−3a−2=ef(w) =(ta^2t^{-1})a^2(ta^{-2}t^{-1})a^{-2} =a^3a^2a^{-3}a^{-2} =e

である。一方、§E7.29 例 5.4により、GGは基群⟨a⟩\langle a\rangle、部分群⟨a2⟩\langle a^2\rangleと⟨a3⟩\langle a^3\rangle、およびa2k↦a3ka^{2k}\mapsto a^{3k}による同型の HNN 拡大であり、aaは無限位数である。したがって

a∉⟨a2⟩,a∉⟨a3⟩,a−1∉⟨a2⟩.a\notin\langle a^2\rangle,\qquad a\notin\langle a^3\rangle,\qquad a^{-1}\notin\langle a^2\rangle.

語wwにおける安定文字の隣接対の間の係数は、順にa,a,a−1a,a,a^{-1}である。上の三つの不包含により、wwは pinch を含まない。§E7.29 定理 5.2によりw≠ew\neq eである。ゆえにffは単射ではなく、GGは Hopf 群ではない。

参考文献

  1. Joseph J. Rotman, An Introduction to the Theory of Groups, 4th ed., Graduate Texts in Mathematics 148, Springer, 1995.剰余有限群、有限生成群、および Hopf 群に関する群論の文献である。
  2. Jean-Pierre Serre, Trees, translated by John Stillwell, Springer Monographs in Mathematics, Springer, 2003.自由群と HNN 拡大に関する文献である。

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