1 有限巡回群の自由分解
補題 1.1.G=⟨σ⟩を位数m≥1の有限巡回群、R=Z[G]とする。添加写像をε:R→Zと書き、
T=σ−1,N=i=0∑m−1σiとおく。T,N:R→Rは、それぞれT,Nによる乗法写像を表す。このとき、
kerε=TR,kerT=NR,kerN=TRが成り立つ。
証明.§E7.2 定理 5.1 (2)により、Rの各元は一意にr=∑i=0m−1aiσi(ai∈Z)と書かれる。群環の積から
ε(r)=i=0∑m−1ai,Nr=ε(r)N,Tr=i=0∑m−1(ai−1−ai)σiを得る。ただし、係数の添字はmを法として読む。Tr=0であることは、すべてのaiが等しいことと同値である。したがってkerT=ZNである。またNr=ε(r)Nとε(1)=1からNR=ZNであり、kerT=NRを得る。Nの各基底係数は1であるため、Nr=0とε(r)=0は同値である。よってkerN=kerεである。
ε(T)=0であるから、TR⊆kerεである。逆にε(r)=0と仮定し、
b0=0,bj=−k=1∑jak(1≤j≤m−1),b=j=0∑m−1bjσjとおく。1≤j≤m−1に対してbj−1−bj=ajであり、∑iai=0からbm−1−b0=a0である。したがってTb=rであり、kerε⊆TRを得る。以上の等式からkerε=TRとkerN=TRが従う。▨
命題 1.2.G=⟨σ⟩を位数m≥1の有限巡回群、R=Z[G]とし、T=σ−1、N=∑i=0m−1σiとおく。Zに添加写像ε:R→Zによる自明左R-加群構造を与える。すべてのn≥0に対してPn=Rとし、すべてのq≥0に対して
d2q+1:P2q+1→P2q,r↦Tr,d2q+2:P2q+2→P2q+1,r↦Nrと定める。このとき、列
⋯TRNRTRεZ⟶0は自明左R-加群Zの自由分解である。
証明.Gは可換であるためRも可換であり、TとNによる乗法は左R-線形である。§E7.35 命題 1.2により、εも自明左R-加群Zへの左R-線形写像である。TN=NT=σm−1=0とε(T)=0から、隣接する二つの写像の合成は零である。ε(1)=1によりεは全射であり、補題 1.1により列は各Pnで完全である。各Pn=Rは階数一の自由左R-加群である。▨
2 有限巡回群のコホモロジー
定理 2.1.G=⟨σ⟩を位数m≥1の有限巡回群、R=Z[G]、Aを任意の左R-加群とする。Aの自己準同型を
T(a)=σa−a,N(a)=i=0∑m−1σiaと定める。写像Nをノルム写像という。Aについて自然な同型
H0(G,A)≅AGが存在し、すべての整数q≥0に対して、Aについて自然な同型
H2q+1(G,A)≅kerN/TA,H2q+2(G,A)≅AG/NAが存在する。
証明.命題 1.2の各項は、§E6.10 系 1.5により射影的である。§E6.10 補題 1.4により、評価写像
HomR(R,A)⟶A,φ⟼φ(1)はアーベル群の同型であり、逆写像はa↦(r↦ra)である。t∈Rによる乗法写像との前合成は、φ(t)=tφ(1)により、評価同型のもとでA上のtの作用になる。したがって自由分解にHomR(−,A)を適用した余鎖複体は
0⟶ATANATAN⋯に同定され、最初のAは次数零にある。§E7.35 系 4.4により、この余鎖複体のコホモロジーは各次数でHn(G,A)に同型である。Gはσで生成されるため、kerT=AGである。零次の境界は零であり、正奇数次数の核と境界はkerNとTA、正偶数次数の核と境界はAGとNAである。TN=NT=0により各境界は対応する核に含まれる。評価同型は左R-線形写像A→A′と可換であるため、得られた同型は係数加群について自然である。▨
例 2.2.Gを位数m≥1の有限巡回群とし、Zに自明作用を与える。このとき、H0(G,Z)≅Zであり、すべてのq≥0に対して
H2q+1(G,Z)=0,H2q+2(G,Z)≅Z/mZである。特にm≥2ならば、すべての正偶数次数のコホモロジーは非零である。実際、生成元σを取り、T=σ−1、N=∑i=0m−1σiとおく。Z上ではT=0であり、Nはm倍写像である。整数のm倍写像は単射であるから、定理 2.1によって表示された群を得る。
例 2.3.Gを位数m≥1の有限巡回群、pを素数とし、Z/pZに自明作用を与える。このとき、H0(G,Z/pZ)≅Z/pZであり、すべてのn≥1に対して
Hn(G,Z/pZ)≅{Z/pZ0(p∣m),(p∤m)である。実際、生成元σを取り、T=σ−1、N=∑i=0m−1σiとおく。Z/pZ上ではT=0であり、Nはm倍写像である。p∣mならばN=0であり、p∤mならばNは同型である。したがって定理 2.1により表示された群を得る。特にp∣mの場合には、正奇数次数のコホモロジーも非零である。
系 2.4.G=⟨σ⟩を位数m≥1の有限巡回群、Aを左Z[G]-加群とする。m倍写像A→Aが同型ならば、すべてのn≥1に対してHn(G,A)=0である。特に、kが可換環でm⋅1kが単元ならば、任意の左k[G]-加群Aに対してすべての正次数のコホモロジーは零である。
証明.m倍写像の逆をm−1:A→Aと書く。m倍写像はZ[G]-線形であるため、その逆m−1もZ[G]-線形である。T=σ−1、N=∑i=0m−1σi、S=∑i=0m−1iσiとおくと、群環で
TS=i=0∑m−1i(σi+1−σi)=m−Nが成り立つ。任意のa∈kerNに対して
a=m−1(m−N)a=T(m−1Sa)であるから、kerN⊆TAである。NT=0により逆包含も成り立つ。また、任意のb∈AGに対してNb=mbであるため、b=N(m−1b)であり、AG⊆NAである。TN=0によりNA⊆kerT=AGでもある。定理 2.1の正次数の二つの商は、いずれも零となる。k[G]-加群の場合は、単元m⋅1kの逆元の作用がm倍写像の逆を与える。▨
3 無限巡回群のコホモロジー
定理 3.1.G=⟨σ⟩を無限巡回群、R=Z[G]、Aを任意の左R-加群とする。T=σ−1とし、Zに添加写像ε:R→Zによる自明左R-加群構造を与える。このとき、列
0⟶RTRεZ⟶0はZの自由分解である。ここでT:R→RはTによる乗法写像である。Aについて自然な同型
H0(G,A)≅AG,H1(G,A)≅A/(σ−1)Aが存在し、すべてのn≥2に対してHn(G,A)=0である。
証明.§E7.2 定理 5.1 (1)により、Rの各元は一意にr=∑j∈Zajσjと書かれる。ただしaj∈Zであり、零でない係数は有限個である。Trのσjの係数はaj−1−ajである。Tr=0ならば係数列(aj)j∈Zは定数列であり、有限台であるためすべての係数は零である。よってT:R→Rは単射である。
ε(r)=0と仮定し、bj=−∑k≤jakとおく。係数akの有限台より、十分小さいjに対してbj=0である。∑kak=0より、十分大きいjに対してもbj=0である。したがってb=∑jbjσjはRの元であり、bj−1−bj=ajからTb=rを得る。ε(T)=0による逆包含と合わせてkerε=TRが成り立つ。Rは可換であるためTによる乗法は左R-線形であり、§E7.35 命題 1.2によりεも左R-線形である。ε(1)=1であるから、表示された列は完全であり、自由分解をなす。
自由項Rは§E6.10 系 1.5により射影的である。評価同型HomR(R,A)≅Aはφ↦φ(1)で与えられ、乗法Tとの前合成はa↦(σ−1)aに対応する。したがってHomR(−,A)によって得られる余鎖複体は
0⟶Aσ−1A⟶0であり、二つのAは次数零と次数一にある。§E7.35 系 4.4により、この複体のコホモロジーがHn(G,A)を与える。零次の核はAG、第一次の群はA/(σ−1)Aであり、次数二以上の項は零である。評価同型は係数加群の射と可換であるため、表示された同型はAについて自然である。▨