§E7.38巡回群のコホモロジー

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巡回群は一つの元で生成されるが、群コホモロジーが低い次数だけに限られるとは限らない。例えば、位数二の巡回群の自明な整数係数コホモロジーは、すべての正偶数次数で非零となる。一方、無限巡回群では、任意の係数加群に対して次数二以上のコホモロジーが零となる。有限巡回群と無限巡回群の関係式がこの相違にどう反映されるか、また係数への作用が計算にどのような影響を与えるかが問題となる。

巡回群は、群の関係式とコホモロジーの構造との結び付きを具体的に調べるための基本的な例である。有限巡回群の周期的な自由分解は、任意の係数加群のコホモロジーを、生成元の作用とノルム写像から記述する。本記事では、有限巡回群と無限巡回群のコホモロジーの基本的な計算を解説する。

1 有限巡回群の自由分解

補題 1.1.G=⟨σ⟩G=\langle\sigma\rangleを位数m≥1m\ge1の有限巡回群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。添加写像をε ⁣:R→Z\ep\colon R\to\Zと書き、

T=σ−1,N=∑i=0m−1σiT=\sigma-1,\qquad N=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^i

とおく。T,N ⁣:R→RT,N\colon R\to Rは、それぞれT,NT,Nによる乗法写像を表す。このとき、

ker⁡ε=TR,ker⁡T=NR,ker⁡N=TR\ker\ep=TR,\qquad \ker T=NR,\qquad \ker N=TR

が成り立つ。

証明.§E7.2 定理 5.1 (2)により、RRの各元は一意にr=∑i=0m−1aiσir=\sum_{i=0}^{m-1}a_i\sigma^i(ai∈Za_i\in\Z)と書かれる。群環の積から

ε(r)=∑i=0m−1ai,Nr=ε(r)N,Tr=∑i=0m−1(ai−1−ai)σi\ep(r)=\sum_{i=0}^{m-1}a_i,\qquad Nr=\ep(r)N,\qquad Tr=\sum_{i=0}^{m-1}(a_{i-1}-a_i)\sigma^i

を得る。ただし、係数の添字はmmを法として読む。Tr=0Tr=0であることは、すべてのaia_iが等しいことと同値である。したがってker⁡T=ZN\ker T=\Z Nである。またNr=ε(r)NNr=\ep(r)Nとε(1)=1\ep(1)=1からNR=ZNNR=\Z Nであり、ker⁡T=NR\ker T=NRを得る。NNの各基底係数は11であるため、Nr=0Nr=0とε(r)=0\ep(r)=0は同値である。よってker⁡N=ker⁡ε\ker N=\ker\epである。

ε(T)=0\ep(T)=0であるから、TR⊆ker⁡εTR\subseteq\ker\epである。逆にε(r)=0\ep(r)=0と仮定し、

b0=0,bj=−∑k=1jak(1≤j≤m−1),b=∑j=0m−1bjσjb_0=0,\qquad b_j=-\sum_{k=1}^j a_k\quad(1\le j\le m-1),\qquad b=\sum_{j=0}^{m-1}b_j\sigma^j

とおく。1≤j≤m−11\le j\le m-1に対してbj−1−bj=ajb_{j-1}-b_j=a_jであり、∑iai=0\sum_i a_i=0からbm−1−b0=a0b_{m-1}-b_0=a_0である。したがってTb=rTb=rであり、ker⁡ε⊆TR\ker\ep\subseteq TRを得る。以上の等式からker⁡ε=TR\ker\ep=TRとker⁡N=TR\ker N=TRが従う。▨

命題 1.2.G=⟨σ⟩G=\langle\sigma\rangleを位数m≥1m\ge1の有限巡回群、R=Z[G]R=\Z[G]とし、T=σ−1T=\sigma-1、N=∑i=0m−1σiN=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^iとおく。Z\Zに添加写像ε ⁣:R→Z\ep\colon R\to\Zによる自明左RR-加群構造を与える。すべてのn≥0n\ge0に対してPn=RP_n=Rとし、すべてのq≥0q\ge0に対して

d2q+1 ⁣:P2q+1→P2q,r↦Tr,d2q+2 ⁣:P2q+2→P2q+1,r↦Nrd_{2q+1}\colon P_{2q+1}\to P_{2q},\quad r\mapsto Tr,\qquad d_{2q+2}\colon P_{2q+2}\to P_{2q+1},\quad r\mapsto Nr

と定める。このとき、列

⋯→TR→NR→TR→εZ⟶0\cdots\xrightarrow{T}R\xrightarrow{N}R\xrightarrow{T}R \xrightarrow{\ep}\Z\longrightarrow0

は自明左RR-加群Z\Zの自由分解である。

証明.GGは可換であるためRRも可換であり、TTとNNによる乗法は左RR-線形である。§E7.35 命題 1.2により、ε\epも自明左RR-加群Z\Zへの左RR-線形写像である。TN=NT=σm−1=0TN=NT=\sigma^m-1=0とε(T)=0\ep(T)=0から、隣接する二つの写像の合成は零である。ε(1)=1\ep(1)=1によりε\epは全射であり、補題 1.1により列は各PnP_nで完全である。各Pn=RP_n=Rは階数一の自由左RR-加群である。▨

2 有限巡回群のコホモロジー

定理 2.1.G=⟨σ⟩G=\langle\sigma\rangleを位数m≥1m\ge1の有限巡回群、R=Z[G]R=\Z[G]、AAを任意の左RR-加群とする。AAの自己準同型を

T(a)=σa−a,N(a)=∑i=0m−1σiaT(a)=\sigma a-a,\qquad N(a)=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^i a

と定める。写像NNをノルム写像という。AAについて自然な同型

H0(G,A)≅AGH^0(G,A)\cong A^G

が存在し、すべての整数q≥0q\ge0に対して、AAについて自然な同型

H2q+1(G,A)≅ker⁡N/TA,H2q+2(G,A)≅AG/NAH^{2q+1}(G,A)\cong\ker N/TA,\qquad H^{2q+2}(G,A)\cong A^G/NA

が存在する。

証明.命題 1.2の各項は、§E6.10 系 1.5により射影的である。§E6.10 補題 1.4により、評価写像

Hom⁡R(R,A)⟶A,φ⟼φ(1)\Hom_R(R,A)\longrightarrow A,\qquad \varphi\longmapsto\varphi(1)

はアーベル群の同型であり、逆写像はa↦(r↦ra)a\mapsto(r\mapsto ra)である。t∈Rt\in Rによる乗法写像との前合成は、φ(t)=tφ(1)\varphi(t)=t\varphi(1)により、評価同型のもとでAA上のttの作用になる。したがって自由分解にHom⁡R(−,A)\Hom_R(-,A)を適用した余鎖複体は

0⟶A→TA→NA→TA→N⋯0\longrightarrow A\xrightarrow{T}A\xrightarrow{N}A \xrightarrow{T}A\xrightarrow{N}\cdots

に同定され、最初のAAは次数零にある。§E7.35 系 4.4により、この余鎖複体のコホモロジーは各次数でHn(G,A)H^n(G,A)に同型である。GGはσ\sigmaで生成されるため、ker⁡T=AG\ker T=A^Gである。零次の境界は零であり、正奇数次数の核と境界はker⁡N\ker NとTATA、正偶数次数の核と境界はAGA^GとNANAである。TN=NT=0TN=NT=0により各境界は対応する核に含まれる。評価同型は左RR-線形写像A→A′A\to A'と可換であるため、得られた同型は係数加群について自然である。▨

例 2.2.GGを位数m≥1m\ge1の有限巡回群とし、Z\Zに自明作用を与える。このとき、H0(G,Z)≅ZH^0(G,\Z)\cong\Zであり、すべてのq≥0q\ge0に対して

H2q+1(G,Z)=0,H2q+2(G,Z)≅Z/mZH^{2q+1}(G,\Z)=0,\qquad H^{2q+2}(G,\Z)\cong\Z/m\Z

である。特にm≥2m\ge2ならば、すべての正偶数次数のコホモロジーは非零である。実際、生成元σ\sigmaを取り、T=σ−1T=\sigma-1、N=∑i=0m−1σiN=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^iとおく。Z\Z上ではT=0T=0であり、NNはmm倍写像である。整数のmm倍写像は単射であるから、定理 2.1によって表示された群を得る。

例 2.3.GGを位数m≥1m\ge1の有限巡回群、ppを素数とし、Z/pZ\Z/p\Zに自明作用を与える。このとき、H0(G,Z/pZ)≅Z/pZH^0(G,\Z/p\Z)\cong\Z/p\Zであり、すべてのn≥1n\ge1に対して

Hn(G,Z/pZ)≅{Z/pZ(p∣m),0(p∤m)H^n(G,\Z/p\Z)\cong \begin{cases} \Z/p\Z & (p\mid m),\\ 0 & (p\nmid m) \end{cases}

である。実際、生成元σ\sigmaを取り、T=σ−1T=\sigma-1、N=∑i=0m−1σiN=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^iとおく。Z/pZ\Z/p\Z上ではT=0T=0であり、NNはmm倍写像である。p∣mp\mid mならばN=0N=0であり、p∤mp\nmid mならばNNは同型である。したがって定理 2.1により表示された群を得る。特にp∣mp\mid mの場合には、正奇数次数のコホモロジーも非零である。

系 2.4.G=⟨σ⟩G=\langle\sigma\rangleを位数m≥1m\ge1の有限巡回群、AAを左Z[G]\Z[G]-加群とする。mm倍写像A→AA\to Aが同型ならば、すべてのn≥1n\ge1に対してHn(G,A)=0H^n(G,A)=0である。特に、kkが可換環でm⋅1km\cdot1_kが単元ならば、任意の左k[G]k[G]-加群AAに対してすべての正次数のコホモロジーは零である。

証明.mm倍写像の逆をm−1 ⁣:A→Am^{-1}\colon A\to Aと書く。mm倍写像はZ[G]\Z[G]-線形であるため、その逆m−1m^{-1}もZ[G]\Z[G]-線形である。T=σ−1T=\sigma-1、N=∑i=0m−1σiN=\sum_{i=0}^{m-1}\sigma^i、S=∑i=0m−1iσiS=\sum_{i=0}^{m-1}i\sigma^iとおくと、群環で

TS=∑i=0m−1i(σi+1−σi)=m−NTS=\sum_{i=0}^{m-1}i(\sigma^{i+1}-\sigma^i)=m-N

が成り立つ。任意のa∈ker⁡Na\in\ker Nに対して

a=m−1(m−N)a=T(m−1Sa)a=m^{-1}(m-N)a=T(m^{-1}Sa)

であるから、ker⁡N⊆TA\ker N\subseteq TAである。NT=0NT=0により逆包含も成り立つ。また、任意のb∈AGb\in A^Gに対してNb=mbNb=mbであるため、b=N(m−1b)b=N(m^{-1}b)であり、AG⊆NAA^G\subseteq NAである。TN=0TN=0によりNA⊆ker⁡T=AGNA\subseteq\ker T=A^Gでもある。定理 2.1の正次数の二つの商は、いずれも零となる。k[G]k[G]-加群の場合は、単元m⋅1km\cdot1_kの逆元の作用がmm倍写像の逆を与える。▨

3 無限巡回群のコホモロジー

定理 3.1.G=⟨σ⟩G=\langle\sigma\rangleを無限巡回群、R=Z[G]R=\Z[G]、AAを任意の左RR-加群とする。T=σ−1T=\sigma-1とし、Z\Zに添加写像ε ⁣:R→Z\ep\colon R\to\Zによる自明左RR-加群構造を与える。このとき、列

0⟶R→TR→εZ⟶00\longrightarrow R\xrightarrow{T}R\xrightarrow{\ep}\Z\longrightarrow0

はZ\Zの自由分解である。ここでT ⁣:R→RT\colon R\to RはTTによる乗法写像である。AAについて自然な同型

H0(G,A)≅AG,H1(G,A)≅A/(σ−1)AH^0(G,A)\cong A^G,\qquad H^1(G,A)\cong A/(\sigma-1)A

が存在し、すべてのn≥2n\ge2に対してHn(G,A)=0H^n(G,A)=0である。

証明.§E7.2 定理 5.1 (1)により、RRの各元は一意にr=∑j∈Zajσjr=\sum_{j\in\Z}a_j\sigma^jと書かれる。ただしaj∈Za_j\in\Zであり、零でない係数は有限個である。TrTrのσj\sigma^jの係数はaj−1−aja_{j-1}-a_jである。Tr=0Tr=0ならば係数列(aj)j∈Z(a_j)_{j\in\Z}は定数列であり、有限台であるためすべての係数は零である。よってT ⁣:R→RT\colon R\to Rは単射である。

ε(r)=0\ep(r)=0と仮定し、bj=−∑k≤jakb_j=-\sum_{k\le j}a_kとおく。係数aka_kの有限台より、十分小さいjjに対してbj=0b_j=0である。∑kak=0\sum_k a_k=0より、十分大きいjjに対してもbj=0b_j=0である。したがってb=∑jbjσjb=\sum_j b_j\sigma^jはRRの元であり、bj−1−bj=ajb_{j-1}-b_j=a_jからTb=rTb=rを得る。ε(T)=0\ep(T)=0による逆包含と合わせてker⁡ε=TR\ker\ep=TRが成り立つ。RRは可換であるためTTによる乗法は左RR-線形であり、§E7.35 命題 1.2によりε\epも左RR-線形である。ε(1)=1\ep(1)=1であるから、表示された列は完全であり、自由分解をなす。

自由項RRは§E6.10 系 1.5により射影的である。評価同型Hom⁡R(R,A)≅A\Hom_R(R,A)\cong Aはφ↦φ(1)\varphi\mapsto\varphi(1)で与えられ、乗法TTとの前合成はa↦(σ−1)aa\mapsto(\sigma-1)aに対応する。したがってHom⁡R(−,A)\Hom_R(-,A)によって得られる余鎖複体は

0⟶A→σ−1A⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{\sigma-1}A\longrightarrow0

であり、二つのAAは次数零と次数一にある。§E7.35 系 4.4により、この複体のコホモロジーがHn(G,A)H^n(G,A)を与える。零次の核はAGA^G、第一次の群はA/(σ−1)AA/(\sigma-1)Aであり、次数二以上の項は零である。評価同型は係数加群の射と可換であるため、表示された同型はAAについて自然である。▨

参考文献

  1. Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics 87, Springer, New York, 1982.巡回群の周期的自由分解と群コホモロジーの計算を参考にした。

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