§E7.39群コホモロジーの制限と誘導

最終更新

群の作用を部分群へ制限すると、作用を受ける対象は同じでも、不変元やコホモロジーは変わる。例えば、位数二の巡回群が整数に符号を変える作用をすると、不変元は零だけであるが、単位元だけからなる部分群へ制限すれば、すべての整数が不変元となる。群全体と部分群のコホモロジーを比較するには、作用を制限する操作と、部分群の係数から群全体の係数を作る操作との関係を調べる必要がある。

余誘導加群は、この比較を行うための基本的な構成である。Shapiro の補題は、部分群のコホモロジーが、余誘導加群を係数とする群全体のコホモロジーに同型となることを示す。群を変える際に係数も適切に変えることで、コホモロジーを同定することができる。本記事では、部分群および商群と群全体のコホモロジーとの関係を解説する。

1 部分群への制限

定義 1.1.GGを群、H≤GH\leq G、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。各非負整数nnに対し、非斉次コチェインの制限

Cn(G,M)⟶Cn(H,Res⁡HGM),f⟼f∣HnC^n(G,M)\longrightarrow C^n(H,\operatorname{Res}_H^G M), \qquad f\longmapsto f|_{H^n}

がコホモロジーに誘導する写像を

res⁡HG ⁣:Hn(G,M)⟶Hn(H,Res⁡HGM)\operatorname{res}_H^G\colon H^n(G,M)\longrightarrow H^n(H,\operatorname{Res}_H^G M)

と書き、制限 (restriction) という。次数零のコチェイン写像はMMの恒等写像である。

証明.§E7.35 命題 4.2の微分にHHの元を代入すると、積と係数への作用はHHに制限した微分の式と一致する。したがって制限は余鎖写像であり、コホモロジー上の写像を定める。係数の射による後合成もコチェインの制限と可換するため、res⁡HG\operatorname{res}_H^GはMMについて自然である。▨

2 誘導・余誘導と Shapiro の補題

注意 2.1.GGを群、H≤GH\leq G、VVを左Z[H]\Z[H]-加群とする。整数群環上の誘導加群と余誘導加群は

Ind⁡HGV=Z[G]⊗Z[H]V,Coind⁡HGV=Hom⁡Z[H](Z[G],V)\operatorname{Ind}_H^G V=\Z[G]\otimes_{\Z[H]}V, \qquad \operatorname{Coind}_H^G V=\Hom_{\Z[H]}(\Z[G],V)

であり、左Z[G]\Z[G]作用は

a(x⊗v)=ax⊗v,(af)(x)=f(xa)(a,x∈Z[G])a(x\otimes v)=ax\otimes v, \qquad (af)(x)=f(xa) \quad(a,x\in\Z[G])

である。テンソル積の第一因子には右Z[H]\Z[H]作用を、Hom の入力には左Z[H]\Z[H]作用を用いる。§E7.34 補題 1.2を係数環Z\Zに適用すると、これらの構成は左Z[G]\Z[G]-加群を与え、VVの射uuに対してそれぞれid⁡⊗u\id\otimes uとf↦u∘ff\mapsto u\circ fを対応させる。

補題 2.2.GGを群、H≤GH\leq Gとする。左Z[G]\Z[G]-射影加群のHHへの制限は、左Z[H]\Z[H]-射影加群である。したがって、自明左Z[G]\Z[G]-加群Z\Zの射影分解をHHへ制限すると、自明左Z[H]\Z[H]-加群Z\Zの射影分解を得る。

証明.H\GH\backslash Gの右剰余類の代表族を(si)i∈I(s_i)_{i\in I}とする。任意のg∈Gg\in Gは、ある一意のi∈Ii\in Iとh∈Hh\in Hによってg=hsig=hs_iと表される。したがってZ[G]=⨁i∈IZ[H]si\Z[G]=\bigoplus_{i\in I}\Z[H]s_iであり、Z[G]\Z[G]は左Z[H]\Z[H]-自由加群である。よって自由左Z[G]\Z[G]-加群も、制限後は自由左Z[H]\Z[H]-加群である。射影加群を自由加群の直和因子として表す§E6.16 命題 1.2 (3)により、制限後の加群は自由左Z[H]\Z[H]-加群の直和因子であり、射影的である。制限は下部のアーベル群、微分および添加写像を変えないため、分解の完全性も保つ。▨

定理 2.3.GGを群、H≤GH\leq G、VVを左Z[H]\Z[H]-加群とする。すべての非負整数nnに対して、VVについて自然な同型

SV ⁣:Hn(G,Coind⁡HGV)→ ≅ Hn(H,V)S_V\colon H^n(G,\operatorname{Coind}_H^G V) \xrightarrow{\ \cong\ }H^n(H,V)

が存在する。この同型を Shapiro 同型という。

さらに、左Z[G]\Z[G]-加群MMに対してV=Res⁡HGMV=\operatorname{Res}_H^G Mと置き、左Z[G]\Z[G]-線形写像

iM ⁣:M⟶Coind⁡HGV,iM(m)(x)=xmi_M\colon M\longrightarrow\operatorname{Coind}_H^G V, \qquad i_M(m)(x)=xm

を取ると、すべてのn≥0n\geq0に対して

SV∘Hn(G,iM)=res⁡HGS_V\circ H^n(G,i_M)=\operatorname{res}_H^G

が成り立つ。

証明. 自明左Z[G]\Z[G]-加群Z\Zの射影分解P∙→ZP_\bullet\to\Zを取る。補題 2.2により、その制限もZ[H]\Z[H]上の射影分解である。§E7.34 命題 2.2を各PkP_kに適用すると、同型

Hom⁡Z[G](Pk,Coind⁡HGV)⟶Hom⁡Z[H](Res⁡HGPk,V),F⟼(p↦F(p)(1))\Hom_{\Z[G]}(P_k,\operatorname{Coind}_H^G V) \longrightarrow \Hom_{\Z[H]}(\operatorname{Res}_H^G P_k,V), \qquad F\longmapsto\bigl(p\mapsto F(p)(1)\bigr)

を得る。逆写像はT↦(p↦(x↦T(xp)))T\mapsto\bigl(p\mapsto(x\mapsto T(xp))\bigr)である。随伴の第一変数に関する自然性により、これらの同型はP∙P_\bulletの微分と可換する。したがって余鎖複体の同型をなし、§E7.35 系 4.4によってSVS_Vを与える。分解の比較写像にも同じ自然性を適用すると、得られる同型は分解の選択によらない。随伴の第二変数に関する自然性は、SVS_VのVVについての自然性を与える。

Res⁡HGM\operatorname{Res}_H^G Mの恒等写像に同じ随伴を適用すると、iMi_Mを得る。左Z[G]\Z[G]-線形写像f ⁣:Pk→Mf\colon P_k\to Mに対して

(iM∘f)(p)(1)=f(p)(i_M\circ f)(p)(1)=f(p)

である。よってSV∘Hn(G,iM)S_V\circ H^n(G,i_M)は、Z[G]\Z[G]-線形写像をZ[H]\Z[H]-線形写像とみなす余鎖写像が誘導する写像である。

P∙=B∙(G)P_\bullet=B_\bullet(G)を標準自由分解とする。基底上の包含

Bk(H)⟶Res⁡HGBk(G),[h1∣⋯∣hk]⟼[h1∣⋯∣hk]B_k(H)\longrightarrow\operatorname{Res}_H^G B_k(G), \qquad [h_1|\cdots|h_k]\longmapsto[h_1|\cdots|h_k]

は、標準分解の微分の式により添加を保つ鎖写像であり、Z\Zの恒等写像を持ち上げる。§E6.38 定理 2.2と§E7.35 系 4.4により、この写像を用いてHHのコホモロジーを同定することができる。包含による前合成は、非斉次コチェインのHkH^kへの制限に等しい。したがってSV∘Hn(G,iM)=res⁡HGS_V\circ H^n(G,i_M)=\operatorname{res}_H^Gである。▨

系 2.4.GGを群、H≤GH\leq Gを有限指数部分群、VVを左Z[H]\Z[H]-加群とする。HHに属する群元の係数だけを残す写像をEH ⁣:Z[G]→Z[H]E_H\colon\Z[G]\to\Z[H]と書く。このとき

JV ⁣:Ind⁡HGV→ ≅ Coind⁡HGV,JV(x⊗v)(y)=EH(yx)vJ_V\colon\operatorname{Ind}_H^G V\xrightarrow{\ \cong\ } \operatorname{Coind}_H^G V, \qquad J_V(x\otimes v)(y)=E_H(yx)v

は左Z[G]\Z[G]-加群の同型であり、すべてのn≥0n\geq0について自然な同型

SV∘Hn(G,JV) ⁣:Hn(G,Ind⁡HGV)→ ≅ Hn(H,V)S_V\circ H^n(G,J_V)\colon H^n(G,\operatorname{Ind}_H^G V)\xrightarrow{\ \cong\ }H^n(H,V)

を与える。G/HG/Hの代表族をRRとすると、JVJ_Vの逆写像は

JV−1(f)=∑r∈Rr⊗f(r−1)J_V^{-1}(f)=\sum_{r\in R}r\otimes f(r^{-1})

である。

証明.§E7.34 定理 3.2に係数環Z\Zを代入すると、自然な同型JVJ_Vを得る。G/HG/Hの左剰余類の代表族RRの任意の元r,sr,sと任意のv∈Vv\in Vに対して、s−1r∈Hs^{-1}r\in Hとr=sr=sは同値であるから

JV(r⊗v)(s−1)=EH(s−1r)v={vr=s,0r≠s.J_V(r\otimes v)(s^{-1})=E_H(s^{-1}r)v= \begin{cases}v&r=s,\\0&r\ne s.\end{cases}

したがって任意のf∈Coind⁡HGVf\in\operatorname{Coind}_H^G Vと任意のs∈Rs\in Rに対して

JV(∑r∈Rr⊗f(r−1))(s−1)=f(s−1)J_V\left(\sum_{r\in R}r\otimes f(r^{-1})\right)(s^{-1})=f(s^{-1})

である。任意の群元は一意的にhs−1hs^{-1}(h∈Hh\in H、s∈Rs\in R)と表されるため、左Z[H]\Z[H]-線形写像Z[G]→V\Z[G]\to Vは各s−1s^{-1}での値によって決まる。よって表示された和はJV−1(f)J_V^{-1}(f)に等しい。そのコホモロジー上の同型と定理 2.3の同型を合成すればよい。▨

3 有限指数部分群からの移送

定義 3.1.GGを群、H≤GH\leq Gを有限指数部分群、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とし、V=Res⁡HGMV=\operatorname{Res}_H^G Mと置く。§E7.34 命題 2.1により、VVの恒等写像に対応する左Z[G]\Z[G]-線形写像は

εM ⁣:Ind⁡HGV⟶M,εM(x⊗m)=xm\varepsilon_M\colon\operatorname{Ind}_H^G V\longrightarrow M, \qquad \varepsilon_M(x\otimes m)=xm

である。すべてのn≥0n\geq0に対し、合成

cor⁡HG:=Hn(G,εM)∘Hn(G,JV−1)∘SV−1 ⁣:Hn(H,V)⟶Hn(G,M)\operatorname{cor}_H^G :=H^n(G,\varepsilon_M)\circ H^n(G,J_V^{-1})\circ S_V^{-1} \colon H^n(H,V)\longrightarrow H^n(G,M)

を移送 (transfer) という。

命題 3.2.GGを群、H≤GH\leq Gを有限指数部分群、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。移送はMMの左Z[G]\Z[G]-線形写像について自然であり、すべてのn≥0n\geq0に対して

cor⁡HG∘res⁡HG=[G:H] id⁡Hn(G,M)\operatorname{cor}_H^G\circ\operatorname{res}_H^G =[G:H]\,\id_{H^n(G,M)}

が成り立つ。次数零では、移送は

MH⟶MG,m⟼∑r∈RrmM^H\longrightarrow M^G, \qquad m\longmapsto\sum_{r\in R}rm

である。ただしRRはG/HG/Hの代表族である。

証明.V=Res⁡HGMV=\operatorname{Res}_H^G Mと置く。系 2.4の逆写像の式から、任意のm∈Mm\in Mに対して

JV−1iM(m)=∑r∈Rr⊗r−1m,εMJV−1iM(m)=∑r∈Rm=[G:H]mJ_V^{-1}i_M(m)=\sum_{r\in R}r\otimes r^{-1}m, \qquad \varepsilon_MJ_V^{-1}i_M(m)=\sum_{r\in R}m=[G:H]m

である。定理 2.3により、制限はSV∘Hn(G,iM)S_V\circ H^n(G,i_M)に等しい。移送の定義へ代入し、係数の射の合成をコホモロジーへ移すと、主張の合成公式を得る。整数倍の係数射は Hom 余鎖複体上で同じ整数倍を与えるため、コホモロジー上でも[G:H][G:H]倍である。

次数零の Shapiro 同型は、不変元f∈(Coind⁡HGV)Gf\in(\operatorname{Coind}_H^G V)^Gをf(1)∈VHf(1)\in V^Hへ送る。不変性からf(g)=f(1)f(g)=f(1)がすべてのg∈Gg\in Gで成り立つ。逆にm∈VHm\in V^Hに対して、すべての群元で値mmを取る写像のZ\Z-線形延長はZ[H]\Z[H]-線形かつGG-不変である。よってJV−1J_V^{-1}とεM\varepsilon_Mを適用すると∑r∈Rrm\sum_{r\in R}rmを得る。JVJ_Vの定義は代表族によらないため、この和も代表族によらない。SVS_V、JVJ_Vおよび誘導随伴の自然性により、移送は係数の射と可換する。▨

例 3.3.G={1,t}G=\{1,t\}、t2=1t^2=1、H={1}H=\{1\}とし、M=ZM=\Zにtm=−mtm=-mによる作用を入れる。MH=ZM^H=\Z、MG=0M^G=0であるから、次数零の移送はm↦m+tm=0m\mapsto m+tm=0である。したがって

res⁡HG∘cor⁡HG ⁣:H0(H,M)⟶H0(H,M)\operatorname{res}_H^G\circ\operatorname{cor}_H^G\colon H^0(H,M)\longrightarrow H^0(H,M)

は零写像であり、指数[G:H]=2[G:H]=2による倍写像ではない。

4 正規部分群と膨張

命題 4.1.GGを群、N⊴GN\trianglelefteq G、Q=G/NQ=G/N、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。MNM^NはGGの作用で保たれ、q=gNq=gNに対するqm=gmqm=gmによって左Z[Q]\Z[Q]-加群となる。

NNからMMへの交差準同型ddとg∈Gg\in Gに対し

(g∗d)(n)=g d(g−1ng)(n∈N)(g*d)(n)=g\,d(g^{-1}ng)\quad(n\in N)

と置く。この作用はH1(N,M)H^1(N,M)上のQQの作用を誘導する。制限の像は不変元の部分群H1(N,M)QH^1(N,M)^Qに含まれる。

証明.m∈MNm\in M^N、g∈Gg\in G、n∈Nn\in Nに対してn(gm)=g(g−1ng)m=gmn(gm)=g(g^{-1}ng)m=gmである。したがってgm∈MNgm\in M^Nであり、NNはMNM^Nに自明に作用するので、QQの作用が定まる。

交差準同型d ⁣:N→Md\colon N\to Mに対して、n1,n2∈Nn_1,n_2\in Nならば

(g∗d)(n1n2)=(g∗d)(n1)+n1(g∗d)(n2)(g*d)(n_1n_2)=(g*d)(n_1)+n_1(g*d)(n_2)

である。また(gh)∗d=g∗(h∗d)(gh)*d=g*(h*d)、1∗d=d1*d=d、およびg∗(δNm)=δN(gm)g*(\delta_Nm)=\delta_N(gm)が成り立つ。よって§E7.36 命題 1.3によりGGはH1(N,M)H^1(N,M)に作用する。t∈Nt\in Nに対し、d(t−1)=−t−1d(t)d(t^{-1})=-t^{-1}d(t)を用いると

(t∗d)(n)=t d(t−1nt)=−d(t)+d(n)+nd(t)(t*d)(n)=t\,d(t^{-1}nt)=-d(t)+d(n)+n d(t)

である。したがってt∗d−d=δN(d(t))t*d-d=\delta_N(d(t))であり、NNの作用はコホモロジー上で自明となる。

GG上の交差準同型zzに対し、同じ展開をz(g−1ng)z(g^{-1}ng)に適用すると

g∗(z∣N)−z∣N=δN(z(g))g*(z|_N)-z|_N=\delta_N(z(g))

を得る。よって制限の像はQQ-不変である。▨

定義 4.2.GGを群、N⊴GN\trianglelefteq G、Q=G/NQ=G/N、π ⁣:G→Q\pi\colon G\to Qを商写像、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。非斉次コチェイン上の写像

π∗ ⁣:Cn(Q,MN)⟶Cn(G,M),(π∗f)(g1,…,gn)=f(π(g1),…,π(gn))\pi^*\colon C^n(Q,M^N)\longrightarrow C^n(G,M), \qquad (\pi^*f)(g_1,\ldots,g_n)=f(\pi(g_1),\ldots,\pi(g_n))

がコホモロジー上に誘導する写像

inf⁡ ⁣:Hn(Q,MN)⟶Hn(G,M)(n≥0)\operatorname{inf}\colon H^n(Q,M^N)\longrightarrow H^n(G,M) \quad(n\geq0)

を膨張 (inflation) という。値は包含MN↪MM^N\hookrightarrow MによってMMの元とみなし、次数零の写像もこの包含とする。

証明.g∈Gg\in Gとm∈MNm\in M^Nに対してgm=π(g)mgm=\pi(g)mであり、π\piは群準同型である。§E7.35 命題 4.2の微分の各項にこの二つの等式を用いると、δGπ∗=π∗δQ\delta_G\pi^*=\pi^*\delta_Qとなる。したがってπ∗\pi^*は余鎖写像である。またπ(1)=1\pi(1)=1であるから、正規化されたコチェインを正規化されたコチェインへ送る。▨

5 推移準同型と低次の完全列

補題 5.1.GGを群、N⊴GN\trianglelefteq G、Q=G/NQ=G/N、π ⁣:G→Q\pi\colon G\to Qを商写像、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。交差準同型d ⁣:N→Md\colon N\to Mの類がH1(N,M)QH^1(N,M)^Qに属すると仮定する。このとき、b∣N=db|_N=dを満たす正規化された一次のコチェインb ⁣:G→Mb\colon G\to Mで、すべてのn∈Nn\in N、g∈Gg\in Gに対し

b(ng)=d(n)+nb(g),b(gn)=b(g)+gd(n)b(ng)=d(n)+nb(g), \qquad b(gn)=b(g)+gd(n)

を満たすものが存在する。このようなbbに対して、一意な正規化された二次のコサイクルc ⁣:Q2→MNc\colon Q^2\to M^Nが存在して

δGb=π∗c\delta_G b=\pi^*c

となる。類[c]∈H2(Q,MN)[c]\in H^2(Q,M^N)はbbの選択によらず、[d][d]だけで定まる。対応[d]↦[c][d]\mapsto[c]は加法群準同型である。

証明.π\piの集合としての右逆写像s ⁣:Q→Gs\colon Q\to Gをs(1)=1s(1)=1となるように取る。[d][d]の不変性により、各q∈Qq\in Qについて

s(q)∗d−d=δNa(q)s(q)*d-d=\delta_N a(q)

を満たすa(q)∈Ma(q)\in Mを選ぶことができる。a(1)=0a(1)=0とする。各g∈Gg\in Gは一意にg=ns(q)g=n s(q)と表されるので、

b(ns(q))=d(n)+na(q)b(n s(q))=d(n)+n a(q)

と定める。交差準同型はd(1)=0d(1)=0を満たすため、b(1)=0b(1)=0、b∣N=db|_N=dである。交差準同型の等式からb(ng)=d(n)+nb(g)b(ng)=d(n)+nb(g)を得る。

n′=s(q)ns(q)−1n'=s(q)n s(q)^{-1}と置くと、a(q)a(q)を定めた等式をn′n'に適用して

s(q)d(n)=d(n′)+n′a(q)−a(q)s(q)d(n)=d(n')+n'a(q)-a(q)

を得る。g=n0s(q)g=n_0s(q)と書けば

b(gn)=d(n0n′)+n0n′a(q)=d(n0)+n0(d(n′)+n′a(q))=d(n0)+n0a(q)+n0s(q)d(n)=b(g)+gd(n)\begin{aligned} b(gn)&=d(n_0n')+n_0n'a(q)\\ &=d(n_0)+n_0\bigl(d(n')+n'a(q)\bigr)\\ &=d(n_0)+n_0a(q)+n_0s(q)d(n)\\ &=b(g)+gd(n) \end{aligned}

となる。

F=δGbF=\delta_Gbと置く。二つの適合式によりF(n,g)=F(g,n)=0F(n,g)=F(g,n)=0であり、δGF=0\delta_GF=0である。二次のコサイクル条件を順に(n,g,h)(n,g,h)、(g,n,h)(g,n,h)、(g,h,n)(g,h,n)に適用すると

F(ng,h)=nF(g,h),F(gn,h)=F(g,nh),F(g,hn)=F(g,h)F(ng,h)=nF(g,h),\qquad F(gn,h)=F(g,nh),\qquad F(g,hn)=F(g,h)

を得る。NNは正規部分群であるからnh=hn′nh=h n'となるn′∈Nn'\in Nが存在し、後ろの二式よりF(gn,h)=F(g,h)F(gn,h)=F(g,h)である。またng=gn′′ng=g n''となるn′′∈Nn''\in Nが存在するので、第一式よりnF(g,h)=F(g,h)nF(g,h)=F(g,h)である。したがってFFはMNM^Nに値を取り、両変数のNN剰余類だけで定まる。一意なc ⁣:Q2→MNc\colon Q^2\to M^Nが存在してF=π∗cF=\pi^*cとなる。FFの正規化からccも正規化される。π\piが全射であるためコチェイン上のπ∗\pi^*は単射であり、π∗(δQc)=δGF=0\pi^*(\delta_Qc)=\delta_GF=0からδQc=0\delta_Qc=0を得る。

同じddを延長する二つのコチェインb,b′b,b'が適合式を満たすとする。u=b′−bu=b'-bと置くと

u∣N=0,u(ng)=nu(g),u(gn)=u(g)u|_N=0,\qquad u(ng)=nu(g),\qquad u(gn)=u(g)

である。正規性からu(ng)=u(g)u(ng)=u(g)でもあるので、u(g)∈MNu(g)\in M^Nである。よって一意な正規化された写像v ⁣:Q→MNv\colon Q\to M^Nが存在してu=π∗vu=\pi^*vとなる。対応するc,c′c,c'について

π∗(c′−c)=δGu=π∗(δQv)\pi^*(c'-c)=\delta_Gu=\pi^*(\delta_Qv)

であるから、c′−c=δQvc'-c=\delta_Qvであり、[c′]=[c][c']=[c]を得る。

m∈Mm\in Mに対しd′=d+δNmd'=d+\delta_Nmとすると、b′=b+δGmb'=b+\delta_Gmはd′d'の適合式を満たす延長であり、δGb′=δGb\delta_Gb'=\delta_Gbである。§E7.36 命題 1.3により、[c][c]は[d][d]だけで定まる。また二つの交差準同型に対する延長の和は、その和の適合式を満たす延長である。微分と降下は加法を保つので、[d]↦[c][d]\mapsto[c]は加法群準同型である。▨

定義 5.2.GGを群、N⊴GN\trianglelefteq G、Q=G/NQ=G/N、π ⁣:G→Q\pi\colon G\to Qを商写像、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。補題 5.1の構成による準同型

tr⁡ ⁣:H1(N,M)Q⟶H2(Q,MN),[d]⟼[c],π∗c=δGb\operatorname{tr}\colon H^1(N,M)^Q\longrightarrow H^2(Q,M^N), \qquad [d]\longmapsto[c],\qquad \pi^*c=\delta_Gb

を推移準同型 (transgression) という。

定理 5.3.GGを群、N⊴GN\trianglelefteq G、Q=G/NQ=G/N、π ⁣:G→Q\pi\colon G\to Qを商写像、MMを左Z[G]\Z[G]-加群とする。このときアーベル群の列

0⟶H1(Q,MN)→inf⁡H1(G,M)→res⁡NGH1(N,M)Q→tr⁡H2(Q,MN)→inf⁡H2(G,M)\begin{aligned} 0\longrightarrow H^1(Q,M^N) &\xrightarrow{\operatorname{inf}}H^1(G,M) \xrightarrow{\operatorname{res}_N^G}H^1(N,M)^Q\\ &\xrightarrow{\operatorname{tr}}H^2(Q,M^N) \xrightarrow{\operatorname{inf}}H^2(G,M) \end{aligned}

は完全である。

証明.QQ上の交差準同型z ⁣:Q→MNz\colon Q\to M^Nがπ∗z=δGm\pi^*z=\delta_Gmを満たすとする。NNへの制限からnm−m=0nm-m=0がすべてのn∈Nn\in Nで成り立つので、m∈MNm\in M^Nである。π\piの全射性からz=δQmz=\delta_Qmとなり、最初の膨張は単射である。

GG上の交差準同型zzに対しz∣N=δNmz|_N=\delta_Nmとする。w=z−δGmw=z-\delta_GmはNN上で零となる交差準同型である。n∈Nn\in Nとg∈Gg\in Gに対して

w(gn)=w(g),w(ng)=nw(g)w(gn)=w(g),\qquad w(ng)=nw(g)

である。正規性によりng=gn′ng=gn'となるn′∈Nn'\in Nが存在するので、nw(g)=w(g)nw(g)=w(g)である。したがってwwはMNM^Nに値を取り、QQ上の写像vvの膨張となる。wwの交差準同型の等式とπ\piの全射性から、vvも交差準同型である。よって[z]=inf⁡[v][z]=\operatorname{inf}[v]となる。逆にQQ上の交差準同型の膨張はNN上で零であるから、H1(G,M)H^1(G,M)での完全性を得る。

GG上の交差準同型zzはd=z∣Nd=z|_Nの二つの適合式を満たし、δGz=0\delta_Gz=0である。補題 5.1でb=zb=zを取ると、tr⁡(res⁡NG[z])=0\operatorname{tr}(\operatorname{res}_N^G[z])=0となる。逆に[d]∈H1(N,M)Q[d]\in H^1(N,M)^Qがtr⁡[d]=0\operatorname{tr}[d]=0を満たすとする。同補題のb,cb,cを取り、§E7.35 命題 4.3によりc=δQvc=\delta_Qvを満たす正規化された一次のコチェインv ⁣:Q→MNv\colon Q\to M^Nを取ると、

δG(b−π∗v)=π∗c−π∗(δQv)=0\delta_G(b-\pi^*v)=\pi^*c-\pi^*(\delta_Qv)=0

である。よってb−π∗vb-\pi^*vはGG上の交差準同型であり、そのNNへの制限はddである。したがってH1(N,M)QH^1(N,M)^Qで完全である。

推移準同型の構成ではπ∗c=δGb\pi^*c=\delta_Gbであるから、inf⁡(tr⁡[d])=0\operatorname{inf}(\operatorname{tr}[d])=0である。逆に[c]∈H2(Q,MN)[c]\in H^2(Q,M^N)がinf⁡[c]=0\operatorname{inf}[c]=0を満たすとする。§E7.35 命題 4.3によりccを正規化して取り、π∗c=δGb\pi^*c=\delta_Gbを満たす一次のコチェインb ⁣:G→Mb\colon G\to Mを取る。(1,1)(1,1)における値からb(1)=0b(1)=0である。π∗c\pi^*cはN×GN\times GとG×NG\times N上で零であるため、d=b∣Nd=b|_Nは交差準同型であり、bbはddの二つの適合式を満たす。g∈Gg\in G、n∈Nn\in Nに対しng=g(g−1ng)ng=g(g^{-1}ng)と書いて二つの式を比較すると

d(n)+nb(g)=b(g)+gd(g−1ng)d(n)+nb(g)=b(g)+g d(g^{-1}ng)

を得る。したがってg∗d−d=δN(b(g))g*d-d=\delta_N(b(g))であり、[d]∈H1(N,M)Q[d]\in H^1(N,M)^Qである。このbbを用いて推移準同型を構成すると、π∗c=δGb\pi^*c=\delta_Gbと降下の一意性からtr⁡[d]=[c]\operatorname{tr}[d]=[c]を得る。よってH2(Q,MN)H^2(Q,M^N)でも完全である。▨

参考文献

  1. Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics 87, Springer, New York, 1982.群コホモロジーの制限、Shapiro の補題、移送、および群の拡大に付随するコホモロジーを参考にした。

前提記事