1 部分群への制限
定義 1.1.Gを群、H≤G、Mを左Z[G]-加群とする。各非負整数nに対し、非斉次コチェインの制限
Cn(G,M)⟶Cn(H,ResHGM),f⟼f∣Hnがコホモロジーに誘導する写像を
resHG:Hn(G,M)⟶Hn(H,ResHGM)と書き、制限 (restriction) という。次数零のコチェイン写像はMの恒等写像である。
証明.§E7.35 命題 4.2の微分にHの元を代入すると、積と係数への作用はHに制限した微分の式と一致する。したがって制限は余鎖写像であり、コホモロジー上の写像を定める。係数の射による後合成もコチェインの制限と可換するため、resHGはMについて自然である。▨
2 誘導・余誘導と Shapiro の補題
補題 2.2.Gを群、H≤Gとする。左Z[G]-射影加群のHへの制限は、左Z[H]-射影加群である。したがって、自明左Z[G]-加群Zの射影分解をHへ制限すると、自明左Z[H]-加群Zの射影分解を得る。
証明.H\Gの右剰余類の代表族を(si)i∈Iとする。任意のg∈Gは、ある一意のi∈Iとh∈Hによってg=hsiと表される。したがってZ[G]=⨁i∈IZ[H]siであり、Z[G]は左Z[H]-自由加群である。よって自由左Z[G]-加群も、制限後は自由左Z[H]-加群である。射影加群を自由加群の直和因子として表す§E6.16 命題 1.2 (3)により、制限後の加群は自由左Z[H]-加群の直和因子であり、射影的である。制限は下部のアーベル群、微分および添加写像を変えないため、分解の完全性も保つ。▨
定理 2.3.Gを群、H≤G、Vを左Z[H]-加群とする。すべての非負整数nに対して、Vについて自然な同型
SV:Hn(G,CoindHGV) ≅ Hn(H,V)が存在する。この同型を Shapiro 同型という。
さらに、左Z[G]-加群Mに対してV=ResHGMと置き、左Z[G]-線形写像
iM:M⟶CoindHGV,iM(m)(x)=xmを取ると、すべてのn≥0に対して
SV∘Hn(G,iM)=resHGが成り立つ。
証明. 自明左Z[G]-加群Zの射影分解P∙→Zを取る。補題 2.2により、その制限もZ[H]上の射影分解である。§E7.34 命題 2.2を各Pkに適用すると、同型
HomZ[G](Pk,CoindHGV)⟶HomZ[H](ResHGPk,V),F⟼(p↦F(p)(1))を得る。逆写像はT↦(p↦(x↦T(xp)))である。随伴の第一変数に関する自然性により、これらの同型はP∙の微分と可換する。したがって余鎖複体の同型をなし、§E7.35 系 4.4によってSVを与える。分解の比較写像にも同じ自然性を適用すると、得られる同型は分解の選択によらない。随伴の第二変数に関する自然性は、SVのVについての自然性を与える。
ResHGMの恒等写像に同じ随伴を適用すると、iMを得る。左Z[G]-線形写像f:Pk→Mに対して
(iM∘f)(p)(1)=f(p)である。よってSV∘Hn(G,iM)は、Z[G]-線形写像をZ[H]-線形写像とみなす余鎖写像が誘導する写像である。
P∙=B∙(G)を標準自由分解とする。基底上の包含
Bk(H)⟶ResHGBk(G),[h1∣⋯∣hk]⟼[h1∣⋯∣hk]は、標準分解の微分の式により添加を保つ鎖写像であり、Zの恒等写像を持ち上げる。§E6.38 定理 2.2と§E7.35 系 4.4により、この写像を用いてHのコホモロジーを同定することができる。包含による前合成は、非斉次コチェインのHkへの制限に等しい。したがってSV∘Hn(G,iM)=resHGである。▨
系 2.4.Gを群、H≤Gを有限指数部分群、Vを左Z[H]-加群とする。Hに属する群元の係数だけを残す写像をEH:Z[G]→Z[H]と書く。このとき
JV:IndHGV ≅ CoindHGV,JV(x⊗v)(y)=EH(yx)vは左Z[G]-加群の同型であり、すべてのn≥0について自然な同型
SV∘Hn(G,JV):Hn(G,IndHGV) ≅ Hn(H,V)を与える。G/Hの代表族をRとすると、JVの逆写像は
JV−1(f)=r∈R∑r⊗f(r−1)である。
証明.§E7.34 定理 3.2に係数環Zを代入すると、自然な同型JVを得る。G/Hの左剰余類の代表族Rの任意の元r,sと任意のv∈Vに対して、s−1r∈Hとr=sは同値であるから
JV(r⊗v)(s−1)=EH(s−1r)v={v0r=s,r=s.したがって任意のf∈CoindHGVと任意のs∈Rに対して
JV(r∈R∑r⊗f(r−1))(s−1)=f(s−1)である。任意の群元は一意的にhs−1(h∈H、s∈R)と表されるため、左Z[H]-線形写像Z[G]→Vは各s−1での値によって決まる。よって表示された和はJV−1(f)に等しい。そのコホモロジー上の同型と定理 2.3の同型を合成すればよい。▨
3 有限指数部分群からの移送
定義 3.1.Gを群、H≤Gを有限指数部分群、Mを左Z[G]-加群とし、V=ResHGMと置く。§E7.34 命題 2.1により、Vの恒等写像に対応する左Z[G]-線形写像は
εM:IndHGV⟶M,εM(x⊗m)=xmである。すべてのn≥0に対し、合成
corHG:=Hn(G,εM)∘Hn(G,JV−1)∘SV−1:Hn(H,V)⟶Hn(G,M)を移送 (transfer) という。
命題 3.2.Gを群、H≤Gを有限指数部分群、Mを左Z[G]-加群とする。移送はMの左Z[G]-線形写像について自然であり、すべてのn≥0に対して
corHG∘resHG=[G:H]idHn(G,M)が成り立つ。次数零では、移送は
MH⟶MG,m⟼r∈R∑rmである。ただしRはG/Hの代表族である。
証明.V=ResHGMと置く。系 2.4の逆写像の式から、任意のm∈Mに対して
JV−1iM(m)=r∈R∑r⊗r−1m,εMJV−1iM(m)=r∈R∑m=[G:H]mである。定理 2.3により、制限はSV∘Hn(G,iM)に等しい。移送の定義へ代入し、係数の射の合成をコホモロジーへ移すと、主張の合成公式を得る。整数倍の係数射は Hom 余鎖複体上で同じ整数倍を与えるため、コホモロジー上でも[G:H]倍である。
次数零の Shapiro 同型は、不変元f∈(CoindHGV)Gをf(1)∈VHへ送る。不変性からf(g)=f(1)がすべてのg∈Gで成り立つ。逆にm∈VHに対して、すべての群元で値mを取る写像のZ-線形延長はZ[H]-線形かつG-不変である。よってJV−1とεMを適用すると∑r∈Rrmを得る。JVの定義は代表族によらないため、この和も代表族によらない。SV、JVおよび誘導随伴の自然性により、移送は係数の射と可換する。▨
例 3.3.G={1,t}、t2=1、H={1}とし、M=Zにtm=−mによる作用を入れる。MH=Z、MG=0であるから、次数零の移送はm↦m+tm=0である。したがって
resHG∘corHG:H0(H,M)⟶H0(H,M)は零写像であり、指数[G:H]=2による倍写像ではない。
4 正規部分群と膨張
命題 4.1.Gを群、N⊴G、Q=G/N、Mを左Z[G]-加群とする。MNはGの作用で保たれ、q=gNに対するqm=gmによって左Z[Q]-加群となる。
NからMへの交差準同型dとg∈Gに対し
(g∗d)(n)=gd(g−1ng)(n∈N)と置く。この作用はH1(N,M)上のQの作用を誘導する。制限の像は不変元の部分群H1(N,M)Qに含まれる。
証明.m∈MN、g∈G、n∈Nに対してn(gm)=g(g−1ng)m=gmである。したがってgm∈MNであり、NはMNに自明に作用するので、Qの作用が定まる。
交差準同型d:N→Mに対して、n1,n2∈Nならば
(g∗d)(n1n2)=(g∗d)(n1)+n1(g∗d)(n2)である。また(gh)∗d=g∗(h∗d)、1∗d=d、およびg∗(δNm)=δN(gm)が成り立つ。よって§E7.36 命題 1.3によりGはH1(N,M)に作用する。t∈Nに対し、d(t−1)=−t−1d(t)を用いると
(t∗d)(n)=td(t−1nt)=−d(t)+d(n)+nd(t)である。したがってt∗d−d=δN(d(t))であり、Nの作用はコホモロジー上で自明となる。
G上の交差準同型zに対し、同じ展開をz(g−1ng)に適用すると
g∗(z∣N)−z∣N=δN(z(g))を得る。よって制限の像はQ-不変である。▨
定義 4.2.Gを群、N⊴G、Q=G/N、π:G→Qを商写像、Mを左Z[G]-加群とする。非斉次コチェイン上の写像
π∗:Cn(Q,MN)⟶Cn(G,M),(π∗f)(g1,…,gn)=f(π(g1),…,π(gn))がコホモロジー上に誘導する写像
inf:Hn(Q,MN)⟶Hn(G,M)(n≥0)を膨張 (inflation) という。値は包含MN↪MによってMの元とみなし、次数零の写像もこの包含とする。
証明.g∈Gとm∈MNに対してgm=π(g)mであり、πは群準同型である。§E7.35 命題 4.2の微分の各項にこの二つの等式を用いると、δGπ∗=π∗δQとなる。したがってπ∗は余鎖写像である。またπ(1)=1であるから、正規化されたコチェインを正規化されたコチェインへ送る。▨
5 推移準同型と低次の完全列
補題 5.1.Gを群、N⊴G、Q=G/N、π:G→Qを商写像、Mを左Z[G]-加群とする。交差準同型d:N→Mの類がH1(N,M)Qに属すると仮定する。このとき、b∣N=dを満たす正規化された一次のコチェインb:G→Mで、すべてのn∈N、g∈Gに対し
b(ng)=d(n)+nb(g),b(gn)=b(g)+gd(n)を満たすものが存在する。このようなbに対して、一意な正規化された二次のコサイクルc:Q2→MNが存在して
δGb=π∗cとなる。類[c]∈H2(Q,MN)はbの選択によらず、[d]だけで定まる。対応[d]↦[c]は加法群準同型である。
証明.πの集合としての右逆写像s:Q→Gをs(1)=1となるように取る。[d]の不変性により、各q∈Qについて
s(q)∗d−d=δNa(q)を満たすa(q)∈Mを選ぶことができる。a(1)=0とする。各g∈Gは一意にg=ns(q)と表されるので、
b(ns(q))=d(n)+na(q)と定める。交差準同型はd(1)=0を満たすため、b(1)=0、b∣N=dである。交差準同型の等式からb(ng)=d(n)+nb(g)を得る。
n′=s(q)ns(q)−1と置くと、a(q)を定めた等式をn′に適用して
s(q)d(n)=d(n′)+n′a(q)−a(q)を得る。g=n0s(q)と書けば
b(gn)=d(n0n′)+n0n′a(q)=d(n0)+n0(d(n′)+n′a(q))=d(n0)+n0a(q)+n0s(q)d(n)=b(g)+gd(n)となる。
F=δGbと置く。二つの適合式によりF(n,g)=F(g,n)=0であり、δGF=0である。二次のコサイクル条件を順に(n,g,h)、(g,n,h)、(g,h,n)に適用すると
F(ng,h)=nF(g,h),F(gn,h)=F(g,nh),F(g,hn)=F(g,h)を得る。Nは正規部分群であるからnh=hn′となるn′∈Nが存在し、後ろの二式よりF(gn,h)=F(g,h)である。またng=gn′′となるn′′∈Nが存在するので、第一式よりnF(g,h)=F(g,h)である。したがってFはMNに値を取り、両変数のN剰余類だけで定まる。一意なc:Q2→MNが存在してF=π∗cとなる。Fの正規化からcも正規化される。πが全射であるためコチェイン上のπ∗は単射であり、π∗(δQc)=δGF=0からδQc=0を得る。
同じdを延長する二つのコチェインb,b′が適合式を満たすとする。u=b′−bと置くと
u∣N=0,u(ng)=nu(g),u(gn)=u(g)である。正規性からu(ng)=u(g)でもあるので、u(g)∈MNである。よって一意な正規化された写像v:Q→MNが存在してu=π∗vとなる。対応するc,c′について
π∗(c′−c)=δGu=π∗(δQv)であるから、c′−c=δQvであり、[c′]=[c]を得る。
m∈Mに対しd′=d+δNmとすると、b′=b+δGmはd′の適合式を満たす延長であり、δGb′=δGbである。§E7.36 命題 1.3により、[c]は[d]だけで定まる。また二つの交差準同型に対する延長の和は、その和の適合式を満たす延長である。微分と降下は加法を保つので、[d]↦[c]は加法群準同型である。▨
定義 5.2.Gを群、N⊴G、Q=G/N、π:G→Qを商写像、Mを左Z[G]-加群とする。補題 5.1の構成による準同型
tr:H1(N,M)Q⟶H2(Q,MN),[d]⟼[c],π∗c=δGbを推移準同型 (transgression) という。
定理 5.3.Gを群、N⊴G、Q=G/N、π:G→Qを商写像、Mを左Z[G]-加群とする。このときアーベル群の列
0⟶H1(Q,MN)infH1(G,M)resNGH1(N,M)QtrH2(Q,MN)infH2(G,M)は完全である。
証明.Q上の交差準同型z:Q→MNがπ∗z=δGmを満たすとする。Nへの制限からnm−m=0がすべてのn∈Nで成り立つので、m∈MNである。πの全射性からz=δQmとなり、最初の膨張は単射である。
G上の交差準同型zに対しz∣N=δNmとする。w=z−δGmはN上で零となる交差準同型である。n∈Nとg∈Gに対して
w(gn)=w(g),w(ng)=nw(g)である。正規性によりng=gn′となるn′∈Nが存在するので、nw(g)=w(g)である。したがってwはMNに値を取り、Q上の写像vの膨張となる。wの交差準同型の等式とπの全射性から、vも交差準同型である。よって[z]=inf[v]となる。逆にQ上の交差準同型の膨張はN上で零であるから、H1(G,M)での完全性を得る。
G上の交差準同型zはd=z∣Nの二つの適合式を満たし、δGz=0である。補題 5.1でb=zを取ると、tr(resNG[z])=0となる。逆に[d]∈H1(N,M)Qがtr[d]=0を満たすとする。同補題のb,cを取り、§E7.35 命題 4.3によりc=δQvを満たす正規化された一次のコチェインv:Q→MNを取ると、
δG(b−π∗v)=π∗c−π∗(δQv)=0である。よってb−π∗vはG上の交差準同型であり、そのNへの制限はdである。したがってH1(N,M)Qで完全である。
推移準同型の構成ではπ∗c=δGbであるから、inf(tr[d])=0である。逆に[c]∈H2(Q,MN)がinf[c]=0を満たすとする。§E7.35 命題 4.3によりcを正規化して取り、π∗c=δGbを満たす一次のコチェインb:G→Mを取る。(1,1)における値からb(1)=0である。π∗cはN×GとG×N上で零であるため、d=b∣Nは交差準同型であり、bはdの二つの適合式を満たす。g∈G、n∈Nに対しng=g(g−1ng)と書いて二つの式を比較すると
d(n)+nb(g)=b(g)+gd(g−1ng)を得る。したがってg∗d−d=δN(b(g))であり、[d]∈H1(N,M)Qである。このbを用いて推移準同型を構成すると、π∗c=δGbと降下の一意性からtr[d]=[c]を得る。よってH2(Q,MN)でも完全である。▨