1 自由群の増大イデアル
定理 1.1.Xを任意の集合、F=F(X)をX上の自由群、R=Z[F]とし、添加写像ε:R→Zの核をIFとする。このとき、族(x−1)x∈Xは左R-加群IFの基底である。したがって、∂(ex)=x−1で定まる左R-線形写像を用いた列
0⟶x∈X⨁Rex∂RεZ⟶0は、自明左R-加群Zの自由分解である。
証明.§E7.27 補題 2.2により、頂点集合Fと正辺(g,x):g→gxをもつ Cayley グラフは木である。正辺上の整数の有限支持一鎖の群をC1とし、各正辺(g,x)をgexに対応させると、
C1=(g,x)∈F×X⨁Z(g,x)≅x∈X⨁Rexとなる。頂点上の有限支持零鎖の群はRである。境界を∂(g,x)=gx−gと定める。左乗法による群の作用に対して∂(gex)=g(x−1)であるから、この境界は主張の左R-線形写像に一致する。
非零の一鎖cを取り、係数が非零である辺とその端点からなる有限部分グラフを考える。この部分グラフは森であり、辺をもつ連結成分が存在する。その成分の最長の単純道の端点vには、成分の辺が一本だけ接する。実際、別の辺が接するならば、その辺の他端が道の外にあれば道を延長することができ、道の上にあれば閉路が生じる。いずれも最長性または木性に反する。∂cのvにおける係数は、この一本の辺の非零係数かその負である。よって∂c=0であり、∂は単射である。
任意のg∈Fに対し、木の頂点1からgへの唯一の単純道を取る。道が正辺をその向きに通るときは係数1、逆向きに通るときは係数−1を付けた一鎖をpgとする。道の内点の境界は相殺されるので、∂pg=g−1である。a=∑gagg∈kerεに対して、∑gag=0であるから
a=g∑ag(g−1)=∂(g∑agpg)となる。係数agの台も各道も有限であるため、括弧内はC1の元である。逆にε(gx−g)=0なので、im∂=kerεである。従って∂は⨁xRexからIFへの同型であり、ε(1)=1と合わせて表示した列の完全性を得る。
X=∅の場合にはF={1}、C1=0であり、添加はZの恒等写像である。この場合も同じ列が自由分解となる。▨
系 1.2.Xを任意の集合、F=F(X)、Aを任意の左Z[F]-加群とする。写像
δ:A⟶x∈X∏A,a⟼((x−1)a)x∈Xに対して、H0(F,A)≅kerδ=AF、H1(F,A)≅cokerδであり、すべてのq≥2に対してHq(F,A)=0である。
証明.§E6.10 補題 1.4により、基底上の値を取る写像は
HomZ[F](Z[F],A)≅A,HomZ[F](x∈X⨁Z[F]ex,A)≅x∈X∏Aを与える。定理 1.1の分解にHomZ[F](−,A)を施すと、これらの同型の下で余鎖複体は0→Aδ∏xA→0となる。§E7.35 系 4.4により、そのコホモロジーがHq(F,A)である。δa=0はすべてのx∈Xがaを固定することを意味し、XがFを生成するためa∈AFと同値である。▨
2 無限巡回群との直積の分解
定理 2.1.Gを任意の群、C=⟨t⟩を無限巡回群とし、R=Z[G]、S=Z[C]、L=Z[G×C]とおく。自明左R-加群Zの射影分解P∙εPZを取り、Q∙εQZを自由分解
0⟶Se1dQSe0εQZ⟶0,dQe1=(t−1)e0,εQ(e0)=1とする。P,Qを非負次数の鎖複体とし、次数零からの微分を零とする。各n≥0に対し、p,q≥0として
Tn=p+q=n⨁Pp⊗ZQq,D(u⊗v)=dPu⊗v+(−1)pu⊗dQv(u∈Pp, v∈Qq)と定め、作用を(g,tm)(u⊗v)=gu⊗tmvとする。このとき、T∙εP⊗εQZは自明左L-加群Zの射影分解である。Pが自由分解ならばTも自由分解であり、任意の群Gについてこの構成による自由分解が存在する。
証明.§E7.38 定理 3.1により、表示したQは自由分解である。テンソル積の普遍性によって、表示した作用とDは整数上の線形写像を定める。群の積との両立性を純テンソル上で確かめると、各Tnは左L-加群となり、Dと添加は左L-線形である。D2(u⊗v)の二つの交差項の係数は(−1)p−1と(−1)pであるため相殺され、dP2=dQ2=0からD2=0である。
Lを右R-加群とみなすと、各pに対して左L-加群の同型
L⊗RPp⟶Pp⊗ZS,(g,tm)⊗u⟼gu⊗tmが存在する。その逆はu⊗tm↦(1,tm)⊗uであり、テンソル積の平衡関係によって両者の合成は恒等写像となる。§E6.16 命題 1.2 (3)により、Ppは自由左R-加群の直和因子である。分裂包含と射影にL⊗R−を施すと、その合成は引き続き恒等写像である。自由左R-加群の基底を(bi)i∈Iとすると、誘導された加群は(1⊗bi)i∈Iを左L-基底とする。これは§E6.14 定理 4.2の整数基底による表示からも従う。従って§E6.16 命題 2.1 (2)によりPp⊗ZSは射影的であり、二つのこの形の加群の直和であるTnも§E6.16 命題 2.1 (1)によって射影的である。Pp自身が自由ならば、同じ基底の表示によって各Tnは自由である。
整数上の写像η:Z→Q0をη(1)=e0により定める。また、s:Q0→Q1を整数線形に
s(tme0)=⎩⎨⎧a=0∑m−1tae10−a=m∑−1tae1(m>0),(m=0),(m<0)と定め、他の次数では零とする。各有限和の隣接項を相殺すると
dQs(tme0)=(tm−1)e0,s((tm+1−tm)e0)=tme1を得る。従ってdQs+sdQ=1−ηεQである。右辺のηεQは次数零にのみ作用する。
E=1⊗εQ:T→PとJ=1⊗η:P→Tは整数上の鎖写像であり、EJ=1Pである。整数上の次数一の写像をH(u⊗v)=(−1)pu⊗s(v)(u∈Pp)と定めると、
(DH+HD)(u⊗v)=u⊗(dQs+sdQ)v=(1T−JE)(u⊗v)となる。第一因子の微分を含む二項は、係数(−1)pと(−1)p−1によって相殺される。よってEは整数上の鎖ホモトピー同値である。§E6.37 系 1.5により、Tの正次数のホモロジーは零であり、Eと添加の両立性からH0(T)→Zも同型である。従って添加列は整数上で完全であり、同じ核と像をもつ左L-加群の列としても完全である。最後に§E6.38 定理 1.3によってPを自由分解に選ぶと、Tは自由分解となる。▨
3 有限階数自由アーベル群の分解
定理 3.1.n≥0を整数とし、自由アーベル群An=Znの標準生成元をt1,…,tn、群環をLn=Z[An]とする。各k≥0に対して、{1,…,n}のk元部分集合Jを添字とする基底eJをもつ自由左Ln-加群をKkとする。J={j1<⋯<jk}に対して
deJ=r=1∑k(−1)r−1(tjr−1)eJ∖{jr}と定め、K0=Lne∅の添加をε(e∅)=1で定める。このとき、K∙εZは自明左Ln-加群Zの自由分解である。この分解をAnの Koszul 分解という。
証明.n=0のとき、K0=Z、Kk=0(k>0)であり、添加は恒等写像である。n≥1では、最初のn−1個の巡回因子から得た自由分解と最後の巡回因子の二項自由分解に定理 2.1を適用する。各因子で次数一の基底を選ぶ添字の集合をJとすると、テンソル積の基底はeJで添字付けられる。添字jrの因子を微分するとき、その前に次数一の因子がr−1個あるため、全複体の符号は(−1)r−1である。従って得られる微分は表示したdに等しく、階数についての帰納法により主張が従う。▨
系 3.2.n≥0を整数とし、An=Znに自明整数係数を用いる。定理 3.1の基底に対する双対コチェインを
fJ:K∣J∣⟶Z,fJ(eI)={10(I=J),(I=J)とする。このとき[fJ](∣J∣=k)はHk(An,Z)の整数基底である。特に0≤k≤nではHk(An,Z)≅Z(kn)であり、k>nではHk(An,Z)=0である。
証明. 自明整数係数では各ti−1が零として作用するため、HomLn(K∙,Z)の微分は零である。従って§E7.35 系 4.4により、各次数のコチェインの基底(fJ)∣J∣=kがそのままコホモロジーの基底を与える。▨
4 整数係数コホモロジー環
定義 4.1.n≥0を整数とする。自由アーベル群Znの整数上の外積代数 (exterior algebra) を、次数一の生成元v1,…,vnと関係式
vi2=0,vivj+vjvi=0(i=j)によって定まる単位的次数付き整数代数ΛZ(Zn)とする。すなわち、生成元の有限語を整数基底とし、語の連結を積とする自由結合代数の、表示した関係式が生成する両側イデアルによる商である。空語は単位を表し、n=0のときこの代数はZである。
定理 4.3.n≥0を整数とし、An=Znに自明整数係数を用いる。系 3.2の次数一の基底をui=[f{i}]とする。このとき、vi↦uiにより単位的次数付き環の同型
ΛZ(Zn) ≅ H∗(An,Z)が定まる。i1<⋯<ikに対し、ui1⌣⋯⌣uik=[f{i1,…,ik}]である。
証明.Ln=Z[An]とし、Kを定理 3.1の自由分解とする。J={j1<⋯<jk}に対して、左Ln-線形写像ιi:Kk→Kk−1を
ιi(eJ)={(−1)r−1eJ∖{i}0(i=jr),(i∈/J)と定め、K0では零とする。同じ添字を二度削除することはできないためιi2=0である。異なる二つの添字を削除すると、一方の削除は他方の位置を一だけ変えるので、二つの削除順の符号は逆になる。従ってιiιj=−ιjιi(i=j)である。微分はd=∑i(ti−1)ιiであるから、dιi=−ιidとなる。
k≥1においてci∣Kk=(−1)k−1ιiとし、K0では零とする。k≥2では
dci=(−1)k−1dιi=(−1)k−2ιid=cidであり、k=1では両辺が零である。またεci∣K1=f{i}であるから、写像の族ci:Kj+1→Kj(j≥0)はコサイクルf{i}の持上げである。
§E6.40 命題 4.1と§E7.40 命題 3.1により、任意の正次数のコサイクルf:Kp→Zに対して
[f]⌣ui=[fci]∈Hp+1(An,Z)である。ci2=0、cicj=−cjciであり、f{i}=εci∣K1なので、ui2=0とui⌣uj=−uj⌣uiを得る。§E7.40 命題 3.1の次数零の記述により、[f∅]=[ε]は単位であり、整数は通常の整数倍として作用する。従ってvi↦uiは単位的次数付き環の準同型を誘導する。
i1<⋯<ikとすると、積ui1⌣⋯⌣uikはコチェインf{i1}ci2⋯cikによって表される。ci(eJ)=(−1)∣J∣−reJ∖{i}(i=jr)であるから、最大の添字を削除するときの符号は1である。右端の写像から順に作用させると、表示したコチェインはe{i1,…,ik}に1を与え、他の次数kの基底には0を与える。よってこの積は[f{i1,…,ik}]に等しい。
外積代数の関係式を用いて語の添字を増加順に並べると、重複する添字をもつ語は零となる。従って相異なる添字の増加順の積と空積は、外積代数を整数加群として生成する。これらの積の像は系 3.2の整数基底であるため、得られた準同型は全射かつ単射である。n=0の場合には双方が次数零のZであり、同じ準同型は恒等写像である。▨