§E7.35群コホモロジー

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群がアーベル群に作用するとき、すべての群元によって固定される元は作用の基本的な情報を与える。しかし、係数の短完全列から不変元の列へ移ると、その列の全射性を調べる問題が生じる。群コホモロジーは、不変元を取る操作を高次へ拡張し、係数の完全列との関係を捉えるための基本的な理論である。位数二の巡回群に自明な整数係数を与えた場合にも、高次には非零の群が現れる。整数群環上の加群として作用を扱うことで、群コホモロジーは加群論の Ext と結びつく。

本記事では、群コホモロジーの構成と基本的な性質を解説する。

1 整数群環と不変元

定義 1.1.GGを群とする。可換環Z\Zを係数環とする群環をZ[G]\Z[G]と書き、整数群環という。その元は有限台の形式和∑g∈Gagg\sum_{g\in G}a_g g(ag∈Za_g\in\Z)であり、積はGGの積をZ\Z-双線形に延長したものである。§E6.1 命題 6.2により、Z[G]\Z[G]は単位元eGe_Gをもつ環である。左Z[G]\Z[G]-加群をGG-加群ともいう。GG-加群MMに対して、

MG:={m∈M∣gm=m がすべての g∈G について成り立つ}M^G:=\{m\in M\mid gm=m\text{ がすべての }g\in G\text{ について成り立つ}\}

をMMの不変元の群 (group of invariants) という。

命題 1.2.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。写像

ε ⁣:R⟶Z,ε(∑g∈Gagg)=∑g∈Gag\ep\colon R\longrightarrow\Z,\qquad \ep\left(\sum_{g\in G}a_g g\right)=\sum_{g\in G}a_g

は単位元を保つ環準同型である。この準同型を添加写像という。作用rz=ε(r)zrz=\ep(r)zとzr=zε(r)zr=z\ep(r)は、それぞれZ\Zに左RR-加群構造と右RR-加群構造を定める。これらを自明左加群、自明右加群という。

証明.r=∑gaggr=\sum_g a_g gとs=∑hbhhs=\sum_h b_h hに対して、群環の積の定義から

ε(rs)=∑g,hagbh=(∑gag)(∑hbh)=ε(r)ε(s)\ep(rs)=\sum_{g,h}a_gb_h =\left(\sum_g a_g\right)\left(\sum_h b_h\right) =\ep(r)\ep(s)

である。各和は有限和である。係数の和は加法を保ち、ε(eG)=1\ep(e_G)=1であるから、ε\epは単位元を保つ環準同型である。環準同型に沿ってZ\Zの左右の乗法作用を制限すると、表示された二つの加群構造を得る。▨

補題 1.3.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを左RR-加群とする。各g∈Gg\in Gの作用m↦gmm\mapsto gmはアーベル群MMの自己同型であり、GGからAut⁡Z(M)\operatorname{Aut}_{\Z}(M)への群準同型を定める。MGM^GはMMの部分アーベル群であり、自明左RR-加群Z\Zに対して

Hom⁡R(Z,M)⟶MG,f⟼f(1)\Hom_R(\Z,M)\longrightarrow M^G,\qquad f\longmapsto f(1)

はMMについて自然なアーベル群の同型である。

証明.ggの作用は加法を保ち、その逆写像はg−1g^{-1}の作用である。加群作用の結合律により、ghghの作用はggの作用とhhの作用の合成である。各作用が加法を保つため、不変元は加法と加法逆元について閉じている。f ⁣:Z→Mf\colon\Z\to MがRR-線形ならば、g⋅1=1g\cdot1=1によりgf(1)=f(g⋅1)=f(1)gf(1)=f(g\cdot1)=f(1)である。逆にm∈MGm\in M^Gに対しfm(z)=zmf_m(z)=zmとおくと、r=∑gaggr=\sum_g a_g gに対して

rfm(z)=∑gagg(zm)=ε(r)zm=fm(rz)r f_m(z)=\sum_g a_g g(zm)=\ep(r)zm=f_m(rz)

であるから、fmf_mはRR-線形である。加法群準同型f ⁣:Z→Mf\colon\Z\to Mはf(z)=zf(1)f(z)=zf(1)を満たすため、二つの構成は互いに逆である。左RR-線形写像u ⁣:M→Nu\colon M\to Nに対して(uf)(1)=u(f(1))(uf)(1)=u(f(1))であり、自然性が従う。▨

2 標準自由分解

注意 2.1.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。各非負整数nnに対して、GnG^nを基底とする自由左RR-加群を

Bn=⨁(g1,…,gn)∈GnR[g1∣⋯∣gn]B_n=\bigoplus_{(g_1,\ldots,g_n)\in G^n}R[g_1|\cdots|g_n]

と書く。G0G^0は空の組だけを含む一元集合であり、B0=R[]B_0=R[]である。n≥1n\ge1と0≤i≤n0\le i\le nに対して、左RR-線形写像∂in ⁣:Bn→Bn−1\partial_i^n\colon B_n\to B_{n-1}を基底上の値

∂0n[g1∣⋯∣gn]=g1[g2∣⋯∣gn],∂in[g1∣⋯∣gn]=[g1∣⋯∣gigi+1∣⋯∣gn](1≤i<n),∂nn[g1∣⋯∣gn]=[g1∣⋯∣gn−1]\begin{aligned} \partial_0^n[g_1|\cdots|g_n]&=g_1[g_2|\cdots|g_n],\\ \partial_i^n[g_1|\cdots|g_n]&=[g_1|\cdots|g_i g_{i+1}|\cdots|g_n] && (1\le i<n),\\ \partial_n^n[g_1|\cdots|g_n]&=[g_1|\cdots|g_{n-1}] \end{aligned}

で定める。空の入力は[][]とする。自由加群の普遍性§E6.10 補題 1.4により、各写像は一意に定まる。

dn=∑i=0n(−1)i∂in(n≥1),d0(r[])=ε(r)d_n=\sum_{i=0}^n(-1)^i\partial_i^n\quad(n\ge1),\qquad d_0(r[])=\ep(r)

と定め、d0d_0の終域は自明左RR-加群Z\Zとする。

補題 2.2.GGを任意の群とし、注意 2.1の写像を取る。すべてのn≥2n\ge2と0≤i<j≤n0\le i<j\le nに対して

∂in−1∂jn=∂j−1n−1∂in\partial_i^{n-1}\partial_j^n =\partial_{j-1}^{n-1}\partial_i^n

が成り立つ。したがってdn−1dn=0d_{n-1}d_n=0はすべてのn≥2n\ge2で成り立ち、d0d1=0d_0d_1=0である。

証明.BnB_nの下部のアーベル群はg[g1∣⋯∣gn]g[g_1|\cdots|g_n](g,g1,…,gn∈Gg,g_1,\ldots,g_n\in G)をZ\Z-基底にもつ。この基底を

g[g1∣⋯∣gn]⟷(g,gg1,gg1g2,…,gg1⋯gn)g[g_1|\cdots|g_n]\longleftrightarrow (g,gg_1,gg_1g_2,\ldots,gg_1\cdots g_n)

によってGn+1G^{n+1}と同定する。逆対応は

(x0,…,xn)⟼x0[x0−1x1∣x1−1x2∣⋯∣xn−1−1xn](x_0,\ldots,x_n)\longmapsto x_0[x_0^{-1}x_1|x_1^{-1}x_2|\cdots|x_{n-1}^{-1}x_n]

である。面∂in\partial_i^nは、この同定のもとでii番目の頂点xix_iを削除する写像である。i<ji<jのとき、xjx_jを削除してからxix_iを削除することと、xix_iを削除してから元のxjx_jを削除することは同じである。後者で元のxjx_jはj−1j-1番目にあるため、面恒等式が従う。dn−1dnd_{n-1}d_nの展開では、i<ji<jの項(−1)i+j∂in−1∂jn(-1)^{i+j}\partial_i^{n-1}\partial_j^nと、項(−1)i+j−1∂j−1n−1∂in(-1)^{i+j-1}\partial_{j-1}^{n-1}\partial_i^nが対になって相殺する。各項はこのような対の一つに属するため、dn−1dn=0d_{n-1}d_n=0である。また、d1[g]=g[]−[]d_1[g]=g[]-[]に対してd0(g[]−[])=1−1=0d_0(g[]-[])=1-1=0であり、RR-線形性からd0d1=0d_0d_1=0が従う。▨

補題 2.3.GGを群とし、注意 2.1の添加複体の下部のアーベル群を考える。B−1=ZB_{-1}=\Zとおき、Z\Z-線形写像

h−1 ⁣:Z→B0,h−1(1)=[],h_{-1}\colon\Z\to B_0,\qquad h_{-1}(1)=[],hn ⁣:Bn→Bn+1,hn(g[g1∣⋯∣gn])=[g∣g1∣⋯∣gn](n≥0)h_n\colon B_n\to B_{n+1},\qquad h_n\bigl(g[g_1|\cdots|g_n]\bigr)=[g|g_1|\cdots|g_n] \quad(n\ge0)

を定める。このときd0h−1=id⁡Zd_0h_{-1}=\id_{\Z}であり、すべてのn≥0n\ge0に対して

dn+1hn+hn−1dn=id⁡Bnd_{n+1}h_n+h_{n-1}d_n=\id_{B_n}

が成り立つ。

証明.n≥1n\ge1とb=g[g1∣⋯∣gn]b=g[g_1|\cdots|g_n]を取る。面の式から

dn+1hn(b)=b−[gg1∣g2∣⋯∣gn]+∑i=1n−1(−1)i+1[g∣g1∣⋯∣gigi+1∣⋯∣gn]+(−1)n+1[g∣g1∣⋯∣gn−1],hn−1dn(b)=[gg1∣g2∣⋯∣gn]+∑i=1n−1(−1)i[g∣g1∣⋯∣gigi+1∣⋯∣gn]+(−1)n[g∣g1∣⋯∣gn−1]\begin{aligned} d_{n+1}h_n(b) ={}&b-[gg_1|g_2|\cdots|g_n]\\ &+\sum_{i=1}^{n-1}(-1)^{i+1} [g|g_1|\cdots|g_i g_{i+1}|\cdots|g_n]\\ &+(-1)^{n+1}[g|g_1|\cdots|g_{n-1}],\\ h_{n-1}d_n(b) ={}&[gg_1|g_2|\cdots|g_n]\\ &+\sum_{i=1}^{n-1}(-1)^i [g|g_1|\cdots|g_i g_{i+1}|\cdots|g_n]\\ &+(-1)^n[g|g_1|\cdots|g_{n-1}] \end{aligned}

である。二つの式の和はbbに等しい。n=0n=0では

d1h0(g[])+h−1d0(g[])=d1[g]+h−1(1)=g[]−[]+[]=g[]d_1h_0(g[])+h_{-1}d_0(g[]) =d_1[g]+h_{-1}(1)=g[]-[]+[]=g[]

である。Z\Z-線形性により、恒等式はBnB_nのすべての元について成り立つ。さらにd0h−1(1)=d0([])=1d_0h_{-1}(1)=d_0([])=1である。▨

定理 2.4.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。注意 2.1の列

⋯⟶B2→d2B1→d1B0→d0Z⟶0\cdots\longrightarrow B_2\xrightarrow{d_2}B_1 \xrightarrow{d_1}B_0\xrightarrow{d_0}\Z\longrightarrow0

は、自明左RR-加群Z\Zの自由分解であり、したがって射影分解である。この分解を標準自由分解という。

証明.補題 2.2により、列は添加複体である。n≥0n\ge0とz∈ker⁡dnz\in\ker d_nに対し、補題 2.3から

z=dn+1hn(z)+hn−1dn(z)=dn+1hn(z)z=d_{n+1}h_n(z)+h_{n-1}d_n(z)=d_{n+1}h_n(z)

を得る。したがってker⁡dn=im⁡dn+1\ker d_n=\im d_{n+1}である。またd0h−1=id⁡Zd_0h_{-1}=\id_{\Z}によりd0d_0は全射である。下部のアーベル群についての核と像の一致は、左RR-加群の核と像の一致でもある。各BnB_nは自由左RR-加群であり、§E6.10 系 1.5により射影的である。▨

3 正規化自由分解

補題 3.1.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。n≥1n\ge1に対し、少なくとも一つのgig_iがeGe_Gである基底元[g1∣⋯∣gn][g_1|\cdots|g_n]で生成される左RR-部分加群をDn⊆BnD_n\subseteq B_nとし、D0=D−1=0D_0=D_{-1}=0とする。このときdn(Dn)⊆Dn−1d_n(D_n)\subseteq D_{n-1}はn≥1n\ge1で成り立つ。さらに補題 2.3のZ\Z-線形写像はhn(Dn)⊆Dn+1h_n(D_n)\subseteq D_{n+1}をすべてのn≥0n\ge0で満たす。

証明.[g1∣⋯∣gn][g_1|\cdots|g_n]のkk番目の入力がeGe_Gであるとする。1<k<n1<k<nの場合、∂k−1n\partial_{k-1}^nと∂kn\partial_k^nの値は、ともにeGe_Gの入力を除いた同じ基底元である。k=1k=1の場合は∂0n\partial_0^nと∂1n\partial_1^nの値が同じであり、k=nk=nの場合は∂n−1n\partial_{n-1}^nと∂nn\partial_n^nの値が同じである。n=1n=1ではd1[eG]=eG[]−[]=0d_1[e_G]=e_G[]-[]=0である。n≥2n\ge2の各場合で、同じ値を与える二つの面の符号は反対であり、それ以外の面の値にはeGe_Gの入力が残る。したがってdn(Dn)⊆Dn−1d_n(D_n)\subseteq D_{n-1}である。DnD_nの下部のアーベル群は、eGe_Gの入力を含むg[g1∣⋯∣gn]g[g_1|\cdots|g_n]で生成される。hnh_nは先頭にggを挿入するため、既存のeGe_Gの入力は残る。よってhn(Dn)⊆Dn+1h_n(D_n)\subseteq D_{n+1}である。▨

定理 3.2.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。商加群B‾n=Bn/Dn\overline B_n=B_n/D_nは、すべての入力がeGe_Gと異なる組[g1∣⋯∣gn][g_1|\cdots|g_n]を基底とする自由左RR-加群であり、B‾0=B0\overline B_0=B_0である。dnd_nとd0d_0から誘導される写像をd‾n\overline d_nとすると、列

⋯⟶B‾2→d‾2B‾1→d‾1B‾0→d‾0Z⟶0\cdots\longrightarrow\overline B_2\xrightarrow{\overline d_2} \overline B_1\xrightarrow{\overline d_1} \overline B_0\xrightarrow{\overline d_0}\Z\longrightarrow0

は自明左RR-加群Z\Zの自由分解である。この分解を正規化自由分解という。

証明.BnB_nは、eGe_Gの入力を含む基底の直和DnD_nと、eGe_Gの入力を含まない基底の直和との直和である。したがって、商B‾n\overline B_nは後者の基底の自由左RR-加群である。補題 3.1により、dnd_nとhnh_nは商上にそれぞれd‾n\overline d_nとZ\Z-線形写像h‾n\overline h_nを誘導する。D0=D−1=0D_0=D_{-1}=0であるから、添加写像とh−1h_{-1}も誘導される。商射を補題 2.2と補題 2.3の恒等式へ適用すると、d‾n−1d‾n=0\overline d_{n-1}\overline d_n=0、d‾0h‾−1=id⁡Z\overline d_0\overline h_{-1}=\id_{\Z}、および

d‾n+1h‾n+h‾n−1d‾n=id⁡B‾n\overline d_{n+1}\overline h_n+\overline h_{n-1}\overline d_n =\id_{\overline B_n}

を得る。d‾n(z)=0\overline d_n(z)=0を満たす任意のzzはz=d‾n+1h‾n(z)z=\overline d_{n+1}\overline h_n(z)を満たし、添加は全射であるから、列は完全である。▨

4 群コホモロジーと非斉次コチェイン

定義 4.1.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを左RR-加群とする。自明左RR-加群Z\Zに対し、すべての非負整数nnについて

Hn(G,M):=Ext⁡Rn(Z,M)H^n(G,M):=\operatorname{Ext}_R^n(\Z,M)

と定める。このアーベル群を、係数MMのGGの第nn群コホモロジー (group cohomology) という。

命題 4.2.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを任意の左RR-加群とする。n≥0n\ge0に対して、写像Gn→MG^n\to M全体のアーベル群をCn(G,M)C^n(G,M)と書き、負次数では零群とする。C0(G,M)=MC^0(G,M)=Mと同定する。標準自由分解は、自然な同型

Hom⁡R(Bn,M)→ ∼ Cn(G,M),φ⟼((g1,…,gn)↦φ[g1∣⋯∣gn])\Hom_R(B_n,M)\xrightarrow{\ \sim\ }C^n(G,M),\qquad \varphi\longmapsto\bigl((g_1,\ldots,g_n)\mapsto\varphi[g_1|\cdots|g_n]\bigr)

を与える。この同型のもとで、Hom 余鎖複体の微分は

(δnf)(g1,…,gn+1)=g1f(g2,…,gn+1)+∑i=1n(−1)if(g1,…,gigi+1,…,gn+1)+(−1)n+1f(g1,…,gn)\begin{aligned} (\delta^n f)(g_1,\ldots,g_{n+1}) ={}&g_1 f(g_2,\ldots,g_{n+1})\\ &+\sum_{i=1}^{n}(-1)^i f(g_1,\ldots,g_i g_{i+1},\ldots,g_{n+1})\\ &+(-1)^{n+1}f(g_1,\ldots,g_n) \end{aligned}

である。特にδ0m(g)=gm−m\delta^0m(g)=gm-mである。この余鎖複体を非斉次コチェイン複体という。すべてのn≥0n\ge0に対して、MMについて自然な同型

Hn(G,M)≅Hn(C∙(G,M))H^n(G,M)\cong H^n\bigl(C^\bullet(G,M)\bigr)

が存在し、H0(G,M)≅MGH^0(G,M)\cong M^Gである。

証明.§E6.10 補題 1.4により、任意の写像f ⁣:Gn→Mf\colon G^n\to Mは一意にRR-線形写像φ ⁣:Bn→M\varphi\colon B_n\to Mを定める。基底値の対応は加法を保ち、係数加群の射の後合成と可換である。 Hom 余鎖複体の微分はφ↦φdn+1\varphi\mapsto\varphi d_{n+1}である。dn+1d_{n+1}の基底上の式にφ\varphiを適用し、φ(g1b)=g1φ(b)\varphi(g_1b)=g_1\varphi(b)を用いると、表示されたδn\delta^nの式を得る。したがってδn+1δn=0\delta^{n+1}\delta^n=0は補題 2.2から従う。定理 2.4はZ\Zの射影分解であるから、§E6.39 定理 1.4を(R,Z,M)(R,\Z,M)に適用すると、全非負次数のコホモロジー同型を得る。零次では負次数の項が零であり、ker⁡δ0={m∣gm−m=0 がすべての g∈G で成り立つ}=MG\ker\delta^0=\{m\mid gm-m=0\text{ がすべての }g\in G\text{ で成り立つ}\}=M^Gである。▨

命題 4.3.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを任意の左RR-加群とする。n≥1n\ge1に対し、少なくとも一つの入力がeGe_Gである組で零となるf∈Cn(G,M)f\in C^n(G,M)全体をCnormn(G,M)C^n_{\mathrm{norm}}(G,M)とし、Cnorm0(G,M)=MC^0_{\mathrm{norm}}(G,M)=Mとする。これらは非斉次コチェイン複体の部分余鎖複体をなし、そのコホモロジーはすべてのn≥0n\ge0でHn(G,M)H^n(G,M)に自然に同型である。包含

Cnorm∙(G,M)↪C∙(G,M)C^\bullet_{\mathrm{norm}}(G,M)\hookrightarrow C^\bullet(G,M)

もコホモロジーに同型を誘導する。

証明. 商射qn ⁣:Bn→B‾nq_n\colon B_n\to\overline B_nによる前合成は、Hom⁡R(B‾n,M)\Hom_R(\overline B_n,M)をDnD_n上で零となるHom⁡R(Bn,M)\Hom_R(B_n,M)の部分群に同定する。命題 4.2の基底値の同定のもとで、この部分群はCnormn(G,M)C^n_{\mathrm{norm}}(G,M)である。補題 3.1によりqqは添加を保つ鎖写像であり、前合成は余鎖写像を与える。したがって、この部分群はδ\deltaによって保たれる。定理 3.2と定理 2.4はともに自明左RR-加群Z\Zの射影分解であり、qqはid⁡Z\id_{\Z}を持ち上げる。§E6.39 定理 1.4をqqに適用すると、包含はコホモロジーに同型を誘導し、その群はHn(G,M)H^n(G,M)に同定される。▨

系 4.4.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを左RR-加群とする。自明左RR-加群Z\Zの任意の射影分解P∙P_\bulletに対して、Hn(Hom⁡R(P∙,M))H^n(\Hom_R(P_\bullet,M))はすべてのn≥0n\ge0でHn(G,M)H^n(G,M)に自然に同型である。恒等写像を持ち上げる比較写像が与える同型は比較写像の選択によらず、三つの分解の間の合成と両立する。左RR-線形写像u ⁣:M→Nu\colon M\to Nは、すべてのn≥0n\ge0で準同型Hn(G,u) ⁣:Hn(G,M)→Hn(G,N)H^n(G,u)\colon H^n(G,M)\to H^n(G,N)を誘導する。

証明.§E6.39 定理 1.4に、環R=Z[G]R=\Z[G]、第一変数の自明左RR-加群Z\Z、第二変数のMMを代入する。係数の射に対する準同型は、同定理の第二変数の射である。▨

5 係数の長完全列

定理 5.1.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]とし、左RR-加群の短完全列

0⟶M′→iM→pM′′⟶00\longrightarrow M'\xrightarrow{i}M\xrightarrow{p}M''\longrightarrow0

を取る。すべてのn≥0n\ge0に対して連結準同型

∂n ⁣:Hn(G,M′′)⟶Hn+1(G,M′)\partial^n\colon H^n(G,M'')\longrightarrow H^{n+1}(G,M')

が定まり、アーベル群の列

0⟶(M′)G→iMG→p(M′′)G→∂0H1(G,M′)→H1(G,i)H1(G,M)→H1(G,p)H1(G,M′′)→∂1H2(G,M′)⟶⋯\begin{aligned} 0&\longrightarrow(M')^G\xrightarrow{i}M^G\xrightarrow{p}(M'')^G \xrightarrow{\partial^0}H^1(G,M')\\ &\xrightarrow{H^1(G,i)}H^1(G,M) \xrightarrow{H^1(G,p)}H^1(G,M'') \xrightarrow{\partial^1}H^2(G,M')\longrightarrow\cdots \end{aligned}

は完全である。一般の次数の連続する部分は

Hn(G,M′)→Hn(G,i)Hn(G,M)→Hn(G,p)Hn(G,M′′)→∂nHn+1(G,M′)H^n(G,M')\xrightarrow{H^n(G,i)}H^n(G,M) \xrightarrow{H^n(G,p)}H^n(G,M'') \xrightarrow{\partial^n}H^{n+1}(G,M')

である。この列は係数の短完全列の射について自然であり、射影分解の選択によらない。

証明.§E6.39 定理 2.2 (1)において、固定された第一変数を自明左RR-加群Z\Zとし、第二変数の短完全列を0→M′→M→M′′→00\to M'\to M\to M''\to0とする。定義 4.1の同定によって、Ext の各項は群コホモロジーの各項となる。零次の Hom の項は補題 1.3によって不変元の群に同定され、その自然性によって射はi,pi,pの制限である。Ext の連結準同型は次数nnから次数n+1n+1へ進み、既出の定理の自然性と分解独立性はこの同定でも保たれる。▨

命題 5.2.GGを群とし、GG-加群の短完全列0→M′→iM→pM′′→00\to M'\xrightarrow{i}M\xrightarrow{p}M''\to0を取る。n≥0n\ge0、f′′∈Cn(G,M′′)f''\in C^n(G,M'')、δf′′=0\delta f''=0とする。pf=f′′p f=f''を満たすf∈Cn(G,M)f\in C^n(G,M)を取ると、δf=if′\delta f=i f'を満たすf′∈Cn+1(G,M′)f'\in C^{n+1}(G,M')が一意に存在する。このときδf′=0\delta f'=0であり、定理 5.1の連結準同型は

∂n[f′′]=[f′]\partial^n[f'']=[f']

を満たす。

証明. 標準自由分解B∙B_\bulletの各項は射影的であるため、係数の短完全列に対する Hom の列は次数ごとに短完全である(§E6.16 命題 1.2 (4))。命題 4.2によって同定すると、0→C∙(G,M′)→C∙(G,M)→C∙(G,M′′)→00\to C^\bullet(G,M')\to C^\bullet(G,M)\to C^\bullet(G,M'')\to0は余鎖複体の短完全列となる。§E6.37 定理 3.3の連結公式をこの短完全列に適用すると、f′f'の存在と一意性、周期条件、および表示された式を得る。§E6.39 定理 2.2 (1)の連結は同じ Hom 余鎖複体の連結であるから、群コホモロジーの連結と一致する。▨

6 群ホモロジー

補題 6.1.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]とする。写像

ι ⁣:R→R,ι(∑gagg)=∑gagg−1\iota\colon R\to R,\qquad \iota\left(\sum_g a_g g\right)=\sum_g a_g g^{-1}

はι(rs)=ι(s)ι(r)\iota(rs)=\iota(s)\iota(r)、ι2=id⁡R\iota^2=\id_R、ει=ε\ep\iota=\epを満たす。BnB_nの下部のアーベル群に右作用x⋅r=ι(r)xx\cdot r=\iota(r)xを入れた右RR-加群をBnrB_n^{\mathrm r}とする。微分dnd_nと添加d0d_0を保つと、B∙r→ZB_\bullet^{\mathrm r}\to\Zは自明右RR-加群Z\Zの自由分解であり、基底は[g1∣⋯∣gn][g_1|\cdots|g_n]である。その微分は

dn[g1∣⋯∣gn]=[g2∣⋯∣gn]⋅g1−1+∑i=1n−1(−1)i[g1∣⋯∣gigi+1∣⋯∣gn]+(−1)n[g1∣⋯∣gn−1]\begin{aligned} d_n[g_1|\cdots|g_n] ={}&[g_2|\cdots|g_n]\cdot g_1^{-1}\\ &+\sum_{i=1}^{n-1}(-1)^i [g_1|\cdots|g_i g_{i+1}|\cdots|g_n]\\ &+(-1)^n[g_1|\cdots|g_{n-1}] \end{aligned}

である。同じ右作用を正規化分解に入れたB‾∙r→Z\overline B_\bullet^{\mathrm r}\to\Zも自明右RR-加群の自由分解である。

証明. 基底元g,h∈Gg,h\in Gに対して(gh)−1=h−1g−1(gh)^{-1}=h^{-1}g^{-1}である。有限和に延長すると、ι(rs)=ι(s)ι(r)\iota(rs)=\iota(s)\iota(r)を得る。ggの逆元の逆元はggであり、係数の和はggをg−1g^{-1}に置き換えても変わらないため、ι2=id⁡R\iota^2=\id_Rとει=ε\ep\iota=\epが成り立つ。反乗法性から(x⋅r)⋅s=ι(s)ι(r)x=ι(rs)x=x⋅(rs)(x\cdot r)\cdot s=\iota(s)\iota(r)x=\iota(rs)x=x\cdot(rs)である。各微分の左RR-線形性により

dn(x⋅r)=dn(ι(r)x)=ι(r)dn(x)=dn(x)⋅rd_n(x\cdot r)=d_n(\iota(r)x)=\iota(r)d_n(x)=d_n(x)\cdot r

であり、添加についてもει=ε\ep\iota=\epによって同じ右線形性が成り立つ。左基底表示x=∑brbbx=\sum_b r_b bは右基底表示x=∑bb⋅ι(rb)x=\sum_b b\cdot\iota(r_b)に等しい。ι2=id⁡R\iota^2=\id_Rにより右表示も一意であるため、同じ族は右自由基底である。下部のアーベル群と写像は変わらないから、定理 2.4の完全性が保たれる。g1b=b⋅g1−1g_1b=b\cdot g_1^{-1}によって微分は表示された式となる。同じ構成と定理 3.2を正規化分解に適用すると、右正規化自由分解を得る。▨

定義 6.2.GGを群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを左RR-加群とする。自明右RR-加群Z\Zに対し、すべての非負整数nnについて

Hn(G,M):=Tor⁡nR(Z,M)H_n(G,M):=\operatorname{Tor}_n^R(\Z,M)

と定める。このアーベル群を、係数MMのGGの第nn群ホモロジー (group homology) という。また、gm−mgm-m(g∈G,m∈Mg\in G,m\in M)で生成されるMMの部分アーベル群をJG(M)J_G(M)とし、

MG:=M/JG(M)M_G:=M/J_G(M)

をMMの余不変元の群 (group of coinvariants) という。

命題 6.3.GGを任意の群、R=Z[G]R=\Z[G]、MMを任意の左RR-加群とする。すべてのn≥0n\ge0に対して、MMについて自然な同型

Hn(G,M)≅Hn(B∙r⊗RM)≅Hn(B‾∙r⊗RM)H_n(G,M)\cong H_n(B_\bullet^{\mathrm r}\otimes_R M) \cong H_n(\overline B_\bullet^{\mathrm r}\otimes_R M)

が存在する。また、Z\Zの右射影分解の代わりにMMの左射影分解Q∙Q_\bulletを取ると、自然な同型

Hn(G,M)≅Hn(Z⊗RQ∙)H_n(G,M)\cong H_n(\Z\otimes_R Q_\bullet)

を得る。零次ではH0(G,M)≅MGH_0(G,M)\cong M_Gである。

証明.補題 6.1の二つの右自由分解を、Tor の右射影分解による定義§E6.41 定義 1.3に適用する。比較写像が与える同型と係数自然性は§E6.41 命題 1.4から従う。MMの左射影分解による表示は§E6.41 定理 2.3に、右加群Z\Zと左加群MMを代入して得られる。§E6.14 定理 4.2によって、B0r⊗RMB_0^{\mathrm r}\otimes_R Mは[]⊗m↦m[]\otimes m\mapsto mによりMMに同定され、B1r⊗RMB_1^{\mathrm r}\otimes_R Mはg∈Gg\in Gに添字をもつMMの直和に同定される。補題 6.1の次数1の式から

(d1⊗1M)([g]⊗m)=([]⋅g−1−[])⊗m=[]⊗(g−1m−m)(d_1\otimes1_M)([g]\otimes m) =([]\cdot g^{-1}-[])\otimes m =[]\otimes(g^{-1}m-m)

である。g↦g−1g\mapsto g^{-1}はGGの全単射であるため、この微分の像はJG(M)J_G(M)に同定される。次数0から負次数への微分は零であり、零次ホモロジーはM/JG(M)=MGM/J_G(M)=M_Gである。各同定は係数の射と可換である。▨

7 例と演習

例 7.1.G={eG}G=\{e_G\}を自明群とし、MMを任意のGG-加群とする。このとき

H0(G,M)=M,H0(G,M)=M,Hn(G,M)=Hn(G,M)=0(n≥1)H^0(G,M)=M,\qquad H_0(G,M)=M,\qquad H^n(G,M)=H_n(G,M)=0\quad(n\ge1)

である。実際、正規化自由分解の正次数には、すべての入力がeGe_Gと異なる組が存在しないため、B‾n=0\overline B_n=0である。次数0の項はZ\Zであり、添加は恒等写像である。正規化コチェインの同定命題 4.3と正規化右分解による計算命題 6.3を適用すると、表示された群を得る。

問題 7.2.G={eG,t}G=\{e_G,t\}、t2=eGt^2=e_Gとし、係数Z\Zに自明左Z[G]\Z[G]-加群構造を入れる。正規化自由分解を用いて、すべての非負次数のHn(G,Z)H^n(G,\Z)とHn(G,Z)H_n(G,\Z)を計算せよ。

解答.

R=Z[G]R=\Z[G]とおく。各非負次数の正規化自由加群は一つの基底元bn=[t∣⋯∣t]b_n=[t|\cdots|t]をもち、b0=[]b_0=[]である。n≥2n\ge2の微分の中間項は入力t2=eGt^2=e_Gを含むため商で零となる。次数1の式も含めて

d‾n(bn)=(t+(−1)n)bn−1(n≥1)\overline d_n(b_n)=\bigl(t+(-1)^n\bigr)b_{n-1}\quad(n\ge1)

である。係数Z\Zへのttの作用は恒等写像なので、正規化コチェイン複体の各項はZ\Zであり、δn\delta^nは1+(−1)n+11+(-1)^{n+1}倍である。したがって複体は

Z→0Z→2Z→0Z→2⋯\Z\xrightarrow{0}\Z\xrightarrow{2}\Z\xrightarrow{0}\Z\xrightarrow{2}\cdots

となる。整数の2倍写像は単射で、その余核はZ/2Z\Z/2\Zであるから、命題 4.3により

H0(G,Z)=Z,H2q+1(G,Z)=0(q≥0),H2q(G,Z)=Z/2Z(q≥1)H^0(G,\Z)=\Z,\qquad H^{2q+1}(G,\Z)=0\quad(q\ge0),\qquad H^{2q}(G,\Z)=\Z/2\Z\quad(q\ge1)

を得る。右分解でもt−1=tt^{-1}=tであるから、基底上の微分はbn−1⋅(t+(−1)n)b_{n-1}\cdot(t+(-1)^n)である。右分解へ−⊗RZ-\otimes_R\Zを施すと、次数nnの微分は1+(−1)n1+(-1)^n倍となる。命題 6.3により

H0(G,Z)=Z,H2q+1(G,Z)=Z/2Z(q≥0),H2q(G,Z)=0(q≥1)H_0(G,\Z)=\Z,\qquad H_{2q+1}(G,\Z)=\Z/2\Z\quad(q\ge0),\qquad H_{2q}(G,\Z)=0\quad(q\ge1)

である。▨

参考文献

  1. Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics 87, Springer, New York, 1982.標準自由分解、正規化自由分解、および群コホモロジーと群ホモロジーの構成を扱う文献である。
  2. Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994.Ext と Tor による群コホモロジーと群ホモロジーの定式化を扱う文献である。

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