1 符号つきの長さの比
定義 1.1 (符号つきの長さの比). 同一直線上の点X,Y,Tについて、§A5.7 定義 1.2の符号つきの長さTYが0でないとき、XT/TYを符号つきの長さの比 (directed segment ratio) という。
直線の向きを逆にすると分子と分母がともに−1倍されるので、符号つきの長さの比の値は変わりません。Tが線分XYの内部にあれば比は正、外部にあれば負です。
定理 1.2.X=Yとする。直線XY上の有限な点T=X,Yに対し
q=TYXTとおくと、q=0,−1である。逆にq=0,−1を満たす実数qごとに、この式を満たす点Tはただ1つ存在する。
証明.x(X)=0,x(Y)=1となる座標をとり、x(T)=tとする。このとき
q=1−tt,t=1+qq.T=X,Yだからq=0であり、有限な実数tからはq=−1は生じない。逆にq=0,−1なら第2式からただ1つの有限なt=0,1が得られる。▨
この記事では、△ABCは3頂点が相異なる非退化三角形とします。また
- Dは直線BC上でB,Cと異なる点、
- Eは直線CA上でC,Aと異なる点、
- Fは直線AB上でA,Bと異なる点
とします。したがって、以下の3つの比はすべて有限で0,−1ではありません。
DCBD,EACE,FBAF.
内分配置のチェバの主証明には面積を用い、外分を含むメネラウスの主証明には符号つきの高さを用います。後半では、位置ベクトルのアフィン係数によって一般のチェバの順逆を証明し、アフィン関数によるメネラウスの別証明も示します。ベクトルの一次結合と一次独立は、後半の証明で用います。
頂点を分点として許すと分子または分母が0になり、横切る直線が頂点を通ると2つの分点がその頂点で一致します。このような配置は、ここで述べる定理の適用外です。
定理 1.3 (チェバの定理とその逆). 非退化三角形△ABCの各辺の内部点D∈BC,E∈CA,F∈ABについて、
3本の直線AD,BE,CFが共点であることと、次の比の積が1であることは同値である。
DCBDEACEFBAF=1.各辺の内部点では、有向比はすべて通常の長さの比に等しい。
証明.AD,BE,CFの共通点をPとする。内分点へ向かう3本の線分の共通点なので、Pは三角形の内部にある。三角形XYZの面積を[XYZ]と書く。DはBC上にあるから、△ABDと△ACDのAからBCへの高さは等しく、
DCBD=[ACD][ABD]を得る。またA,P,Dは一直線上にある。底辺をそれぞれABとACに固定すると、PとDから各底辺への高さの比はどちらもAP/ADである。したがって
[PCA][PAB]=[DCA][DAB]=DCBD.同じ議論を頂点の文字を巡回させて用いると
EACE=[PAB][PBC],FBAF=[PBC][PCA]となる。3式を掛けると面積がすべて約分され、積は1となる。
逆に積が1であるとする。線分ADとBEは三角形の内部の点Pで交わる。直線CPと辺ABの交点をF′とおくと、順方向から
DCBDEACEF′BAF′=1を得る。仮定と比較すればAF′/F′B=AF/FBである。線分ABの内部でこの比をもつ点は一意だからF′=Fであり、3本は共点である。
D,E,Fは各辺の内部にあるので3つの有向比はいずれも正であり、その絶対値は通常の長さの比であるから、両者は等しい。▨
2 動かして積を見る
下の図では、横切る直線lの位置を動かせます。D,Eは辺の内部、Fは辺ABの延長上にあり、前2つの比は正、最後の比は負です。
図はメネラウスの外分を含む一例であり、定理 1.3の内分配置を直接表示するものではありません。
図を作るための座標で計算すると、3つの比は順に
−k+3.6k+0.4,3−kk+3.6,k+0.43−k
となり、個々の値は動いても積は−1です。図による観察や有限個の数値検算は定理の証明ではありません。
3 メネラウスの定理
定理 3.1 (メネラウスの定理).△ABCとD,E,Fを上の約束どおりにとる。D,E,Fが一直線上にあるための必要十分条件は
DCBDEACEFBAF=−1が成り立つことである。
証明. 任意の直線ℓに対して、一方の側を正の側と定める。ℓ上にない点Xについて、ℓまでの距離に、正の側では正、反対側では負の符号を付けた数をhXと書く。
まず、ℓ上にない相異なる2点U,Vを結ぶ直線が、ℓと点Tで交わるとする。このとき
TVUT=−hVhUである。実際、直線UVがℓに垂直でなければ、U,Vからℓに下ろした垂線による二つの直角三角形は、Tにおける角が等しいので、§A5.1 定理 3.1 (1)により相似である。したがって、UT/TV=∣hU∣/∣hV∣である。直線UVがℓに垂直な場合も、∣hU∣=UT、∣hV∣=VTから同じ等式が成り立つ。TがU,Vの間にあるとき、左辺の符号つきの比は正であり、U,Vはℓの反対側にある。Tが二点の間にないときは、左辺の比は負であり、二点はℓの同じ側にある。よって符号も一致する。
必要性を示す。D,E,Fが直線ℓ上にあるとする。ℓは三角形の頂点を通らない。例えばAを通れば、E=Aより直線ACと一致し、D=Cとなって仮定に反する。他の頂点についても同じ理由である。このℓの一方の側を正の側と定め、各頂点の符号つきの高さをとる。三つの高さはすべて0でなく、先ほどの等式から
DCBD=−hChB,EACE=−hAhC,FBAF=−hBhAを得る。三式を掛けると、積は−1となる。
十分性を示す。三比を順にr,s,tとし、rst=−1とする。DとEは異なる辺の直線上にある非頂点なので相異なり、直線ℓ=DEが定まる。この直線は三角形の頂点を通らない。実際、Aを通ればℓ=ACよりD=Cとなり、Bを通ればℓ=BCよりE=Cとなり、Cを通ればC,D,Eが一直線上にあって三角形が退化する。いずれも仮定に反する。
改めて、このℓの一方の側を正の側と定め、各頂点の符号つきの高さをとる。二点比の等式を用いると、r=−hB/hC、s=−hC/hAであり、t=−hA/hBとなる。もしℓが直線ABと平行ならば、A,Bはℓの同じ側にあって距離も等しいので、t=−1となる。しかし、t=−1ならばAF=−FBであり、AB=AF+FB=0となってA=Bに反する。
よってℓと直線ABは点F′で交わる。最初の等式を適用すると、AF′/F′B=−hA/hB=tである。定理 1.2により、直線AB上でこの比をもつ点はただ一つなので、F′=Fである。したがって三点は一直線上にある。▨
メネラウスの配置では、外分点の個数は奇数です。積が−1なので負の因子が奇数個になるからです。図のような「内分2つ・外分1つ」だけでなく、3点すべてが外分点になる配置も同じ式で扱えます。
4 チェバの有向比への拡張
頂点と対辺上の点を結ぶ直線をセバ線といいます。チェバの定理についても外分を含む配置を扱います。内分配置の面積証明とは分け、点を3頂点の係数で表すアフィン法を別証明として用います。
5 別証明:アフィン係数による有向比
定理 5.1.△ABCの平面上の任意の有限な点Pは、ただ1通りに
p=αa+βb+γc,α+β+γ=1と表される。Pが3辺の直線上になく、AP,BP,CPが対辺の直線と有限な点D,E,Fで交わるなら
DCBD=βγ,EACE=γα,FBAF=αβ.
証明.p−aは、一次独立なb−aとc−aの一次結合としてただ1通りに表される。係数をβ,γとし、α=1−β−γとおけば、最初の表示の存在と一意性が従う。さらに、α=0であることとPが直線BC上にあることは同値であり、他の2辺についても同様である。したがって仮定のもとでαβγ=0である。
D=AP∩BCを考える。もしβ+γ=0なら
p−a=β(b−c)となり、AP∥BCで有限な交点Dをもたない。よってβ+γ=0であり、
d=β+γβb+γcと書ける。直線BC上でBを座標0、Cを座標1とすれば、Dの座標はγ/(β+γ)である。したがって
DCBD=β/(β+γ)γ/(β+γ)=βγ.残り2式も文字を巡回させた同じ計算で得られる。▨
定理 5.2 (チェバの定理).△ABCと、その3辺の直線上の有限な非頂点D,E,Fを上の約束どおりにとる。3本のセバ線AD,BE,CFが有限な1点で交わるなら
DCBDEACEFBAF=1.
証明. 共通の交点をPとする。非頂点という仮定からPはどの辺の直線上にもなく、各セバ線は対辺と有限な点で交わる。定理 5.1を適用すると
DCBDEACEFBAF=βγγααβ=1.外分点があっても、符号はこの式にすでに含まれている。▨
逆では、外分を許すと「3本が平行」という場合が現れます。これは積の条件だけでは有限な共点と区別できないため、結論に明記します。
定理 5.3 (チェバの定理の逆).△ABCとD,E,Fを上の約束どおりにとり、
DCBDEACEFBAF=1とする。このとき、AD,BE,CFは有限な1点で交わるか、3本が互いに平行である。とくに、3本のうち2本が平行でなければ、3本は有限な1点で交わる。
証明. 3つの比を順にr,s,tとする。rst=1だから
α=rs,β=1,γ=rとおけば
r=βγ,s=γα,t=αβが成り立つ。3つの比は0でないのでα,β,γもすべて0でない。また、たとえばβ+γ=0ならr=−1となって定理 1.2に反するため、β+γ,γ+α,α+βはすべて0でない。
S=α+β+γとおく。まずS=0の場合、点Pを
p=Sαa+βb+γcで定める。一方、有向比と定理 1.2の一意性から
d=β+γβb+γcである。したがって
p=Sαa+(β+γ)dとなり、A,D,Pは一直線上にある。文字を巡回させればPはBEとCF上にもあるため、3本はPで交わる。
次にS=0の場合、
v=αa+βb+γcとおく。係数の和が0なのでvは原点の選び方によらない。また非退化三角形のアフィン係数の一意性によりv=0である。α=−(β+γ)とdの式から
d−a=β+γvを得るのでAD∥vである。同様にBE∥v、CF∥vであり、3本は互いに平行である。以上で2つの場合を尽くした。▨
外分を含む共点配置では、外分点の個数は偶数です。実際、各比は内分なら正、外分なら負であり、積が+1なら負の因子は偶数個でなければなりません。
6 別証明:アフィン関数によるメネラウスの定理
直線を、アフィン関数の値が0になる点の集合として表します。有向比を端点での関数値の比に変えて、定理 3.1の別証明を示します。
定理 6.1. 直線lをφ(X)=0と表す。ただしφは定数でないアフィン関数、すなわち直線上で
φ((1−u)X+uY)=(1−u)φ(X)+uφ(Y)を満たす関数とする。X,Yはl上になく、直線XYがlと有限な点Tで交わるとき
TYXT=−φ(Y)φ(X).
証明.T=(1−u)X+uYと書くと、有向比はu/(1−u)である。一方、φ(T)=0だから
(1−u)φ(X)+uφ(Y)=0.X,Yはl上にないので両辺を割ることができ、u/(1−u)=−φ(X)/φ(Y)を得る。なお、任意の直線は、その直線に垂直な非零ベクトルnと直線上の点X0を用いてφ(X)=n⋅(x−x0)と表せる。したがってこの表示はすべての直線に使える。▨
証明. 必要性を示す。3点D,E,Fを通る直線をlとし、lを零点集合にもつ定数でないアフィン関数をφとする。もしAがl上なら、AとEを通るlは直線ACと一致し、D=Cとなって非頂点の仮定に反する。したがってAはl上になく、B,Cについても同様である。定理 6.1を3辺へ巡回的に適用すると
DCBD=−φ(C)φ(B),EACE=−φ(A)φ(C),FBAF=−φ(B)φ(A).φ(A)φ(B)φ(C)=0だから3式を掛けることができ、値はすべて約分されて3つの負号だけが残る。したがって積は−1である。
十分性を示す。l=DEとする。D=Eなら、直線BCと直線CAの交点Cに両方が一致するしかないが、D,E=Cなので、D=Eである。よってlはただ1本に定まる。必要性の証明と同じ理由でA,B,Cはl上にない。
lをφ=0と表し、最初の2つの交点に定理 6.1を適用する。3つの比をr,s,tと書けば
r=−φ(C)φ(B),s=−φ(A)φ(C).rst=−1だから
t=−rs1=−φ(B)φ(A).もしl∥ABならφ(A)=φ(B)となりt=−1だが、これは有限なFについて定理 1.2に反する。したがってlはABと有限な点Gで交わる。定理 6.1により
GBAG=−φ(B)φ(A)=t=FBAF.定理 1.2により、その比をもつ直線AB上の点はただ1つなのでG=Fである。ゆえにFはl=DE上にあり、3点は一直線上にある。▨
7 縮退と平行をどう扱うか
- 三角形の退化:A,B,Cが一直線上にある場合、3辺の直線を区別できず、アフィン係数も一意でないため、両定理とも適用しません。
- 分点が頂点に来る場合:比の分子が0または分母が0になります。横切る直線が頂点を通って
2分点が一致する場合もここに含まれ、適用外です。非頂点という仮定のもとではD,E,Fが互いに一致することはありません。
- チェバ型の平行:外分を許すと、積が+1でも3本のセバ線が互いに平行な場合があります。定理 5.3はこの場合を含む完全形です。有限な共点だけを結論したいなら、「2本が平行でない」を加えます。内分点だけなら平行の場合は起こりません。
- メネラウス型の平行:横切る直線が三角形の1辺と平行なら、その辺との有限な交点がないため、この記事の有限点版は適用しません。射影平面で無限遠点を加えると、定理 1.2で除いた比−1が無限遠点に対応し、平行の場合も統一できます。
8 複比・調和点列への接続
同一直線上の4点A,B,X,Yに対する複比は、ひとつの規約として
(A,B;X,Y)=AY/YBAX/XB
と定められます。つまり複比は、この記事で使った符号つきの長さの比をさらに割った量です。複比が−1の
4点を調和点列といい、内分点と外分点の符号が本質になります。絶対値だけの比に戻すと、どちらの側に点があるかという情報が失われ、調和性を1本の式で表せません。
チェバとメネラウスで身につけた「向きをそろえ、符号込みの比を掛ける」操作は、そのまま複比の計算へ進みます。さらに射影平面では無限遠点を加えることで、ここで別扱いした共点と平行を同じ言葉で扱えるようになります。