1 まず動かして見る
点や曲線を反転するときは、反転の中心を除いた部分を考えます。
定理 1.1. 中心O、半径ρ>0の反転について、中心を通らない円は円へ、中心を通る円から中心を除いた集合は中心を通らない直線へ移る。中心を通らない直線は中心を通る円から中心を除いた集合へ、中心を通る直線から中心を除いた集合は同じ集合へ移る。さらに反転は自分自身が逆写像であり、中心以外の滑らかな曲線の交角の大きさを保つ。
下の図では、中心O=(0,0)、反転半径ρ=2です。円Γは中心(3,0)、半径1なので、中心Oを通りません。円周上の点Pを動かすと、その反転像P∗も動きます。P∗は別の円の上に残ること、また3点O,P,P∗が一直線上にあることを観察してください。
図で円周上にとどまることが見えたとしても、観察は証明ではありません。 図が表示するのは選んだ座標と有限個の位置だけです。以下では、距離の式を計算して、なぜ円が円へ移るのかをすべての点について示します。
2 反転の定義と基本性質
定義 2.1 (反転). 中心O、半径ρ>0の反転 (inversion) とは、O以外の各点Xに対し、半直線OX上のただ1つの点X∗を
OX⋅OX∗=ρ2となるように対応させる写像である。点X∗をXの反転像と呼ぶ。
OX>0なので、定義からOX∗=ρ2/OXがただ1つ決まります。座標の原点をOに置き、点を位置ベクトルxで表すと、反転は
x∗=∥x∥2ρ2x(x=0)
と書くことができます。
定理 2.2. 中心O、半径ρ>0の反転について、X,YをOと異なる点とする。
- O,X,X∗は一直線上にあり、OX⋅OX∗=ρ2である。
- (X∗)∗=Xである。特に、反転は自分自身が逆写像である。
- OX=ρの点は動かない。
- X=Yならば
X∗Y∗=OX⋅OYρ2XY.
証明.X∗はOXと同じ半直線上にあり、その距離はρ2/OXなので、(1)が成り立つ。さらに
OX∗⋅OX∗∗=ρ2であり、OX∗=ρ2/OXを代入するとOX∗∗=OXとなる。同じ半直線上で中心からの距離が等しい点は同じ点だからX∗∗=Xである。またOX=ρならOX∗=ρで、同じ半直線上にあるのでX∗=Xである。
(4)を示す。Oを原点とし、x,yをX,Yの位置ベクトルとする。内積を展開すると
∥x∗−y∗∥2=ρ4∥x∥2x−∥y∥2y2=∥x∥2∥y∥2ρ4(∥x∥2+∥y∥2−2x⋅y)=∥x∥2∥y∥2ρ4∥x−y∥2.距離は非負なので平方根をとり、(4)を得る。▨
系 2.3. 中心O、半径ρ>0の反転について、相異なる点X,Y,ZがいずれもOと異なるならば、反転後の距離比は
X∗Z∗X∗Y∗=XZXYOYOZである。
証明.定理 2.2 (4)を、組(X,Y)と組(X,Z)に適用する。点の相異性と中心との非一致により、式の分母に現れる距離はすべて正である。二つの等式の辺々を割り、主張の式を得る。▨
定理 2.2 (4)の倍率は、X,Yの中心からの距離に依存します。したがって、一般の線分比は保存されません。
3 円と直線の対応
円と直線の対応を、中心Oを原点としたベクトル方程式で分類します。
定理 3.1. 反転の中心をO、半径をρ>0とする。円Γの中心をC、半径をr>0とし、cをOCの位置ベクトルとする。
- O∈/Γ、すなわちd=∥c∥2−r2=0ならば、ΓのO以外の点の反転像は円
u−dρ2c=∣d∣ρ2r
である。
- O∈Γ、すなわち∥c∥=rならば、Γ∖{O}の反転像はOを通らない直線
c⋅u=2ρ2
である。この直線上のすべての点は、Oを除くΓの点の反転像として得られる。
また、直線ℓがOを通らず、単位法線ベクトルnとh=0を用いて
n⋅x=hと書くことができるなら、その反転像はOを通る円
u−2hρ2n=2∣h∣ρ2からOを除いた集合である。Oを通る直線からOを除いた集合は、同じ集合へ移る。
証明. 反転前の点を位置ベクトルx、反転後の点をuとする。定義から
u=∥x∥2ρ2x,x=∥u∥2ρ2uである。
円Γの方程式は
∥x−c∥2=r2,すなわち
∥x∥2−2c⋅x+∥c∥2−r2=0である。ここへx=ρ2u/∥u∥2を代入し、d=∥c∥2−r2とおくと
d∥u∥2−2ρ2c⋅u+ρ4=0を得る。
d=0のとき両辺をdで割り、平方完成すると
u−dρ2c2=d2ρ4(∥c∥2−d)=d2ρ4r2.右辺は正なので、(1)の円の方程式である。この円の方程式へu=0を代入すると∥c∥2=r2となり、d=0に反する。したがって、この円はOを通らない。逆向きの代入も同値変形なので、この円の全体がちょうど像になる。
d=0のときは、同じ式が
−2ρ2c⋅u+ρ4=0となる。よってc⋅u=ρ2/2であり、(2)の直線を得る。この直線はu=0を満たさず、逆向きの代入も同値変形なので、直線全体が像になる。
中心Oを通らない直線ℓの方程式をn⋅x=hとし、∥n∥=1、h=0とする。中心の位置ベクトルがc0=ρ2n/(2h)、半径がr0=ρ2/(2∣h∣)である円をKとおく。∥c0∥=r0なので、KはOを通る。(2)により、K∖{O}の反転像は
c0⋅u=2ρ2,すなわちn⋅u=hを満たす直線ℓである。定理 2.2 (2)により、反転をもう一度施すと、ℓの像はK∖{O}となる。hの符号によらず、この結論が成り立つ。
Oを通る直線上の点は、反転後も同じ半直線上にある。反転を二度施すともとに戻るので、中心を除いた直線全体が同じ集合へ移る。▨
この定理のポイントは、円の方程式に現れる定数d=OC2−r2です。dは§A5.7 定義 1.1で中心Oの方べきを計算した値でもあります。Oが円の外側ならd>0、内側ならd<0、円周上ならd=0で、最後の場合だけ2次式の項が消えて直線になります。
4 反転で不変な円と直交する円
定義 4.1. 二つの円が相異なる二つの共有点をもち、各共有点での接線が垂直であるとき、二円は直交する (orthogonal circles) という。
反転円との直交は、円全体が反転で不変になる条件と結び付きます。
定理 4.2. 中心O、半径ρ>0の反転を考え、中心O、半径ρの円をΩとする。Oを通らず、Ωと異なる円Γの中心をC、半径をr>0とする。次の三つの条件は同値である。
- Γの反転像がΓに等しい。
- OC2−r2=ρ2である。
- ΓとΩは直交する。
Ω自身は反転で不変であり、その各点は個別に固定されるが、Ωは自身と直交しない。
証明.(1)⇒(2)を示す。Γの反転像がΓに等しいとする。C=Oならば、反転像は半径ρ2/rの同心円なので、r=ρとなる。この結論はΓ=Ωに反する。したがってC=Oである。
OがΓの内部にあると仮定する。直線OCとΓの交点をA,Bとすると、二点はOをはさんで反対の半直線上にあり、それぞれの半直線とΓの交点は一つだけである。反転は半直線を保ち、ΓをΓへ移すので、A,Bはともに固定点である。反転の定義よりOA=OB=ρであるが、二つの距離はr+OCとr−OCであるから、OC=0となる。この結論はC=Oに反する。O∈/Γも仮定されているので、OはΓの外部にある。
半直線OCとΓの交点を、O,A,Bの順にとる。反転は同じ半直線上で中心からの距離の大小を逆にするので、AとBは交換される。よって
ρ2=OA⋅OB=(OC−r)(OC+r)=OC2−r2である。
(2)⇒(1)を示す。OC2−r2=ρ2とする。右辺が正なので、OはΓの外部にある。Γ上の任意の点Xをとる。直線OXがΓと相異なる二点で交わる場合、もう一つの交点をYとする。§A5.7 定理 1.3 (1)により、二交点は同じ半直線上にあり、OX⋅OY=OC2−r2=ρ2である。直線OXがΓに接する場合には、Y=Xとおく。§A5.7 定理 1.5により、OX⋅OY=OX2=OC2−r2=ρ2である。したがって、いずれの場合もXの反転像はΓ上の点Yである。さらに、Γ上の任意の点ZについてZ∗はΓ上にあり、定理 2.2 (2)により(Z∗)∗=Zである。よって反転像はΓ全体に等しい。
(3)⇒(2)を示す。ΓとΩが直交するとし、共有点Tをとる。§A5.6 定理 1.2により各接線は半径に垂直なので、OT⊥CTである。§A5.4 定理 1.1よりOC2=OT2+CT2=ρ2+r2となる。
(2)⇒(3)を示す。OC2=ρ2+r2とする。長さρ,rの二辺が直角をはさむ直角三角形を作ると、§A5.4 定理 1.1により斜辺の長さはOCである。斜辺を線分OCに重ね、直角の頂点をTとすると、OT=ρ、CT=rである。Tを直線OCに関して反射した点も二円の共有点であり、Tは直線OC上にないので二点は相異なる。任意の共有点Uについて、OU=ρ、CU=rである。∣ρ−r∣<OC<ρ+rなので、三点O,C,Uは一直線上にない。§A5.4 定理 1.1の逆によりOU⊥CUであり、§A5.6 定理 1.2により二円の接線も垂直である。したがって、二円は直交する。▨
問題 4.3. 中心O、半径ρ>0の円Ωと二点P,Qが与えられている。O,P,Qは一直線上になく、OP=ρとする。P,Qを通りΩに直交する円を構成し、その円が一意であることを示せ。
解答.
Pの反転像P∗をとる。OP=ρよりP∗=Pである。P,P∗は直線OP上にあり、Qはその直線上にないので、§A5.6 定理 2.1により三点P,P∗,Qを通る円Γがただ一つ存在する。
円Γの中心をC、半径をrとする。直線OPとΓの交点はP,P∗であり、二点は同じ半直線上にある。§A5.7 定理 1.3の符号つきの積は通常の長さの積に等しいので、
OC2−r2=OP⋅OP∗=ρ2>0である。したがってOはΓの外部にあり、Γ=Ωである。定理 4.2によりΓはΩに直交する。
P,Qを通りΩに直交する別の円Δがあるとする。Δの中心をD、半径をsとすると、共有点での半径の直交と§A5.4 定理 1.1によりOD2=s2+ρ2>s2である。よってOはΔの外部にあり、Δ=Ωである。定理 4.2によりΔは反転で不変なので、P∗も含む。三点P,P∗,Qを通る円の一意性によりΔ=Γである。
Γは反転で不変なので、Q∗もΓ上にある。したがって四点P,P∗,Q,Q∗は同一円周上にある。ただし、QがΩ上にある場合にはQ∗=Qである。▨
5 曲線の交角の保存
反転は線分の角を、対応する3点の三角形の角としてそのまま保存する写像ではありません。保存されるのは、曲線が交わる点での接線どうしの角です。これは「円が円へ移る」ことを角度の議論に使うときの正確な言い方です。
定理 5.1. 中心O、半径ρ>0の反転を考える。γ1,γ2が点X=Oで交わり、各曲線がXの近傍ではOを通らない滑らかな曲線であるとする。γiの反転像をγi∗とし、X∗における接線が存在すると仮定する。このとき、γ1,γ2のXにおける接線のなす角の大きさと、γ1∗,γ2∗のX∗における接線のなす角の大きさは等しい。向きをつけた角は符号が反転する。
証明.Oを原点とし、反転を写す関数を
F(x)=∥x∥2ρ2xと書く。x=0における微分を、方向ベクトルvに作用させると
DFx(v)=∥x∥2ρ2(v−2∥x∥2x⋅vx).括弧内の写像は、x方向成分の符号だけを反転する反射である。したがって、v,wが作る角の大きさはDFx(v),DFx(w)が作る角の大きさと等しい。曲線γiのXにおける接ベクトルにこの等式を適用すれば、主張を得る。反射の行列式は負なので、向きをつけた角は符号が反転する。▨
例えば、Oを通らない2本の直線ℓ1,ℓ2がXで交わるなら、各直線の像はX∗を通る円からOを除いた集合です。元の直線の角を反転後に読むときは、像の円の接線を使います。円と直線の接触、2円の接触、交わる2円の角にも、中心以外の交点では、この定理を適用することができます。
6 典型的な使い方
反転を問題へ持ち込むときは、次の順に対象を選びます。
- 多くの円が通る点、または接線を調べたい点を反転中心Oにする。
- その点を通る円を反転して直線にし、円どうしの条件を直線どうしの条件へ変える。
- 距離の積OX⋅OX∗=ρ2と定理 2.2 (4)の距離公式で、長さの結論を元へ戻す。
- 角度の結論は定理 5.1により接線の交角として戻す。
例 6.1.Oを通る相異なる2円Γ1,Γ2が、O以外の点Aでも交わるとする。Oを中心とする任意の反転を施すと、定理 3.1により、中心を除いた各円は直線ℓ1,ℓ2へ移る。反転は全単射なので、二つの像の直線は相異なる。点Aの像A∗は両直線上にあるので
A∗=ℓ1∩ℓ2.反転後の2直線の交点を求めてもう一度反転すると、元の2円のO以外の交点が得られる。交点を求める際には、2円の方程式の連立を2直線の方程式の連立へ置き換えることができる。
さらに、定理 5.1を2本の円弧へ適用すると、A∗でのℓ1,ℓ2の角は、元の2円のAでの接線の角に等しい。保存されるのは接線の交角であり、円周上の弦の角ではない。
例 6.2. 中心O、半径ρ>0の反転を考える。円ΓとO以外の点Pを固定し、Pを通る直線がΓと相異なる点A,Bで交わるとする。A,BはいずれもOと異なるものとする。直線PABがOを通らなければ、その反転像はOを通る円からOを除いた集合である。したがって、反転した3点は一般には一直線上にない。定理 2.2 (4)により
A∗B∗=OA⋅OBρ2ABを得る。この式と§A5.7 定理 1.3の方べきの積とを組み合わせて、反転後の距離と元の距離を結び付けることができる。直線の反転像が直線になるのは、元の直線がOを通る場合に限られる。
7 縮退・境界ケースと適用範囲
- 中心O:通常の平面反転ではOの像を定義しません。拡張平面では無限遠点への対応として表すこともありますが、この記事の距離公式はOX>0を仮定しています。
- 反転円上の点:OX=ρならX∗=Xです。反転円の円周上の各点は個別に固定されます。
- 円が中心を通る場合:円の中心がOに一致することと、円周がOを含むことは異なります。円周がOを含むときに、中心を除いた円の像が直線となります。像の直線上にOの像という有限点は追加しません。
- 直線が中心を通る場合:中心を除いた直線は同じ集合へ移ります。中心を通らない直線の像は、中心を通る円から中心を除いた集合です。
- 円の式の分母d:d=OC2−r2が0でない場合にだけ、像の円の中心公式を使うことができます。d=0では分母で割らず、直線の方程式を使います。
- 一致する点や角:距離公式はX,Y=Oを仮定し、距離比の式は各点の相異性も仮定しています。交角の定理は、零でない接ベクトルをもつ滑らかな曲線の交点を扱います。中心での角や曲線の尖点には、交角の定理をそのまま適用しません。
- 円周上の点の対応:反転像を同じ円の上に置くには、その円が反転で不変であるなどの追加条件が必要です。一般の円では、円と直線の対応の定理が与える別の円を使います。