§A5.8三角形の五心

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正三角形では、三つの頂点から向かい側の辺の中点へ引いた線分が一点で交わります。同じ点が、三つの頂点を通る円と三つの辺に接する円の中心にもなります。ところが三角形の形を変えると、異なる関係で選んだ点が一致するとは限りません。円の中心や線分の交点がどこに現れるのかを、それぞれの関係から調べる必要があります。

三角形の五心は、頂点や辺との関係をもとに三角形に対して特別な点を捉えるための概念です。五心の存在や相互の位置関係を調べることは、三角形と円の性質を結びつける初等幾何の基本的な問題です。正三角形では一致する点も、一般の三角形では異なる位置を占めるため、中心を選ぶ関係の違いが図形に現れます。

本記事では、三角形の五心の基本的な性質を解説します。

1 五心の定義

以下では、互いに異なる非共線な三点A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}が作る三角形を扱います。通常の角は、二本の半直線がつくる0°0°以上180°180°以下の小さい方の角とします。鈍角三角形では、垂線の足や傍接円の接点が辺の延長上にある場合も扱います。辺の長さをa=BC,b=CA,c=ABa=\mathrm{BC},\qquad b=\mathrm{CA},\qquad c=\mathrm{AB}と書きます。

重心・外心・内心・垂心・傍心を、三角形の五心と総称します。傍心は各頂点に対応する三個を一種類として数えます。

定義 1.1 (重心). 三角形の頂点と対辺の中点を結ぶ線分を中線という。3本の中線の共通点を重心 (centroid) といい、G\mathrm{G}で表す。

定義 1.2 (外心). 三角形の3辺の垂直二等分線の共通点を外心 (circumcenter) といい、O\mathrm{O}で表す。O\mathrm{O}を中心として3頂点を通る円を外接円という。

定義 1.3 (内心). 三角形の3つの内角の二等分線の共通点を内心 (incenter) といい、I\mathrm{I}で表す。I\mathrm{I}を中心として3辺すべてに接する円を内接円という。

定義 1.4 (垂心). 頂点を通り対辺に垂直な直線を垂線という。3本の垂線の共通点を垂心 (orthocenter) といい、H\mathrm{H}で表す。垂線の足は、必要なら対辺の延長上にとる。

定義 1.5 (傍心と傍接円). 頂点A\mathrm{A}の内角の二等分線と、B,C\mathrm{B},\mathrm{C}の外角の二等分線の共通点をA\mathrm{A}に対する傍心 (excenter)IA\mathrm{I_A}という。IA\mathrm{I_A}を中心として辺BC\mathrm{BC}と辺AB,AC\mathrm{AB},\mathrm{AC}の延長に接する円をA\mathrm{A}に対する傍接円という。IB,IC\mathrm{I_B},\mathrm{I_C}も頂点を巡回して同様に定める。

定理 1.6 (三角形の五心). 非退化三角形△ABC\triangle\mathrm{ABC}では、3本の中線、3本の辺の垂直二等分線、3本の内角の二等分線、3本の垂線、および各頂点に対応する内外角の二等分線が、それぞれただ1点で共点となる。これらの点を順に重心、外心、内心、垂心、傍心と呼ぶ。

定義では「共通点」と書きましたが、3本が本当に一点で交わることはまだ証明していません。まず、4つの中心と2つの円を動かして、何を証明すべきかを観察します。

2 動かして観察する

下の図では、A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}のどの頂点もドラッグできます。灰色の破線は中線、緑の破線は垂線です。三角形を鋭角から鈍角へ変え、O\mathrm{O}とH\mathrm{H}が三角形の外へ出る様子、I\mathrm{I}が内接円の中心にとどまる様子、O\mathrm{O}が外接円の中心にとどまる様子を見てください。

図で見たことは証明ではありません。 ドラッグで調べられるのは有限個の配置だけであり、点がほぼ重なる配置では見た目だけの判定も危険です。以下では、3本目の直線まで同じ点を通る理由を五心ごとに示します。

3 重心——3本の中線

定理 3.1.△ABC\triangle\mathrm{ABC}の3本の中線はただ1点G\mathrm{G}で交わる。MA\mathrm{M_A}を辺BC\mathrm{BC}の中点とするとAG:GMA=2:1\mathrm{AG}:\mathrm{GM_A}=2:1であり、他の2本の中線についても同じ比になる。

4 初等幾何による主証明

証明. 中線AM\mathrm{AM}とBN\mathrm{BN}の交点をG\mathrm{G}とする。ただしM,N\mathrm{M},\mathrm{N}はそれぞれBC,CA\mathrm{BC},\mathrm{CA}の中点である。G\mathrm{G}を内部にとる面積を[XYZ][XYZ]と書く。M\mathrm{M}が中点なので[ABM]=[ACM][ABM]=[ACM]であり、G\mathrm{G}がAM\mathrm{AM}上にあることから[ABG]+[BGM]=[ACG]+[CGM].[ABG]+[BGM]=[ACG]+[CGM].[BGM]=[CGM][BGM]=[CGM]だから[ABG]=[ACG][ABG]=[ACG]を得る。同様に、N\mathrm{N}が中点であることから[ABG]=[BCG][ABG]=[BCG]も得る。したがって3つの小三角形の面積をすべてuuと書ける。

[ABM]=12[ABC]=32u[ABM]=\frac12[ABC]=\frac32uなので[BGM]=u/2[BGM]=u/2。同じ直線AM\mathrm{AM}を底辺とし、共通の高さをもつ三角形の面積比からAGGM=[ABG][BGM]=2.\frac{\mathrm{AG}}{\mathrm{GM}}=\frac{[ABG]}{[BGM]}=2.同じ議論を他の2本の中線にも巡回して適用するので、3本はG\mathrm{G}で共点し、比はすべて2:12:1である。▨

5 別証明:位置ベクトルによる重心

証明. 原点を任意にとり、A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}の位置ベクトルをa⃗,b⃗,c⃗\vec a,\vec b,\vec cとする。辺BC\mathrm{BC}の中点はm⃗A=(b⃗+c⃗)/2\vec m_A=(\vec b+\vec c)/2である。g⃗:=a⃗+b⃗+c⃗3\vec g:=\frac{\vec a+\vec b+\vec c}{3}とおくと

g⃗−a⃗=23(b⃗+c⃗2−a⃗)=23(m⃗A−a⃗).\vec g-\vec a=\frac23\left(\frac{\vec b+\vec c}{2}-\vec a\right)=\frac23(\vec m_A-\vec a).

したがってG\mathrm{G}は中線AMA\mathrm{AM_A}上にあり、頂点から中点へ向かって2/32/3の位置にある。A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}を巡回すれば、同じG\mathrm{G}が残り2本の中線にも乗る。

異なる2本の中線が同一直線なら3頂点が同一直線上になってしまうので、非退化な三角形では交点はただ1つである。比も上の係数からAG:GMA=2:1\mathrm{AG}:\mathrm{GM_A}=2:1。▨

6 外心——3辺の垂直二等分線

補題 6.1. 異なる2点P,Q\mathrm{P},\mathrm{Q}から等距離にある点全体は、線分PQ\mathrm{PQ}の垂直二等分線である。

証明.M\mathrm{M}をPQ\mathrm{PQ}の中点とする。点X\mathrm{X}が垂直二等分線上にあれば、直角三角形△XMP,△XMQ\triangle\mathrm{XMP},\triangle\mathrm{XMQ}は、XM\mathrm{XM}が共通でMP=MQ\mathrm{MP}=\mathrm{MQ}だから合同であり、XP=XQ\mathrm{XP}=\mathrm{XQ}。

逆にXP=XQ\mathrm{XP}=\mathrm{XQ}なら、△XMP,△XMQ\triangle\mathrm{XMP},\triangle\mathrm{XMQ}は3辺相等で合同である。よって∠XMP=∠XMQ\angle\mathrm{XMP}=\angle\mathrm{XMQ}。この2角は一直線上に並ぶのでともに90°90°となり、X\mathrm{X}は垂直二等分線上にある。X=M\mathrm{X}=\mathrm{M}の場合も自明である。▨

定理 6.2.△ABC\triangle\mathrm{ABC}の3辺の垂直二等分線はただ1点O\mathrm{O}で交わる。さらにOA=OB=OC\mathrm{OA}=\mathrm{OB}=\mathrm{OC}であり、O\mathrm{O}を中心とするこの半径の円が三角形の外接円である。

証明の方針。 辺AB\mathrm{AB}とAC\mathrm{AC}の垂直二等分線を先に交わらせます。その点はA\mathrm{A}を仲立ちにしてOB=OA=OC\mathrm{OB}=\mathrm{OA}=\mathrm{OC}を満たすため、残るBC\mathrm{BC}の垂直二等分線にも乗ります。

証明. 辺AB\mathrm{AB}とAC\mathrm{AC}の垂直二等分線は平行ではない。もし平行なら、それぞれに垂直なAB\mathrm{AB}とAC\mathrm{AC}も平行になり、A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}が同一直線上に並ぶからである。よって2直線はただ1点O\mathrm{O}で交わる。

補題 6.1よりOA=OB\mathrm{OA}=\mathrm{OB}かつOA=OC\mathrm{OA}=\mathrm{OC}。したがってOB=OC\mathrm{OB}=\mathrm{OC}でもあるから、同じ補題の逆向きによりO\mathrm{O}は辺BC\mathrm{BC}の垂直二等分線上にもある。3点までの共通距離は正なので、O\mathrm{O}を中心とする円は3頂点を通る。最初の2直線の交点が一意だから、外心も外接円も一意である。▨

7 内心——3本の内角の二等分線

補題 7.1. 交わる2直線ℓ,m\ell,mに対し、その交点でない点P\mathrm{P}からℓ,m\ell,mまでの距離が等しいことと、P\mathrm{P}がℓ,m\ell,mの作る内角または外角の二等分線上にあることは同値である。どちらの二等分線かは、P\mathrm{P}が四つの角領域のどこにあるかで決まる。

証明.P\mathrm{P}からℓ,m\ell,mへ下ろした垂線の足をL,M\mathrm{L},\mathrm{M}、2直線の交点をV\mathrm{V}とする。P\mathrm{P}がある角の二等分線上なら、直角三角形△PVL,△PVM\triangle\mathrm{PVL},\triangle\mathrm{PVM}は斜辺PV\mathrm{PV}が共通で、V\mathrm{V}の角も等しいため合同である。よってPL=PM\mathrm{PL}=\mathrm{PM}。

逆にPL=PM\mathrm{PL}=\mathrm{PM}なら、二つの直角三角形は斜辺と一辺がそれぞれ等しいので合同であり、P\mathrm{P}を含む角領域の二つの角が等しい。したがってVP\mathrm{VP}はその領域の二等分線である。▨

定理 7.2.△ABC\triangle\mathrm{ABC}の3本の内角の二等分線は、三角形の内部のただ1点I\mathrm{I}で交わる。I\mathrm{I}から3辺までの距離はすべてr=2Sa+b+cr=\frac{2S}{a+b+c}に等しい。ここでSSは三角形の面積であり、I\mathrm{I}を中心とする半径rrの円が内接円である。

8 初等幾何による主証明

証明.∠A\angle\mathrm{A}と∠B\angle\mathrm{B}の内角の二等分線の交点をI\mathrm{I}とする。2直線から等距離な点の軌跡の補題より、I\mathrm{I}からAB\mathrm{AB}とAC\mathrm{AC}までの距離は等しく、またAB\mathrm{AB}とBC\mathrm{BC}までの距離も等しい。したがって3辺を含む直線までの距離は共通の値r>0r>0であり、同じ補題の逆からCI\mathrm{CI}も∠C\angle\mathrm{C}の二等分線上にある。 2本の異なる内角の二等分線の交点は一意なので、3本はただ1点で共点となる。

3つの三角形IAB,IBC,ICA\mathrm{IAB},\mathrm{IBC},\mathrm{ICA}の面積を底辺と高さで足すとS=12r(c+a+b)S=\frac12r(c+a+b)である。よってr=2S/(a+b+c)r=2S/(a+b+c)。この距離を半径とする円は3辺に接するので内接円である。▨

9 別証明:重み付き位置ベクトルによる内心

証明の方針。 3本の二等分線を直接追う代わりに、3辺から同じ距離にある内部の点を一つ作ります。各頂点に向かい側の辺の長さを重みとして付けると、各辺までの距離が同じになります。

証明. 位置ベクトルを用いてi⃗:=aa⃗+bb⃗+cc⃗a+b+c\vec i:=\frac{a\vec a+b\vec b+c\vec c}{a+b+c}とおく。係数はすべて正で和が1だから、I\mathrm{I}は三角形の内部にある。

辺BC\mathrm{BC}から頂点A\mathrm{A}までの高さは2S/a2S/aである。直線までの符号つき距離は位置ベクトルの一次式なので、B,C\mathrm{B},\mathrm{C}の距離が0であることと合わせると、I\mathrm{I}からBC\mathrm{BC}までの距離はaa+b+c⋅2Sa=2Sa+b+c.\frac{a}{a+b+c}\cdot\frac{2S}{a}=\frac{2S}{a+b+c}.同様に、CA\mathrm{CA}とAB\mathrm{AB}までの距離もそれぞれba+b+c2Sb\dfrac{b}{a+b+c}\dfrac{2S}{b}、ca+b+c2Sc\dfrac{c}{a+b+c}\dfrac{2S}{c}で、同じ値になる。

補題 7.1よりI\mathrm{I}は各頂点の二等分線上にある。I\mathrm{I}は三角形の内部なので、いずれも内角の二等分線である。異なる2本の内角の二等分線は平行でないため共通点は一意である。また各辺の両端で内角の内部にあるため、I\mathrm{I}から辺を含む直線へ下ろした垂線の足は2頂点の間にある。したがって3辺までの共通距離を半径とする円は 3辺すべてに接する。S>0S>0だからr>0r>0である。▨

10 垂心——3本の垂線

定理 10.1.△ABC\triangle\mathrm{ABC}の3本の垂線はただ1点H\mathrm{H}で交わる。

証明の方針。A\mathrm{A}とB\mathrm{B}からの垂線を交わらせてH\mathrm{H}を作ります。二つの直角を直径の円へ読み替える操作を2回行い、円周角を移すとCH⊥AB\mathrm{CH}\perp\mathrm{AB}が出ます。鈍角三角形では足が辺の延長上に出るので、直線の向きを180°180°を法として測る有向角を使います。

証明. まず三角形が直角三角形なら、直角をはさむ2辺そのものが他の2頂点からの垂線であり、直角の頂点で交わる。残る頂点から斜辺への垂線もその頂点を通るので、垂心は直角の頂点である。

以下、直角三角形でないとする。A\mathrm{A}から直線BC\mathrm{BC}へ下ろした垂線の足をD\mathrm{D}、B\mathrm{B}から直線CA\mathrm{CA}へ下ろした垂線の足をE\mathrm{E}とする。直線AD\mathrm{AD}とBE\mathrm{BE}は平行でないので、ただ1点H\mathrm{H}で交わる。

∠ADB=∠AEB=90°\angle\mathrm{ADB}=\angle\mathrm{AEB}=90°だから、A,B,D,E\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{D},\mathrm{E}は直径AB\mathrm{AB}の同一円周上にある。また∠CDH=∠CEH=90°\angle\mathrm{CDH}=\angle\mathrm{CEH}=90°だから、C,D,E,H\mathrm{C},\mathrm{D},\mathrm{E},\mathrm{H}は直径CH\mathrm{CH}の同一円周上にある。これは直径を直角に見込む点の判定であり、円周角の定理の逆 (§A5.5 定理 1.1 (2)と§A5.5 注意 6.1) の同じ側・反対側の両場合を含む。

ここからは直線どうしの有向角を180°180°を法として測る。後者の円で同じ弦HE\mathrm{HE}を見込む円周角、前者の円で同じ弦EB\mathrm{EB}を見込む円周角を順に使うと

∡(CH,CA)=∡(DH,DE)=90°−∡(DE,DB)=90°−∡(AC,AB).\begin{aligned} \measuredangle(\mathrm{CH},\mathrm{CA}) &=\measuredangle(\mathrm{DH},\mathrm{DE})\\ &=90°-\measuredangle(\mathrm{DE},\mathrm{DB})\\ &=90°-\measuredangle(\mathrm{AC},\mathrm{AB}). \end{aligned}

したがって

∡(CH,AB)=∡(CH,CA)+∡(CA,AB)=90°.\measuredangle(\mathrm{CH},\mathrm{AB})=\measuredangle(\mathrm{CH},\mathrm{CA})+\measuredangle(\mathrm{CA},\mathrm{AB})=90°.

よってCH⊥AB\mathrm{CH}\perp\mathrm{AB}であり、H\mathrm{H}はC\mathrm{C}からの垂線上にもある。最初の2本の交点が一意なので、3本の共通点もただ1つである。有向角を使ったため、D,E\mathrm{D},\mathrm{E}が辺の延長上に出る鈍角の場合も同じ計算に含まれる。▨

11 傍心——内角1本と外角2本の二等分線

定理 11.1.△ABC\triangle\mathrm{ABC}には3個の傍心IA,IB,IC\mathrm{I_A},\mathrm{I_B},\mathrm{I_C}があり、いずれも三角形の外部にある。IA\mathrm{I_A}はA\mathrm{A}の内角の二等分線とB,C\mathrm{B},\mathrm{C}の外角の二等分線の共通点であり、辺を含む3直線までの距離はrA=2S−a+b+cr_A=\frac{2S}{-a+b+c}に等しい。他の2個も文字を巡回して得られる。

12 初等幾何による主証明

証明.∠A\angle\mathrm{A}の内角二等分線と∠B\angle\mathrm{B}の外角二等分線の交点をIA\mathrm{I_A}とする。二直線からの距離の補題により、IA\mathrm{I_A}からAB\mathrm{AB}とAC\mathrm{AC}までの距離の絶対値は等しく、AB\mathrm{AB}とBC\mathrm{BC}までの距離の絶対値も等しい。したがってIA\mathrm{I_A}は∠C\angle\mathrm{C}の外角二等分線上にもあり、3本は共点となる。IA\mathrm{I_A}はBC\mathrm{BC}の反対側の領域にあるので三角形の外部にある。

3辺を含む直線までの距離の共通絶対値をrAr_Aとする。符号付き面積を用いてS=12(−a+b+c)rAS=\frac12(-a+b+c)r_Aとなるので、三角不等式−a+b+c>0-a+b+c>0と合わせてrA=2S−a+b+c.r_A=\frac{2S}{-a+b+c}.この半径の円はBC\mathrm{BC}とAB,AC\mathrm{AB},\mathrm{AC}の延長に接する。他の傍心も頂点を巡回して得られる。▨

13 別証明:符号付き位置ベクトルによる傍心

証明の方針。 内心の式で一つの重みだけ符号を反転します。すると、向かい側の辺を越えて外へ出る一方、3本の辺を含む直線までの距離の絶対値は等しいままです。距離の符号が、内角か外角かを判定します。

証明. 三角不等式よりqA:=−a+b+c>0q_A:=-a+b+c>0である。位置ベクトルを用いてi⃗A:=−aa⃗+bb⃗+cc⃗qA\vec i_A:=\frac{-a\vec a+b\vec b+c\vec c}{q_A}とおく。辺BC\mathrm{BC}までの符号つき距離をA\mathrm{A}側で正、CA\mathrm{CA}までをB\mathrm{B}側で正、AB\mathrm{AB}までをC\mathrm{C}側で正にとる。内心の証明と同じ一次性により、IA\mathrm{I_A}の3直線までの符号つき距離は順に

−aqA2Sa=−2SqA,bqA2Sb=2SqA,cqA2Sc=2SqA.-\frac{a}{q_A}\frac{2S}{a}=-\frac{2S}{q_A},\qquad \frac{b}{q_A}\frac{2S}{b}=\frac{2S}{q_A},\qquad \frac{c}{q_A}\frac{2S}{c}=\frac{2S}{q_A}.

絶対値はすべてrA=2S/qAr_A=2S/q_Aである。

符号から、IA\mathrm{I_A}はBC\mathrm{BC}を越えた三角形の外部にあり、直線AB,AC\mathrm{AB},\mathrm{AC}については三角形の内部と同じ側にある。したがってIA\mathrm{I_A}はA\mathrm{A}の内角領域、B,C\mathrm{B},\mathrm{C}の外角領域にある。補題 7.1により、それぞれ対応する二等分線上にある。

中心IA\mathrm{I_A}、半径rAr_Aの円は3本の辺を含む直線に接する。接点がどの部分にあるかも、符号から確認できる。実際、BC\mathrm{BC}をxx軸、B=(0,0)\mathrm{B}=(0,0)、C=(a,0)\mathrm{C}=(a,0)、A=(u,v)\mathrm{A}=(u,v)(v>0v>0)とすると

0<c−uqA<10<\frac{c-u}{q_A}<1

である。IA\mathrm{I_A}のBC\mathrm{BC}への垂足は(a(c−u)/qA,0)\bigl(a(c-u)/q_A,0\bigr)だから線分BC\mathrm{BC}上にある。一方、AB\mathrm{AB}への垂足をB\mathrm{B}からA\mathrm{A}へ向かうパラメータで表すとa(u−c)/(qAc)<0a(u-c)/(q_Ac)<0となり、B\mathrm{B}の外側にある。AC\mathrm{AC}についても同様にC\mathrm{C}の外側にある。したがって辺BC\mathrm{BC}とAB,AC\mathrm{AB},\mathrm{AC}の延長に接する。二等分線2本の交点は一意だからIA\mathrm{I_A}も一意である。A,B,C\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{C}を巡回してIB,IC\mathrm{I_B},\mathrm{I_C}が得られる。▨

14 中心はどこに来るか

系 14.1. 非退化な三角形について、中心の位置は次のようになる。

  • G\mathrm{G}とI\mathrm{I}は、三角形の形によらず常に内部にある。
  • 鋭角三角形ではO,H\mathrm{O},\mathrm{H}も内部にある。
  • 直角三角形ではO\mathrm{O}は斜辺の中点、H\mathrm{H}は直角の頂点にある。
  • 鈍角三角形ではO,H\mathrm{O},\mathrm{H}はともに外部にある。
  • 3個の傍心は常に外部にある。

証明.G\mathrm{G}は3頂点の係数が1/31/3の凸結合、I\mathrm{I}は正の係数a/(a+b+c),b/(a+b+c),c/(a+b+c)a/(a+b+c),b/(a+b+c),c/(a+b+c)の凸結合なので内部にある。傍心が外部にあることは定理 11.1の距離の符号から従う。

BC\mathrm{BC}の中点を原点とし、B=(−u,0)\mathrm{B}=(-u,0)、C=(u,0)\mathrm{C}=(u,0)、A=(p,q)\mathrm{A}=(p,q)(u,q>0u,q>0)とおく。BC\mathrm{BC}の垂直二等分線上の外心を(0,t)(0,t)とすると、OA=OB\mathrm{OA}=\mathrm{OB}からt=p2+q2−u22q.t=\frac{p^2+q^2-u^2}{2q}.一方、AB→⋅AC→=p2+q2−u2\overrightarrow{\mathrm{AB}}\cdot\overrightarrow{\mathrm{AC}}=p^2+q^2-u^2だから、ttの符号は∠A\angle\mathrm{A}が鋭角・直角・鈍角であるのに応じて正・0・負になる。各辺について同じ議論をすると、外心は3角が鋭角なら各辺の内側、直角なら斜辺上、鈍角なら鈍角の向かいの辺の外側にある。直角の場合、斜辺の垂直二等分線との交点はその中点である。

垂心については、鋭角なら各垂線の足が辺の内部にあり、2本の垂線の線分が三角形の内部で交わる。直角の場合は定理 10.1の証明の通り直角の頂点である。鈍角がA\mathrm{A}なら、B,C\mathrm{B},\mathrm{C}からの垂線の足はそれぞれCA,AB\mathrm{CA},\mathrm{AB}のA\mathrm{A}側の延長上にあり、2本は三角形の外側で交わる。他の頂点が鈍角の場合も同様である。▨

二等辺三角形では、対称軸による折り返しで中心の定義が保たれます。一意性からG,I,O,H\mathrm{G},\mathrm{I},\mathrm{O},\mathrm{H}はすべて対称軸上にあり、頂角に対応する傍心も対称軸上、残る2個の傍心は互いに鏡映の位置にあります。

正三角形では3本の対称軸が中線・内角の二等分線・垂直二等分線・垂線をすべて兼ねるため、G=I=O=H\mathrm{G}=\mathrm{I}=\mathrm{O}=\mathrm{H}となります。ただし、3個の傍心は外部の異なる点のままです。

15 オイラー線と九点円へ

系 15.1. 正三角形でない三角形では、外心O\mathrm{O}、重心G\mathrm{G}、垂心H\mathrm{H}はこの順に一直線上にあり、OG:GH=1:2\mathrm{OG}:\mathrm{GH}=1:2である。この直線をオイラー線という。

証明. 三辺BC,CA,AB\mathrm{BC},\mathrm{CA},\mathrm{AB}の中点を、それぞれM,N,L\mathrm{M},\mathrm{N},\mathrm{L}とする。

O=G\mathrm{O}=\mathrm{G}と仮定する。重心は中線AM\mathrm{AM}の内部にあり、G≠M\mathrm{G}\neq\mathrm{M}である。外心はBC\mathrm{BC}の垂直二等分線上にあるので、O=G\mathrm{O}=\mathrm{G}なら直線AM\mathrm{AM}がこの垂直二等分線であり、AB=AC\mathrm{AB}=\mathrm{AC}である。同じ議論を中線BN\mathrm{BN}に用いるとBA=BC\mathrm{BA}=\mathrm{BC}となる。よって三辺は等しい。いま三角形は正三角形でないので、O≠G\mathrm{O}\neq\mathrm{G}である。

直線OG\mathrm{OG}上で、G\mathrm{G}に関してO\mathrm{O}と反対側に、GH′=2GO\mathrm{GH}'=2\mathrm{GO}を満たす点H′\mathrm{H}'をとる。

定理 3.1により、A,G,M\mathrm{A},\mathrm{G},\mathrm{M}はこの順に並び、GA=2GM\mathrm{GA}=2\mathrm{GM}である。O=M\mathrm{O}=\mathrm{M}のとき、H′\mathrm{H}'とA\mathrm{A}はG\mathrm{G}から同じ向きに同じ距離だけ離れているので一致する。この場合、H′\mathrm{H}'はA\mathrm{A}を通る垂線上にある。

O≠M\mathrm{O}\neq\mathrm{M}とする。G,O,M\mathrm{G},\mathrm{O},\mathrm{M}が一直線上にあるならば、A,H′\mathrm{A},\mathrm{H}'はともに直線OM\mathrm{OM}上にある。外心の定義からOM⊥BC\mathrm{OM}\perp\mathrm{BC}であるから、H′\mathrm{H}'はA\mathrm{A}からの垂線上にある。

G,O,M\mathrm{G},\mathrm{O},\mathrm{M}が一直線上にないならば、∠AGH′=∠MGO\angle\mathrm{AGH}'=\angle\mathrm{MGO}は対頂角であり、GA/GM=GH′/GO=2\mathrm{GA}/\mathrm{GM}=\mathrm{GH}'/\mathrm{GO}=2である。したがって§A5.1 定理 3.1 (2)により、三角形AGH′\mathrm{AGH}'と三角形MGO\mathrm{MGO}はこの頂点順に相似である。対応する角の等しさと、A,M\mathrm{A},\mathrm{M}がG\mathrm{G}の反対側にあることから、AH′∥MO\mathrm{AH}'\parallel\mathrm{MO}である。MO⊥BC\mathrm{MO}\perp\mathrm{BC}なので、この場合もH′\mathrm{H}'はA\mathrm{A}からの垂線上にある。

同じ議論で、H′\mathrm{H}'はB\mathrm{B}から直線CA\mathrm{CA}への垂線と、C\mathrm{C}から直線AB\mathrm{AB}への垂線上にもある。定理 10.1の一意性によりH′=H\mathrm{H}'=\mathrm{H}である。構成により、O,G,H\mathrm{O},\mathrm{G},\mathrm{H}はこの順に並び、OG:GH=1:2\mathrm{OG}:\mathrm{GH}=1:2である。▨

16 別証明:内積によるオイラー線

証明.O\mathrm{O}を原点とし、3頂点の位置ベクトルをa⃗,b⃗,c⃗\vec a,\vec b,\vec cとする。外心の定義から∣a⃗∣=∣b⃗∣=∣c⃗∣|\vec a|=|\vec b|=|\vec c|。h⃗′:=a⃗+b⃗+c⃗\vec h':=\vec a+\vec b+\vec cとおくと

(h⃗′−a⃗)⋅(b⃗−c⃗)=(b⃗+c⃗)⋅(b⃗−c⃗)=∣b⃗∣2−∣c⃗∣2=0.(\vec h'-\vec a)\cdot(\vec b-\vec c) =(\vec b+\vec c)\cdot(\vec b-\vec c)=|\vec b|^2-|\vec c|^2=0.

よってH′\mathrm{H'}はA\mathrm{A}を通りBC\mathrm{BC}に垂直な直線上にある。文字を巡回すればH′\mathrm{H'}は3本の垂線上にあるので、定理 10.1の一意性からH′=H\mathrm{H'}=\mathrm{H}である。一方定理 3.1よりg⃗=a⃗+b⃗+c⃗3=h⃗3.\vec g=\frac{\vec a+\vec b+\vec c}{3}=\frac{\vec h}{3}.したがってG\mathrm{G}はOH\mathrm{OH}を1:21:2に内分する。正三角形ではO=G=H\mathrm{O}=\mathrm{G}=\mathrm{H}となり、2点で直線を定められず比も0:00:0になるため除いた。▨

オイラー線の次に現れるのが九点円です。§C2.3 定理 1.1では、3辺の中点、3本の垂線の足、H\mathrm{H}と3頂点の中点という9点が、OH\mathrm{OH}の中点を中心とする半径R/2R/2の円に乗ることが述べられます。この9点が同一円周上にあることは、この記事では証明せず、参照先の記事の証明に委ねます。直角三角形でも外接円の半径RRは正なので九点円は退化しませんが、垂心が頂点に来るため9点のうちいくつかは重なります。正三角形ではO=H\mathrm{O}=\mathrm{H}でも、九点円は半径R/2R/2の円として残ります。

17 退化する配置に注意

3頂点が同一直線上に並ぶと、この記事の仮定から外れます。このとき3点を通る有限半径の外接円はなく、頂点から対辺の直線へ引く3本の垂線は互いに平行になって、有限の垂心を持ちません。面積SSが0なので、内接円・傍接円の半径の式も0または定義不能となり、通常の円ではなくなります。2頂点が一致すれば辺や角そのものが定義できません。

したがって「ほとんど一直線」の三角形を極限として眺めることと、一直線に並んだ配置を三角形として定理へ代入することは別です。上の動く図は、ドラッグ範囲を分けてこの退化を起こさないようにしています。

前提記事