§E9.18強可測性と Bochner 積分

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ベクトルの有限和は、値が数列であっても、ベクトル空間の加法によって定まる。たとえば、第nn座標だけが2−n2^{-n}である数列を足し合わせると、有限和は有限個の非零座標をもつが、上限ノルムについての極限の数列は無限個の非零座標をもつ。有限和を積分へ拡張するときにも、積分値が同じ空間に属するための条件と、近似の極限を扱うための条件が必要となる。

Bochner 積分は、ノルムによる近似を用いて Lebesgue 積分を Banach 空間値の関数へ拡張するものであり、ベクトル値の積分を扱う基本的な方法の一つである。強可測性は、この拡張における可測性の条件となる。

本記事では、強可測性と Bochner 積分の基本的な性質を解説する。

1 単関数と強可測性

定義 1.1.(X,Σ)(X,\Sigma)を可測空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。写像s:X→Bs:X\to Bが有限個の値をとり、各b∈Bb\in Bに対してs−1({b})∈Σs^{-1}(\{b\})\in\Sigmaであるとき、ssをBB値の可測単関数 (measurable simple function) という。

写像F:X→BF:X\to Bが強Σ\Sigma-可測 (strongly Sigma-measurable) であるとは、可測単関数列(sn)n≥1(s_n)_{n\geq1}が存在し、すべてのx∈Xx\in Xに対して∥sn(x)−F(x)∥B→0\|s_n(x)-F(x)\|_B\to0となることをいう。

(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を正測度空間とする。F:X→BF:X\to Bがμ\mu-強可測 (strongly mu-measurable) であるとは、可測単関数列(sn)n≥1(s_n)_{n\geq1}とN∈ΣN\in\Sigmaが存在し、μ(N)=0\mu(N)=0かつすべてのx∈X∖Nx\in X\setminus Nに対して∥sn(x)−F(x)∥B→0\|s_n(x)-F(x)\|_B\to0となることをいう。

写像F:X→BF:X\to Bに対して、強Σ\Sigma-可測な写像F♯:X→BF^\sharp:X\to BがFFとμ\mu-a.e. に一致するとき、F♯F^\sharpをFFの強可測代表元 (strongly measurable representative) という。

命題 1.2.(X,Σ)(X,\Sigma)を可測空間、BBを実または複素 Banach 空間、F:X→BF:X\to Bを写像とする。次の条件は同値である。

  1. FFは強Σ\Sigma-可測である。
  2. 可算な稠密集合をもつ閉線形部分空間B0⊆BB_0\subseteq Bが存在し、F(X)⊆B0F(X)\subseteq B_0であり、任意のb∈B0b\in B_0に対してx↦∥F(x)−b∥Bx\mapsto\|F(x)-b\|_Bは実数値のΣ\Sigma-可測関数である。
  3. 可算な稠密集合をもつ閉線形部分空間B0⊆BB_0\subseteq Bが存在し、F(X)⊆B0F(X)\subseteq B_0であり、F:(X,Σ)→(B,B(B))F:(X,\Sigma)\to(B,\mathcal B(B))は可測である。

これらの条件が成り立つならば、可測単関数列(sn)(s_n)を、すべてのx∈Xx\in Xに対して

sn(x)⟶F(x),∥F(x)−sn(x)∥B≤∥F(x)∥B,∥sn(x)∥B≤2∥F(x)∥Bs_n(x)\longrightarrow F(x),\qquad \|F(x)-s_n(x)\|_B\leq\|F(x)\|_B,\qquad \|s_n(x)\|_B\leq2\|F(x)\|_B

となるように選ぶことができる。

証明.FFに各点で収束する可測単関数列(tn)(t_n)をとる。すべてのtnt_nの値を集めた集合DDは高々可算である。DDの線形包の閉包をB0B_0とおく。実数の場合は有理数係数、複素数の場合はQ+iQ\Q+i\Qの係数によるDDの有限線形結合がB0B_0の可算稠密集合となる。各F(x)F(x)はB0B_0内の列(tn(x))(t_n(x))の極限であるからF(X)⊆B0F(X)\subseteq B_0である。任意のb∈B0b\in B_0に対して∥tn−b∥B\|t_n-b\|_Bは実数値可測単関数であり、逆三角不等式から∥tn(x)−b∥B→∥F(x)−b∥B\|t_n(x)-b\|_B\to\|F(x)-b\|_Bである。§E9.7 定理 5.1により(2)が従う。

(2)を満たすB0B_0の可算稠密集合を{b0,b1,…}\{b_0,b_1,\ldots\}とし、b0=0b_0=0とする。有限な稠密集合の場合には値を繰り返して列とする。各n≥1n\geq1とx∈Xx\in Xに対して、∥F(x)−bj∥B\|F(x)-b_j\|_Bが0≤j≤n0\leq j\leq nの中で最小となる添字のうち、最小のものをjn(x)j_n(x)とおき、sn(x)=bjn(x)s_n(x)=b_{j_n(x)}と定める。集合{jn=j}\{j_n=j\}は、i<ji<jに対する∥F−bj∥B<∥F−bi∥B\|F-b_j\|_B<\|F-b_i\|_Bと、j<i≤nj<i\leq nに対する∥F−bj∥B≤∥F−bi∥B\|F-b_j\|_B\leq\|F-b_i\|_Bの有限個の条件で定まるため可測である。したがってsns_nは可測単関数である。稠密性により

∥F(x)−sn(x)∥B=min⁡0≤j≤n∥F(x)−bj∥B⟶0\|F(x)-s_n(x)\|_B=\min_{0\leq j\leq n}\|F(x)-b_j\|_B\longrightarrow0

である。候補にb0=0b_0=0が含まれるから、誤差は∥F(x)∥B\|F(x)\|_B以下である。三角不等式から∥sn(x)∥B≤2∥F(x)∥B\|s_n(x)\|_B\leq2\|F(x)\|_Bも従う。

B0B_0の可算稠密集合の点を中心とする正の有理数半径の球は、B0B_0の可算な開基となる。BBの任意の開集合UUに対してU∩B0U\cap B_0はこの開基の元の可算和であり、各球のFFによる逆像は距離関数の可測性によってΣ\Sigmaに属する。したがって(2)から(3)が従う。

(3)が成り立つ場合、任意のb∈B0b\in B_0に対してv↦∥v−b∥Bv\mapsto\|v-b\|_Bは連続である。§E9.7 命題 1.3と§E9.7 命題 1.2により距離関数は可測である。▨

命題 1.3.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。写像F:X→BF:X\to Bがμ\mu-強可測であるための必要十分条件は、強Σ\Sigma-可測な写像F♯:X→BF^\sharp:X\to BとN∈ΣN\in\Sigmaが存在し、μ(N)=0\mu(N)=0かつX∖NX\setminus N上でF=F♯F=F^\sharpとなることである。F♯F^\sharpはNN上で00となるように選ぶことができる。

任意の二つの強可測代表元F♯,G♯F^\sharp,G^\sharpについて、∥F♯∥B\|F^\sharp\|_Bと∥G♯∥B\|G^\sharp\|_Bは非負有限値可測関数であり、

∫X∥F♯∥B dμ=∫X∥G♯∥B dμ\int_X\|F^\sharp\|_B\,d\mu=\int_X\|G^\sharp\|_B\,d\mu

が[0,∞][0,\infty]において成り立つ。

証明.μ\mu-強可測性を与える可測単関数列(sn)(s_n)と可測零集合NNをとる。F♯=FF^\sharp=FをX∖NX\setminus N上で、F♯=0F^\sharp=0をNN上で定める。各sns_nをNN上で00とした関数tnt_nは可測単関数であり、全点でtn→F♯t_n\to F^\sharpとなる。したがってF♯F^\sharpは強Σ\Sigma-可測である。逆に、F♯F^\sharpに全点で収束する可測単関数列はX∖NX\setminus N上でFFに収束する。

命題 1.2 (3)とノルムの連続性により、各代表元のノルムは可測である。二つの代表元は、その例外可測零集合の和の外で一致する。§E9.10 定理 3.2 (1)により積分値は等しい。▨

命題 1.4.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、B,CB,Cを実または複素 Banach 空間とする。次が成り立つ。

  1. 強Σ\Sigma-可測な写像列Fn:X→BF_n:X\to Bが全点でF:X→BF:X\to Bにノルム収束するならば、FFは強Σ\Sigma-可測である。
  2. μ\mu-強可測な写像列Fn:X→BF_n:X\to Bがμ\mu-a.e. にF:X→BF:X\to Bにノルム収束するならば、FFはμ\mu-強可測である。
  3. Φ:B→C\Phi:B\to Cが連続ならば、強Σ\Sigma-可測なFFに対してΦ∘F\Phi\circ Fは強Σ\Sigma-可測であり、μ\mu-強可測なFFに対してΦ∘F\Phi\circ Fはμ\mu-強可測である。
  4. BBの係数体をK\mathbb Kとする。強Σ\Sigma-可測なF,G:X→BF,G:X\to Bとα,β∈K\alpha,\beta\in\mathbb Kに対してαF+βG\alpha F+\beta Gは強Σ\Sigma-可測である。F,GF,Gがμ\mu-強可測である場合には、αF+βG\alpha F+\beta Gはμ\mu-強可測である。

証明. 各FnF_nに対して、命題 1.2の可分な閉線形部分空間BnB_nをとる。⋃nBn\bigcup_nB_nの線形包の閉包B0B_0は、各BnB_nの可算稠密集合を合わせて得られる集合の有理数係数の有限線形結合を稠密集合としてもつ。複素数の場合には係数をQ+iQ\Q+i\Qにとる。全点での極限F(x)F(x)はB0B_0に属する。任意のb∈B0b\in B_0に対して、FnF_nの Borel 可測性から∥Fn−b∥B\|F_n-b\|_Bは可測であり、その点ごとの極限は∥F−b∥B\|F-b\|_Bである。§E9.7 定理 5.1と命題 1.2 (2)により(1)を得る。

各FnF_nの強可測代表元GnG_nとその例外可測零集合NnN_nをとり、収束の例外可測零集合をN0N_0とする。N=⋃n≥0NnN=\bigcup_{n\geq0}N_n上でGnG_nとFFを00に変更する。修正後のGnG_nは、その単関数近似もNN上で00にすることにより強Σ\Sigma-可測である。修正後の列は全点で修正後のFFに収束する。(1)と命題 1.3により(2)が従う。

強Σ\Sigma-可測なFFの値を含む可分な閉線形部分空間B0B_0と、その可算稠密集合DDをとる。Φ\Phiの連続性によりΦ(D)\Phi(D)はΦ(B0)\Phi(B_0)に稠密である。Φ(B0)\Phi(B_0)の線形包の閉包C0C_0は可分である。Φ∘F\Phi\circ Fは、連続写像と Borel 可測写像の合成として Borel 可測である。命題 1.2 (3)によりΦ∘F\Phi\circ Fは強Σ\Sigma-可測である。FFがμ\mu-強可測である場合、Φ∘F♯\Phi\circ F^\sharpは強Σ\Sigma-可測であり、Φ∘F\Phi\circ Fと同じ可測零集合の外で一致する。したがって命題 1.3により(3)が従う。

F,GF,Gに各点で収束する可測単関数列(sn),(tn)(s_n),(t_n)をとる。αsn+βtn\alpha s_n+\beta t_nは有限個の可測レベル集合の共通細分上で一定であるから可測単関数であり、各点でαF+βG\alpha F+\beta Gに収束する。μ\mu-強可測な場合には二つの例外可測零集合の和の外で同じ収束が成り立つ。▨

2 単関数の積分とノルム可積分性

定義 2.1.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。μ\mu-強可測なF:X→BF:X\to Bに対して、強可測代表元F♯F^\sharpを用いて

∫X∥F∥B dμ:=∫X∥F♯∥B dμ\int_X\|F\|_B\,d\mu:=\int_X\|F^\sharp\|_B\,d\mu

と定める。右辺は非負関数の Lebesgue 積分であり、命題 1.3によって代表元に依存しない。左辺はFF自身のノルムのΣ\Sigma-可測性を要求する記法ではない。

可測単関数s:X→Bs:X\to Bが∫X∥s∥B dμ<∞\int_X\|s\|_B\,d\mu<\inftyを満たすとき、ssを可積分単関数 (integrable simple function) という。ssの相異なる非零の値をb1,…,bmb_1,\ldots,b_m、Aj=s−1({bj})A_j=s^{-1}(\{b_j\})とすると、

∫X∥s∥B dμ=∑j=1m∥bj∥Bμ(Aj).\int_X\|s\|_B\,d\mu=\sum_{j=1}^m\|b_j\|_B\mu(A_j).

したがって、ssが可積分であることと、すべての非零レベル集合AjA_jが有限測度をもつこととは同値である。このとき、単関数の積分を

Iμ0(s):=∑j=1mbjμ(Aj)∈BI_\mu^0(s):=\sum_{j=1}^m b_j\mu(A_j)\in B

と定める。s=0s=0の場合には空和を00とする。

命題 2.2.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBをK∈{R,C}\mathbb K\in\{\R,\C\}上の Banach 空間とする。可積分単関数ssが、互いに素な可測集合E1,…,EkE_1,\ldots,E_kによってs=∑i=1kci1Eis=\sum_{i=1}^k c_i\mathbf1_{E_i}と表示されているならば、

Iμ0(s)=∑{i:ci≠0}ciμ(Ei)I_\mu^0(s)=\sum_{\{i:c_i\neq0\}}c_i\mu(E_i)

である。特に、積分は単関数の表示に依存しない。

可積分単関数s,ts,tとα,β∈K\alpha,\beta\in\mathbb Kに対してαs+βt\alpha s+\beta tは可積分単関数であり、

Iμ0(αs+βt)=αIμ0(s)+βIμ0(t),∥Iμ0(s)∥B≤∫X∥s∥B dμI_\mu^0(\alpha s+\beta t)=\alpha I_\mu^0(s)+\beta I_\mu^0(t),\qquad \|I_\mu^0(s)\|_B\leq\int_X\|s\|_B\,d\mu

が成り立つ。したがって

∥Iμ0(s)−Iμ0(t)∥B≤∫X∥s−t∥B dμ\|I_\mu^0(s)-I_\mu^0(t)\|_B\leq\int_X\|s-t\|_B\,d\mu

である。

証明.ci≠0c_i\neq0ならばEi⊆{s=ci}E_i\subseteq\{s=c_i\}であるから、μ(Ei)<∞\mu(E_i)<\inftyである。各非零レベル集合を同じ値をもつEiE_iの和に分け、有限加法性を適用すると、表示による和はレベル集合による和に一致する。

E={s≠0}∪{t≠0}E=\{s\neq0\}\cup\{t\neq0\}は有限測度の可測集合である。EE上でs,ts,tのレベル集合を共通細分すると、有限測度の互いに素な可測集合D1,…,DrD_1,\ldots,D_rと値ai,bi∈Ba_i,b_i\in Bによって

s=∑i=1rai1Di,t=∑i=1rbi1Dis=\sum_{i=1}^ra_i\mathbf1_{D_i},\qquad t=\sum_{i=1}^rb_i\mathbf1_{D_i}

と表示することができる。αs+βt\alpha s+\beta tはEEの外で00であり、EE上で有限個の値をとるため可積分である。表示独立性と有限和の線形性から積分の線形性が従う。三角不等式から

∥∑j=1mbjμ(Aj)∥B≤∑j=1m∥bj∥Bμ(Aj)=∫X∥s∥B dμ\left\|\sum_{j=1}^m b_j\mu(A_j)\right\|_B \leq\sum_{j=1}^m\|b_j\|_B\mu(A_j) =\int_X\|s\|_B\,d\mu

を得る。最後の評価をs−ts-tに適用すると積分の差の評価が従う。▨

定義 2.3.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。μ\mu-強可測な写像F:X→BF:X\to BがBochner 可積分 (Bochner integrable) であるとは、可積分単関数列(sn)(s_n)が存在し、

∫X∥F−sn∥B dμ⟶0\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0

となることをいう。F−snF-s_nは命題 1.4 (4)によりμ\mu-強可測であるため、左辺は強可測代表元を用いて定まる。

定理 2.4.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間、F:X→BF:X\to Bをμ\mu-強可測な写像とする。FFが Bochner 可積分であるための必要十分条件は

∫X∥F∥B dμ<∞\int_X\|F\|_B\,d\mu<\infty

である。条件が成り立つとき、任意の強可測代表元F♯F^\sharpに対して、可積分単関数列(sn)(s_n)を全点でsn→F♯s_n\to F^\sharpとなり、

∥F♯−sn∥B≤∥F♯∥B,∥sn∥B≤2∥F♯∥B,∫X∥F−sn∥B dμ⟶0\|F^\sharp-s_n\|_B\leq\|F^\sharp\|_B,\qquad \|s_n\|_B\leq2\|F^\sharp\|_B,\qquad \int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0

となるように選ぶことができる。

証明.FFが Bochner 可積分ならば、ある可積分単関数sns_nに対して∫X∥F−sn∥B dμ<∞\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu<\inftyである。強可測代表元F♯F^\sharpに三角不等式を適用すると、積分の単調性と非負線形性により

∫X∥F∥B dμ≤∫X∥F−sn∥B dμ+∫X∥sn∥B dμ<∞\int_X\|F\|_B\,d\mu \leq\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu+\int_X\|s_n\|_B\,d\mu<\infty

を得る。

∫X∥F∥B dμ<∞\int_X\|F\|_B\,d\mu<\inftyとし、任意の強可測代表元F♯F^\sharpをとる。命題 1.2により、全点でsn→F♯s_n\to F^\sharp、∥F♯−sn∥B≤∥F♯∥B\|F^\sharp-s_n\|_B\leq\|F^\sharp\|_B、∥sn∥B≤2∥F♯∥B\|s_n\|_B\leq2\|F^\sharp\|_Bとなる可測単関数列を得る。最後の評価によって各sns_nは可積分である。非負有限値可測関数∥F♯−sn∥B\|F^\sharp-s_n\|_Bは全点で00に収束し、可積分関数∥F♯∥B\|F^\sharp\|_Bによって支配される。§E9.11 定理 3.1により、その積分は00に収束する。代表元によるノルム積分の定義から∫X∥F−sn∥B dμ→0\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\to0である。▨

命題 2.5.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。Bochner 可積分なF:X→BF:X\to Bに対して、∫X∥F−sn∥B dμ→0\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\to0を満たす任意の可積分単関数列(sn)(s_n)の積分Iμ0(sn)I_\mu^0(s_n)はBB内で収束する。その極限は近似列に依存せず、FFとμ\mu-a.e. に一致するμ\mu-強可測写像に対しても同じ極限となる。極限v∈Bv\in Bは

∥v∥B≤∫X∥F∥B dμ\|v\|_B\leq\int_X\|F\|_B\,d\mu

を満たす。

証明. 近似列(sn)(s_n)に対して、命題 2.2と三角不等式から

∥Iμ0(sn)−Iμ0(sm)∥B≤∫X∥sn−sm∥B dμ≤∫X∥sn−F∥B dμ+∫X∥F−sm∥B dμ\|I_\mu^0(s_n)-I_\mu^0(s_m)\|_B \leq\int_X\|s_n-s_m\|_B\,d\mu \leq\int_X\|s_n-F\|_B\,d\mu+\int_X\|F-s_m\|_B\,d\mu

を得る。右辺はn,m→∞n,m\to\inftyで00に収束する。BBの完備性からIμ0(sn)I_\mu^0(s_n)はあるv∈Bv\in Bに収束する。

別の近似列(tn)(t_n)に対しても、

∥Iμ0(sn)−Iμ0(tn)∥B≤∫X∥sn−F∥B dμ+∫X∥F−tn∥B dμ⟶0\|I_\mu^0(s_n)-I_\mu^0(t_n)\|_B \leq\int_X\|s_n-F\|_B\,d\mu+\int_X\|F-t_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0

であるから極限は一致する。G=FG=Fがμ\mu-a.e. に成り立つ場合、強可測代表元のノルムに§E9.10 定理 3.2 (1)を適用すると、∫X∥G−sn∥B dμ=∫X∥F−sn∥B dμ\int_X\|G-s_n\|_B\,d\mu=\int_X\|F-s_n\|_B\,d\muとなる。したがってGGは同じ近似列をもち、極限も一致する。

単関数のノルム評価と三角不等式から

∥Iμ0(sn)∥B≤∫X∥sn∥B dμ≤∫X∥F∥B dμ+∫X∥sn−F∥B dμ\|I_\mu^0(s_n)\|_B \leq\int_X\|s_n\|_B\,d\mu \leq\int_X\|F\|_B\,d\mu+\int_X\|s_n-F\|_B\,d\mu

である。n→∞n\to\inftyとすると極限のノルム評価を得る。▨

定義 2.6.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。Bochner 可積分なF:X→BF:X\to Bに対して、命題 2.5で定まるベクトル

∫XF dμ:=lim⁡n→∞Iμ0(sn),∫X∥F−sn∥B dμ⟶0\int_XF\,d\mu:=\lim_{n\to\infty}I_\mu^0(s_n),\qquad \int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0

をFFのBochner 積分 (Bochner integral) という。

3 Banach 空間値の L1 空間

定義 3.1.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。μ\mu-強可測で∫X∥F∥B dμ<∞\int_X\|F\|_B\,d\mu<\inftyを満たす写像F:X→BF:X\to Bのμ\mu-a.e. の一致による同値類の集合をBanach 空間値のL1L^1空間 (Lebesgue–Bochner space) といい、L1(μ;B)L^1(\mu;B)と書く。FFの同値類を[F][F]と書き、

∥[F]∥1:=∫X∥F∥B dμ\|[F]\|_1:=\int_X\|F\|_B\,d\mu

と定める。加法とスカラー倍は[F]+[G]=[F+G][F]+[G]=[F+G]、α[F]=[αF]\alpha[F]=[\alpha F]と定める。

命題 3.2.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。L1(μ;B)L^1(\mu;B)の加法、スカラー倍、および∥⋅∥1\|\cdot\|_1は代表元に依存せず、L1(μ;B)L^1(\mu;B)は∥⋅∥1\|\cdot\|_1に関してノルム空間である。

証明.F,GF,Gの強可測代表元にノルムの三角不等式を適用し、スカラー積分の単調性と非負線形性を用いると、

∫X∥F+G∥B dμ≤∫X∥F∥B dμ+∫X∥G∥B dμ,∫X∥αF∥B dμ=∣α∣∫X∥F∥B dμ\int_X\|F+G\|_B\,d\mu\leq\int_X\|F\|_B\,d\mu+\int_X\|G\|_B\,d\mu, \qquad \int_X\|\alpha F\|_B\,d\mu=|\alpha|\int_X\|F\|_B\,d\mu

となる。命題 1.4 (4)によりF+GF+GとαF\alpha Fはμ\mu-強可測である。したがって加法とスカラー倍は同値類の集合上に定まる。

F=F′F=F'とG=G′G=G'がμ\mu-a.e. に成り立つならば、二つの例外可測零集合の和の外でF+G=F′+G′F+G=F'+G'とαF=αF′\alpha F=\alpha F'が成り立つ。FFとF′F'の強可測代表元のノルムはμ\mu-a.e. に一致するから、§E9.10 定理 3.2 (1)により∥[F]∥1=∥[F′]∥1\|[F]\|_1=\|[F']\|_1である。ベクトル空間の恒等式は写像の恒等式から同値類へ移る。

ノルムの斉次性と三角不等式は上の積分の評価から従う。∥[F]∥1=0\|[F]\|_1=0ならば、§E9.10 命題 3.3によって強可測代表元F♯F^\sharpはμ\mu-a.e. に00である。したがって[F]=[0][F]=[0]である。逆に[F]=[0][F]=[0]ならば同じ判定によって∥[F]∥1=0\|[F]\|_1=0である。▨

命題 3.3.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBをK∈{R,C}\mathbb K\in\{\R,\C\}上の Banach 空間とする。積分作用素

Iμ:L1(μ;B)⟶B,Iμ([F])=∫XF dμI_\mu:L^1(\mu;B)\longrightarrow B,\qquad I_\mu([F])=\int_XF\,d\mu

は有界線形作用素であり、∥Iμ∥≤1\|I_\mu\|\leq1である。特に、Bochner 可積分なF,G:X→BF,G:X\to Bとα,β∈K\alpha,\beta\in\mathbb Kに対して

∫X(αF+βG) dμ=α∫XF dμ+β∫XG dμ,∥∫X(F−G) dμ∥B≤∫X∥F−G∥B dμ\int_X(\alpha F+\beta G)\,d\mu =\alpha\int_XF\,d\mu+\beta\int_XG\,d\mu, \qquad \left\|\int_X(F-G)\,d\mu\right\|_B\leq\int_X\|F-G\|_B\,d\mu

が成り立つ。

証明.命題 2.5によりIμI_\muは同値類上に定まり、∥Iμ([F])∥B≤∥[F]∥1\|I_\mu([F])\|_B\leq\|[F]\|_1である。F,GF,Gの可積分単関数近似をそれぞれ(sn),(tn)(s_n),(t_n)とする。三角不等式から

∫X∥αF+βG−(αsn+βtn)∥B dμ≤∣α∣∫X∥F−sn∥B dμ+∣β∣∫X∥G−tn∥B dμ⟶0\int_X\|\alpha F+\beta G-(\alpha s_n+\beta t_n)\|_B\,d\mu \leq|\alpha|\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu +|\beta|\int_X\|G-t_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0

である。単関数積分の線形性を極限へ移すとIμI_\muの線形性を得る。ノルム評価をF−GF-Gに適用すると最後の不等式が従う。作用素ノルムの定義から∥Iμ∥≤1\|I_\mu\|\leq1である。▨

命題 3.4.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。可積分単関数の同値類はL1(μ;B)L^1(\mu;B)に稠密である。各[F]∈L1(μ;B)[F]\in L^1(\mu;B)と各強可測代表元F♯F^\sharpに対して、可積分単関数列(sn)(s_n)を∥[F]−[sn]∥1→0\|[F]-[s_n]\|_1\to0かつ全点でsn→F♯s_n\to F^\sharpとなるように選ぶことができる。

証明.定理 2.4の可積分単関数列(sn)(s_n)は、∥[F]−[sn]∥1=∫X∥F−sn∥B dμ→0\|[F]-[s_n]\|_1=\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\to0とsn→F♯s_n\to F^\sharpを満たす。▨

定理 3.5.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。このとき、L1(μ;B)L^1(\mu;B)は Banach 空間である。

証明.L1(μ;B)L^1(\mu;B)の Cauchy 列(un)(u_n)をとる。Cauchy 性により、増加する添字列(nk)(n_k)を∥unk+1−unk∥1≤2−k\|u_{n_{k+1}}-u_{n_k}\|_1\leq2^{-k}となるように選ぶ。各unku_{n_k}の強Σ\Sigma-可測な代表元をFkF_kとおき、

dk(x)=∥Fk+1(x)−Fk(x)∥B,q(x)=∑k=1∞dk(x)d_k(x)=\|F_{k+1}(x)-F_k(x)\|_B,\qquad q(x)=\sum_{k=1}^\infty d_k(x)

と定める。各dkd_kは非負有限値可測関数である。§E9.11 系 1.2により

∫Xq dμ=∑k=1∞∫Xdk dμ=∑k=1∞∥unk+1−unk∥1≤1.\int_Xq\,d\mu=\sum_{k=1}^\infty\int_Xd_k\,d\mu =\sum_{k=1}^\infty\|u_{n_{k+1}}-u_{n_k}\|_1\leq1.

§E9.10 命題 3.4によりN={q=∞}N=\{q=\infty\}は可測零集合である。

x∈X∖Nx\in X\setminus Nとl>kl>kに対して

∥Fl(x)−Fk(x)∥B≤∑j=kl−1dj(x)\|F_l(x)-F_k(x)\|_B\leq\sum_{j=k}^{l-1}d_j(x)

であるから、(Fk(x))(F_k(x))はBBの Cauchy 列である。BBの完備性によりF(x)=lim⁡kFk(x)F(x)=\lim_kF_k(x)をX∖NX\setminus N上で定め、NN上ではF=0F=0とおく。各FkF_kをNN上で00にした関数は強Σ\Sigma-可測であり、全点でFFに収束する。命題 1.4 (1)によりFFは強Σ\Sigma-可測である。

X∖NX\setminus N上でl→∞l\to\inftyとすると

∥F(x)−Fk(x)∥B≤∑j=k∞dj(x)\|F(x)-F_k(x)\|_B\leq\sum_{j=k}^\infty d_j(x)

を得る。積分の単調性、ほとんど至る所での不変性、および§E9.11 系 1.2により

∫X∥F−Fk∥B dμ≤∑j=k∞∫Xdj dμ≤∑j=k∞2−j⟶0.\int_X\|F-F_k\|_B\,d\mu\leq\sum_{j=k}^\infty\int_Xd_j\,d\mu \leq\sum_{j=k}^\infty2^{-j}\longrightarrow0.

k=1k=1の評価と三角不等式から∫X∥F∥B dμ≤∫X∥F1∥B dμ+1<∞\int_X\|F\|_B\,d\mu\leq\int_X\|F_1\|_B\,d\mu+1<\inftyである。したがってu=[F]∈L1(μ;B)u=[F]\in L^1(\mu;B)であり、unk→uu_{n_k}\to uである。

任意のε>0\varepsilon>0に対して、m,n≥Mm,n\geq Mならば∥um−un∥1<ε/2\|u_m-u_n\|_1<\varepsilon/2となるMMをとる。nk≥Mn_k\geq Mかつ∥unk−u∥1<ε/2\|u_{n_k}-u\|_1<\varepsilon/2となるkkを固定すると、すべてのn≥Mn\geq Mに対して∥un−u∥1≤∥un−unk∥1+∥unk−u∥1<ε\|u_n-u\|_1\leq\|u_n-u_{n_k}\|_1+\|u_{n_k}-u\|_1<\varepsilonである。よって元の列もuuに収束する。▨

4 優収束と有界線形作用素

定理 4.1.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、BBを実または複素 Banach 空間とする。Fn:X→BF_n:X\to Bをμ\mu-強可測な写像とし、F:X→BF:X\to Bを写像とする。Fn→FF_n\to Fがμ\mu-a.e. にノルム収束し、一つの非負有限値可測関数g:X→[0,∞)g:X\to[0,\infty)が

∫Xg dμ<∞,∥Fn(x)∥B≤g(x)(μ-a.e., n≥1)\int_Xg\,d\mu<\infty,\qquad \|F_n(x)\|_B\leq g(x)\quad(\mu\text{-a.e.},\ n\geq1)

を満たすと仮定する。このとき、FFとすべてのFnF_nは Bochner 可積分であり、

∫X∥Fn−F∥B dμ⟶0,∫XFn dμ⟶∫XF dμ\int_X\|F_n-F\|_B\,d\mu\longrightarrow0, \qquad \int_XF_n\,d\mu\longrightarrow\int_XF\,d\mu

が成り立つ。

証明.命題 1.4 (2)によりFFはμ\mu-強可測である。各FnF_nとFFの強可測代表元をとり、代表元との一致、収束、および各項の支配が成り立たない点を含む可測零集合の可算和をNNとする。代表元をNN上で00とした関数をGn,GG_n,Gとおく。全点でGn→GG_n\to Gと∥Gn∥B≤g\|G_n\|_B\leq gが成り立ち、極限をとると∥G∥B≤g\|G\|_B\leq gである。定理 2.4によりすべてのFnF_nとFFは Bochner 可積分である。

非負有限値可測関数en=∥Gn−G∥Be_n=\|G_n-G\|_Bは全点で00に収束し、en≤2ge_n\leq2gである。§E9.11 定理 3.1により∫Xen dμ→0\int_Xe_n\,d\mu\to0となる。ノルム積分の定義から最初の収束を得る。命題 3.3により

∥∫XFn dμ−∫XF dμ∥B≤∫X∥Fn−F∥B dμ⟶0\left\|\int_XF_n\,d\mu-\int_XF\,d\mu\right\|_B \leq\int_X\|F_n-F\|_B\,d\mu\longrightarrow0

である。▨

命題 4.2.(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、B,CB,Cを同じ係数体K∈{R,C}\mathbb K\in\{\R,\C\}上の Banach 空間、T:B→CT:B\to Cを有界線形作用素とする。Bochner 可積分なF:X→BF:X\to Bに対してT∘FT\circ Fは Bochner 可積分であり、

∫X∥TF∥C dμ≤∥T∥∫X∥F∥B dμ,∫XTF dμ=T(∫XF dμ)\int_X\|TF\|_C\,d\mu\leq\|T\|\int_X\|F\|_B\,d\mu, \qquad \int_XTF\,d\mu=T\left(\int_XF\,d\mu\right)

が成り立つ。

証明.§E9.2 定理 1.4によりTTは連続であるから、命題 1.4 (3)によりTFTFはμ\mu-強可測である。§E9.2 命題 1.2の評価∥Tv∥C≤∥T∥∥v∥B\|Tv\|_C\leq\|T\|\|v\|_Bを強可測代表元F♯F^\sharpに適用し、積分の単調性を用いると、ノルム積分の評価を得る。定理 2.4によりTFTFは Bochner 可積分である。

FFの可積分単関数近似(sn)(s_n)に対してTsnTs_nは可積分単関数であり、

∫X∥TF−Tsn∥C dμ≤∥T∥∫X∥F−sn∥B dμ⟶0.\int_X\|TF-Ts_n\|_C\,d\mu \leq\|T\|\int_X\|F-s_n\|_B\,d\mu\longrightarrow0.

単関数の積分の定義とTTの線形性からIμ0(Tsn)=T(Iμ0(sn))I_\mu^0(Ts_n)=T(I_\mu^0(s_n))である。TTの連続性によって極限を交換すると

∫XTF dμ=lim⁡nIμ0(Tsn)=T(lim⁡nIμ0(sn))=T(∫XF dμ)\int_XTF\,d\mu=\lim_n I_\mu^0(Ts_n) =T\left(\lim_n I_\mu^0(s_n)\right) =T\left(\int_XF\,d\mu\right)

を得る。▨

5 完備化との整合性

命題 5.1. 可算選択公理を仮定し、(X,Σ,μ)(X,\Sigma,\mu)を任意の正測度空間、(X,Σ‾ μ,μ‾)(X,\overline\Sigma^{\,\mu},\overline\mu)をその完備化、BBを実または複素 Banach 空間とする。写像F:X→BF:X\to Bがμ\mu-強可測であることと、μ‾\overline\mu-強可測であることは同値である。この場合、強Σ\Sigma-可測なG:X→BG:X\to BとZ∈ΣZ\in\Sigmaが存在し、μ(Z)=0\mu(Z)=0かつX∖ZX\setminus Z上でF=GF=Gとなる。

さらに、ノルム積分は

∫X∥F∥B dμ‾=∫X∥G∥B dμ\int_X\|F\|_B\,d\overline\mu=\int_X\|G\|_B\,d\mu

を満たす。FFのμ‾\overline\muに関する Bochner 可積分性とGGのμ\muに関する Bochner 可積分性は同値であり、可積分である場合には

∫XF dμ‾=∫XG dμ\int_XF\,d\overline\mu=\int_XG\,d\mu

となる。したがって[F]↦[F][F]\mapsto[F]はL1(μ;B)L^1(\mu;B)とL1(μ‾;B)L^1(\overline\mu;B)の間の線形な全射等長写像を定める。

証明.Σ\Sigma-可測単関数はΣ‾ μ\overline\Sigma^{\,\mu}-可測であり、μ\mu-可測零集合はμ‾\overline\mu-可測零集合でもある。したがってμ\mu-強可測性からμ‾\overline\mu-強可測性が従う。

FFのμ‾\overline\mu-強可測性を与える単関数列を(sn)(s_n)、例外可測零集合をN∈Σ‾ μN\in\overline\Sigma^{\,\mu}とする。各sns_nを有限個のレベル集合によってsn=∑jbn,j1En,js_n=\sum_j b_{n,j}\mathbf1_{E_{n,j}}と表示する。§E9.8 命題 7.8により、An,j,Zn,j∈ΣA_{n,j},Z_{n,j}\in\Sigmaを

μ(Zn,j)=0,En,j△An,j⊆Zn,j\mu(Z_{n,j})=0,\qquad E_{n,j}\mathbin\triangle A_{n,j}\subseteq Z_{n,j}

となるように同時に選ぶ。また、同じ命題によりNNはあるΣ\Sigma-可測零集合Z0Z_0に含まれる。実際、N△A⊆Z′N\mathbin\triangle A\subseteq Z'かつμ(Z′)=0\mu(Z')=0となるA,Z′∈ΣA,Z'\in\Sigmaをとると、μ(A)=μ‾(N)=0\mu(A)=\overline\mu(N)=0であり、N⊆A∪Z′N\subseteq A\cup Z'となる。

Z=Z0∪⋃n,jZn,jZ=Z_0\cup\bigcup_{n,j}Z_{n,j}とおき、tn=∑jbn,j1An,jt_n=\sum_j b_{n,j}\mathbf1_{A_{n,j}}をZZ上で00に変更する。各tnt_nはΣ\Sigma-可測単関数であり、X∖ZX\setminus Z上ではtn=sn→Ft_n=s_n\to Fである。G=FG=FをX∖ZX\setminus Z上で、G=0G=0をZZ上で定めると、tn→Gt_n\to Gは全点で成り立つ。したがってGGは強Σ\Sigma-可測であり、FFはμ\mu-強可測である。

ノルム積分の代表元からの独立性と、スカラー積分の§E9.10 命題 4.3により

∫X∥F∥B dμ‾=∫X∥G∥B dμ‾=∫X∥G∥B dμ.\int_X\|F\|_B\,d\overline\mu =\int_X\|G\|_B\,d\overline\mu =\int_X\|G\|_B\,d\mu.

定理 2.4により可積分性の同値が従う。可積分な場合、GGのμ\muに関する可積分単関数近似(rn)(r_n)をとる。スカラー積分の完備化との整合性から、(rn)(r_n)はGGのμ‾\overline\muに関する近似でもある。μ\muとμ‾\overline\muはΣ\Sigma上で一致するため、各rnr_nの単関数積分は両測度で一致する。積分の定義とF=GF=Gのμ‾\overline\mu-a.e. の一致から、Bochner 積分の等式を得る。

μ‾\overline\mu-可測零集合はΣ\Sigma-可測零集合に含まれるため、μ\mu-a.e. の一致とμ‾\overline\mu-a.e. の一致は同値である。強可測性の同値とノルム積分の等式から、二つのL1L^1空間は同じ写像の同値類をもち、そのノルムが一致する。加法とスカラー倍も同じ写像の演算から定まる。▨

6 例と演習

例 6.1.X={0,1,2}X=\{0,1,2\}、Σ={∅,{0,1},{2},X}\Sigma=\{\emptyset,\{0,1\},\{2\},X\}とし、μ\muを点22における Dirac 測度のΣ\Sigmaへの制限とする。実または複素 Banach 空間BBの非零の元bbをとり、F(0)=bF(0)=b、F(1)=F(2)=0F(1)=F(2)=0と定める。

可測零集合{0,1}\{0,1\}の外でF=0F=0であるから、FFはμ\mu-強可測であり、強可測代表元として零関数をもつ。したがってFFは Bochner 可積分であり、∫XF dμ=0\int_XF\,d\mu=0である。一方、{x:∥F(x)∥B>0}={0}∉Σ\{x:\|F(x)\|_B>0\}=\{0\}\notin\Sigmaであるから、元の写像のノルムはΣ\Sigma-可測ではない。命題 1.2 (3)によりFFは強Σ\Sigma-可測でもない。

例 6.2.N≥1\NN上に数え上げ測度κ\kappaを入れ、B=c0B=c_0に上限ノルムを入れる。c0c_0は§E9.1 例 3.1により Banach 空間である。第nn座標だけが11である数列をene_nとし、F(n)=2−nenF(n)=2^{-n}e_nと定める。

sN(n)=F(n)s_N(n)=F(n)をn≤Nn\leq Nで、sN(n)=0s_N(n)=0をn>Nn>Nで定めると、sNs_Nは可測単関数であり、各nnでsN(n)→F(n)s_N(n)\to F(n)となる。したがってFFは強可測である。また、非負級数の積分公式により

∫N≥1∥F∥∞ dκ=∑n=1∞2−n=1,∫N≥1∥F−sN∥∞ dκ=∑n>N2−n⟶0.\int_{\NN}\|F\|_\infty\,d\kappa=\sum_{n=1}^\infty2^{-n}=1, \qquad \int_{\NN}\|F-s_N\|_\infty\,d\kappa=\sum_{n>N}2^{-n}\longrightarrow0.

各sNs_Nの積分は∑n=1N2−nen\sum_{n=1}^N2^{-n}e_nであり、この列は上限ノルムについて数列(2−n)n≥1∈c0(2^{-n})_{n\geq1}\in c_0に収束する。よって

∫N≥1F dκ=(2−n)n≥1.\int_{\NN}F\,d\kappa=(2^{-n})_{n\geq1}.

各F(n)F(n)は有限個の非零座標しかもたないが、積分は無限個の非零座標をもつ。

問題 6.3.N≥1\NN上の数え上げ測度κ\kappaに対して、c0c_0値関数H(n)=n−1enH(n)=n^{-1}e_nを考える。HHは強可測であり、ベクトル級数∑n=1∞H(n)\sum_{n=1}^\infty H(n)はc0c_0内でノルム収束するが、HHは Bochner 可積分ではないことを証明せよ。

解答.

HHを{1,…,N}\{1,\ldots,N\}に制限し、その外で00とした関数は可測単関数であり、各点でHHに収束する。したがってHHは強可測である。数列a=(1/n)n≥1a=(1/n)_{n\geq1}はc0c_0に属し、

∥a−∑n=1N1nen∥∞=sup⁡n>N1n=1N+1⟶0\left\|a-\sum_{n=1}^N\frac1n e_n\right\|_\infty =\sup_{n>N}\frac1n=\frac1{N+1}\longrightarrow0

である。一方、∥H(n)∥∞=1/n\|H(n)\|_\infty=1/nであり、各k≥0k\geq0に対して

∑n=2k2k+1−11n≥2k2k+1=12.\sum_{n=2^k}^{2^{k+1}-1}\frac1n\geq\frac{2^k}{2^{k+1}}=\frac12.

したがって∫N≥1∥H∥∞ dκ=∑n=1∞1/n=∞\int_{\NN}\|H\|_\infty\,d\kappa=\sum_{n=1}^\infty1/n=\inftyである。定理 2.4によりHHは Bochner 可積分ではない。▨

参考文献

  1. John K. Hunter, Notes on Partial Differential Equations, 2014.付録のベクトル値関数における強可測性、Bochner 積分、ノルム可積分性の判定、優収束、有界線形作用素との交換を参考にした。

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