1 単関数と強可測性
定義 1.1.(X,Σ)を可測空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。写像s:X→Bが有限個の値をとり、各b∈Bに対してs−1({b})∈Σであるとき、sをB値の可測単関数 (measurable simple function) という。
写像F:X→Bが強Σ-可測 (strongly Sigma-measurable) であるとは、可測単関数列(sn)n≥1が存在し、すべてのx∈Xに対して∥sn(x)−F(x)∥B→0となることをいう。
(X,Σ,μ)を正測度空間とする。F:X→Bがμ-強可測 (strongly mu-measurable) であるとは、可測単関数列(sn)n≥1とN∈Σが存在し、μ(N)=0かつすべてのx∈X∖Nに対して∥sn(x)−F(x)∥B→0となることをいう。
写像F:X→Bに対して、強Σ-可測な写像F♯:X→BがFとμ-a.e. に一致するとき、F♯をFの強可測代表元 (strongly measurable representative) という。
命題 1.2.(X,Σ)を可測空間、Bを実または複素 Banach 空間、F:X→Bを写像とする。次の条件は同値である。
- Fは強Σ-可測である。
- 可算な稠密集合をもつ閉線形部分空間B0⊆Bが存在し、F(X)⊆B0であり、任意のb∈B0に対してx↦∥F(x)−b∥Bは実数値のΣ-可測関数である。
- 可算な稠密集合をもつ閉線形部分空間B0⊆Bが存在し、F(X)⊆B0であり、F:(X,Σ)→(B,B(B))は可測である。
これらの条件が成り立つならば、可測単関数列(sn)を、すべてのx∈Xに対して
sn(x)⟶F(x),∥F(x)−sn(x)∥B≤∥F(x)∥B,∥sn(x)∥B≤2∥F(x)∥Bとなるように選ぶことができる。
証明.Fに各点で収束する可測単関数列(tn)をとる。すべてのtnの値を集めた集合Dは高々可算である。Dの線形包の閉包をB0とおく。実数の場合は有理数係数、複素数の場合はQ+iQの係数によるDの有限線形結合がB0の可算稠密集合となる。各F(x)はB0内の列(tn(x))の極限であるからF(X)⊆B0である。任意のb∈B0に対して∥tn−b∥Bは実数値可測単関数であり、逆三角不等式から∥tn(x)−b∥B→∥F(x)−b∥Bである。§E9.7 定理 5.1により(2)が従う。
(2)を満たすB0の可算稠密集合を{b0,b1,…}とし、b0=0とする。有限な稠密集合の場合には値を繰り返して列とする。各n≥1とx∈Xに対して、∥F(x)−bj∥Bが0≤j≤nの中で最小となる添字のうち、最小のものをjn(x)とおき、sn(x)=bjn(x)と定める。集合{jn=j}は、i<jに対する∥F−bj∥B<∥F−bi∥Bと、j<i≤nに対する∥F−bj∥B≤∥F−bi∥Bの有限個の条件で定まるため可測である。したがってsnは可測単関数である。稠密性により
∥F(x)−sn(x)∥B=0≤j≤nmin∥F(x)−bj∥B⟶0である。候補にb0=0が含まれるから、誤差は∥F(x)∥B以下である。三角不等式から∥sn(x)∥B≤2∥F(x)∥Bも従う。
B0の可算稠密集合の点を中心とする正の有理数半径の球は、B0の可算な開基となる。Bの任意の開集合Uに対してU∩B0はこの開基の元の可算和であり、各球のFによる逆像は距離関数の可測性によってΣに属する。したがって(2)から(3)が従う。
(3)が成り立つ場合、任意のb∈B0に対してv↦∥v−b∥Bは連続である。§E9.7 命題 1.3と§E9.7 命題 1.2により距離関数は可測である。▨
命題 1.3.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。写像F:X→Bがμ-強可測であるための必要十分条件は、強Σ-可測な写像F♯:X→BとN∈Σが存在し、μ(N)=0かつX∖N上でF=F♯となることである。F♯はN上で0となるように選ぶことができる。
任意の二つの強可測代表元F♯,G♯について、∥F♯∥Bと∥G♯∥Bは非負有限値可測関数であり、
∫X∥F♯∥Bdμ=∫X∥G♯∥Bdμが[0,∞]において成り立つ。
証明.μ-強可測性を与える可測単関数列(sn)と可測零集合Nをとる。F♯=FをX∖N上で、F♯=0をN上で定める。各snをN上で0とした関数tnは可測単関数であり、全点でtn→F♯となる。したがってF♯は強Σ-可測である。逆に、F♯に全点で収束する可測単関数列はX∖N上でFに収束する。
命題 1.2 (3)とノルムの連続性により、各代表元のノルムは可測である。二つの代表元は、その例外可測零集合の和の外で一致する。§E9.10 定理 3.2 (1)により積分値は等しい。▨
命題 1.4.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、B,Cを実または複素 Banach 空間とする。次が成り立つ。
- 強Σ-可測な写像列Fn:X→Bが全点でF:X→Bにノルム収束するならば、Fは強Σ-可測である。
- μ-強可測な写像列Fn:X→Bがμ-a.e. にF:X→Bにノルム収束するならば、Fはμ-強可測である。
- Φ:B→Cが連続ならば、強Σ-可測なFに対してΦ∘Fは強Σ-可測であり、μ-強可測なFに対してΦ∘Fはμ-強可測である。
- Bの係数体をKとする。強Σ-可測なF,G:X→Bとα,β∈Kに対してαF+βGは強Σ-可測である。F,Gがμ-強可測である場合には、αF+βGはμ-強可測である。
証明. 各Fnに対して、命題 1.2の可分な閉線形部分空間Bnをとる。⋃nBnの線形包の閉包B0は、各Bnの可算稠密集合を合わせて得られる集合の有理数係数の有限線形結合を稠密集合としてもつ。複素数の場合には係数をQ+iQにとる。全点での極限F(x)はB0に属する。任意のb∈B0に対して、Fnの Borel 可測性から∥Fn−b∥Bは可測であり、その点ごとの極限は∥F−b∥Bである。§E9.7 定理 5.1と命題 1.2 (2)により(1)を得る。
各Fnの強可測代表元Gnとその例外可測零集合Nnをとり、収束の例外可測零集合をN0とする。N=⋃n≥0Nn上でGnとFを0に変更する。修正後のGnは、その単関数近似もN上で0にすることにより強Σ-可測である。修正後の列は全点で修正後のFに収束する。(1)と命題 1.3により(2)が従う。
強Σ-可測なFの値を含む可分な閉線形部分空間B0と、その可算稠密集合Dをとる。Φの連続性によりΦ(D)はΦ(B0)に稠密である。Φ(B0)の線形包の閉包C0は可分である。Φ∘Fは、連続写像と Borel 可測写像の合成として Borel 可測である。命題 1.2 (3)によりΦ∘Fは強Σ-可測である。Fがμ-強可測である場合、Φ∘F♯は強Σ-可測であり、Φ∘Fと同じ可測零集合の外で一致する。したがって命題 1.3により(3)が従う。
F,Gに各点で収束する可測単関数列(sn),(tn)をとる。αsn+βtnは有限個の可測レベル集合の共通細分上で一定であるから可測単関数であり、各点でαF+βGに収束する。μ-強可測な場合には二つの例外可測零集合の和の外で同じ収束が成り立つ。▨
2 単関数の積分とノルム可積分性
定義 2.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。μ-強可測なF:X→Bに対して、強可測代表元F♯を用いて
∫X∥F∥Bdμ:=∫X∥F♯∥Bdμと定める。右辺は非負関数の Lebesgue 積分であり、命題 1.3によって代表元に依存しない。左辺はF自身のノルムのΣ-可測性を要求する記法ではない。
可測単関数s:X→Bが∫X∥s∥Bdμ<∞を満たすとき、sを可積分単関数 (integrable simple function) という。sの相異なる非零の値をb1,…,bm、Aj=s−1({bj})とすると、
∫X∥s∥Bdμ=j=1∑m∥bj∥Bμ(Aj).したがって、sが可積分であることと、すべての非零レベル集合Ajが有限測度をもつこととは同値である。このとき、単関数の積分を
Iμ0(s):=j=1∑mbjμ(Aj)∈Bと定める。s=0の場合には空和を0とする。
命題 2.2.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、BをK∈{R,C}上の Banach 空間とする。可積分単関数sが、互いに素な可測集合E1,…,Ekによってs=∑i=1kci1Eiと表示されているならば、
Iμ0(s)={i:ci=0}∑ciμ(Ei)である。特に、積分は単関数の表示に依存しない。
可積分単関数s,tとα,β∈Kに対してαs+βtは可積分単関数であり、
Iμ0(αs+βt)=αIμ0(s)+βIμ0(t),∥Iμ0(s)∥B≤∫X∥s∥Bdμが成り立つ。したがって
∥Iμ0(s)−Iμ0(t)∥B≤∫X∥s−t∥Bdμである。
証明.ci=0ならばEi⊆{s=ci}であるから、μ(Ei)<∞である。各非零レベル集合を同じ値をもつEiの和に分け、有限加法性を適用すると、表示による和はレベル集合による和に一致する。
E={s=0}∪{t=0}は有限測度の可測集合である。E上でs,tのレベル集合を共通細分すると、有限測度の互いに素な可測集合D1,…,Drと値ai,bi∈Bによって
s=i=1∑rai1Di,t=i=1∑rbi1Diと表示することができる。αs+βtはEの外で0であり、E上で有限個の値をとるため可積分である。表示独立性と有限和の線形性から積分の線形性が従う。三角不等式から
j=1∑mbjμ(Aj)B≤j=1∑m∥bj∥Bμ(Aj)=∫X∥s∥Bdμを得る。最後の評価をs−tに適用すると積分の差の評価が従う。▨
定義 2.3.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。μ-強可測な写像F:X→BがBochner 可積分 (Bochner integrable) であるとは、可積分単関数列(sn)が存在し、
∫X∥F−sn∥Bdμ⟶0となることをいう。F−snは命題 1.4 (4)によりμ-強可測であるため、左辺は強可測代表元を用いて定まる。
定理 2.4.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間、F:X→Bをμ-強可測な写像とする。Fが Bochner 可積分であるための必要十分条件は
∫X∥F∥Bdμ<∞である。条件が成り立つとき、任意の強可測代表元F♯に対して、可積分単関数列(sn)を全点でsn→F♯となり、
∥F♯−sn∥B≤∥F♯∥B,∥sn∥B≤2∥F♯∥B,∫X∥F−sn∥Bdμ⟶0となるように選ぶことができる。
証明.Fが Bochner 可積分ならば、ある可積分単関数snに対して∫X∥F−sn∥Bdμ<∞である。強可測代表元F♯に三角不等式を適用すると、積分の単調性と非負線形性により
∫X∥F∥Bdμ≤∫X∥F−sn∥Bdμ+∫X∥sn∥Bdμ<∞を得る。
∫X∥F∥Bdμ<∞とし、任意の強可測代表元F♯をとる。命題 1.2により、全点でsn→F♯、∥F♯−sn∥B≤∥F♯∥B、∥sn∥B≤2∥F♯∥Bとなる可測単関数列を得る。最後の評価によって各snは可積分である。非負有限値可測関数∥F♯−sn∥Bは全点で0に収束し、可積分関数∥F♯∥Bによって支配される。§E9.11 定理 3.1により、その積分は0に収束する。代表元によるノルム積分の定義から∫X∥F−sn∥Bdμ→0である。▨
命題 2.5.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。Bochner 可積分なF:X→Bに対して、∫X∥F−sn∥Bdμ→0を満たす任意の可積分単関数列(sn)の積分Iμ0(sn)はB内で収束する。その極限は近似列に依存せず、Fとμ-a.e. に一致するμ-強可測写像に対しても同じ極限となる。極限v∈Bは
∥v∥B≤∫X∥F∥Bdμを満たす。
証明. 近似列(sn)に対して、命題 2.2と三角不等式から
∥Iμ0(sn)−Iμ0(sm)∥B≤∫X∥sn−sm∥Bdμ≤∫X∥sn−F∥Bdμ+∫X∥F−sm∥Bdμを得る。右辺はn,m→∞で0に収束する。Bの完備性からIμ0(sn)はあるv∈Bに収束する。
別の近似列(tn)に対しても、
∥Iμ0(sn)−Iμ0(tn)∥B≤∫X∥sn−F∥Bdμ+∫X∥F−tn∥Bdμ⟶0であるから極限は一致する。G=Fがμ-a.e. に成り立つ場合、強可測代表元のノルムに§E9.10 定理 3.2 (1)を適用すると、∫X∥G−sn∥Bdμ=∫X∥F−sn∥Bdμとなる。したがってGは同じ近似列をもち、極限も一致する。
単関数のノルム評価と三角不等式から
∥Iμ0(sn)∥B≤∫X∥sn∥Bdμ≤∫X∥F∥Bdμ+∫X∥sn−F∥Bdμである。n→∞とすると極限のノルム評価を得る。▨
定義 2.6.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。Bochner 可積分なF:X→Bに対して、命題 2.5で定まるベクトル
∫XFdμ:=n→∞limIμ0(sn),∫X∥F−sn∥Bdμ⟶0をFのBochner 積分 (Bochner integral) という。
3 Banach 空間値の L1 空間
定義 3.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。μ-強可測で∫X∥F∥Bdμ<∞を満たす写像F:X→Bのμ-a.e. の一致による同値類の集合をBanach 空間値のL1空間 (Lebesgue–Bochner space) といい、L1(μ;B)と書く。Fの同値類を[F]と書き、
∥[F]∥1:=∫X∥F∥Bdμと定める。加法とスカラー倍は[F]+[G]=[F+G]、α[F]=[αF]と定める。
命題 3.2.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。L1(μ;B)の加法、スカラー倍、および∥⋅∥1は代表元に依存せず、L1(μ;B)は∥⋅∥1に関してノルム空間である。
証明.F,Gの強可測代表元にノルムの三角不等式を適用し、スカラー積分の単調性と非負線形性を用いると、
∫X∥F+G∥Bdμ≤∫X∥F∥Bdμ+∫X∥G∥Bdμ,∫X∥αF∥Bdμ=∣α∣∫X∥F∥Bdμとなる。命題 1.4 (4)によりF+GとαFはμ-強可測である。したがって加法とスカラー倍は同値類の集合上に定まる。
F=F′とG=G′がμ-a.e. に成り立つならば、二つの例外可測零集合の和の外でF+G=F′+G′とαF=αF′が成り立つ。FとF′の強可測代表元のノルムはμ-a.e. に一致するから、§E9.10 定理 3.2 (1)により∥[F]∥1=∥[F′]∥1である。ベクトル空間の恒等式は写像の恒等式から同値類へ移る。
ノルムの斉次性と三角不等式は上の積分の評価から従う。∥[F]∥1=0ならば、§E9.10 命題 3.3によって強可測代表元F♯はμ-a.e. に0である。したがって[F]=[0]である。逆に[F]=[0]ならば同じ判定によって∥[F]∥1=0である。▨
命題 3.3.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、BをK∈{R,C}上の Banach 空間とする。積分作用素
Iμ:L1(μ;B)⟶B,Iμ([F])=∫XFdμは有界線形作用素であり、∥Iμ∥≤1である。特に、Bochner 可積分なF,G:X→Bとα,β∈Kに対して
∫X(αF+βG)dμ=α∫XFdμ+β∫XGdμ,∫X(F−G)dμB≤∫X∥F−G∥Bdμが成り立つ。
証明.命題 2.5によりIμは同値類上に定まり、∥Iμ([F])∥B≤∥[F]∥1である。F,Gの可積分単関数近似をそれぞれ(sn),(tn)とする。三角不等式から
∫X∥αF+βG−(αsn+βtn)∥Bdμ≤∣α∣∫X∥F−sn∥Bdμ+∣β∣∫X∥G−tn∥Bdμ⟶0である。単関数積分の線形性を極限へ移すとIμの線形性を得る。ノルム評価をF−Gに適用すると最後の不等式が従う。作用素ノルムの定義から∥Iμ∥≤1である。▨
命題 3.4.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。可積分単関数の同値類はL1(μ;B)に稠密である。各[F]∈L1(μ;B)と各強可測代表元F♯に対して、可積分単関数列(sn)を∥[F]−[sn]∥1→0かつ全点でsn→F♯となるように選ぶことができる。
証明.定理 2.4の可積分単関数列(sn)は、∥[F]−[sn]∥1=∫X∥F−sn∥Bdμ→0とsn→F♯を満たす。▨
定理 3.5.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。このとき、L1(μ;B)は Banach 空間である。
証明.L1(μ;B)の Cauchy 列(un)をとる。Cauchy 性により、増加する添字列(nk)を∥unk+1−unk∥1≤2−kとなるように選ぶ。各unkの強Σ-可測な代表元をFkとおき、
dk(x)=∥Fk+1(x)−Fk(x)∥B,q(x)=k=1∑∞dk(x)と定める。各dkは非負有限値可測関数である。§E9.11 系 1.2により
∫Xqdμ=k=1∑∞∫Xdkdμ=k=1∑∞∥unk+1−unk∥1≤1.§E9.10 命題 3.4によりN={q=∞}は可測零集合である。
x∈X∖Nとl>kに対して
∥Fl(x)−Fk(x)∥B≤j=k∑l−1dj(x)であるから、(Fk(x))はBの Cauchy 列である。Bの完備性によりF(x)=limkFk(x)をX∖N上で定め、N上ではF=0とおく。各FkをN上で0にした関数は強Σ-可測であり、全点でFに収束する。命題 1.4 (1)によりFは強Σ-可測である。
X∖N上でl→∞とすると
∥F(x)−Fk(x)∥B≤j=k∑∞dj(x)を得る。積分の単調性、ほとんど至る所での不変性、および§E9.11 系 1.2により
∫X∥F−Fk∥Bdμ≤j=k∑∞∫Xdjdμ≤j=k∑∞2−j⟶0.k=1の評価と三角不等式から∫X∥F∥Bdμ≤∫X∥F1∥Bdμ+1<∞である。したがってu=[F]∈L1(μ;B)であり、unk→uである。
任意のε>0に対して、m,n≥Mならば∥um−un∥1<ε/2となるMをとる。nk≥Mかつ∥unk−u∥1<ε/2となるkを固定すると、すべてのn≥Mに対して∥un−u∥1≤∥un−unk∥1+∥unk−u∥1<εである。よって元の列もuに収束する。▨
4 優収束と有界線形作用素
定理 4.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。Fn:X→Bをμ-強可測な写像とし、F:X→Bを写像とする。Fn→Fがμ-a.e. にノルム収束し、一つの非負有限値可測関数g:X→[0,∞)が
∫Xgdμ<∞,∥Fn(x)∥B≤g(x)(μ-a.e., n≥1)を満たすと仮定する。このとき、FとすべてのFnは Bochner 可積分であり、
∫X∥Fn−F∥Bdμ⟶0,∫XFndμ⟶∫XFdμが成り立つ。
証明.命題 1.4 (2)によりFはμ-強可測である。各FnとFの強可測代表元をとり、代表元との一致、収束、および各項の支配が成り立たない点を含む可測零集合の可算和をNとする。代表元をN上で0とした関数をGn,Gとおく。全点でGn→Gと∥Gn∥B≤gが成り立ち、極限をとると∥G∥B≤gである。定理 2.4によりすべてのFnとFは Bochner 可積分である。
非負有限値可測関数en=∥Gn−G∥Bは全点で0に収束し、en≤2gである。§E9.11 定理 3.1により∫Xendμ→0となる。ノルム積分の定義から最初の収束を得る。命題 3.3により
∫XFndμ−∫XFdμB≤∫X∥Fn−F∥Bdμ⟶0である。▨
命題 4.2.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、B,Cを同じ係数体K∈{R,C}上の Banach 空間、T:B→Cを有界線形作用素とする。Bochner 可積分なF:X→Bに対してT∘Fは Bochner 可積分であり、
∫X∥TF∥Cdμ≤∥T∥∫X∥F∥Bdμ,∫XTFdμ=T(∫XFdμ)が成り立つ。
証明.§E9.2 定理 1.4によりTは連続であるから、命題 1.4 (3)によりTFはμ-強可測である。§E9.2 命題 1.2の評価∥Tv∥C≤∥T∥∥v∥Bを強可測代表元F♯に適用し、積分の単調性を用いると、ノルム積分の評価を得る。定理 2.4によりTFは Bochner 可積分である。
Fの可積分単関数近似(sn)に対してTsnは可積分単関数であり、
∫X∥TF−Tsn∥Cdμ≤∥T∥∫X∥F−sn∥Bdμ⟶0.単関数の積分の定義とTの線形性からIμ0(Tsn)=T(Iμ0(sn))である。Tの連続性によって極限を交換すると
∫XTFdμ=nlimIμ0(Tsn)=T(nlimIμ0(sn))=T(∫XFdμ)を得る。▨
5 完備化との整合性
命題 5.1. 可算選択公理を仮定し、(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、(X,Σμ,μ)をその完備化、Bを実または複素 Banach 空間とする。写像F:X→Bがμ-強可測であることと、μ-強可測であることは同値である。この場合、強Σ-可測なG:X→BとZ∈Σが存在し、μ(Z)=0かつX∖Z上でF=Gとなる。
さらに、ノルム積分は
∫X∥F∥Bdμ=∫X∥G∥Bdμを満たす。Fのμに関する Bochner 可積分性とGのμに関する Bochner 可積分性は同値であり、可積分である場合には
∫XFdμ=∫XGdμとなる。したがって[F]↦[F]はL1(μ;B)とL1(μ;B)の間の線形な全射等長写像を定める。
証明.Σ-可測単関数はΣμ-可測であり、μ-可測零集合はμ-可測零集合でもある。したがってμ-強可測性からμ-強可測性が従う。
Fのμ-強可測性を与える単関数列を(sn)、例外可測零集合をN∈Σμとする。各snを有限個のレベル集合によってsn=∑jbn,j1En,jと表示する。§E9.8 命題 7.8により、An,j,Zn,j∈Σを
μ(Zn,j)=0,En,j△An,j⊆Zn,jとなるように同時に選ぶ。また、同じ命題によりNはあるΣ-可測零集合Z0に含まれる。実際、N△A⊆Z′かつμ(Z′)=0となるA,Z′∈Σをとると、μ(A)=μ(N)=0であり、N⊆A∪Z′となる。
Z=Z0∪⋃n,jZn,jとおき、tn=∑jbn,j1An,jをZ上で0に変更する。各tnはΣ-可測単関数であり、X∖Z上ではtn=sn→Fである。G=FをX∖Z上で、G=0をZ上で定めると、tn→Gは全点で成り立つ。したがってGは強Σ-可測であり、Fはμ-強可測である。
ノルム積分の代表元からの独立性と、スカラー積分の§E9.10 命題 4.3により
∫X∥F∥Bdμ=∫X∥G∥Bdμ=∫X∥G∥Bdμ.定理 2.4により可積分性の同値が従う。可積分な場合、Gのμに関する可積分単関数近似(rn)をとる。スカラー積分の完備化との整合性から、(rn)はGのμに関する近似でもある。μとμはΣ上で一致するため、各rnの単関数積分は両測度で一致する。積分の定義とF=Gのμ-a.e. の一致から、Bochner 積分の等式を得る。
μ-可測零集合はΣ-可測零集合に含まれるため、μ-a.e. の一致とμ-a.e. の一致は同値である。強可測性の同値とノルム積分の等式から、二つのL1空間は同じ写像の同値類をもち、そのノルムが一致する。加法とスカラー倍も同じ写像の演算から定まる。▨
6 例と演習
例 6.1.X={0,1,2}、Σ={∅,{0,1},{2},X}とし、μを点2における Dirac 測度のΣへの制限とする。実または複素 Banach 空間Bの非零の元bをとり、F(0)=b、F(1)=F(2)=0と定める。
可測零集合{0,1}の外でF=0であるから、Fはμ-強可測であり、強可測代表元として零関数をもつ。したがってFは Bochner 可積分であり、∫XFdμ=0である。一方、{x:∥F(x)∥B>0}={0}∈/Σであるから、元の写像のノルムはΣ-可測ではない。命題 1.2 (3)によりFは強Σ-可測でもない。
例 6.2.N≥1上に数え上げ測度κを入れ、B=c0に上限ノルムを入れる。c0は§E9.1 例 3.1により Banach 空間である。第n座標だけが1である数列をenとし、F(n)=2−nenと定める。
sN(n)=F(n)をn≤Nで、sN(n)=0をn>Nで定めると、sNは可測単関数であり、各nでsN(n)→F(n)となる。したがってFは強可測である。また、非負級数の積分公式により
∫N≥1∥F∥∞dκ=n=1∑∞2−n=1,∫N≥1∥F−sN∥∞dκ=n>N∑2−n⟶0.各sNの積分は∑n=1N2−nenであり、この列は上限ノルムについて数列(2−n)n≥1∈c0に収束する。よって
∫N≥1Fdκ=(2−n)n≥1.各F(n)は有限個の非零座標しかもたないが、積分は無限個の非零座標をもつ。
問題 6.3.N≥1上の数え上げ測度κに対して、c0値関数H(n)=n−1enを考える。Hは強可測であり、ベクトル級数∑n=1∞H(n)はc0内でノルム収束するが、Hは Bochner 可積分ではないことを証明せよ。
解答.
Hを{1,…,N}に制限し、その外で0とした関数は可測単関数であり、各点でHに収束する。したがってHは強可測である。数列a=(1/n)n≥1はc0に属し、
a−n=1∑Nn1en∞=n>Nsupn1=N+11⟶0である。一方、∥H(n)∥∞=1/nであり、各k≥0に対して
n=2k∑2k+1−1n1≥2k+12k=21.したがって∫N≥1∥H∥∞dκ=∑n=1∞1/n=∞である。定理 2.4によりHは Bochner 可積分ではない。▨