1 測度代数と本質的上限
定義 1.1.(X,Σ,μ)を正測度空間とし、Nμ={A∈Σ:μ(A)=0}とおく。可測集合A,Bに対してA∼Bをμ(A△B)=0によって定める。商集合
Aμ=Σ/Nμを 測度代数 (measure algebra) という。[A]≤[B]はμ(A∖B)=0を意味し、交わり、和、補元を[A]∧[B]=[A∩B]、[A]∨[B]=[A∪B]、¬[A]=[X∖A]と定める。
命題 1.2. 正測度空間(X,Σ,μ)の測度代数はBoolean代数である。可算族([An])n∈N≥1の上限は[⋃nAn]である。
証明.A∼A′とB∼B′ならば、和集合と共通部分の対称差はいずれも(A△A′)∪(B△B′)に含まれ、補集合の対称差はA△A′に等しい。演算は代表元によらず、集合のBoolean恒等式が商に降りる。各[An]の上界[B]に対して、⋃n(An∖B)は零集合の可算和である。したがって[⋃nAn]≤[B]であり、所要の上限が得られる。▨
定義 1.3. 正測度空間(X,Σ,μ)上の可測集合族(Ai)i∈Iに対して、可測集合Hが 本質的上限 (essential supremum) であるとは、[H]が測度代数における族([Ai])i∈Iの最小上界であることをいう。すなわち、すべてのi∈Iでμ(Ai∖H)=0であり、同じ性質をもつ任意の可測集合Bに対してμ(H∖B)=0である。
補題 1.4. 有限正測度空間(X,Σ,μ)上の任意の可測集合族には本質的上限が存在する。その本質的上限は族の高々可算個の集合の和として取ることができる。
証明. 族を(Ai)i∈Iとし、γ=supJ⊆I, J 有限μ(⋃i∈JAi)とおく。空の有限集合も含める。各n∈N≥1に対して有限集合Jnを取り、その和集合の測度をγ−1/nより大きくする。H=⋃n⋃i∈JnAiとすれば、増加する有限和への測度の連続性によりμ(H)=γである。任意のiについて、同じ有限和へAiを加えても測度はγ以下であるから、μ(H∪Ai)=γである。μ(H)<∞なのでμ(Ai∖H)=0である。すべてのAiを本質的に含むBに対してH∖Bは零集合の可算和であり、μ(H∖B)=0である。▨
2 半有限性と局所化可能性
定義 2.1.(X,Σ,μ)を正測度空間とする。
- μが 半有限 (semi-finite) であるとは、任意のA∈Σに対して
μ(A)=sup{μ(B):B∈Σ, B⊆A, μ(B)<∞}
となることをいう。
- μが 局所化可能 (localizable) であるとは、μが半有限であり、AμがDedekind完備、すなわち任意の部分集合に上限が存在することをいう。
- 測度空間が 完備 (complete) であるとは、任意の可測な零集合のすべての部分集合がΣに属することをいう。
- 測度空間が 局所的に決定される (locally determined) とは、半有限であり、任意の集合A⊆Xに対して、すべてのE∈Σ、μ(E)<∞でA∩E∈ΣならばA∈Σとなることをいう。
- 測度空間が 厳密局所化可能 (strictly localizable) であるとは、可測な分解
X=N⊔i∈I⨆Xi,μ(N)=0,0<μ(Xi)<∞
が存在し、任意のA⊆Xについて
A∈Σ⟺A∩N∈Σ かつすべての i∈I で A∩Xi∈Σ
が成り立ち、可測なAの測度がμ(A)=∑i∈Iμ(A∩Xi)で与えられることをいう。非可算族の非負和は有限部分和の上限である。
補題 2.3.(X,Σ,μ)を半有限な正測度空間、f:X→[0,∞]を可測関数とする。このとき
∫Xfdμ=E∈Σ, μ(E)<∞sup∫Efdμである。さらに、可測集合Aのすべての有限測度可測部分集合が零集合ならばμ(A)=0であり、すべての有限測度可測集合の類の上限は[X]である。
証明.0≤s=∑j=1maj1Aj≤fを互いに素なAjと正の有限係数ajによる単関数とする。半有限性により、各μ(Aj)は有限測度可測部分集合Bj⊆Ajの測度の上限である。有限個の部分集合を独立に動かすと
∫Xsdμ=j=1∑majμ(Aj)=B1,…,Bmsupj=1∑majμ(Bj)となる。E=⋃j=1mBjは有限測度であり、右辺の各値は∫Efdμ以下である。非負積分の定義によってすべてのs≤fの上限を取れば、一方向の不等式が従う。逆向きは積分の単調性による。
零集合の判定は半有限性の定義から従う。Hがすべての有限測度可測集合を本質的に含むならば、X∖Hの任意の有限測度可測部分集合は零集合であるからμ(X∖H)=0である。したがって[H]=[X]である。▨
命題 2.4. 正測度空間について次が成り立つ。
- シグマ有限な測度空間は厳密局所化可能である。
- 厳密局所化可能な測度空間は局所化可能である。
- 厳密局所化可能な測度空間は局所的に決定される。
証明.(1)を示す。有限測度可測集合による可算被覆を、先行する集合を差し引いて互いに素な可算分解へ変える。正測度の成分をXiとし、零測度の成分の可算和をNとする。各成分との交わりが可測ならば、全体は可測集合の可算和である。測度の公式は可算加法性から従う。
(2)を示す。可測集合Aに対し、有限個のA∩Xiの和は有限測度である。分解の測度公式から、その測度の上限はμ(A)であるため、半有限性が従う。可測集合族(Aj)j∈Jに対し、各有限測度空間Xi上で補題 1.4により(Aj∩Xi)j∈Jの本質的上限Hiを取る。H=⋃iHiは分解の可測性条件により可測である。各Aj∖Hの測度は、零である成分測度の和であるから零である。別の本質的上界Bについて各Hi∖Bは零集合であり、同じ和の公式によりH∖Bも零集合である。よってHは本質的上限である。
(3)を示す。A⊆Xがすべての有限測度可測集合との交わりを可測にすると仮定する。各XiとNは有限測度であるから、A∩XiとA∩Nは可測である。分解の可測性条件からAは可測である。半有限性は(2)から従う。▨
3 局所可測関数の貼り合わせ
補題 3.1. Dedekind完備なBoolean代数Aにおいて、任意の元aと任意の族(bi)i∈Iに対し
a∧i∈I⋁bi=i∈I⋁(a∧bi)が成り立つ。
証明.c=⋁i(a∧bi)とおく。各iについてa∧bi≤cであるため、Boolean演算によりbi≤¬a∨cとなる。したがって⋁ibi≤¬a∨cであり、a∧⋁ibi≤cを得る。逆向きは、各a∧biがa∧⋁ibi以下であることから従う。▨
定理 3.2.(X,Σ,μ)を局所化可能な測度空間とし、可測集合族(Ei)i∈Iが⋁i[Ei]=[X]を満たすとする。各iに対しfiをEi上の可測関数とし、すべてのi,jについてfi=fjがEi∩Ej上でほとんど至る所成り立つと仮定する。各fiが非負拡張実数値である場合、X上の非負拡張実数値可測関数fが存在し、f=fiが各Ei上でほとんど至る所成り立つ。各fiが有限実数値である場合には、fも有限実数値に取ることができる。いずれの場合もfはほとんど至る所の一致を除いて一意である。特に、Eiをすべての有限測度可測集合とする場合に適用することができる。
証明. 各q∈Qについて
aq=i∈I⋁[Ei∩{fi>q}]を取り、代表元Aq∈Σを選ぶ。補題 3.1と局所関数の整合性により
[Ej]∧aq=[Ej∩{fj>q}]である。各局所関数の上位集合は{fj>q}=⋃r∈Q, r>q{fj>r}を満たすので、上の等式と⋁j[Ej]=[X]からaq=⋁r>qarである。ここで、すべての[Ej]との交わりが等しい二元は、交わりと上限の交換により等しい。
Bq=⋃r∈Q, r>qArとおく。[Bq]=aqであり、q<sならばBs⊆Bqである。拡張実数値関数
u(x)=sup{q∈Q:x∈Bq},sup∅=−∞を定める。{u>q}=⋃r>qBrであるためuは可測であり、各Ej上ではすべての有理上位集合がfjの有理上位集合と零集合を除いて一致する。有理数は可算であるから、u=fjが各Ej上でほとんど至る所成り立つ。
局所関数が非負ならば、{u<0}の類はすべての[Ej]と交わって零となるため零である。f=max{0,u}とすればよい。局所関数が有限実数値ならば、{u=∞}と{u=−∞}は同じ理由で零集合である。それらの集合上で値を0へ変えてfを得る。有限実数値の局所関数がすべて非負である場合には、max{0,f}を取ることで有限性と非負性を同時に保つ。二つの貼り合わせの不一致集合もすべての[Ej]との交わりが零であるから零集合である。最後の適用は補題 2.3による。▨
系 3.3.定理 3.2の可測集合族上で有限複素数値の局所可測関数が整合しているとき、有限複素数値の可測関数として一意に貼り合わせることができる。
証明. 実部と虚部へそれぞれ定理 3.2を適用し、得られる実数値関数をu,vとする。u+ivは所要の貼り合わせであり、一意性も両成分の一意性から従う。▨
4 直和空間
例 4.1. 任意の集合Iに冪集合と数え上げ測度を入れる。各一点集合を成分とすれば厳密局所化可能であり、測度代数は冪集合のBoolean代数そのものである。本質的上限は通常の和集合である。Iが非可算ならば有限測度集合は有限集合であるため、空間はシグマ有限でない。
例 4.2. 各i∈Iに対して有限正測度空間(Xi,Σi,μi)を取り、0<μi(Xi)<∞とする。直和X=⨆iXi上で
Σ={A⊆X:A∩Xi∈Σi がすべての i で成り立つ},μ(A)=i∑μi(A∩Xi)と定める。Σはシグマ加法族であり、非負和について∑i∑nai,n=∑n∑iai,nが有限部分和の上限から従うので、μは測度である。定義により厳密局所化可能である。各成分上の可測関数を任意に指定して得られる関数は、各Borel集合の逆像がΣに属するため可測である。成分が完備ならば直和も完備である。命題 2.4 (3)により局所的に決定される。
例 4.3. 非可算集合Xに冪集合を入れ、可算集合の測度を0、非可算集合の測度を∞と定める。互いに素な可測集合列の和が可算であるための必要十分条件は全成分が可算であることであるから、可算加法性が成り立つ。零集合の部分集合も可算であるため測度は完備である。しかし有限測度集合はすべて零集合なので、Xの測度を有限部分の測度の上限として回収することができない。この測度は半有限でなく、したがって局所化可能でも局所的に決定されてもいない。
5 演習
問題 5.1.例 4.2の直和空間上で1≤p<∞とする。f∈Lp(μ)が零でないLp類をもつ成分は高々可算個であることを示せ。
解答.
ai=∫Xi∣f∣pdμiとおく。有限個の成分上の積分の和は∥f∥pp以下である。したがって、各n∈N≥1についてai≥1/nを満たす添字は有限個である。正のaiをもつ添字全体は、これらの有限集合の可算和である。各ai=0の成分ではf=0がほとんど至る所で成り立つため、所要の結論を得る。▨
問題 5.2. 局所化可能な測度空間を完備化しても局所化可能性が保たれることを示せ。
解答.
完備化の各可測集合Aは元の可測集合Bと零集合の部分集合だけ異なる。したがって[A]↦[B]は元の測度代数へのBoolean同型であり、測度も保つ。代表元を異なるものに取っても対称差は零集合であるため、この写像は定義される。元の可測集合をそのまま完備化へ含める写像が逆写像である。任意上限の存在はBoolean同型で保存される。さらに、Bの有限測度可測部分集合をAと交わらせれば完備化で可測な有限部分集合となり、測度は変わらない。元の半有限性から完備化の半有限性も従う。▨