1 定義とノルム
定義 1.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、BをK∈{R,C}上の Banach 空間とする。μ-強可測な写像F:X→Bに対して、強可測代表元F♯をとり、
∥F∥p=⎩⎨⎧(∫X∥F♯(x)∥Bpdμ(x))1/p,x∈Xesssup∥F♯(x)∥B,1≤p<∞,p=∞と定める。強可測代表元は§E9.18 命題 1.3により存在する。
∥F∥p<∞を満たすμ-強可測写像のμ-a.e. の一致による同値類の集合をベクトル値Lp空間 (Lebesgue–Bochner space) といい、Lp(μ;B)と書く。Fの同値類を[F]と書き、
∥[F]∥p=∥F∥p,[F]+[G]=[F+G],α[F]=[αF](α∈K)と定める。p=1の場合は§E9.18 定義 3.1の空間とノルムに一致する。
命題 1.2.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間、1≤p≤∞とする。Lp(μ;B)の所属条件、線形演算、および∥⋅∥pは代表元に依存せず、Lp(μ;B)は∥⋅∥pに関してノルム空間である。
証明.μ-強可測なF,Gがμ-a.e. に一致するならば、その強可測代表元F♯,G♯もμ-a.e. に一致する。各代表元のノルムは§E9.18 命題 1.2 (3)により可測であり、§E9.21 命題 2.4を実数値関数∥F♯∥B,∥G♯∥Bに適用すると、∥F∥p=∥G∥pとなる。したがって所属条件と値は、元の写像および強可測代表元の選び方に依存しない。
[F],[G]∈Lp(μ;B)とし、強可測代表元F♯,G♯をとる。§E9.18 命題 1.4 (4)によりF+Gはμ-強可測であり、F♯+G♯はその強可測代表元である。点ごとの三角不等式と、スカラーの§E9.21 定理 6.1により
∥F+G∥p≤∥F♯∥B+∥G♯∥Bp≤∥F∥p+∥G∥p<∞.最初の不等式は、有限指数では積分の単調性、無限大の指数では§E9.21 補題 2.2から従う。任意のα∈Kに対してαFもμ-強可測であり、∥αF∥p=∣α∣∥F∥pである。よって加法とスカラー倍はLp(μ;B)に閉じている。
F=F′とG=G′がそれぞれ可測零集合の外で成り立つならば、二つの可測零集合の和の外でF+G=F′+G′およびαF=αF′が成り立つ。したがって線形演算は代表元に依存しない。ベクトル空間の恒等式は各点の恒等式から同値類へ移る。
非負性は定義から従い、斉次性と三角不等式は上の評価で示されている。スカラーの§E9.21 命題 3.5 (2)により、∥F∥p=0と∥F♯∥B=0がμ-a.e. に成り立つこととは同値である。Bのノルムの正定値性から、後者は[F]=[0]と同値である。▨
2 完備性
定理 2.1. 可算選択公理を仮定する。(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。すべての1≤p≤∞に対して、Lp(μ;B)は Banach 空間である。
証明.p=1の場合は§E9.18 定理 3.5による。1<p≤∞とし、Lp(μ;B)の Cauchy 列(un)をとる。可算選択公理により、各unの強Σ-可測な代表元Fnを選ぶ。
1<p<∞とする。Cauchy 性により、増加する添字列(nk)を
∥unk+1−unk∥p≤2−kとなるようにとる。dk(x)=∥Fnk+1(x)−Fnk(x)∥Bとおくと、dkは非負有限値可測関数である。スカラーの§E9.21 定理 6.1により、l≥j≥1に対して
k=j∑ldkp≤k=j∑l∥dk∥p≤k=j∑l2−k.qj=∑k=j∞dkとおき、§E9.11 定理 1.1を部分和のp乗に適用すると、
∫Xqjpdμ≤k=j∑∞2−kp=2p(1−j)を得る。特に§E9.10 命題 3.4により、N={q1=∞}は可測零集合である。
x∈X∖Nとl>jに対して
∥Fnl(x)−Fnj(x)∥B≤k=j∑l−1dk(x)であるから、(Fnj(x))jはBの Cauchy 列である。Bの完備性によりF(x)=limjFnj(x)をX∖N上で定め、N上でF=0とおく。各FnjをN上で0に変更すると強Σ-可測性を保ち、全点でFに収束する。§E9.18 命題 1.4 (1)によりFは強Σ-可測である。上の不等式でl→∞とすると、X∖N上で
∥F(x)−Fnj(x)∥B≤qj(x)となる。積分の単調性とqjの評価から
∥F−Fnj∥p≤21−j⟶0を得る。j=1の評価によって[F−Fn1]∈Lp(μ;B)であり、命題 1.2の加法に関する閉性からu=[F]∈Lp(μ;B)である。
任意のε>0に対して、m,n≥Mならば∥um−un∥p<ε/2となるMをとる。nj≥Mかつ∥unj−u∥p<ε/2となるjを固定すると、すべてのn≥Mに対して
∥un−u∥p≤∥un−unj∥p+∥unj−u∥p<εである。したがって元の列もuに収束する。
p=∞とする。§E9.21 補題 2.2により、可測集合
Nn={x:∥Fn(x)∥B>∥un∥∞},Nm,n={x:∥Fm(x)−Fn(x)∥B>∥um−un∥∞}はいずれも零集合である。N=⋃nNn∪⋃m,nNm,nとおくと、Nは可測零集合であり、X∖N上で
∥Fm(x)−Fn(x)∥B≤∥um−un∥∞がすべてのm,nについて成り立つ。Cauchy 性とBの完備性から、F(x)=limnFn(x)をX∖N上で定めることができる。N上ではF=0とおく。N上で0に変更したFnの全点での極限であるから、§E9.18 命題 1.4 (1)によりFは強Σ-可測である。
任意のε>0に対して、m,n≥Mならば∥um−un∥∞<εとなるMをとる。n≥Mを固定してm→∞とすると、X∖N上で∥F−Fn∥B≤εとなる。したがって∥F−Fn∥∞≤εである。特にFはX∖N上で本質的に有界なFMと有界な差をもち、[F]∈L∞(μ;B)である。よってun→[F]がL∞ノルムで成り立つ。▨
3 単関数近似と無限大の指数
定理 3.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間、1≤p<∞とする。可積分単関数の同値類はLp(μ;B)に稠密である。より詳しく、任意の[F]∈Lp(μ;B)とその強可測代表元F♯に対して、可積分単関数列(sn)を
sn(x)⟶F♯(x)(x∈X),∥F−sn∥p⟶0となるように選ぶことができる。
証明.p=1の場合は§E9.18 命題 3.4による。1<p<∞とし、§E9.18 命題 1.2により、全点でsn→F♯となり、
∥F♯−sn∥B≤∥F♯∥B,∥sn∥B≤2∥F♯∥Bを満たす可測単関数列(sn)をとる。第二の評価により∫X∥sn∥Bpdμ<∞である。snの非零の値bに対して
∥b∥Bpμ({sn=b})≤∫X∥sn∥Bpdμ<∞であるから、各非零レベル集合は有限測度をもつ。非零の値は有限個であるため∫X∥sn∥Bdμ<∞であり、snは可積分単関数である。
非負可測関数∥F♯−sn∥Bpは全点で0に収束し、可積分関数∥F♯∥Bpによって支配される。§E9.11 定理 3.1により
∥F−sn∥pp=∫X∥F♯−sn∥Bpdμ⟶0となる。▨
例 3.2.N≥1に数え上げ測度κを入れ、c0に上限ノルムを入れる。c0は§E9.1 例 3.1により Banach 空間である。第n座標だけが1である数列をenとし、F(n)=enと定める。このときFは強可測であり、[F]∈L∞(κ;c0)かつ∥F∥∞=1である。しかし、任意の有限値可測単関数s:N≥1→c0に対して
∥F−s∥∞≥1である。
証明.sN(n)=enをn≤Nで、sN(n)=0をn>Nで定める。sNは可測単関数であり、各nに対してsN(n)→F(n)であるから、Fは強可測である。すべてのnで∥F(n)∥c0=1である。数え上げ測度の零集合は空集合だけであるため、∥F∥∞=1となる。
有限値単関数sの値をb1,…,bm∈c0とする。各biの第n座標bi(n)はn→∞で0に収束する。値が有限個であるから、任意のε>0に対して、十分大きいnではすべてのiについて∣bi(n)∣<εである。このようなnでs(n)=biと書けば、
∥F(n)−s(n)∥c0≥∣1−bi(n)∣≥1−∣bi(n)∣>1−ε.したがって∥F−s∥∞≥1−εであり、ε↓0とすると結論を得る。▨
4 積分評価と Fubini の定理
命題 4.1.(X,Σ,μ)を任意の正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とする。積分作用素
Iμ:L1(μ;B)⟶B,Iμ([F])=∫XFdμは有界線形作用素であり、
∫XFdμB≤∥F∥1を満たす。
さらに、μ(X)<∞かつ1<p≤∞ならば、Lp(μ;B)⊆L1(μ;B)であり、任意の[F]∈Lp(μ;B)に対して
∫XFdμB≤∥F∥1≤μ(X)1−1/p∥F∥pが成り立つ。ただし、1/∞=0とする。
証明.p=1の空間とノルムは Bochner 積分によるものに一致するから、§E9.18 命題 3.3により積分作用素の有界線形性と最初の評価を得る。
μ(X)<∞、1<p≤∞とし、1/p+1/q=1を満たす1≤q<∞をとる。強可測代表元F♯のノルムと定数関数1に§E9.21 定理 4.2を適用すると、
∫X∥F♯∥Bdμ≤∥F♯∥Bp∥1∥q=∥F∥pμ(X)1/q<∞.したがって[F]∈L1(μ;B)であり、積分作用素の評価を合わせると結論を得る。▨
系 4.2. 可算選択公理を仮定する。(X,Σ,μ)と(Y,T,ν)をシグマ有限な正測度空間、Bを実または複素 Banach 空間とし、ρ=μ⊗νとおく。ρ-強可測なF:X×Y→Bに対して、[F]∈L1(ρ;B)であるための必要十分条件は、ある可測零集合NX∈Σの外で切り口Fx(y)=F(x,y)が[Fx]∈L1(ν;B)を満たし、
SF(x)={[Fx],0,x∈/NX,x∈NXと定めた写像の同値類がL1(μ;L1(ν;B))に属することである。
この切り口写像による対応
S:L1(ρ;B)⟶L1(μ;L1(ν;B)),[F]⟼[SF]は全射線形等長写像であり、
∥F∥L1(ρ;B)=∥SF∥L1(μ;L1(ν;B))=∫X∥SF(x)∥L1(ν;B)dμ(x)が成り立つ。座標を交換した切り口Fy(x)=F(x,y)についても同じ結論が成り立つ。
[F]∈L1(ρ;B)のとき、内側積分をそれぞれの可測例外零集合上で0と定めれば、内側積分は外側の変数について Bochner 可積分であり、
∫X×YFdρ=∫X(∫YF(x,y)dν(y))dμ(x)=∫Y(∫XF(x,y)dμ(x))dν(y)となる。
証明.§E9.18 定理 3.5によりL1(ν;B)は Banach 空間である。L1(μ;L1(ν;B))への所属は、L1(ν;B)値写像の強可測性とノルム可積分性を意味する。§E9.18 定理 2.4により、この所属条件は Bochner 可積分性と同値である。したがって§E9.19 命題 4.2が所属条件の同値とノルム等式を与える。
§E9.19 定理 4.3によりSは全射線形等長写像である。内側積分はIν∘SFであり、§E9.19 定理 5.1により、その Bochner 可積分性と反復積分の等式を得る。両結果において座標を交換した結論を適用すると、逆の順序の切り口と反復積分に関する結論を得る。▨