1 像測度
定義 1.1.(X,F,μ)を測度空間、(Y,G)を可測空間とし、T:(X,F)→(Y,G)を可測写像とする。各B∈Gに対して
(T#μ)(B)=μ(T−1(B))と定める。集合関数T#μ:G→[0,∞]をμのTによる 像測度 (pushforward measure) という。
命題 1.2.(X,F,μ)を測度空間、(Y,G)を可測空間とする。可測写像T:(X,F)→(Y,G)に対して、T#μは(Y,G)上の測度である。
証明. 逆像は空集合と可算非交和を保つ。Tの可測性により各逆像がFに属するので、μの空集合での零値と可算加法性を逆像へ適用すれば、T#μの同じ性質を得る。▨
証明. 非負可測関数hに対してJ(h)=∫Xh∘Tdμとおく。合成は可測性、非負線形結合、点ごとの増加極限を保つ。したがって、Jは非負線形であり、§E9.11 定理 1.1により増加極限を保つ。任意のB∈Gに対して
J(1B)=μ(T−1(B))=ν(B)であるから、非負線形性によりJは非負単関数上でνに関する積分と一致する。§E9.10 定理 1.7の一意性から(1)を得る。
有限実数値または複素数値の可測関数hに対して、非負版を∣h∣へ適用すると
∫X∣h∘T∣dμ=∫Y∣h∣dνである。右辺が有限ならばh∘Tは可積分である。実数値の場合は(h∘T)±=h±∘Tに非負版を適用して差をとる。複素数値の場合は実部と虚部へ実数値版を適用する。(2)と(3)を得る。▨
系 1.4.(X,F,μ)を測度空間、(Y,G)を可測空間とし、T:(X,F)→(Y,G)を可測写像とする。有限実数値または複素数値の可測関数hがT#μに関して可積分であることと、h∘Tがμに関して可積分であることは同値である。
例 1.5.X={1,2,3}とY={a,b}に冪集合のシグマ加法族を入れ、
μ(A)=x∈A∑wx,(w1,w2,w3)=(1,2,4)と定める。写像T(1)=T(2)=a、T(3)=bに対して
(T#μ)({a})=3,(T#μ)({b})=4である。h(a)=−1、h(b)=2と定めると、
∫Yhd(T#μ)=−3+8=5=−1−2+8=∫Xh∘Tdμとなる。
2 正測度の絶対連続性と相互特異性
定義 2.1.(X,F)上の正測度ν,μについて、任意のA∈Fに対してμ(A)=0ならばν(A)=0であるとき、νはμに関して 絶対連続 (absolutely continuous) であるといい、ν≪μと書く。
定義 2.2.(X,F)を可測空間とし、α,βをその上の正測度とする。
- αが可測集合S∈Fに 集中する (concentrated) とは、α(X∖S)=0が成り立つことをいう。
- 可測集合S∈Fが存在してα(X∖S)=0かつβ(S)=0であるとき、αとβは 相互特異 (mutually singular) であるといい、α⊥βと書く。
補題 2.3. 同じ可測空間上の任意の正測度α,βに対して、α⊥βとβ⊥αは同値である。
証明.α(X∖S)=β(S)=0を満たす可測集合Sの補集合をとると、βが集中しαが零となる可測集合を得る。▨
3 密度による測度と積分
定義 3.1.(X,F,μ)を測度空間とし、f:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。E∈Fに対して、可測集合上の積分 (integral over a measurable set) を
∫Efdμ=∫Xf1Edμと定める。積では0⋅∞=0とする。
補題 3.2. 可測空間(X,F)上の非負拡張実数値可測関数f,gに対して、0⋅∞=0によって定めた積fgは可測である。
証明. 有限値可測関数min(f,n)min(g,n)は、§E9.7 命題 3.1と有限次元の連続な乗法によって可測である。この列は点ごとにfgへ増加する。どちらかの因子が零ならば列の値も零であり、どちらも正ならば通常の積の極限になる。§E9.7 定理 5.1によりfgは可測である。▨
命題 3.3.(X,F,μ)を測度空間とし、f:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。
λf(E)=∫Efdμ(E∈F)と定めると、λfは正測度であり、λf≪μである。
証明.λf(∅)=0である。二つずつ交わらない可測集合列Enに対して、非負級数の積分公式§E9.11 系 1.2から
λf(n⋃En)=∫Xn∑f1Endμ=n∑λf(En)を得る。μ(E)=0ならば§E9.10 補題 3.1によりλf(E)=0である。▨
命題 3.4.(X,F,ρ)を測度空間、g:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とし、正測度μを
によって定める。任意の非負拡張実数値可測関数hに対して
が[0,∞]において成り立つ。積では0⋅∞=0とする。
証明.K(h)=∫Xhgdρとおく。補題 3.2により積は可測である。非負線形性とhn↑hに対するhng↑hg、および§E9.11 定理 1.1により、Kは非負線形であり増加極限を保つ。指示関数ではK(1E)=μ(E)である。非負線形性により単関数上でKはμに関する積分に一致するので、§E9.10 定理 1.7の一意性が積分公式を与える。▨
系 3.5. 測度空間(X,F,ρ)の非負拡張実数値可測関数gからμ(E)=∫Egdρを定める。有限実数値または複素数値の可測関数hがμに関して可積分であるための必要十分条件は
∫X∣h∣gdρ<∞である。この条件が成り立つとき、g<∞の点ではw=hg、g=∞の点ではw=0と定めた有限値可測関数wはρに関して可積分であり、∫Xhdμ=∫Xwdρである。
証明.命題 3.4を∣h∣へ適用すると必要十分条件を得る。その条件のもとで§E9.10 命題 3.4を∣h∣gへ適用すると、F={g=∞, ∣h∣>0}はρ-零集合である。∣w∣=∣h∣gはFの外で成り立つため、a.e. 不変性からwは可積分である。実数値の場合は密度積分公式をh+とh−へ適用し、F上の変更を a.e. 不変性で除いて差をとる。複素数値の場合は実部と虚部へ実数値の場合を適用する。▨
系 3.6.(X,F,ρ)を測度空間、f,g:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。μ(E)=∫Egdρ、ν(E)=∫Efdμと定めると、任意のE∈Fに対してν(E)=∫Efgdρである。
証明.命題 3.4をf1Eへ適用する。▨
4 制限測度と零延長
補題 4.1.(X,F,μ)を測度空間、D∈Fとし、F∣D={E∩D∣E∈F}、μD(B)=μ(B)(B∈F∣D)と定める。μDは(D,F∣D)上の正測度である。非負拡張実数値可測関数h:D→[0,∞]の零延長h:X→[0,∞]は可測であり、
∫DhdμD=∫Xhdμが成り立つ。