1 弱収束と弱位相
定義 1.1.Xを Polish 空間とし、Mf+(X)をX上の有限正 Borel 測度全体とする。μn,μ∈Mf+(X)に対して、任意の有界連続関数f:X→Rが
∫Xfdμn⟶∫Xfdμを満たすとき、μnはμに 弱収束 (weak convergence of measures) するといい、μn⇒μと書く。
Mf+(X)の 弱位相 (weak topology of measures) は、すべての有界連続実数値関数fに対してμ↦∫Xfdμを連続にする最も粗い位相とする。μにおける近傍基は、有限個の有界連続関数f1,…,fmとε>0による集合
{ν∈Mf+(X) ∫Xfjdν−∫Xfjdμ<ε(1≤j≤m)}である。
命題 1.2.Xを Polish 空間、μn,μを有限正 Borel 測度とする。μn⇒μならばμn(X)→μ(X)である。また、弱収束の定義で実数値の有界連続関数を複素数値の有界連続関数に置き換えても、同じ収束条件が得られる。
証明. 定数関数1を試験関数に取れば全質量の収束が従う。複素数値関数を実部と虚部に分け、積分の線形性を適用すれば複素数値の試験関数に関する収束が従う。逆に実数値関数は複素数値関数でもある。▨
2 Portmanteau の定理
定義 2.1. 位相空間X上の正 Borel 測度μと Borel 集合A⊆Xに対して、μ(∂A)=0であるとき、Aをμの 連続集合 (continuity set) という。ここで∂A=A∖int(A)は境界である。
補題 2.2.(X,Σ,μ)を有限正測度空間、M>0とし、f:X→[0,M]を可測関数とする。このとき
∫Xfdμ=∫0Mμ({x∈X∣f(x)>t})dtである。また、μ({f=t})>0となるt∈Rは高々可算個である。
証明. 集合E={(x,t)∈X×[0,M]∣t<f(x)}は
E=q∈Q⋃{x∣f(x)>q}×{t∈[0,M]∣t<q}であるから積 σ-代数に属する。X上のμと[0,M]上の Lebesgue 測度はともに有限であり、§E9.19 定理 2.3を1Eへ適用すると積分表示が得られる。
各k∈N≥1に対し、μ({f=t})≥1/kとなるtは有限個である。実際、相異なるr個の値を取れば、対応する水準集合は互いに交わらず、r/k≤μ(X)である。正の測度を持つ水準集合の値全体は、この有限集合の可算合併に含まれる。▨
定理 2.3.Xを Polish 空間、μn,μを有限正 Borel 測度とする。次の条件は同値である。
- μn⇒μである。
- μn(X)→μ(X)であり、任意の閉集合F⊆Xに対してlimsupnμn(F)≤μ(F)である。
- μn(X)→μ(X)であり、任意の開集合U⊆Xに対してliminfnμn(U)≥μ(U)である。
- 任意のμの連続集合Aに対してμn(A)→μ(A)である。
証明.μn⇒μと仮定する。全質量の収束は命題 1.2による。位相を定める距離dを取り、空でない閉集合Fに対して
fm(x)=max{1−md(x,F),0}(m∈N≥1)とおく。∣d(x,F)−d(y,F)∣≤d(x,y)であるからfmは有界連続であり、1F≤fm≤1とfm↓1Fを満たす。固定したmについて弱収束から
nlimsupμn(F)≤nlim∫Xfmdμn=∫Xfmdμである。§E9.11 定理 3.1により右辺はm→∞でμ(F)へ収束する。F=∅の場合には不等式は0≤0である。
(2)⇔(3)を示す。全質量の収束を用いてμn(U)=μn(X)−μn(X∖U)と書けば、閉集合に関する上極限の不等式と開集合に関する下極限の不等式は互いに移る。
(2)⇒(4)を示す。前段から開集合に関する条件も成り立つ。μ(∂A)=0ならばμ(int(A))=μ(A)=μ(A)であり、
μ(A)≤nliminfμn(int(A))≤nliminfμn(A)≤nlimsupμn(A)≤nlimsupμn(A)≤μ(A)である。
(4)⇒(1)を示す。Xは境界が空であるから、全質量は収束し、C=supnμn(X)<∞である。f:X→[0,M]を有界連続関数とする。集合At={f>t}の境界は{f=t}に含まれる。補題 2.2により、Lebesgue 測度に関してほとんどすべてのt∈[0,M]でμ({f=t})=0であり、仮定からμn(At)→μ(At)である。0≤μn(At)≤Cと§E9.11 定理 3.1を[0,M]に適用し、積分表示を用いると∫Xfdμn→∫Xfdμを得る。任意の有界連続実数値関数は、非負の有界連続関数と定数関数の差に書くことができる。積分の線形性から弱収束が従う。▨
3 弱収束列の一様緊密性
証明.X=∅ならば空集合を取る。X=∅とし、位相を定める完備距離dと可算稠密集合{aj∣j∈N≥1}を取る。ε>0を固定する。各r∈N≥1に対して、半径2−rの球の有限合併Vrをμ(X∖Vr)<ε2−r−1となるように取る。定理 2.3 (3)と全質量の収束から
nlimsupμn(X∖Vr)≤μ(X∖Vr)<ε2−r−1である。したがってn≥Nrならばμn(X∖Vr)<ε2−rとなるNrが存在する。
有限個の測度μ1,…,μNr−1についても、可算球被覆と§E9.8 定理 4.1 (1)によって、半径2−rの球の有限合併で補集合の測度をε2−r未満にすることができる。それらの有限合併とVrの合併をUrとすれば、μとすべてのμnについてν(X∖Ur)<ε2−rである。§E9.37 補題 2.2によりK=⋂rUrはコンパクトであり、可算劣加法性からすべてのνについてν(X∖K)<εである。▨
4 有界 Lipschitz 距離
定義 4.1.Xを Polish 空間、dをその位相を定める距離とする。関数族
L1(X,d)={f:X→R∣∣f(x)∣≤1 (x∈X), ∣f(x)−f(y)∣≤d(x,y) (x,y∈X)}と、有限正 Borel 測度μ,νに対する 有界 Lipschitz 距離 (bounded Lipschitz distance)
βd(μ,ν)=f∈L1(X,d)sup∫Xfdμ−∫Xfdνを定める。
補題 4.2.(X,d)を距離空間、K⊆Xをコンパクト集合とする。任意のη>0に対し、有限個の関数f1,…,fm∈L1(X,d)が存在し、各f∈L1(X,d)に対して
x∈Ksup∣f(x)−fj(x)∣<ηを満たすjが存在する。
証明.K=∅ならばf1=0を取る。K=∅とし、0<a<η/3を取る。半径aの球によるKの有限被覆の中心をx1,…,xN∈Kとする。区間[−1,1]を長さa以下の有限個の区間に分け、各fを値f(xi)の属する区間の組によって分類する。空でない各類から代表元を一つ取る。fと代表元fjが同じ類に属するとき、d(x,xi)<aとなるiを用いれば
∣f(x)−fj(x)∣≤∣f(x)−f(xi)∣+∣f(xi)−fj(xi)∣+∣fj(xi)−fj(x)∣<3a<ηである。類は有限個であるから主張が従う。▨
定理 4.3.Xを Polish 空間、dをその位相を定める距離とする。
- βdはMf+(X)上の距離である。
- 任意のμn,μ∈Mf+(X)について、βd(μn,μ)→0とμn⇒μは同値である。
- βdが定める位相は弱位相に一致する。
証明. 任意のμ,ν∈Mf+(X)に対してβd(μ,ν)≤μ(X)+ν(X)<∞であり、対称性と三角不等式は各試験関数の積分に関する絶対値の不等式から従う。βd(μ,ν)=0と仮定する。任意の空でない閉集合Fとm∈N≥1に対して、fm=max{1−md(⋅,F),0}は∣fm∣≤1で Lipschitz 定数がm以下であるから、fm/m∈L1(X,d)である。したがって∫fmdμ=∫fmdνである。§E9.11 定理 3.1によりm→∞とするとμ(F)=ν(F)を得る。空集合についても等式は成り立つ。§E9.37 定理 1.1の閉集合による内側からの近似を両測度へ適用すると、すべての Borel 集合で測度が等しい。ゆえにμ=νである。
(2)を示す。βd(μn,μ)→0と仮定する。定数関数1により全質量が収束する。前段のfm/mにより、固定したmについて∫fmdμn→∫fmdμである。1F≤fmと優収束定理からlimsupnμn(F)≤μ(F)が従い、定理 2.3によって弱収束を得る。
逆にμn⇒μと仮定する。全質量の収束からC=μ(X)+supnμn(X)<∞である。ε>0を取り、補題 3.2によって、μ(X∖K)<εおよびすべてのnについてμn(X∖K)<εを満たすコンパクト集合Kを取る。補題 4.2によりK上で誤差ηの有限近似f1,…,fmを取る。各f∈L1(X,d)に対応するfjを用いれば
∫Xfdμn−∫Xfdμ≤1≤j≤mmax∫Xfjdμn−∫Xfjdμ+Cη+4εである。有限個の試験関数の積分は収束するので、limsupnβd(μn,μ)≤Cη+4εである。ηとεは任意であるから距離は0へ収束する。
(3)を示す。前段の順方向により、各有界連続関数の積分はβdに関して連続である。実際、μにおいて連続でなければ、あるε>0とβd(νn,μ)<1/nを満たす列について積分の差が常にε以上となり、前段の弱収束に反する。したがって弱位相はβdの位相より粗い。
μ∈Mf+(X)とε>0を固定する。X=∅の場合には測度は零測度だけである。X=∅とし、0<b<ε/16と§E9.37 定理 2.3によって、μ(X∖K)<bを満たす空でないコンパクト集合Kを取る。正数η,δを
η+2δ<4(2μ(X)+1)εとなるように選び、K上の誤差ηの有限近似f1,…,fmを取る。h(x)=max{1−d(x,K)/δ,0}、V={x∣d(x,K)<δ}とおく。hは有界連続であり、1K≤h≤1Vである。
0<a<min{1,ε/16}とし、試験関数1,h,f1,…,fmに関する積分の差をすべてa未満にするμの弱近傍を取る。その近傍内のνは
ν(X)<μ(X)+a,ν(X∖V)≤ν(X)−∫Xhdν<b+2aを満たす。f∈L1(X,d)と対応するfjに対し、y∈Vならばd(x,y)<δとなるx∈Kが存在するので、∣f(y)−fj(y)∣<η+2δである。したがって
∫Xfdν−∫Xfdμ<a+(2μ(X)+a)(η+2δ)+2(μ(X∖V)+ν(X∖V))<a+4ε+4b+4a<ε.よって、この弱近傍はβdの半径εの球に含まれる。各距離球が中心の弱近傍を含むため、βdの位相も弱位相より粗い。二つの位相は一致する。▨
5 全変動収束との比較
定義 5.1.Xを Polish 空間とする。有限正 Borel 測度μ,νに対して
D(μ,ν)=g:X→R は Borel 可測∣g∣≤1sup∫Xgdμ−∫Xgdνを 全変動距離 (total variation distance) と呼ぶ。D(μn,μ)→0であるとき、μnはμに 全変動収束 (total variation convergence) するという。
命題 5.2.Xを Polish 空間、μn,μを有限正 Borel 測度とする。μnがμに全変動収束するならば、μn⇒μである。
証明. 有界連続関数fに対してM=max{1,∥f∥∞}とすればf/MはDの試験関数である。したがって、積分の差はMD(μn,μ)以下であり、0へ収束する。▨
例 5.3.R上でμn=δ1/n、μ=δ0とする。任意の有界連続関数fに対して∫fdμn=f(1/n)→f(0)=∫fdμであり、μn⇒μである。一方、Borel 可測関数gn=1{1/n}−1{0}は∣gn∣≤1であり、積分の差は2である。上限の定義からD(μn,μ)=2であり、全変動では収束しない。