§E9.4Hilbert 空間と直交射影

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ノルムによる距離を用いて近似の誤差を測るとき、誤差の下限が実際に達成されるかどうか、また、その下限を達成する元が一意であるかどうかが問題となる。内積から定まるノルムについて完備な Hilbert 空間では、空でない閉凸集合に対して、この二つの性質が成り立つ。

近似する集合が閉部分空間である場合、最良近似の誤差はその部分空間に直交する。最良近似を対応させる写像は有界線形作用素となり、距離の最小化が線形な分解として表される。内積の直交性は、この分解を正規直交系による近似へ結びつけ、ベクトルの表示とノルムの計算を係数によって扱うことを可能にする。

1 Hilbert 空間と平行四辺形公式

本記事では係数体K\mathbb KをR\mathbb RまたはC\mathbb Cとする。複素内積は第1変数について線形、第2変数について共役線形とする。

定義 1.1. 内積空間HHが、内積から定まるノルム

∥x∥=⟨x,x⟩\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}

について完備であるとき、HHをHilbert 空間 (Hilbert space) という。

命題 1.2 (平行四辺形公式). 内積空間HHの任意のx,y∈Hx,y\in Hに対して

∥x+y∥2+∥x−y∥2=2∥x∥2+2∥y∥2\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2

が成り立つ。

証明. 内積の加法性と共役対称性を用いて両辺を展開すると、左辺では交差項2Re⁡⟨x,y⟩2\operatorname{Re}\langle x,y\rangleと−2Re⁡⟨x,y⟩-2\operatorname{Re}\langle x,y\rangleが相殺する。残る項は2⟨x,x⟩+2⟨y,y⟩2\langle x,x\rangle+2\langle y,y\rangleである。▨

2 閉凸集合への最良近似

定理 2.1.HHを Hilbert 空間とし、C⊆HC\subseteq Hを空でない閉凸集合とする。任意のx∈Hx\in Hに対して、

∥x−c∥=inf⁡z∈C∥x−z∥\|x-c\|=\inf_{z\in C}\|x-z\|

を満たすc∈Cc\in Cがただ一つ存在する。

証明.d=inf⁡z∈C∥x−z∥d=\inf_{z\in C}\|x-z\|とおく。各n≥1n\ge 1に対して、cn∈Cc_n\in Cを∥x−cn∥2<d2+1/n\|x-c_n\|^2<d^2+1/nとなるように選ぶ。凸性により(cn+cm)/2∈C(c_n+c_m)/2\in Cである。命題 1.2をx−cnx-c_nとx−cmx-c_mに適用すると

∥cn−cm∥2=2∥x−cn∥2+2∥x−cm∥2−4∥x−cn+cm2∥2.\|c_n-c_m\|^2 =2\|x-c_n\|^2+2\|x-c_m\|^2 -4\left\|x-\frac{c_n+c_m}{2}\right\|^2.

最後のノルムはdd以上であるから

∥cn−cm∥2<2n+2m.\|c_n-c_m\|^2<\frac2n+\frac2m.

したがって(cn)(c_n)は Cauchy 列である。HHの完備性によりcn→cc_n\to cとなるc∈Hc\in Hが存在し、CCの閉性によりc∈Cc\in Cである。ノルムの連続性から∥x−c∥=d\|x-c\|=dを得る。

c,c′∈Cc,c'\in Cがともに最良近似点であると仮定する。中点がCCに属するので、同じ等式から

∥c−c′∥2=2d2+2d2−4∥x−c+c′2∥2≤0.\|c-c'\|^2 =2d^2+2d^2-4\left\|x-\frac{c+c'}2\right\|^2\le 0.

よってc=c′c=c'である。▨

定理 2.2 (直交射影定理).HHを Hilbert 空間とし、M⊆HM\subseteq Hを閉部分空間とする。任意のx∈Hx\in Hは

x=m+n,m∈M,n∈M⊥x=m+n,\qquad m\in M,\quad n\in M^\perp

とただ一通りに表される。ここでmmはMMにおけるxxの一意な最良近似点である。したがってH=M⊕M⊥H=M\oplus M^\perpである。

証明.MMは閉部分空間であるから空でない閉凸集合であり、定理 2.1により、xxのMMにおける一意な最良近似点mmが存在する。n=x−mn=x-mとおく。y∈My\in Mとt∈Kt\in\mathbb Kに対してm+ty∈Mm+ty\in Mであるから

∥n−ty∥2≥∥n∥2.\|n-ty\|^2\ge \|n\|^2.

z=⟨n,y⟩z=\langle n,y\rangleとする。内積を展開すると

∥n−ty∥2=∥n∥2−2Re⁡(t‾z)+∣t∣2∥y∥2.\|n-ty\|^2=\|n\|^2-2\operatorname{Re}(\overline t z)+|t|^2\|y\|^2.

z≠0z\ne0なら、t=szt=szとし、十分小さいs>0s>0をとると右辺は∥n∥2\|n\|^2より小さくなり、最良性に反する。したがってz=0z=0であり、n∈M⊥n\in M^\perpである。

x=m+n=m′+n′x=m+n=m'+n'が二つの分解なら、m−m′=n′−n∈M∩M⊥m-m'=n'-n\in M\cap M^\perpである。このベクトルをwwとすると∥w∥2=⟨w,w⟩=0\|w\|^2=\langle w,w\rangle=0であるからw=0w=0であり、分解は一意である。▨

命題 2.3.HHを Hilbert 空間とし、M⊆HM\subseteq Hを線形部分空間とする。MMが閉じているとは仮定しない。このとき

(M⊥)⊥=M‾(M^\perp)^\perp=\overline M

が成り立つ。

証明. はじめにM⊥=(M‾)⊥M^\perp=(\overline M)^\perpを示す。M⊆M‾M\subseteq\overline Mであるから(M‾)⊥⊆M⊥(\overline M)^\perp\subseteq M^\perpである。逆にy∈M⊥y\in M^\perpとし、x∈M‾x\in\overline Mをとる。xk→xx_k\to xとなるxk∈Mx_k\in Mを選ぶと、内積の連続性により⟨x,y⟩=lim⁡k⟨xk,y⟩=0\langle x,y\rangle=\lim_k\langle x_k,y\rangle=0である。したがってy∈(M‾)⊥y\in(\overline M)^\perpである。

次にM‾⊆(M⊥)⊥\overline M\subseteq(M^\perp)^\perpを示す。y∈M⊥y\in M^\perpを固定すると、内積の連続性により{x∈H:⟨x,y⟩=0}\{x\in H:\langle x,y\rangle=0\}は閉部分空間であり、この集合はMMを含むのでM‾\overline Mを含む。y∈M⊥y\in M^\perpは任意であるから、M‾⊆(M⊥)⊥\overline M\subseteq(M^\perp)^\perpである。

逆の包含を示す。N=M‾N=\overline Mは閉部分空間であるから、x∈(M⊥)⊥x\in(M^\perp)^\perpに対して定理 2.2により分解x=m+nx=m+n、m∈Nm\in N、n∈N⊥n\in N^\perpが定まる。前段のM⊥=N⊥M^\perp=N^\perpによりn∈M⊥n\in M^\perpであるから⟨x,n⟩=0\langle x,n\rangle=0であり、m∈Nm\in Nとn∈N⊥n\in N^\perpから⟨m,n⟩=0\langle m,n\rangle=0である。したがって

∥n∥2=⟨x−m,n⟩=⟨x,n⟩−⟨m,n⟩=0\|n\|^2=\langle x-m,n\rangle=\langle x,n\rangle-\langle m,n\rangle=0

であり、n=0n=0、すなわちx=m∈M‾x=m\in\overline Mである。▨

命題 2.4.定理 2.2の分解に対してPMx=mP_Mx=mと定める。このとき、PMP_Mは有界線形作用素であり、

PM2=PM,Ran⁡PM=M,ker⁡PM=M⊥,P_M^2=P_M,\qquad \operatorname{Ran}P_M=M,\qquad \ker P_M=M^\perp,

を満たす。また、∥PMx∥≤∥x∥\|P_Mx\|\le\|x\|であり、M≠{0}M\ne\{0\}なら∥PM∥=1\|P_M\|=1である。さらに

⟨PMx,y⟩=⟨x,PMy⟩\langle P_Mx,y\rangle=\langle x,P_My\rangle

が任意のx,y∈Hx,y\in Hに対して成り立ち、I−PMI-P_MはM⊥M^\perpへの直交射影である。

証明.x=m+nx=m+nとx′=m′+n′x'=m'+n'をそれぞれM⊕M⊥M\oplus M^\perpによって分解する。一意性をax+bx′=(am+bm′)+(an+bn′)ax+bx'=(am+bm')+(an+bn')に適用すると、PMP_Mの線形性を得る。m∈Mm\in MではPMm=mP_Mm=mであるから、PM2=PMP_M^2=P_Mと像・核の表示が従う。

m⊥nm\perp nであるから、Pythagoras の等式∥x∥2=∥m∥2+∥n∥2\|x\|^2=\|m\|^2+\|n\|^2により∥PMx∥≤∥x∥\|P_Mx\|\le\|x\|である。0≠m∈M0\ne m\in MではPMm=mP_Mm=mであるため、M≠{0}M\ne\{0\}なら∥PM∥=1\|P_M\|=1である。y=m′+n′y=m'+n'と分解すると

⟨PMx,y⟩=⟨m,m′⟩=⟨x,PMy⟩.\langle P_Mx,y\rangle=\langle m,m'\rangle=\langle x,P_My\rangle.

最後に、(I−PM)x=n(I-P_M)x=nでありm∈(M⊥)⊥m\in(M^\perp)^\perpであるから、I−PMI-P_MはM⊥M^\perpへの直交射影である。▨

例 2.5.H=L2([−1,1])H=L^2([-1,1])、M=span⁡{1,x}M=\operatorname{span}\{1,x\}とし、f(x)=x3f(x)=x^3をMMへ射影する。e0=1/2e_0=1/\sqrt2とe1=3/2 xe_1=\sqrt{3/2}\,xはMMの正規直交基底であるから

PMf=⟨f,e0⟩e0+⟨f,e1⟩e1=35x.P_Mf=\langle f,e_0\rangle e_0+\langle f,e_1\rangle e_1=\frac35x.

実際、奇偶性から第1係数は00であり、⟨f,e1⟩=3/2∫−11x4 dx=6/5\langle f,e_1\rangle=\sqrt{3/2}\int_{-1}^1x^4\,dx=\sqrt6/5である。さらに

∥f−PMf∥22=∫−11(x3−35x)2dx=8175.\|f-P_Mf\|_2^2 =\int_{-1}^1\left(x^3-\frac35x\right)^2dx=\frac8{175}.

定理 2.2により、この値はMMの他の元を用いたときの誤差以下である。

3 正規直交系と Parseval の等式

定義 3.1.HHの有限列または列(en)(e_n)が正規直交系 (orthonormal system) であるとは、⟨en,em⟩=δnm\langle e_n,e_m\rangle=\delta_{nm}が成り立つことをいう。その線形包がHHで稠密であるとき、(en)(e_n)を完全正規直交系 (complete orthonormal system) という。

定理 3.2 (Bessel の不等式).(en)(e_n)を有限または可算な正規直交系とする。任意のx∈Hx\in Hに対して

∑n∣⟨x,en⟩∣2≤∥x∥2\sum_n|\langle x,e_n\rangle|^2\le\|x\|^2

が成り立つ。有限系では有限和をとり、可算系では部分和の極限をとる。

証明.sN=∑n=1N⟨x,en⟩ens_N=\sum_{n=1}^N\langle x,e_n\rangle e_nとおく。x−sNx-s_Nは各e1,…,eNe_1,\ldots,e_Nと直交するので

∥x∥2=∥x−sN∥2+∥sN∥2=∥x−sN∥2+∑n=1N∣⟨x,en⟩∣2.\|x\|^2=\|x-s_N\|^2+\|s_N\|^2 =\|x-s_N\|^2+\sum_{n=1}^N|\langle x,e_n\rangle|^2.

したがって各部分和は∥x∥2\|x\|^2以下であり、非負項級数の極限をとれば主張を得る。▨

定理 3.3.(en)(e_n)を有限または可算な正規直交系とする。次の条件は同値である。

  1. (en)(e_n)は完全である。
  2. 全てのnnに対して⟨x,en⟩=0\langle x,e_n\rangle=0ならばx=0x=0である。
  3. 任意のx∈Hx\in Hに対して、∑n⟨x,en⟩en\sum_n\langle x,e_n\rangle e_nがノルム収束してxxに等しい。
  4. 任意のx∈Hx\in Hに対して Parseval の等式 ∥x∥2=∑n∣⟨x,en⟩∣2\|x\|^2=\sum_n|\langle x,e_n\rangle|^2 が成り立つ。

証明.定理 3.2により係数の二乗和は有限である。したがって部分和sN=∑n=1N⟨x,en⟩ens_N=\sum_{n=1}^N\langle x,e_n\rangle e_nは

∥sM−sN∥2=∑n=N+1M∣⟨x,en⟩∣2\|s_M-s_N\|^2=\sum_{n=N+1}^M|\langle x,e_n\rangle|^2

を満たす Cauchy 列である。完備性によりsN→ss_N\to sとなるs∈Hs\in Hが存在する。各kkについて⟨x−s,ek⟩=0\langle x-s,e_k\rangle=0である。

(1)⇒\Rightarrow(3)を示す。x−sx-sは稠密な線形包と直交するのでx−s=0x-s=0である。(3)⇒\Rightarrow(4)を示す。上の Pythagoras の等式でN→∞N\to\inftyとする。(4)⇒\Rightarrow(2)を示す。全係数が00なら∥x∥=0\|x\|=0である。最後に(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。span⁡‾{en}≠H\overline{\operatorname{span}}\{e_n\}\ne Hなら、定理 2.2によりその直交補空間に00でない元が存在する。この元は全てのene_nと直交し、(2)に反する。よって(1)が成り立つ。有限系の場合も、和を系の最後で止めれば同じ証明が成立する。▨

定理 3.4. 可分 Hilbert 空間HHは、有限または可算な完全正規直交系をもつ。H={0}H=\{0\}の場合には空系をとる。

証明.H≠{0}H\ne\{0\}とし、可算な稠密集合(xn)(x_n)をとる。x1,x2,…x_1,x_2,\ldotsを順に調べ、それまでに選んだベクトルの線形包に属さない最初のベクトルだけを選ぶ。選ばれた線形独立列へ、先行記事の Gram–Schmidt の直交化を有限段ごとに適用する。各段の最初の零でない残差を正規化することにより、有限または可算な正規直交系(ej)(e_j)を得る。従属するベクトルと零ベクトルは選ばれないので、正規化の分母は常に正である。

選択が有限回で止まった場合、その有限次元線形包は全てのxnx_nを含む。有限次元部分空間は閉じており、(xn)(x_n)は稠密であるから、その線形包はHHに等しい。選択が無限に続く場合、各xnx_nは、それを調べた時点までに選んだベクトルの線形包に属する。したがって全てのxnx_nはspan⁡‾{ej}\overline{\operatorname{span}}\{e_j\}に属し、稠密性からこの閉包はHHに等しい。いずれの場合も(ej)(e_j)は完全である。▨

例 3.5.ℓ2\ell^2の標準正規直交系を(en)(e_n)とする。任意のx=(xn)∈ℓ2x=(x_n)\in\ell^2に対して

x(N)=∑n=1Nxnenx^{(N)}=\sum_{n=1}^N x_ne_n

とおくと、

∥x−x(N)∥22=∑n>N∣xn∣2⟶0.\|x-x^{(N)}\|_2^2=\sum_{n>N}|x_n|^2\longrightarrow0.

したがって、(en)(e_n)の線形包はℓ2\ell^2で稠密であり、(en)(e_n)は完全である。

特にx=(1,1/2,1/3,…)x=(1,1/2,1/3,\ldots)とおく。級数∑n≥11/n2\sum_{n\ge1}1/n^2は収束するのでx∈ℓ2x\in\ell^2であり、⟨x,en⟩=1/n\langle x,e_n\rangle=1/nである。したがって定理 3.3により

∥x∥22=∑n=1∞1n2\|x\|_2^2=\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}

が与えられる。これは定義から計算したℓ2\ell^2ノルムと一致する。

例 3.6.L2([−π,π])L^2([ -\pi,\pi])の三角関数系が完全であることは、Fourier 解析の単元で別に証明する。その完全性を仮定してf(x)=xf(x)=xに Parseval の等式を適用すると、ffの正弦係数はbn=2(−1)n+1/nb_n=2(-1)^{n+1}/nであるから

2π33=∫−ππx2 dx=π∑n=1∞bn2=4π∑n=1∞1n2.\frac{2\pi^3}{3}=\int_{-\pi}^{\pi}x^2\,dx =\pi\sum_{n=1}^\infty b_n^2 =4\pi\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}.

したがって∑n≥1n−2=π2/6\sum_{n\ge1}n^{-2}=\pi^2/6である。

4 演習

問題 4.1 (凸性または閉性を欠く集合での最良近似).定理 2.1で凸性を外すと最良近似点が一意でない例と、閉性を外すと最良近似点が存在しない例を、それぞれR\R上で構成せよ。

解答.

H=RH=\Rに内積⟨s,t⟩=st\langle s,t\rangle=stを入れる。この内積から定まるノルムは絶対値であり、R\Rは完備であるから、R\Rは Hilbert 空間である。

凸性を外した例として、C={−1,1}C=\{-1,1\}とx=0x=0をとる。CCは有限集合であるから閉集合であり、空でないが、−1-1と11の中点00を含まないので凸でない。∣0−(−1)∣=∣0−1∣=1|0-(-1)|=|0-1|=1であるからinf⁡z∈C∣x−z∣=1\inf_{z\in C}|x-z|=1であり、この下限は−1-1と11の両方で達成される。したがって最良近似点は存在するが一意でない。

閉性を外した例として、C=(0,1)C=(0,1)をとる。CCは空でない凸集合であるが、閉じていない。x=2x=2とすると、任意のz∈Cz\in Cに対して∣x−z∣=2−z>1|x-z|=2-z>1である。一方、k≥2k\geq2に対してzk=1−1/k∈Cz_k=1-1/k\in Cであり∣x−zk∣=1+1/k→1|x-z_k|=1+1/k\to1であるから、inf⁡z∈C∣x−z∣=1\inf_{z\in C}|x-z|=1である。どのz∈Cz\in Cについても∣x−z∣>1|x-z|>1であるから、この下限を達成するz∈Cz\in Cは存在せず、xxのCCにおける最良近似点は存在しない。▨

問題 4.2 (最良近似と直交性の同値). 閉部分空間MMとx∈Hx\in Hに対し、m∈Mm\in Mがxxの最良近似点であることとx−m∈M⊥x-m\in M^\perpが同値であることを証明せよ。

解答.

m∈Mm\in Mとし、n=x−mn=x-mとおく。

mmがxxの最良近似点であるとする。y∈My\in Mとt∈Kt\in\mathbb Kをとると、m+ty∈Mm+ty\in Mであるから∥n−ty∥2=∥x−(m+ty)∥2≥∥n∥2\|n-ty\|^2=\|x-(m+ty)\|^2\geq\|n\|^2である。z=⟨n,y⟩z=\langle n,y\rangleとおき、内積を展開すると

∥n−ty∥2=∥n∥2−2Re⁡(t‾z)+∣t∣2∥y∥2\|n-ty\|^2=\|n\|^2-2\operatorname{Re}(\overline tz)+|t|^2\|y\|^2

である。z≠0z\neq0と仮定する。y=0y=0ならばz=0z=0であるから、y≠0y\neq0である。t=szt=sz(s>0s>0)とおくとt‾z=s∣z∣2\overline tz=s|z|^2であるから

∥n−ty∥2−∥n∥2=s∣z∣2(s∥y∥2−2)\|n-ty\|^2-\|n\|^2=s|z|^2\bigl(s\|y\|^2-2\bigr)

である。s=1/∥y∥2s=1/\|y\|^2とすると右辺は−∣z∣2/∥y∥2<0-|z|^2/\|y\|^2<0であり、∥n−ty∥2≥∥n∥2\|n-ty\|^2\geq\|n\|^2と両立しない。したがってz=0z=0である。y∈My\in Mは任意であるから、n=x−m∈M⊥n=x-m\in M^\perpである。

逆に、x−m∈M⊥x-m\in M^\perpとする。任意のy∈My\in Mに対してm−y∈Mm-y\in Mであるから⟨x−m,m−y⟩=0\langle x-m,m-y\rangle=0であり、内積を展開すると

∥x−y∥2=∥(x−m)+(m−y)∥2=∥x−m∥2+∥m−y∥2≥∥x−m∥2\|x-y\|^2=\|(x-m)+(m-y)\|^2=\|x-m\|^2+\|m-y\|^2\geq\|x-m\|^2

を得る。m∈Mm\in Mであるから∥x−m∥=inf⁡y∈M∥x−y∥\|x-m\|=\inf_{y\in M}\|x-y\|であり、mmはxxの最良近似点である。▨

問題 4.3 (Parseval の等式から完全性へ). 正規直交系(en)(e_n)に対し、全てのxxについて Parseval の等式が成り立つなら、(en)(e_n)が完全であることを定理 2.2を用いずに証明せよ。

解答.

(en)(e_n)を正規直交系とし、すべてのx∈Hx\in Hについて Parseval の等式が成り立つとする。系が空ならば、 Parseval の等式はすべてのx∈Hx\in Hについて∥x∥2=0\|x\|^2=0を意味するのでH={0}H=\{0\}であり、空系の線形包{0}\{0\}はHHに等しい。以下では系が空でないとする。x∈Hx\in Hを固定し、N≥1N\geq1(有限系ではNNを系の長さ以下とする)に対してsN=∑n=1N⟨x,en⟩ens_N=\sum_{n=1}^N\langle x,e_n\rangle e_nとおく。k≤Nk\leq Nならば、正規直交性により

⟨x−sN,ek⟩=⟨x,ek⟩−∑n=1N⟨x,en⟩⟨en,ek⟩=⟨x,ek⟩−⟨x,ek⟩=0\langle x-s_N,e_k\rangle =\langle x,e_k\rangle-\sum_{n=1}^N\langle x,e_n\rangle\langle e_n,e_k\rangle =\langle x,e_k\rangle-\langle x,e_k\rangle =0

である。sNs_Nはe1,…,eNe_1,\ldots,e_Nの線形結合であるから、⟨x−sN,sN⟩=0\langle x-s_N,s_N\rangle=0である。内積を展開すると、

∥x∥2=∥x−sN∥2+∥sN∥2,∥sN∥2=∑n=1N∣⟨x,en⟩∣2\|x\|^2=\|x-s_N\|^2+\|s_N\|^2,\qquad \|s_N\|^2=\sum_{n=1}^N|\langle x,e_n\rangle|^2

であるから

∥x−sN∥2=∥x∥2−∑n=1N∣⟨x,en⟩∣2\|x-s_N\|^2=\|x\|^2-\sum_{n=1}^N|\langle x,e_n\rangle|^2

を得る。

可算系の場合、Parseval の等式により右辺はN→∞N\to\inftyで00に収束するので、sN→xs_N\to xである。有限系の場合、NNを系の長さとすると、Parseval の等式により右辺は00であり、x=sNx=s_Nである。いずれの場合も、xxは(en)(e_n)の線形包の元の極限である。x∈Hx\in Hは任意であるから、(en)(e_n)の線形包はHHで稠密であり、(en)(e_n)は完全である。▨

問題 4.4 (極大正規直交系の存在に用いる選択原理).HHを Hilbert 空間とし、HHの可分性を仮定しない。HHの部分集合EEであって、各e∈Ee\in Eが単位ベクトルであり、相異なるe,f∈Ee,f\in Eが直交するもの全体を包含関係で順序づける。EEの濃度を有限または可算とは仮定しない。 Zorn の補題を適用し、包含について極大な集合EEが存在することを示せ。本記事の定理 3.4と比べ、追加で用いる選択原理を特定せよ。

解答.

HHの部分集合EEであって、各e∈Ee\in Eが∥e∥=1\|e\|=1を満たし、相異なるe,f∈Ee,f\in Eが⟨e,f⟩=0\langle e,f\rangle=0を満たすもの全体をO\mathcal Oとする。O\mathcal OはHHの冪集合の部分集合であり、包含関係⊆\subseteqについて poset である。空集合は条件を満たすので∅∈O\varnothing\in\mathcal Oであり、O\mathcal Oは空でない。

C⊆O\mathcal C\subseteq\mathcal Oを鎖とする。C=∅\mathcal C=\varnothingならば、∅∈O\varnothing\in\mathcal OがC\mathcal Cの上界である。C≠∅\mathcal C\neq\varnothingならば、E∗=⋃E∈CEE^*=\bigcup_{E\in\mathcal C}Eとおく。e∈E∗e\in E^*ならば、e∈Ee\in Eを満たすE∈CE\in\mathcal Cが存在するので∥e∥=1\|e\|=1である。e,f∈E∗e,f\in E^*が相異なるとする。e∈E1e\in E_1とf∈E2f\in E_2を満たすE1,E2∈CE_1,E_2\in\mathcal Cが存在する。C\mathcal Cは鎖であるからE1⊆E2E_1\subseteq E_2またはE2⊆E1E_2\subseteq E_1が成り立ち、E1E_1とE2E_2のうち他方を含む方をE3E_3とするとe,f∈E3e,f\in E_3である。E3∈OE_3\in\mathcal Oでありe≠fe\neq fであるから、⟨e,f⟩=0\langle e,f\rangle=0である。したがってE∗∈OE^*\in\mathcal Oである。各E∈CE\in\mathcal CについてE⊆E∗E\subseteq E^*であるから、E∗E^*はC\mathcal Cの上界である。

空でない posetO\mathcal Oの任意の鎖がO\mathcal Oに上界をもつので、Zorn の補題§E1.20 定理 2.1 (3)により、O\mathcal Oは極大元EEをもつ。すなわち、E∈OE\in\mathcal Oであり、E⊊E′E\subsetneq E'を満たすE′∈OE'\in\mathcal Oは存在しない。

定理 3.4の証明では、可算な稠密集合の列(xn)(x_n)を一つ固定した後、各段で選ぶベクトルを「それまでに選んだベクトルの線形包に属さない最初のxnx_n」として番号の順序によって一つに定め、 Gram–Schmidt の直交化によって正規直交系の各元を一つに定めた。この構成は列(xn)(x_n)に沿った帰納的な定義であり、 Zorn の補題を用いない。一方、本問の証明では Zorn の補題を用いた。§E1.20 定理 2.1により、Zorn の補題は ZF の公理系のもとで選択公理§E1.20 定理 2.1 (1)と同値である。したがって、可分性を仮定しない場合に追加で用いる選択原理は Zorn の補題であり、Zorn の補題は選択公理と同値である。▨

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.Hilbert 空間の射影定理と正規直交系を参考にした。
  2. Erwin Kreyszig, Introductory Functional Analysis with Applications, Wiley, 1978.最良近似、Bessel の不等式、および完全正規直交系の構成を参考にした。

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