1 二乗可積分関数と内積
定義 1.1.(X,F,μ)を測度空間、KをRまたはCとする。可測関数f:X→Kが 二乗可積分 (square integrable) であるとは、∫X∣f∣2dμ<∞であることをいう。二乗可積分関数全体を、μに関してほとんど至る所で等しいという同値関係で割った集合をL2(X,F,μ;K)と書く。同値類[f],[g]の和とスカラー倍を[f]+[g]=[f+g]、a[f]=[af]と定め、
⟨[f],[g]⟩=∫Xfgdμ,∥[f]∥2=(∫X∣f∣2dμ)1/2と定める。実数体ではg=gとする。
命題 1.2. 任意の測度空間(X,F,μ)とK=R,Cに対して、L2(X,F,μ;K)の演算は代表関数の選び方に依存せず、K上のベクトル空間を定める。上の内積は代表関数に依存せず、第一変数に関して線形な正定値内積である。その内積が定めるノルムは∥⋅∥2である。
証明. 二乗可積分関数f,gとa,b∈Kに対して
∣af+bg∣2≤2∣a∣2∣f∣2+2∣b∣2∣g∣2であるから、af+bgは二乗可積分である。代表関数の変更による例外零集合の有限和を除くと、和とスカラー倍も一致するので演算は商へ降りる。ベクトル空間の各公理は関数の点ごとの演算から従う。
不等式2∣fg∣≤∣f∣2+∣g∣2によりfgは可積分である。可測性は実部・虚部と有限次元の連続な乗法から従う。§E9.10 定理 3.2により内積は代表関数に依存しない。積分の線形性により第一変数の線形性を得る。複素積分の定義から∫udμ=∫udμであり、内積は共役対称である。⟨[f],[f]⟩=∫∣f∣2dμ≥0であり、§E9.10 命題 3.3により等号はf=0a.e. と同値である。▨
定理 1.3. 任意の測度空間(X,F,μ)とK=R,Cに対して、L2(X,F,μ;K)の任意の元u,vは
∣⟨u,v⟩∣≤∥u∥2∥v∥2を満たす。
証明.v=0ならば両辺は零である。v=0のとき、第一変数の線形性と共役対称性から、任意のa∈Kに対して
0≤⟨u−av,u−av⟩=∥u∥22−2Re(a⟨u,v⟩)+∣a∣2∥v∥22である。a=⟨u,v⟩/∥v∥22を代入すると、0≤∥u∥22−∣⟨u,v⟩∣2/∥v∥22を得る。▨
系 1.4. 任意の測度空間(X,F,μ)とK=R,Cに対して、L2(X,F,μ;K)の任意の元u,vは∥u+v∥2≤∥u∥2+∥v∥2を満たす。
証明.定理 1.3から
∥u+v∥22=∥u∥22+2Re⟨u,v⟩+∥v∥22≤(∥u∥2+∥v∥2)2である。両辺の非負平方根をとる。▨
2 可測な極限関数と完備性
補題 2.1.(X,F,μ)を任意の測度空間とし、dn:X→K(K=R,C)を二乗可積分関数の列とする。∑n∥[dn]∥2<∞ならば、G=∑n∣dn∣は非負拡張実数値可測関数であり、
(∫XG2dμ)1/2≤n∑∥[dn]∥2である。特に、級数∑ndn(x)はほとんど至る所で絶対収束する。
証明.GN=∑n=1N∣dn∣とおく。有限回の系 1.4により∥[GN]∥2≤∑n=1N∥[dn]∥2である。GN↑Gであるから、Gは可測であり、§E9.11 補題 2.1をGN2へ適用すると
∫XG2dμ≤Nliminf∫XGN2dμ≤(n∑∥[dn]∥2)2<∞を得る。§E9.10 命題 3.4によりZ={G=∞}は可測零集合である。X∖Z上では∑n∣dn(x)∣<∞なので、RまたはCの完備性によって級数は収束する。▨
定理 2.2. 可算選択公理を仮定する。任意の測度空間(X,F,μ)とK=R,Cに対して、L2(X,F,μ;K)は上の内積に関して Hilbert 空間である。すなわち、任意のL2Cauchy 列は、有限値可測関数の同値類へL2ノルムで収束する。
証明.L2Cauchy 列(un)をとる。可算選択公理により、二乗可積分な代表関数fnをすべてのnについて選ぶ。Cauchy 条件から、狭義増加する整数列nkを選び、すべてのn,m≥nkに対して∥un−um∥2≤2−kとする。各段階で条件を満たし前項より大きい最小の整数を選べばよい。特に∥unk+1−unk∥2≤2−kである。
dk=fnk+1−fnkとおく。補題 2.1によりG=∑k∣dk∣の平方の積分は有限であり、Z={G=∞}は可測零集合である。X∖Z上で
f(x)=fn1(x)+k=1∑∞dk(x)=k→∞limfnk(x)と定め、Z上でf=0とする。各fnkをZ上で0にした関数列は全点でfへ収束するため、実数値の場合は可測極限の閉性、複素数値の場合は実部・虚部の可測極限の閉性によりfは有限値可測関数である。X∖Z上で∣f∣≤∣fn1∣+Gである。右辺の平方の積分は有限であり、零集合上の変更は積分を変えないため、fは二乗可積分である。
各kに対して、X∖Z上で
∣f−fnk∣≤j=k∑∞∣dj∣である。補題 2.1を尾部へ適用し、積分の単調性と a.e. 不変性を用いると
∥[f]−unk∥2≤j=k∑∞∥[dj]∥2≤j=k∑∞2−j⟶0を得る。任意のε>0に対して、Cauchy 条件と部分列の収束により、十分大きいkと任意の十分大きいnについて
∥un−[f]∥2≤∥un−unk∥2+∥unk−[f]∥2<εである。したがって元の列も[f]へ収束する。▨