§E9.13二乗可積分関数の Hilbert 空間

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関数の大きさや二つの関数の隔たりを測る方法として、絶対値の二乗を積分する方法がある。たとえば、有界閉区間上の二つの連続実数値関数の差の二乗を積分すれば、区間全体にわたる差の大きさを一つの数で表すことができる。ただし、零集合上だけで異なる関数は積分では区別されず、関数列の極限を扱うには、その大きさに関する完備性も問題となる。

二乗可積分関数をほとんど至る所の一致によって同一視した空間L2L^2は、積分から内積が定まる Hilbert 空間である。L2L^2は解析学における基本的な関数空間であり、可測関数に対して内積空間の幾何と完備性を用いることを可能にする。

本記事では、二乗可積分関数から Hilbert 空間を構成し、その基本的な性質を解説する。

1 二乗可積分関数と内積

定義 1.1.(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)を測度空間、K\mathbb KをR\RまたはC\Cとする。可測関数f:X→Kf:X\to\mathbb Kが 二乗可積分 (square integrable) であるとは、∫X∣f∣2 dμ<∞\int_X|f|^2\,d\mu<\inftyであることをいう。二乗可積分関数全体を、μ\muに関してほとんど至る所で等しいという同値関係で割った集合をL2(X,F,μ;K)L^2(X,\mathcal F,\mu;\mathbb K)と書く。同値類[f],[g][f],[g]の和とスカラー倍を[f]+[g]=[f+g][f]+[g]=[f+g]、a[f]=[af]a[f]=[af]と定め、

⟨[f],[g]⟩=∫Xfg‾ dμ,∥[f]∥2=(∫X∣f∣2 dμ)1/2\langle[f],[g]\rangle=\int_Xf\overline g\,d\mu,\qquad \|[f]\|_2=\left(\int_X|f|^2\,d\mu\right)^{1/2}

と定める。実数体ではg‾=g\overline g=gとする。

命題 1.2. 任意の測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)とK=R,C\mathbb K=\R,\Cに対して、L2(X,F,μ;K)L^2(X,\mathcal F,\mu;\mathbb K)の演算は代表関数の選び方に依存せず、K\mathbb K上のベクトル空間を定める。上の内積は代表関数に依存せず、第一変数に関して線形な正定値内積である。その内積が定めるノルムは∥⋅∥2\|\cdot\|_2である。

証明. 二乗可積分関数f,gf,gとa,b∈Ka,b\in\mathbb Kに対して

∣af+bg∣2≤2∣a∣2∣f∣2+2∣b∣2∣g∣2|af+bg|^2\leq2|a|^2|f|^2+2|b|^2|g|^2

であるから、af+bgaf+bgは二乗可積分である。代表関数の変更による例外零集合の有限和を除くと、和とスカラー倍も一致するので演算は商へ降りる。ベクトル空間の各公理は関数の点ごとの演算から従う。

不等式2∣fg‾∣≤∣f∣2+∣g∣22|f\overline g|\leq|f|^2+|g|^2によりfg‾f\overline gは可積分である。可測性は実部・虚部と有限次元の連続な乗法から従う。§E9.10 定理 3.2により内積は代表関数に依存しない。積分の線形性により第一変数の線形性を得る。複素積分の定義から∫u‾ dμ=∫u dμ‾\int\overline u\,d\mu=\overline{\int u\,d\mu}であり、内積は共役対称である。⟨[f],[f]⟩=∫∣f∣2 dμ≥0\langle[f],[f]\rangle=\int|f|^2\,d\mu\geq0であり、§E9.10 命題 3.3により等号はf=0f=0a.e. と同値である。▨

定理 1.3. 任意の測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)とK=R,C\mathbb K=\R,\Cに対して、L2(X,F,μ;K)L^2(X,\mathcal F,\mu;\mathbb K)の任意の元u,vu,vは

∣⟨u,v⟩∣≤∥u∥2∥v∥2|\langle u,v\rangle|\leq\|u\|_2\|v\|_2

を満たす。

証明.v=0v=0ならば両辺は零である。v≠0v\ne0のとき、第一変数の線形性と共役対称性から、任意のa∈Ka\in\mathbb Kに対して

0≤⟨u−av,u−av⟩=∥u∥22−2Re⁡(a‾⟨u,v⟩)+∣a∣2∥v∥220\leq\langle u-av,u-av\rangle =\|u\|_2^2-2\operatorname{Re}\bigl(\overline a\langle u,v\rangle\bigr)+|a|^2\|v\|_2^2

である。a=⟨u,v⟩/∥v∥22a=\langle u,v\rangle/\|v\|_2^2を代入すると、0≤∥u∥22−∣⟨u,v⟩∣2/∥v∥220\leq\|u\|_2^2-|\langle u,v\rangle|^2/\|v\|_2^2を得る。▨

系 1.4. 任意の測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)とK=R,C\mathbb K=\R,\Cに対して、L2(X,F,μ;K)L^2(X,\mathcal F,\mu;\mathbb K)の任意の元u,vu,vは∥u+v∥2≤∥u∥2+∥v∥2\|u+v\|_2\leq\|u\|_2+\|v\|_2を満たす。

証明.定理 1.3から

∥u+v∥22=∥u∥22+2Re⁡⟨u,v⟩+∥v∥22≤(∥u∥2+∥v∥2)2\|u+v\|_2^2=\|u\|_2^2+2\operatorname{Re}\langle u,v\rangle+\|v\|_2^2 \leq(\|u\|_2+\|v\|_2)^2

である。両辺の非負平方根をとる。▨

2 可測な極限関数と完備性

補題 2.1.(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)を任意の測度空間とし、dn:X→Kd_n:X\to\mathbb K(K=R,C\mathbb K=\R,\C)を二乗可積分関数の列とする。∑n∥[dn]∥2<∞\sum_n\|[d_n]\|_2<\inftyならば、G=∑n∣dn∣G=\sum_n|d_n|は非負拡張実数値可測関数であり、

(∫XG2 dμ)1/2≤∑n∥[dn]∥2\left(\int_XG^2\,d\mu\right)^{1/2}\leq\sum_n\|[d_n]\|_2

である。特に、級数∑ndn(x)\sum_nd_n(x)はほとんど至る所で絶対収束する。

証明.GN=∑n=1N∣dn∣G_N=\sum_{n=1}^N|d_n|とおく。有限回の系 1.4により∥[GN]∥2≤∑n=1N∥[dn]∥2\|[G_N]\|_2\leq\sum_{n=1}^N\|[d_n]\|_2である。GN↑GG_N\uparrow Gであるから、GGは可測であり、§E9.11 補題 2.1をGN2G_N^2へ適用すると

∫XG2 dμ≤lim inf⁡N∫XGN2 dμ≤(∑n∥[dn]∥2)2<∞\int_XG^2\,d\mu\leq\liminf_N\int_XG_N^2\,d\mu \leq\left(\sum_n\|[d_n]\|_2\right)^2<\infty

を得る。§E9.10 命題 3.4によりZ={G=∞}Z=\{G=\infty\}は可測零集合である。X∖ZX\setminus Z上では∑n∣dn(x)∣<∞\sum_n|d_n(x)|<\inftyなので、R\RまたはC\Cの完備性によって級数は収束する。▨

定理 2.2. 可算選択公理を仮定する。任意の測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal F,\mu)とK=R,C\mathbb K=\R,\Cに対して、L2(X,F,μ;K)L^2(X,\mathcal F,\mu;\mathbb K)は上の内積に関して Hilbert 空間である。すなわち、任意のL2L^2Cauchy 列は、有限値可測関数の同値類へL2L^2ノルムで収束する。

証明.L2L^2Cauchy 列(un)(u_n)をとる。可算選択公理により、二乗可積分な代表関数fnf_nをすべてのnnについて選ぶ。Cauchy 条件から、狭義増加する整数列nkn_kを選び、すべてのn,m≥nkn,m\geq n_kに対して∥un−um∥2≤2−k\|u_n-u_m\|_2\leq2^{-k}とする。各段階で条件を満たし前項より大きい最小の整数を選べばよい。特に∥unk+1−unk∥2≤2−k\|u_{n_{k+1}}-u_{n_k}\|_2\leq2^{-k}である。

dk=fnk+1−fnkd_k=f_{n_{k+1}}-f_{n_k}とおく。補題 2.1によりG=∑k∣dk∣G=\sum_k|d_k|の平方の積分は有限であり、Z={G=∞}Z=\{G=\infty\}は可測零集合である。X∖ZX\setminus Z上で

f(x)=fn1(x)+∑k=1∞dk(x)=lim⁡k→∞fnk(x)f(x)=f_{n_1}(x)+\sum_{k=1}^{\infty}d_k(x) =\lim_{k\to\infty}f_{n_k}(x)

と定め、ZZ上でf=0f=0とする。各fnkf_{n_k}をZZ上で0にした関数列は全点でffへ収束するため、実数値の場合は可測極限の閉性、複素数値の場合は実部・虚部の可測極限の閉性によりffは有限値可測関数である。X∖ZX\setminus Z上で∣f∣≤∣fn1∣+G|f|\leq|f_{n_1}|+Gである。右辺の平方の積分は有限であり、零集合上の変更は積分を変えないため、ffは二乗可積分である。

各kkに対して、X∖ZX\setminus Z上で

∣f−fnk∣≤∑j=k∞∣dj∣|f-f_{n_k}|\leq\sum_{j=k}^{\infty}|d_j|

である。補題 2.1を尾部へ適用し、積分の単調性と a.e. 不変性を用いると

∥[f]−unk∥2≤∑j=k∞∥[dj]∥2≤∑j=k∞2−j⟶0\|[f]-u_{n_k}\|_2\leq\sum_{j=k}^{\infty}\|[d_j]\|_2\leq\sum_{j=k}^{\infty}2^{-j}\longrightarrow0

を得る。任意のε>0\varepsilon>0に対して、Cauchy 条件と部分列の収束により、十分大きいkkと任意の十分大きいnnについて

∥un−[f]∥2≤∥un−unk∥2+∥unk−[f]∥2<ε\|u_n-[f]\|_2\leq\|u_n-u_{n_k}\|_2+\|u_{n_k}-[f]\|_2<\varepsilon

である。したがって元の列も[f][f]へ収束する。▨

参考文献

  1. Donald L. Cohn, Measure Theory, 2nd ed., Birkhäuser Advanced Texts Basler Lehrbücher, Birkhäuser, 2013.
  2. Gerald B. Folland, Real Analysis, 2nd ed., Wiley, 1999.

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