1 コンパクト空間上の部分列抽出
補題 1.1. Hilbert 立方体Q=[0,1]N≥0上の有限正 Borel 測度列(ρn)n∈N≥1が、ある有限なM≥0に対してρn(Q)≤Mを満たすとする。このとき、有限正 Borel 測度ρと狭義増加列(nk)k∈N≥1が存在して、ρnk⇒ρとなる。
証明.Qは§E2.27 命題 2.1によりコンパクト距離空間である。有限個の座標に関する実係数多項式の全体は、C(Q,R)の部分代数をなし、定数関数を含み、相異なる二点を分離する。§E2.32 定理 2.6により、この代数は一様ノルムについて稠密である。各座標の値は[0,1]に属するので、多項式の係数を有理数へ近似すると一様ノルムでも近似される。実際、同じ有限個の単項式の係数だけを変えた二つの多項式の差の一様ノルムは、係数の差の絶対値の和以下である。したがって、有限個の座標に関する有理係数多項式全体は、C(Q,R)の可算な稠密集合である。この集合を(gj)j∈N≥1として列挙する。
各jについて∣∫Qgjdρn∣≤M∥gj∥∞である。有界閉区間は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトであり、§E2.9 定理 3.1により、その中の任意の列は収束部分列を持つ。I0=N≥1とし、各j∈N≥1について無限集合Ij⊆Ij−1を、n∈Ijを昇順に動かしたとき∫Qgjdρnが収束するように取る。nk∈Ikをnk+1>nkとなるように取れば、固定したjに対してk≥jの項はすべてIjに属する。したがって、各gjの積分は(ρnk)に沿って収束する。
f∈C(Q,R)とε>0を取る。∥f−gj∥∞<ε/(1+4M)となるjを取ると、
∫Qfdρnk−∫Qfdρnℓ≤2M∥f−gj∥∞+∫Qgjdρnk−∫Qgjdρnℓ.右辺の第二項は、十分大きいk,ℓでε/2未満になる。したがってfの積分は Cauchy 列である。実数の完備性から
Λ(f)=k→∞lim∫Qfdρnkと定めることができる。積分の実線形性を極限へ移せばΛは実線形であり、非負関数の積分の非負性からΛは正である。また∣Λ(f)∣≤M∥f∥∞である。§E9.31 定理 1.1により、有限正 Borel 測度ρが存在してΛ(f)=∫Qfdρを満たす。定義した極限からρnk⇒ρである。▨
2 共通のコンパクト集合による極限の引き戻し
補題 2.1.Xを Polish 空間、Qをコンパクト距離空間、j:X→Qを位相的埋め込みとする。μnをX上の有限正 Borel 測度とし、像測度ρn=j#μnがQ上の有限正 Borel 測度ρに弱収束すると仮定する。さらに、コンパクト集合の増加列(Kr)r∈N≥1が存在し、すべてのn,r∈N≥1に対して
μn(X∖Kr)≤2−rであると仮定する。このとき、X上の有限正 Borel 測度μが存在してμn⇒μおよびj#μ=ρを満たす。
証明.Cr=j(Kr)とおく。jは連続であるから各Crはコンパクトであり、§E2.9 系 4.1によりQの閉集合である。Qは§E2.27 命題 1.7により Polish 空間である。全質量の収束からmn=μn(X)=ρn(Q)はm=ρ(Q)へ収束する。埋め込みの単射性からρn(Cr)=μn(Kr)であり、§E9.38 定理 2.3 (2)によって
ρ(Cr)≥nlimsupρn(Cr)≥nlim(mn−2−r)=m−2−r.よってρ(Q∖Cr)≤2−rである。F=⋃rCrは閉集合の可算合併なので Borel 集合であり、Q∖F⊆Q∖Crがすべてのrについて成り立つからρ(Q∖F)=0である。
A∈B(X)を取る。各A∩KrはKrの Borel 集合である。制限j∣Kr:Kr→Crは同相写像であり、同相写像は開集合から生成される Borel σ-代数を保つ。したがってj(A∩Kr)はCrの Borel 集合である。部分空間の開集合は周囲の開集合との共通部分であり、共通部分を取る操作は補集合と可算合併を保つので、B(Cr)={Cr∩B∣B∈B(Q)}である。CrはQの閉集合であるから、Crの Borel 集合はQの Borel 集合でもある。単射性から
j(A)∩F=r=1⋃∞j(A∩Kr)であり、右辺はQの Borel 集合である。
Borel 集合A⊆Xに対して
μ(A)=ρ(j(A)∩F)と定める。jは空集合と可算合併を保ち、単射なので互いに交わらない集合を互いに交わらない集合へ移す。ρの可算加法性によりμは正 Borel 測度であり、μ(X)=ρ(F)=ρ(Q)<∞である。任意のB∈B(Q)に対して
(j#μ)(B)=μ(j−1(B))=ρ(B∩F)=ρ(B)である。ここではF⊆j(X)とρ(Q∖F)=0を用いた。また、μ(X∖Kr)=ρ(F∖Cr)≤2−rである。
f:X→Rを有界連続関数とし、L=max{1,∥f∥∞}とおく。各rについてf∘(j∣Kr)−1:Cr→[−L,L]は連続である。Qは距離空間なので§E2.15 定理 3.2 (2)により正規であり、§E2.18 定理 4.1によって、この関数を延長する連続関数hr:Q→[−L,L]が存在する。hr∘jはKr上でfに一致する。像測度の積分公式§E9.12 定理 1.3 (2)と尾部の評価から
∫Xfdμn−∫Xfdμ≤∫Qhrdρn−∫Qhrdρ+2L(μn(X∖Kr)+μ(X∖Kr))≤∫Qhrdρn−∫Qhrdρ+4L2−r.固定したrに対して第一項はn→∞で0へ収束する。したがって積分の差の上極限は4L2−r以下であり、r→∞とすれば弱収束が従う。▨
3 Prokhorov の定理
定理 3.1.Xを Polish 空間、H⊆Mf+(X)を有限正 Borel 測度の族とする。次の二条件は同値である。
- Hは弱位相について相対コンパクトである。すなわち、Mf+(X)の弱位相に関する閉包Hはコンパクトである。
- ある有限なM≥0が存在して、すべてのν∈Hがν(X)≤Mを満たす。また、Hは一様に緊密である。
証明.H=∅ならば閉包も空であり、M=0とK=∅で両条件が成り立つ。X=∅の場合には、有限正 Borel 測度は零測度だけなので両条件が成り立つ。H=∅、X=∅とし、Xの位相を定める完備距離dを固定する。§E9.38 定理 4.3 (3)により、弱位相は有界 Lipschitz 距離βdの位相である。
(2)⇒(1)を示す。μn∈Hを任意の列とする。Xは可分な距離化可能空間であるから、§E2.27 系 2.2によって Hilbert 立方体Q=[0,1]N≥0への位相的埋め込みj:X→Qが存在する。jは連続なので Borel 可測であり、§E9.12 命題 1.2によりρn=j#μnはQ上の有限正 Borel 測度である。全質量はρn(Q)=μn(X)≤Mである。補題 1.1により、部分列ρnkはある有限正 Borel 測度ρに弱収束する。
一様緊密性から、各r∈N≥1について、すべてのν∈Hがν(X∖Lr)<2−rを満たすコンパクト集合Lrを取る。Kr=⋃s=1rLsとおくと、(Kr)はコンパクト集合の増加列であり、すべてのn,rについてμnk(X∖Kr)<2−rである。補題 2.1により、部分列μnkはX上の有限正 Borel 測度μに弱収束する。したがってHの任意の列は、Mf+(X)内に弱収束する部分列を持つ。
νn∈Hを任意の列とする。距離による閉包の特徴づけから、βd(νn,μn)<1/nを満たすμn∈Hを取る。前段により、ある部分列μnkがμ∈Mf+(X)に弱収束する。距離と弱収束の一致§E9.38 定理 4.3 (2)と三角不等式から
βd(νnk,μ)≤nk1+βd(μnk,μ)⟶0.μはHの列の極限なのでHに属する。よってHは点列コンパクトであり、距離空間のコンパクト性の特徴づけ§E2.9 定理 3.1によりコンパクトである。
(1)⇒(2)を示す。C=Hは弱コンパクトである。全質量の写像ν↦ν(X)は、定数関数1の積分として弱連続である。その像はRのコンパクト集合なので有界であり、Hの全質量は一様に有界である。
ε>0を固定し、{aj∣j∈N≥1}をXの可算な稠密集合とする。各r∈N≥1とν∈Cに対して、半径2−rの球による可算被覆と§E9.8 定理 4.1 (1)を用い、有限球合併Uν,rを
ν(X∖Uν,r)<ε2−r−2となるように取る。νの弱開近傍Nν,rであって、すべてのσ∈Nν,rがσ(X∖Uν,r)<ε2−r−1を満たすものが存在する。実際、存在しなければβd(σn,ν)<1/nとσn(X∖Uν,r)≥ε2−r−1を満たす列を取ることができる。σn⇒νであるから、開集合に関する§E9.38 定理 2.3 (3)と全質量の収束により
nlimsupσn(X∖Uν,r)≤ν(X∖Uν,r)<ε2−r−2,となる。各項がε2−r−1以上であることと両立しない。
固定したrに対して、弱コンパクト性から(Nν,r)ν∈Cの有限部分被覆Nν1,r,…,Nνm,rを取る。Ur=⋃i=1mUνi,rは半径2−rの球の有限合併であり、すべてのσ∈Cが
σ(X∖Ur)<ε2−r−1を満たす。dは完備なので、§E9.37 補題 2.2によりK=⋂rUrはコンパクトである。可算劣加法性から、すべてのσ∈Cについて
σ(X∖K)≤r=1∑∞σ(X∖Ur)≤r=1∑∞ε2−r−1=2ε<ε.よってCは一様に緊密であり、部分族Hも一様に緊密である。▨
4 二つの条件の独立性
例 4.1.R上の族{δn∣n∈N≥1}では、各測度は緊密であり、全質量はすべて1である。しかし任意のコンパクト集合K⊆Rは有界であるから、n∈/Kとなる正整数nが存在し、δn(R∖K)=1である。したがって、この族は一様に緊密ではない。
族{nδ0∣n∈N≥1}は、コンパクト集合{0}の外の測度がすべて零であるから、一様に緊密である。しかし全質量はnであり、一様有界ではない。定理 3.1により、どちらの族も弱位相で相対コンパクトではない。